11巻発売記念小話「ロニーの運命の出会い」
時系列としては、メグ、リヒト、ロニー、アスカの人間の大陸スカウトの旅、後半です。
セトやマキが魔大陸に行った後くらいになります。
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コルティーガ国西側に向かって旅をしている私たち。今はそこにある小さな町を目指しているところだ。
この国は本当に広いから全ての街や村を回ることは出来ない。スカウトを目的とした旅だから、基本的には大きめの街を回るようにしているんだけど、通りがかりに小さな町や村に立ち寄ることはある。
じゃあなぜ、その小さな町をわざわざ目指しているのかというと、話は三日前に遡る。
途中の大きな街でロニーがとある運命の出会いをしてしまったのがキッカケだ。
「すごい。ロニーの目が輝いてるぅ」
「いつもより心なしかテンションも高いよね」
散策中、露店でロニーの目がとある商品に釘付けとなったのが始まり。ロニーって元々食器とか鋳物とか、そういうのを好んでよく見ているんだけど……今回の食いつきっぷりはいつも以上だ。
焼き物が並ぶ棚を、ひたすら目を輝かせて見ているのである。かれこれ三十分ほど、飽きもせずにうっとりと。
確かに、並んでいる商品は私も素敵だなって思う。一つ一つ形の違う味わい深い焼き物の数々。お皿やお茶碗はもちろん、お鍋やコーヒー用のマグカップにティーポット、置物や箸置きなど色んな商品が並んでいるのは見ているだけでも楽しい。
焼きの入り方で色合いが全部違っているのが魅力的だなぁ。お土産に買っていきたいなー、とは私も思うんだよ?
「これ、どうやって作ってるんだろう。土は、どこで採れたもの? 工房はあるのかな」
しかしロニーは、その作品のあまりの良さに作り手側に興味を抱いたようで。珍しく饒舌だし、独り言が止まらない。無口気味なロニーにしては本当に珍しいことだ。
そんなロニーのことを少し離れた位置で見ながら、私やリヒト、アスカはこそこそと会話をした。
「やっぱりドワーフだから、こういうのに興味が湧くのかなぁ?」
「でもロニーは鉱山出身だぜ? あそこは魔石加工がメインだから、こういう陶芸品はないぞ」
「けどやっぱりさー、種族柄こういうのに惹かれてもおかしくないなーって思うんだよねー」
確かに、オルトゥスの鍛冶担当のカーターさんもドワーフだし、あらゆる街の工房はドワーフが働いている率がとても高い。物作りが得意な人はドワーフには多いよね。
私たちの話し声が聞こえていたのか、ロニーがクルッと振り返ってこちらを見た。その表情は少し困ったように微笑んでいる。
「僕は、あんまり物作りは、得意じゃないよ」
「えっ、あれで!?」
即座に反応したのはリヒトである。いや、本当にその驚きには完全同意だ。
だってロニーってば本当に手先が器用なんだもん!
魔石の加工とか木工細工とか、裁縫までこの中で最も上手にこなすことが出来る。やったことのないものでも、少し教えてもらったらあっという間に器用に作り上げてしまうのだ。
あれで得意じゃないと言われたら、私もリヒトもアスカも幼児レベルになってしまう。実際、私のレベルはそんなものだって点については置いておいて……!
「あー、えっと。仕事に出来るほどの技術はない、ってこと。人より器用なのは、確かに種族特性である、けど。あくまで趣味止まり、だから」
「えー、あんなに上手なのにー」
「それなりに好きだし、それなりに出来るけど、それだけ、だから」
アスカの文句も気持ちはわかる。でも、ロニーの言いたいこともわかった。
実際、ロニーはあんまり本気で作ったりはしないもんね。あくまで趣味というのは取り組む姿勢を見ていてよくわかる。
「僕は作るより、見る方が好き。どう作られているのかとか、考えたり、知らないことを知るのが、楽しい」
そう、そうなのだ。ロニーは好奇心の塊なんだよね。だから鉱山という窮屈な場所から外に出て旅をしたがっていたのだから。
その中でも特に、こういった陶芸品なんかが好きで興味が湧いたのだろう。
「兄ちゃん、この焼き物が気に入ったのかい? 西の山にある町で作られてるんだ。ここから二、三日あれば着くよ」
「そうなんですか?」
お店の人がニコニコとご機嫌な様子でロニーに話しかけている。商品を気に入られて嬉しいのかも。
「ああ。自然に囲まれた何にもない町だが、水も土も良質でなぁ。良い焼き物が出来るのさ。陶芸窯が並ぶ景観もなかなか見物だぜ!」
「陶芸窯……!」
ロニーの目がキラッと光ったのがわかる。
あはは、これはもう行くしかないね! 私たち三人はお互いに顔を見合わせた。
「ということは、腕のいい職人がいるってことだよな」
「スカウトの旅の目的からも離れてないよねー」
リヒトとアスカの二人がわかりやすくその町に向かう理由を告げてくれている。ロニーがバッとこちらに振り向いた。
「突然向かうのは驚かせるだろうから、あらかじめ連絡入れておこう。ついでに作っているところの見学もさせてもらいたいよな。勉強のためにさ」
「! うん、うん! そうしよう。僕、その町に連絡が入れられないか、調べてくる!」
「おー! 頼んだぜ、ロニー」
リヒトの言葉にそう返事をすると、ロニーはすぐにお店の人に声をかけ始めた。その町への行き方や連絡の仕方まで、とても丁寧に。行動が早い。
「ロニーほどじゃないけどー、ぼくも焼き物職人さんの仕事を見るの、楽しみだなー」
「私も! 陶芸窯って見たことないから見てみたい!」
電気が通ってるわけじゃないから、きっと石とかレンガ造りの大きな窯なんだろうな。
久しぶりの山だし、空気も綺麗なはず。エルフにとってそれはご褒美空間なのである!
「じゃ、ちょっと観光気分を味わいつつ、スカウトしに山の中の町に向かうとするか!」
「「「おー!」」」
ニヤッと笑いながら告げられたリヒトの言葉に、私たち三人は揃って小さく拳を上げた。
こうした理由で、私たちは山の中の小さな町に向かっている、というわけ。
でもまさかその町で、新たな天使伝説を作ってしまうことになるとは、その時の私には知る由もないのである。
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特級ギルドへようこそ!11巻は20日発売です(*´∀`*)
収録されている書き下ろし短編では、今回向かった街での大立ち回りが読めます。
なお、bookwalkerさん、ピッコマさん、シーモアさんでは電子書籍が明日、というか今日日付が変わった瞬間から先行配信されます!
さらに、電子書籍では特典SS「マキの魔大陸レポート」が読めちゃいます。
オルトゥスに来たマキ視点で驚いたりワクワクしたりしつつ、女性限定ドレスパーティーをする話です。
どうかお楽しみいただけますように!
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