出会い、別れ、再会


 今日の私はちょっぴり寂しい気持ちです。というのも、ついにお別れの時が来てしまったからだ。


「セトくん、元気でね? 私、いつか会いに行くからね? あっ、アルベルトさんにもよろしくねっ!」

「め、メグ様……はい。これまで本当にお世話になりました。お越しの際は必ずおもてなししますね!」


 そう、セトくんがついに人間の大陸に帰ってしまう日なのだ。さみしいーっ!!


 実はセトくんだけじゃなくて、ランちゃんのお店で勉強していたリンダさんも去年、一足先に人間の大陸に帰ってしまっている。

 本人も名残惜しそうだったけど、絶対に向こうでファッションを楽しむ文化を広めて見せるんだーって張り切ってたな。賑やかな人がいなくなってしまって、私はもちろんランちゃんもしばらくは少し元気がなかった。


 でもこのお別れは、わかっていたことだったから。最初から得た技術を人間の大陸に持ち帰るっていう約束だったもんね。


 私たちにとってはあっという間の時間だったけど、セトくんたち人間からするとこの数年は大きい。

 まだ少年っぽさが残っていたセトくんも、今やもう立派な大人だもんね。相変わらず体型は細めだけど、ガッシリしたし声も低くなったし。


 何より、おどおどした感じがなくなったもんね! もう私たちを見ても倒れたりはしないのだ。


「はぁ、寂しくなるなぁ。セト、私もいつかメグちゃんと一緒に会いに行くね」

「うん、マキも元気で。みんなに迷惑かけるなよ?」

「もう、いくつだと思ってるの。私だってもう大人なんだからね!」


 そうなのだ。マキちゃんも最近成人になっちゃったんだよね。

 確か今はもう十七歳だっけ? 気付けば身長も少し抜かされていたし、髪も伸ばすようになったし、大人っぽさでも抜かされている気がする。いいの、これは個性なの……!


「じゃあ、しっかり、送り届ける、から」

「ロニーが一緒なら安心だね。気を付けて!」


 送ってくれるのはロニーだ。魔大陸の旅を続けていたロニーだったけど、これを機にまた人間の大陸を旅して回るのだそう。

 本当は成人の儀についてとか、あれこれゆっくり話したかったけど。転移陣の稼働の関係やロニーのスケジュールの都合であまり時間がないんだって。これもまた寂しさが増す要因である。


「っ、元気でねっ! 私、セトのことずーっと忘れないからねーっ!!」


 でも、たぶんもっと寂しいのはマキちゃんかもしれない。だって、ついにあの時この魔大陸に来た人間がマキちゃんだけになっちゃったから。


 もちろん、他にも魔大陸に永住する人間はいるよ? でも、他の地域に住んでいたりするからなかなか会えない。この辺りで残ったのがマキちゃんだけなんだから、そりゃあ寂しいよね。


 だから、いつまでもいつまでもセトくんの背中を見つめ続けているマキちゃんを見ていたら、すごく切なくなった。なんて声をかけようかな……。


 いや、違う。正確には、どうやって報告してあげようかな? である。


「よう、マキ。なんだよ、景気の悪い顔して」

「うわ、でっかくなったな? それに、美人になった」


 ま、私は何も言う必要なんてないんだけどね!


 急にマキちゃんの背後から現れたのは、二人の男性。ついに、この日もやって来たってわけである。


 私は三人の邪魔にならないようにソッと後ろに下がった。二人の男性と場所を入れ替わるように移動である。

 彼らは一度私の前で立ち止まると、揃ってしっかり頭を下げてきた。もう、やめてよ。私はなんにもしてない。ただ、父様に言われて嘆願書の作成をちょっぴり手伝っただけだもん。


「る、ルディ、兄さん? それに、フィービー兄さんも……!」


 しばらく呆然として立ち尽くしていたマキちゃんは、二人の男性が誰なのかを認識してようやく声を発した。


 そう、この二人はマキちゃんのお兄さんたち。人間の大陸で軽犯罪を続けていたため、マキちゃんと一緒にこの大陸には来られなかった二人だ。


 彼らは罪を償う間、それはそれは模範的な行動をしていたって聞いている。そのため、予定よりも三年ほど早く自由になったのだという。

 そこから、主に父様があれこれ手を尽くして無事に魔大陸にお迎え出来たというわけである。


 彼らを転移で連れて来てくれたリヒトの顔にも、心なしか疲労感が滲んでいた。


「お疲れ様、リヒト」

「あー、マジで疲れた。もう二度とやりたくねぇ……」


 詳しいことはわからないけど、やはり軽犯罪で模範囚だったとはいえ、元罪人の大陸間移動を認めてもらうのは本当に大変だったみたい。

 だけどすごくすごーく頑張ってくれたんだよね。本当に感謝しかない。


「うわぁぁぁん、お兄ちゃん、お兄ちゃん……!」

「うぉ、おい、泣くなよ……ずいぶん待たせちまって、ごめんな、マキ」

「これからはずっと一緒だかんな。ほ、ほらぁ、泣き止めって」


 チラッと兄妹たちの再会に目を向ける。マキちゃんがもはや何も言えなくなるくらい号泣していて、二人の兄はひたすら慌てているのが見えた。

 彼らにとってはそれどころじゃないんだろうけど、これも一つの幸せの形だなって思えてすごく心が温かくなる。


 約束を果たせてよかったね。ちゃんと、兄妹を再会させることが出来て本当に良かった。

 まぁ、私は本当に嘆願書を書いたくらいなのでお礼は頑張ってくれた人にお願いね! 心苦しくなるから!


 出会いがあって、別れがあって、再会がある。私はこの先、たくさんそれを経験するんだろうな。そう思ってしまうから、今日の私はちょっぴり寂しい気持ちなのである。


「んじゃ、俺はもう魔王城に帰るから……」

「本当にお疲れ様、リヒト。ちゃんと休憩はとってね?」


 大きなため息を吐きながらリヒトが力なく腕を上げ、その場から転移した。

 本当にぐったりしていたなぁ。心配だけど、あれはクロンさんと一緒に食事でもすればすぐに回復することを私は知っている。ちゃんとその時間を取れるといいな。


 さて、リヒトも帰ったことなので今度は私のお仕事だ。まだ再会の余韻に浸っている彼らの間に入るのは申し訳ない気もするけど、お兄さんたち二人も少し休憩したいだろうからね。


「まだまだ話したりないところではあると思うんだけど、早速案内するからついて来てね!」

「え? え? あの、どこへ……?」


 私が声をかけると、マキちゃんが戸惑うようにお兄さんたちと私を交互に見始めた。あ、そっか。マキちゃんには二人のことを秘密にしていたからまだ教えてないんだった。


「んふふー。そんなの、これから暮らすお家に決まってるでしょ!」

「家……家!?」


 驚きの声を上げるマキちゃんをそのまま引きずるように私たちは街に向かった。ほらほら、行くよー!


 案内したのは商店街の一画、その集合住宅の一つだった。大通りやオルトゥスからは少し離れているけど、家賃もお安めで比較的綺麗なお部屋だ。


 少し歩けば買い物だって行けるし、近隣の人たちもちょっと世話焼きさんだけどとてもいい人たちである。ただ、お兄さんたちは亜人という人種に慣れるまでが大変かもしれないけど。


 部屋の中はそこまで広くはない。でもリビングダイニングがあって、小さいけどキッチンもついている。

 奥には広めの個室と少し狭い個室がついているので寝室にするといいだろう。さらに、シャワールームも完備だ。少し歩けば井戸もある。


「こ、こんなにいい部屋に住んでいいのかよ……」


 ルディさんが驚きの声を上げながらキョロキョロと見回している。

 オルトゥスに住んでいる私やマキちゃんからすると色々と不便なところもあるけど、あそこと比べてはいけない。実際、ここはかなりいい物件だと私も思う。


「前に住んでいた人たちが別の街に引っ越しちゃって。たまたま見つけた物件なの。もちろん、家賃は払ってね? ちなみにお仕事の斡旋ならオルトゥスにお任せですよ!」

「な、何から何まで本当に頭が上がんねぇ……」


 ルディさんもフィービーくんもひたすら私にお礼を言ってくるけれど、違うからね? 私は案内しているだけの人だから! お礼を言う人は他にいるからねっ!


「で、でも。兄たちは仕事探しからしなきゃいけないですよね? 家賃をお渡しするのに間に合うかな……あっ、じゃあそれまでは私が支払いを」

「そう言うと思ってた!」


 しっかり者のマキちゃんの言葉を遮って、私は胸を張って答えます。


「だから、マキちゃんのこれまでの給金から少しずつここの家賃代を引かせてもらっていたんだよ。だから、六回ほど月が巡る分の期間は家賃の支払いはしなくて大丈夫。先払いしてるから! お兄さんたち、しっかりマキちゃんにお礼を言ってね!」

「……もう、メグちゃんには敵わないです。ありがとうございますっ! 本当に!」


 もちろん、これも私がお礼を言われることではない。先を見越したサウラさんのアイデアで、サウラさんが手続きをしてくれたことである。その辺りもしっかりと伝えておいたよ!


「マキ、俺たちもめちゃくちゃ働くからな! そんで、いつかその支払い分返す!」

「え、いいのにそんなこと」

「おいおい、兄のメンツくらい保たせてくれよ、マキー」


 兄妹はとても幸せそうに会話を続けている。ふふ、良かった。ここなら、マキちゃんも時々遊びに来られるし、なんならたまに泊まりに来ることだって出来る。


 そう伝えると、早速今日は泊まりたいと言うので収納魔道具から寝具を出してあげた。いいのいいの、私は本当に案内しかしてない人なのでこのくらいはさせてください。


 こうして、私は彼らの家を一人で後にした。あとは兄妹水入らずで時間を過ごせばいいのだ。


 ホクホクとした気持ちでオルトゥスまでの道を歩く。すると、ふいに温かな気配を感じてパッと振り返った。


「ギルさん!」


 そこには、仕事帰りのギルさんが立っていた。わざわざ街中にまで立ち寄ってくれたのかな? ここはオルトゥスまでの通り道にすらならない場所だし、そもそもギルさんは影移動でオルトゥスに帰れるし。


 本当に私のことが好きすぎじゃない? 私も負けないくらい大好きだけどっ。


 せっかくなので、二人並んで歩きながら先ほどまでのことをギルさんに話す。きっと、ちょっぴり寂しい気持ちもギルさんには筒抜けだろうけど、楽しくて幸せなことだけを伝えた。


「家、か」


 話を聞き終えると、ギルさんがポツリと呟く。何かを考えているみたいだ。どうしたのかな? そう思って顔覗き込むと、ギルさんはこちらに顔を向けてなんてことないかのように告げる。


「俺たちも、家を買うか?」

「へっ」


 変な声が出た。え? 今、なんとおっしゃいました……?




────────────────


Happy Halloween‼︎🎃

ということで、 ハロウィン小話をプライベッターでアップしております。

「ハロウィンが始まる前に終わった話」

私のTwitterから飛んで読めますのでご興味がおありでしたらぜひ。ギルメグのデロ甘注意です💖

Twitterにて、#特級ギルドへようこそ のタグ検索でも探せるかも?


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楽しんでもらえますように!


なお、次回WEB版特級ギルドは少女期後編ラストのお話となります。

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