3兄弟妹の決断
※本日、特級ギルドへようこそ!9巻の発売日です。
発売を記念して今日から13日間、毎日更新祭りいたします!
時間は決めていないのでゲリラ投稿です。
楽しんでもらえますように!
毎日更新祭り1日目☆
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リヒトとロニーが戻ってきたのはそれから3、40分後くらいだった。
お茶を飲みながら聞いた話によると、アスカの言っていたように急に色んなことを聞いたことでパニックになって家を飛び出したそうだ。
ルディさんとフィービーくんがこれまで犯罪をしてきたこと、そして罪を償いたいからその間に魔大陸で勉強してきてくれた方が安心だということを伝えたという。
話を聞いた直後はとても大人しく、少し考えたいといって1人で横になったらしいんだけど……。気付けば姿が消えており、兄弟も焦って探し回っているところだったみたい。
「俺らが駆け付けた時は、周囲にちょっとガラの悪い奴らがいてさ。何もなかったけど、見つけるのが遅れていたら絡まれていたかもしれない」
「間に合って、良かった。アスカのおかげ。ありがとう」
「だな! 頼りになるじゃん、アスカ!」
リヒトとロニーに褒められて、アスカはほんのりと頬を染めた。そうでしょ、といつもなら胸を張るところだから珍しい反応だね。えへへ、と照れるアスカも可愛らしい。
みんなで温かな視線を送っていると、もういいから続きを話してよぉ、と慌てる姿にも癒されちゃった。ふふっ。
「兄弟のとこにマキを連れて行ったらさ、そこで3人とも号泣しちゃって。お互いに謝りあっててさ……なんか、見ていて切なかったな」
それほど、あの3人の仲がいいってことだよね。私が目の前で泣き合う兄弟を見ていたらもらい泣きしていたかもしれないなぁ。想像だけでも切ないもん。と同時に申し訳なくなる。
だって、私たちと出会わなければこんな思いもさせずにすんだかもしれないもん。それがいいことなのかはわからないけど。
「きっかけを作ったのは、僕だから。謝ろうと思ったんだけど……マキに止められた」
「え、マキちゃんに?」
ロニーも私と同じような考えだったみたいだ。謝るつもりだったんだね。でも、マキちゃんに謝らないでくださいと言われたという。
「本当のことを知らないままでいるところだった、って。だからありがとう、って」
とても柔らかく微笑みながら、か。すごく冷静だし、優しい子だな。それに心が強い。たくさん話して泣いたことで、少しだけでも心の整理がついてくれたのかもしれない。
もちろん全てが解決したわけじゃないし、魔大陸行きをちゃんと決断したわけでもないと思うけど……。
「もう落ち着いたし、二度と勝手に出て行かないって約束もしてたからひとまずは大丈夫だろ。あとは約束通り、4日後に話を聞きに行くから、ってことで俺らも帰ってきたんだ」
そっか。4日という時間はもしかしたら少ないかもしれないけれど、ゆっくり考えてもらいたいな。
そして、3人にとって一番いいと思える答えを出してもらいたい。そう願わずにはいられなかった。
それからの3日間は予定通りの調査を続けた。二手に分かれて得た情報を共有して、それから気になる個所をみんなで見て回って。
ちなみに、マキちゃんたちと出会ったあの地区には無暗に近付かないことにした。
4日後にまた行くことになるというのと、今の私たちではあの辺りの問題を全て解決することまでは出来ないからだ。
モヤモヤとした気持ちは残るけど、中途半端に手を出すのもよくないからね。ただでさえ目立つ私たちが行くことで余計な火種も増やしたくないから、東の王城へ簡単に報告するだけに止めようと話し合いで決めたのである。
たぶん、この街としても問題の一つとしてわかってはいるだろうし。……わかっている、よね? 何も対策を立てていない、なんてことがないように去り際に釘はさすつもりである。
そしてやってきました、今日は3兄弟の下に向かう日だ。朝一からいくのも急かしている気がするし、かといって夕方いくと暗くなって治安が悪くなる。ということで、お昼を食べてからのんびり向かうことにした。
「あれから、マキちゃんの様子はどうかな? またパニックになったり泣いたりしていないといいんだけど……」
宿の食堂で昼食をとりながら私が呟くと、リヒトがそれは心配いらないと手を軽く振った。
「あの夜、別れるときにルディに言っておいたんだ。また何かあったら助けになるからすぐ教えてくれって。ここの宿の場所も教えてさ」
なるほど。つまり連絡がないってことは大きな問題はなかったってことでいいのかな? それならちょっと安心だね。
「あ、だからわざわざぼくたちは街の宿に泊まってたの? 簡易テントの方が快適なのに、不思議だなーって思ってたんだよねー」
今日も山盛りのお皿からすごい勢いで食べ物を減らしていくアスカ。本当に胃袋どうなってるの?
「それもある、けど、街でお金を使うのも、目的の一つ」
「そそ。せっかく調査隊として来ているわけだし、経済を回す手伝いもしておきたいじゃん? この大陸の施設を利用することで見えてくるものもあるしな」
「なーるほど。これも勉強のうちってことだね! あ、このパン美味しいなぁ。おかわりしていい?」
この中ではアスカが一番、経済を回すのに貢献している気がする。いいよ、いいよ。たくさんお食べ! でも、確かにこのパンは美味しい。私の胃袋は並み以下の容量なので味わって食べようっと。
食事を終えたところで、いよいよ3兄弟の下へと向かうことに。あの地区はあれ以来、行ってないからちょっとだけ緊張するなぁ。しかも今回はアスカもいるから前以上に目立つ。
でも、あの時は少ないとはいえ人目のある場所で不審者を撃退したから、そうそう絡んでくる人もいないとは思うけどね。ロニーが警備隊に引き渡した首謀者っぽい3人はちゃんと罪を償っているかなぁ。
「うわ、気持ち悪い場所だね? ここは人が少ないのに視線が多いや」
路地に入ってしばらくすると、アスカが嫌そうな顔をしながら小声で呟いた。そうなんだよね。私も同じことを感じたよ。今も感じている。
でも、前の時に感じた獲物を狙うような視線というよりは、やばいヤツらが来たという警戒心の方が強そう。やはり、前の事件がここでは噂になっているのかもしれない。なんにせよ、面倒な事件が起きないなら遠巻きにしてくれていた方がいいね。
入り組んだ小道を、ロニーを先頭に進んでいく。前に通った時も思ったけどまったく覚えられないよ。なのに迷いなく進んで行くなんて、ロニーはすごい。
「ロニー、もしかして道を覚えているの?」
「? うん。一度、案内してもらったでしょ?」
「ふ、普通はこんなに複雑な道、一度で覚えられないよ……?」
そうなの? と首を傾げるロニーにリヒトとアスカからも同時にそうだよ! とツッコミが入った。
魔術を使うのならともかく、ナチュラルに複雑な道を覚えられる人っていうのはそれだけで特殊技能だ。ロニーの場合は種族特性も働いていそうだけど。なんたってあの大迷路と言ってもおかしくない鉱山出身なのだから。
「俺はてっきり、精霊に頼んで道案内してもらってんのかと思ってたぜ……」
「あの夜と違って人探しじゃないし、僕の魔力じゃ、すぐに枯渇する。この大陸では、出来るだけ魔術は、使わない」
そうなのだ。リヒトや私基準で魔術をバカスカ使ってはならないのだ。精霊たちだっていくら対策をしてきているからといって、この大陸では長時間の活動は難しいからね。
『この魔石はとーっても居心地がいいのよー? 中も広いし快適なのよー!』
『うんうん、前の時とはぜーんぜん違うっ』
精霊たちの心配をしていたのを読み取ったのか、魔石の中からショーちゃんたちの声が聞こえてきた。この中なら精霊100人いても大丈夫と豪語している。
いや、さすがにそれはどうだろう。あと、自由に飛び回れる時間が限られているのはしんどいと思うなぁ。
そう、今回は精霊が休める特注の魔石を用意してきているのだ! 闘技大会の時に魔王である父様からの景品としてもらった、あの大きな魔石を使っている。
さらに、同じく景品だったオルトゥスで開発してもらう権利も使わせてもらった。いつかのために必要だし、人間の大陸へ調査に行く他の自然魔術の使い手が助かると思って。まさか自分が真っ先に使うことになるとは思わなかったけど。
仕組みとしては、魔力を溜めることに特化した魔石って感じかな。精霊が内部で休めるように空間魔術も付与されている。
ちなみに、私の持つ魔石は中の景色も変えられるという遊び心もあるらしい。人は中に入れないから精霊たちの協力の下、開発を進めていたんだよね。広場や花畑、海の見える砂浜などに景色を変えられるんだって。
無駄というなかれ、遊び心こそ研究開発の醍醐味だ。知らないけど。
ちなみに、精霊が休める魔石はロニーもアスカも持っているはずだ。私のよりは魔石も小さいけど5人くらいは余裕で寛げると聞いている。
でも時々、ロニーやアスカの精霊たちが私の魔石の方に遊びに来たりしているようだ。キャッキャッと楽しそうなので主人としても癒されています。修学旅行に来た生徒たちを見守る教員の気持ちはこんな感じだろうか。
「そろそろ、着くよ」
ロニーの声にハッと顔を上げる。精霊たちが可愛いのはひとまず置いておいて、しっかり頭を切り替えよう。
だって、今日は3兄弟にとっては大事な決断の日。人生が変わるかもしれない日なんだから。
どんな結論を出されても受け止めたい。だって、たくさん考えてくれたはずだもん。
「ルディ、フィービー、マキ、いるか?」
彼らの住処に向かってリヒトが声をかけると、おう、という返事が真っ先に聞こえてきた。ルディの声かな? 声色は沈んでもいなければ明るくもない、自然体。ひとまず、どんよりと落ち込んではいないみたいなので安心した。
しばらくすると、3人揃って外に出てきた。その表情はどこか吹っ切れたような清々しさがあって、何かを決断したんだとすぐにわかる。
「その表情、決めたんだね?」
ロニーがそう告げると、3人はそれぞれ目配せし合ってはにかみながら頷いた。
迷惑をかけたことに対する負い目が少しあるのと、考える機会をくれて感謝しているということを先にルディが口にした。思っていた以上に冷静だし、とても素直だ。
マキちゃんが一歩、前に出る。緊張した様子の彼女を見ながら、心の中で頑張れ、と応援した。
「わ、私、決めました。お兄ちゃんたちのためにも、私はもっと勉強したい、です。罪を償う間、少しも時間を無駄にしたくないから……」
マキちゃんは顔を上げて、私たちの顔を順に見つめる。それから飛び切りの笑顔を見せてくれた。
「だから、私を魔大陸に連れて行ってください! 勉強、させてくださいっ!」
お願いします、と勢いよく頭を下げたマキちゃんを見て、私たちも自然と顔が綻んだ。や、や、やったーっ!!
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