最初の目的決定!
なんだかんだとあったけれど、アスカのおかげで肩の力が抜けた私は、顔を晒して歩くことに抵抗がなくなってきていた。相変わらず注目は集めているけれど、楽しそうにしているアスカが隣にいるとなんだかどうでもよくなってくるというか。
あのままずっと気にしていたら気疲れしていただろうから、緊張を解してくれたアスカには感謝だよ。ありがとうね!
「このまま謁見の広間へ向かいます。東の国王がお待ちです」
「もしかして、ずっと待たせちまったのかな……。すみません」
「いえ! 突然お声がけしたのはこちらですので!」
城内に足を踏み入れると、ようやくたくさんの視線から逃れることが出来た。気にならなくなってきたとはいえ、やっぱりちょっとホッとするよね。気付かれないように小さく息を吐いた。
普通はお城に入った方が緊張するものだろうけど、魔王城によく行って慣れているからかあまりドキドキはしないんだよね。おかしいな、昔は国王様ってだけでかなりカチコチになったものだけど。普通の感覚を失いつつあるようで微妙な心境である。
こうして案内された謁見の広間。最奥の数段高い位置にある玉座には貫禄のある年配の男性が座っているのが見えた。間違いなく東の国王様だね。さすがにピリッとした緊張感を覚える。
「突然の呼び出し、すまなかったな。どうか楽にしてくれ。魔大陸の者はあまり畏まるのを好まないと聞いているのでな。この国での礼儀や挨拶なども気にしなくて良い」
「お心遣い感謝します。助かります」
国王様の気さくな話口調に、私たちは揃ってホッとしただろう。おっしゃる通り、私たちに畏まった態度は難しいので。
でも、その情報はお父さんの発信だろうなぁと思う。魔大陸の人だって、ちゃんと出来る人はいるもん。魔の者がみんなこうだという認識なのは申し訳ないけど、現状私たちが助かっているので訂正しなくてもいいよね。うん。
「旅は順調かな?」
「あ、いえ。魔大陸から今日ここに来たものですから。これから、ですね」
リヒトが答えると、広間にはどよめきが広がった。まぁ、転移という反則技で来たしね……。普通は鉱山から来たと思うだろうし、驚くのも無理はない。
でも、そこはさすが東の国王様。何かしらの魔術でも使ったのだろうとすんなり納得して話を進めた。
「そうであったか。何か不都合があれば手助け出来ればと思っていたのだが……」
「いえ、お気遣いがありがたいです。あっ、でも良かったら2つほど聞いてもらいたいことがあるんですけど」
「うむ、聞こう」
優しい国王様である。まぁ元々魔大陸、つまり父様の方から話がいっているんだろうけどね。調査隊に少し目をかけてやってほしい、とか。問題のない人材を送っていはいるが、何かあれば報告してほしいとか。もっと細かな決まりごとなんかもあるのだろう。
だからこその、この扱いなんだと思う。ただ、他の調査隊はこんな風にお城に呼ばれることはないだろうけどね。
「一つは、その、珍しくて目を引く容姿なのはわかるんですけど、国の人たちには出来るだけ自然に接してもらいたいなって。注目を浴びないような手段はあるにはあるんですけど、あまり頼らずこちらも自然体で調査をしたいんで……」
あ、私が注目を浴びて困っていた件を言ってくれているんだ……。まさか本当に国王様に頼んでくれるとは。成り行きとはいえ申し訳ないな。でも正直、ありがたいけれど。
「なるほど。国民が不躾な態度を取ってしまったようで申し訳なかった。こちらから気を付けるよう他の王城の者にも伝えておこう。ただ、悪気はなくともどうしても気になって目が向いてしまうこともあろう。それだけは許してもらいたい」
「それで十分です。ありがとうございます」
一声かけてもらえるだけでありがたいです! 私もペコッと軽く会釈して感謝を伝えた。
それからリヒトは、あの石像を作った者を知りたいことや、その弟子の存在について聞いてくれた。おお、ここでなら確実に情報が手に入りそうだね!
「あの石像の製作者は数年前に天寿を全うしておる。だが、弟子がいるという話を聞いている。調べさせよう」
「ありがとうございます!」
そっか、製作者はもう亡くなっていたんだね……。それは残念だ。恥ずかしいとはいえ、自分の像を作ってくれた人に、一目だけでも会ってみたかったな。
けど、お弟子さんがいるというのは朗報だ。魔大陸への修行の件を引き受けるにしろ断るにしろ、話が出来たらいいな。
それからあっという間に国王様付きの人がやってきて、何やら耳打ちをするとそのお弟子さんの所在がわかったと告げられた。早っ!?
なんでも、この城下町で最も大きな工房で下働きをしているのだそう。石像を作った職人さんが亡くなった後、まだ修行が足りないとのことで自ら工房に頼み込んだらしい。すごく向上心のある人なんだなぁ。
「アルベルト工房は大通りに面した場所に店も構えている。探さずとも見つかるだろう」
お店も併設されている工房なんだね。その工房部分でお弟子さんは修行しているんだって。この国でも名前が売れているって言うから、かなり大きなお店なんだろう。そんなところで修行が出来るっていうのもすごいよね。
「名前はわかりますか?」
「ああ、そうであったな。セトという名の小柄な少年だが、ちょうど成人したばかりだと聞いている」
確か、15歳で成人だったよね。ふむふむ、未来ある若者で、勉強熱心なら魔大陸への留学もいい返事がもらえるかも!
とはいえ、焦って話を急がないように気を付けないと。大切なことだからしっかり考えてもらいたいもんね。
その後、国王様からは他の都市にいる有望な人材の噂をいくつか教えてもらえた。おぉ、これはありがたい。上げてもらった人たちは、一応みんな魔大陸への留学についての話を聞いているはずだという。
優秀な人材だから国からも声がかけらているんだね。それでも踏み出せないでいるってことだから、話は慎重に進める必要がありそうだ。ダメならダメでいいもんね。お話だけでも、という姿勢で臨もう。
あ、久しぶりに前世で駆け回っていた時の苦労が脳裏によぎったよ。営業は大変だったなぁ……。もうあの頃のようには出来ないだろうけど。
東の国王様との謁見は10分ほどで終わり、私たちは城の外へ出てきた。姿が見えなくなるまで兵士さんたちが頭を下げていたので、足早に大通りへ向かったよ。
「人間の国の兵士? って面白いんだねー。みんな同じ格好だったし、同じ動きをするし。あれって何か意味があるの?」
やはりどこか堅苦しさを感じていたのだろう、アスカが両腕を上に伸ばしながら疑問を漏らす。
あー、あれね。魔大陸にはそういうのはないよねぇ。魔王城に仕える人たちもそれぞれ好きな格好をしているし、あまり見たことはないけれど、魔大陸の王族やそこで働く人たちもこれといって服装に統一性はなかった。
そもそも、連携を取ることはあってもみんなで揃って何かをするってことがあんまりないもんね。種族柄、協力し合うというのはちょっと苦手なのだ。
大体のことを自分でなんとかしてしまえるというのもあるけど、基本的に気の合う仲間以外と手を組むという頭がないんだよね。仕事だから我慢してやる、っていう感覚があんまりないというか。
特級ギルドステルラは近いものがある気がするけど、それでもやっぱり人間の組織とは少し違うし。
「へー。人間って面白いね」
そんな説明を私やロニーから聞いたアスカは、興味津々で目を輝かせている。見るもの全てが新鮮なのかもしれないな。教え甲斐がある。
「よっし、予定外の王城訪問だったけど、おかげでやることが見えてきたな!」
「うん! まずはアルベルト工房のセトくんに会いに行く、だよね!」
大通りに入る直前、少し振り返りながら言うリヒトに確認の意味も込めて言葉にすると、頷きが返ってくる。
「それから、南、西、北、中央、それぞれの場所で気になる人材の、目星もついた」
「うんうん! 一つずつ当たっていってー、それ以外にも気になる人には声をかけていく感じでしょ? うー、ワクワクしてきた!」
続けてロニーとアスカが補足してくれる。やることが見えてくるとより張り切っちゃうよね! 私も今、アスカと同じようにソワソワしていることだろう。
「飲み込みの早いチームメンバーで助かるぜ! それと、立ち寄った町や村、都市で魔大陸の良さを宣伝してさ、少しでも興味を持ってもらおう。人間たちは魔大陸をよくわからないから怖いって感じている部分もあると思うんだ。その認識を変えていくのも目的の一つだからな」
わからないものは怖い、わからないから敵対する、そういう流れになりがちだからね。それは魔大陸の人たちにも言えることだ。
互いに知ることが本当の意味での交流の第一歩だもん。私たちがこの2つの大陸の橋渡しになれたらいいな。
「よぉし、早く工房に行こう! 道の真ん中を歩いちゃおうよー! 魔大陸の良さを伝えるんなら、目立った方がいいでしょ?」
「もう、アスカ! 確かに目立った方がいいかもしれないけど、悪目立ちしたら意味がないよ? 邪魔になっちゃうから、ちゃんと端を歩かないと!」
「あー、そっか。うーん、難しいなぁ」
良かれと思って先走るところがあるからなぁ、アスカは。悪気はないけど、ちゃんとストップはかけないとね!
「メグとアスカがいれば嫌でも目立つからその心配は無用だろ……」
「そう。普通に交流、それだけでいい」
そしてまさにリヒトとロニーの言う通りである。目立たないためにフードをかぶるくらいなんだから。そっかー、と呑気に笑うアスカを見ていたらフッと笑みが溢れた。本当にムードメーカーだよね。
「この大陸は本当に人が多いから、はぐれないためにもメグはロニー、アスカは俺から離れないように!」
「えー、はぐれてもすぐに見つけられるよ? 魔力の気配ですぐわかるでしょ、リヒトだって」
「はぐれないってことがまず大事なんだよ。大丈夫と思っていても、気苦労を増やさない努力はしてくれ……」
「ヘヘっ、わかってるよー!」
人が多くなってきた通りに、やたら目立つ4人組。そりゃあちょっぴり心配なこともあるけれど、楽しみの方が大きいかな。
あの時とは何もかもが違う。期待と希望に満ち溢れた人間の大陸での旅は始まったばかりである。
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