魔法使いショータと星のローブ #終わった世界のイリオモテ

デバスズメ

本文

 小さな島の丘の上、港町を見下ろすその場所に、小さな研究所がありました。空には月が無く、星々がキラキラと輝いています。

 「今夜は絶好の星日和だね……」

 魔法使い服を着た先生は空を見上げます。ここはイリオモテ、遠い遠い昔は、西表島と呼ばれていた島です。


 遠い遠い昔、空からとても強い光が降り注ぎ、世界は終わりました。衛星砲というとても恐ろしい兵器が、たった一度動いただけで、世界は終わってしまったのです。

 それから長い長い時間がたちました。生き残った人間たちは、ほそぼそと命をつなげ、今となっては、それなりに平和な世界ができました。


 「先生、こっちはもう準備できてますよ!」

 魔法使い服を着た男の子が、研究所の屋上に通じる窓からひょっこり顔を出します。

 「ははは、もう準備ができているとは、流石だね」

 「もう!先生が『今夜は〈魔力を捉える〉にはぴったりだ』っていうから、暗くなる前から準備してたんですよ」

 「いやあ、そうだった、そうだった」

 ショータ君は、10歳の魔法使いです。そして、先生は、ショータ君の魔法の先生です。二人は、終わった世界のイリオモテで、魔法使いのお仕事をしています。


 今夜は新月。星の光が一番良く見える日です。ショータ君と先生は、研究所の屋上で空を見上げます。

 「うーむ、良い空だ。見てみろショータ君、あの星々を」

 そう言われたショータ君は、先生と一緒に空を見上げます。そこには、数え切れないくらいの星々が一面に広がっています。


 「あ、先生、あの星ですよね」

 ショータ君は、一つの星を指差します。その星は、ゆっくりと動いています。

 「ああ。あれが、〈魔力の星〉だね。ショータ君もよく見えるようになったじゃないか」

 先生は、ショータ君の指差す〈魔力の星〉を見て、魔法使い服の灰色ローブを脱ぎはじめました。

 「さあ、急ごう。時間がないぞ」

 「はい、先生」

 ショータ君も、魔法使い服の灰色ローブを脱ぎます。


 二人は、脱いだ灰色ローブを、魔法陣の上に置きます。それから、二人で一緒に、魔法陣と同じくらい大きなレンズの角度を合わせていきます。

 「こんなもんかな」

 「そうですね」

 さあ、これで〈魔力を捉える〉準備はできました。


 「それじゃあ先生、お願いします」

 呪文は先生のお仕事です。ですが、今日は少し違いました。

 「……いや、今日はショータ君に頼もうか」

 「え!?ぼ、僕がですか!?」

 ショータ君は戸惑います。〈魔力を捉える〉ことは、星がよく見える新月でないとできません。もし失敗でもしたら、次の新月まで、〈魔力を捉える〉ことができません。


 「で、でも、もし失敗したら……」

 ショータ君は、不安でした。もし失敗したら、どうしようかと、怯えていました。ですが、先生は大きく笑って答えます。

 「ははは!なあに、最初は誰でも失敗するものだ。安心したまえ!私だって、よく失敗したものさ!」

 「……先生、今でもたまに魔法失敗しますよね」

 「おっと、痛いところを付かれたね。いや、まさしくそのとおりだ!ははは!……だがね」

 「だが、なんですか?」


 「私だってたまには失敗するんだ。だから、ショータ君が失敗しても、心配はないさ。むしろ、失敗から学ぶこともある。思いっきりやてみと良い!」

 「ふふ、そうですね」

 先生の言葉に、ショータ君も思わず笑います。少しだけ、気が楽になりました。


 「それじゃ、僕もやってみます」

 「ああ、その意気だ」

 先生がそう言うと、ショータ君は集中しました。ざざあ、ざざあと、浜辺の波の音だけが、静かに聞こえます。

 ……そして、〈魔力の星〉がちょうど空の真上にやってきました。さあ、今がその時です。


 ショータ君は小さな魔法の杖を持ち、呪文を唱えます。

 「星の光は魔法の光、天から地へと降り満ちる。満ちた魔法は羽織に集い、星の力を我らに宿す。……魔力を求める我が身に集え!」

 ショータ君が魔法の杖を大きく振るうと、〈魔力の星〉から、まばゆい光が落ちてきます。そして、レンズを通して、灰色ローブにその光が注がれます。

 「う、うわあ!」

 ショータ君は思わず目を閉じます。それほどに強い光が、夜の闇に輝いたのです。

 

 ……まばゆい光が止んだ時、灰色だったローブは、真っ黒に染まっていました。強大な魔力が、色となってローブに宿ったのです。

 「成功のようだね。ふふ、やるじゃないか」

 先生が、ショータ君に声をかけます。

 「や、やったあ!できた!」

 「ふふ、上出来じゃあないかい?」

 先生も、ショータ君の呪文の結果を見て納得します。


 遠い空で、〈魔力の星〉がゆっくりと動きます。そして、レンズに当たる光は弱くなっていきました。そして、漆黒のローブに宿った小さな輝きが、夜の闇に輝きます。

 ショータ君と先生は、それぞれのローブを着て、感触を確かめます。その肌触りは、十分に魔力が宿った、しっかりしたものでした。

 「うまくいったじゃないか。〈魔力を捉える〉ことは、魔法使いにとって是体に必要な魔法だ。これで君も、また、一人前の魔法使いに近づいたということさ」」

 先生の言葉に、ショータ君はこくりと頷きます。


 「さあ、今日はもう休もう。明日からはまた、たくさん仕事をしないといけないからね」

 「はい!」

 二人は研究所の中に戻り、眠るための準備をはじめました。


 イリオモテの上は、月のない空で、星だけが、キラキラと輝いていました。


終わった世界のイリオモテ~魔法使いショータと星のローブ~


おしまい

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