本音と原爆

「だあ〜かあ〜らあ〜、知りませんってえ」


呆けた顔で何やら白衣を着た男の写真を一瞥した佐川利は頭を掻いている。


「もう時間ぎりぎりなんだから、答えて。プロデューサーも今日は早引きしたいって言ってたから」


私はアイスコーヒーを飲み干した。まるで新米刑事のそれのように。佐川利は相変わらず呆けた面でいる。ああ、何故こんな人間が蔓延っているのかしら。


「この人は威二流 市二宮 (いにり しにみ)有名な物質Xの発見者で博士よ」


もう、いいかな。


そう、とつぜん。話は転換期を迎える。ゆっくりゆったりではなくて、すっかりがっしりと。


「原爆だ!!」



渋谷の中心でホームレスが叫んだと思えばたちまち恐怖の渦であちこちがカビの生えたパンのように滅びていく。まあ、仕方のないことなんだが。また、今度にしたいところなんだが。


まあ、そのホームレスが殺されたはずの威二流だったのも。今じゃどうでもいい。



完璧な破壊の前に真実は役に立たない。


起承転結の転ではそこを伝えたい。


しかしながら転といえばころがるもんだから。まあ、なんていうか。スベって転んでる。まあ、転がってる。完璧な破壊、それ即ちこの話を誰も読まないというところに帰するだろう。


ではここでだれかを呼んでみよう。


「佐川利さーん?」


「………ー(5年後)ー………」


うむ、誰もいない。もし誰かこの、今この文字を見ているとすればあなたは破壊を免れた人だ。


こんなややこしい佐川利から一言、あなたに送ろう。



あなたの心は素晴らしい。

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