人間の大陸での1年


 リンダさんが集めた人たちとの説明会は恙なく終え、ほぼ全員が魔大陸行きを決めてくれた。


 とはいえ当然、今すぐに発てる人とそうではない人がいる。それならとりあえず、鉱山の転移陣を使う周期に合わせて迎えに来ることにしようということで話はまとまった。

 私たちもまだ他の街に行くからね。リヒトなら一度訪れた場所の移動は一瞬だし、セトくんとマキちゃんが魔大陸へ旅立つ日にも間に合わせることが出来る。いやはや、本当に便利だね、転移!


「メグちゃん!」

「マキちゃん!」


 コルティーガ北の地方をほぼ旅して回った後、いよいよ最初の魔大陸転移の日がやってきた。

 北の方ですぐに向かえる人が10人ほど集まったのと、ちょうど鉱山の転移陣を起動する頃だということで久しぶりに中央の都へと戻ってきたのだ。


 ついマキちゃんと再会のハグをしちゃったよ。またすぐにお別れなんだけどね。でも見送るって約束をしていたから!


「メグちゃんはいつ魔大陸に戻るの?」

「うーん、まだまだ時間がかかりそう……。1年はかかちゃう、かな?」

「そ、そんなにぃ?」


 うっ、この涙目に弱いんだよ! 人間にとっての1年ってかなり長いもんね。特に子どもにとっては!


「私は、大きくなったマキちゃんに会えるのが楽しみだよ? 魔大陸で色んな経験をして、何に驚いたとか、どんな楽しいことがあったとか、お話しするのを楽しみに頑張ろうって思うんだけど……。どうかな?」

「メグちゃん……! うん、わかった! 私も次にメグちゃんに会えるのを楽しみに頑張るからねっ!」


 再び私とマキちゃんはギュッと抱き締め合う。ああ、本当に可愛い。もう妹と呼んでもいいんじゃないかな? ダメかな?


「一緒にいる時間は短いのに、すっごく仲がいいよねー? 相性がいいのかな?」

「それは、あるかも、ね」

「だな。長く一緒にいても、合わないヤツは合わないのと一緒でさ、気が合うってのも過ごした時間の長さじゃねーんだろうな」


 そんな私たちを見て、アスカやロニー、リヒトの話す声が聞こえてくる。

 うん、たぶん本当に相性がいいんだと思うよ。とても他人に思えないくらい大切な人になっているもん、マキちゃんは。


「あ、あの! 天使さ……いえ、メグ様! これを……」

「なぁに? セトくん」


 マキちゃんとハグを終えたところで、緊張した様子のセトくんに声をかけられる。目が合う度に気絶していたのにかなりの進歩だ。


 そんな彼に手渡されたのは小さな木彫りの天使像だった。手のひらサイズなのに造りがとっても細かくて思わず感嘆のため息をもらす。私を模している天使像だけど、素直に感動したよ。


「今の僕が作れる、一番の出来なんです、それ。お守り代わりに持っていたんですけど……よかったら、その、受け取ってくださいっ!」

「えっ、こんな大事な物を!?」


 いわば、セトくんの最高傑作ってことだよね? お守りって言っていたし、これを基準にして修行を頑張ってきたのではなかろうか。そんな大事な物を私が持っていてもいいの? 私は戸惑った。


「次にお会いした時は、それよりももっとすごい物を作れるようになっているので! 見比べてもらいたくて……!」

「セトくん……。うん、わかった。じゃあ次に会えるの、楽しみにしているね!」


 そっか、決意みたいなものなのかもしれないね。そういうことなら喜んで受け取ります! 頑張る若者を全力で応援しちゃうぞー!

 笑顔で答えると、セトくんはウッと言葉を詰まらせてそのまま後ろに倒れて行った。ちょ、ちょっと!? 大丈夫ーっ!?


「メグばっかりずるいなー」


 ケラケラ笑いながらアスカがセトくんを支えた。良かった、倒れずにすんだ。

 でもズルいって? たまたまだと思うけどなぁ。石像になったのがアスカだったら、きっとアスカに手渡されていただろうし。


「まー、俺は付き人1だから別にいいけどな」

「ん。僕も。付き人2だから」

「えー! ぼくは!? じゃあぼくはーっ!?」


 なんだか妙な盛り上がりを見せる男性陣。冗談で盛り上がっているのはわかるし、もはや何も言うまい。

 でもおかげで、魔大陸へ見送るお別れは明るくて楽しい雰囲気だった。どうか、みんなが魔大陸で有意義な時間を過ごせますように!




 それからも私たちは各地を回った。お城がある街に着いたら王様に挨拶をして、スカウトをする。街の様子を見学しては、問題に巻き込まれたりもした。どうしても目立つからねぇ……。


 だけど、そのおかげで国の問題が明るみになったと王様から直接褒められたりもしたな。お礼をやんわり断るのにはかなり気を遣ったよ。最終的には文化の違いで押し通した。

 でも西の王様には最後まで粘られたけれど。女王様は押しが強い。偏見だけど。


 旅を続けていく内に私たちもかなり慣れていったし、噂も広がっていったのでスカウトの効率はぐんぐんと上がった。やっぱり、事前にある程度の話が伝わっているとかなり楽だよね。説明が半分で済むもん。

 北の服飾のお店でのやり方をきっかけに、スカウトした人に呼び掛けてもらう方式をとってからは成功確率もあがってかなりの人材を集めることが出来た。私たちも学習しているのである!


「南地方の人たちはなんか、ゆったりしているよねぇ。ぜんっぜん時間を守らないのはどうかと思うけどー」

「普段から大体の時間感覚で生きてるんだろうな……。俺らも別に急いでるわけじゃねーし、のんびり行こうぜ」


 面白いのが地方によって人々の性質が違うってところ。住んでいる場所や環境によって性格や考え方が違うのは当たり前ではあるけど、旅して回っているとそれがわかりやすくて面白い。


 アスカやリヒトの言うように、南地方の人たちはのんびり屋さんが多いみたいで色々と困ることもあったんだよね。でも、基本的に穏やかで助け合う精神を持っているからか、治安はどこよりも良かった。

 全てを見て回っての印象だと、東は真面目、北は陽気、西は感情豊かで南はのんびり。中央は各地から人が集まっているだけあって色んな人たちがいたけど、全体的に上昇志向の高い人が多かったように思う。


「また会ったねぇ。頑張ってね! 応援しているよ!」

「2つ先の村で、魔大陸に行ってみたいって声をチラホラ聞いたぞ!」

「ありがとうございます!」


 さらに、旅をしていく内に私たちへ向けられる目も変わってきた。

 警戒されることの方が多かったのに、いつの間にか笑顔を向けられることが増えて、時には気軽に話しかけてもらえるようにもなったんだ!


 おかげで情報も集まりやすくて助かったよ。目立つからこそ、すぐに報告してもらえるんだよね。この容姿もこういう時は便利である。


 なんだか、この国の人たちに受け入れてもらえたみたいで嬉しかったな。ただこれは、各王様たちの働きかけも大きかったと思う。本当に感謝だよ。

 最初は気になって仕方なかった天使様と呼ぶ声や天使様と崇めるように見てくる眼差しも受け流せるようになってきたし。

 ふふん、私も成長しているってことだよね! これもアスカやみんなの心遣いのおかげもあるけど。


 毎日が充実していて、目まぐるしく日々は過ぎていく。


 コルティーガ国の街や村を行ったり来たりして、本当にたくさんの人と話をした。新たな発見もあったけど、辛く苦しい現実を目の当たりにして自分の無力さを感じることもあった。

 それでも、いつかはなんとか出来るかもしれないと希望だって見えた。国王様たちや父様、お父さんとも連携をとって、色んな物事がどんどん進んでいく。


 世界が変わって行く最初の一歩。それに携わっているんだなって思ったらくすぐったい気持ちになった。もちろん、発展もぶつかる壁もまだまだこれからだろうけどね! 


『コルティーガ国の調査はそろそろいいだろ。留学の手続きなんかの流れもかなり出来たし、希望者も増えてる。お前たちの任務は完了だ』


 定期連絡でお父さんからそう言われたのは、私たちが派遣されて1年ほどが過ぎた頃だった。本当に濃い1年だったなぁ。あっという間だった。


『たった1年でここまでの成果が出せるなんてな。期待以上だぜ』

「そうでしょ、そうでしょ? ぼくたち頑張ったんだからー」


 お父さんの褒め言葉にみんなで照れ笑いする。アスカは胸を張って元気に答えた。ふふ、相変わらずだ。


『そうだな。帰ったら歓迎会しなきゃだな? リュアスカティウス』

「っ!」


 お父さんの言葉に、ハッとアスカが息を呑む。つ、つまりそれは……!


『ちゃんとした言葉はオルトゥスに戻ってから言おう。まずはそろそろ帰って来い。いい加減、寂しい』

「は、ははっ! もー! 頭領ってば焦らし上手っ!!」


 いや、本当にそうだよ! でも、確かに通信魔道具で言うようなことじゃないよね。大人しく言われた通りにしますか!


「あっという間だったけど、かなり濃い1年だったなー」

「ん。この4人で旅が出来て、よかった」


 リヒトとロニーが改まって私とアスカを見つめてそんなことを言う。

 2人は予想以上に頼らせてもらった、とか、いいチームだったとか。やだ、そんな風に言われたら感動で泣いちゃう。


「なぁ、メグ。もう嫌な思い出なんかどこかに飛んで行っただろ?」


 リヒトはポン、と私の頭に手を乗せて微笑む。ああ、そうだったよね。私も微笑み返しながら口を開く。


「そうだね。あの時のことを思い出す暇もなかったよ。すっごく楽しい旅だった!」


 トラウマは完全に克服出来た。もちろん思い出せばチクリと胸は痛むけど、それはなくならないでほしいもん。

 ロニーとも目を合わせて微笑み合っていると、はいはい! とアスカが手を上げて間に入ってきた。元気な子である。


「ぼくはね、この旅の間にみんなのことを知れて、もっと仲良くなれて嬉しかった! 色んな過去があったみたいで驚いたけどー」


 そうだ、アスカにはほぼ全てを打ち明けたからね。その全てを真剣に聞いてくれたし、笑い飛ばしてくれたアスカにも心を救われたよ。

 過去は過去、それがあるから今があって、この先もあるんだって当たり前のことをスッと受け入れられたのは、第三者であるアスカの存在のおかげだって思う。


「僕らはずっと、仲間、だね」

「やった。ついに3人の間に入れたって感じー。最初の頃は疎外感がすごくて必死だったんだから」


 そんな風に思ってたんだ。気付けなくて申し訳なかったな。でも、アスカは自分で乗り越えてくれたんだよね。とても強くて頼もしいや。


「俺だって1人だけオルトゥスメンバーじゃねぇし。疎外感あるんだぞ、これでも」

「え、見えない」

「酷ぇ、ロニー」

「番持ちは黙っててー」

「アスカも酷ぇ! 仲間じゃねぇのかよっ!」


 最後の夜は、賑やかに更けていく。


 さぁ、オルトゥスに帰ろう。久しぶりの我が家へ!



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これで毎日更新はおしまいです。

お付き合いありがとうございます!


また毎週月曜日に更新いたしますので引き続きよろしくお願いします!


阿井りいあ

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