嬉しいお知らせ
「おー、メグ! 戻って来たか! ワイアットから連絡は入ってるが、お前の口からも聞かせてくれよ!」
ワイアットさんとロニーの3人でお父さんの執務室に向かうと、作業中だった手を止めてお父さんが顔を上げた。そっか、先に結果報告だけはしていたんだね。それも当然か。
「それよりもお父さん! ロニーにまだ事情の説明をしていないの? 悪い癖だよ!」
私が腰に手を当てて言うと、お父さんはあー悪いな、と笑いながら頭を掻く。絶対に反省はしてないやつだ。
ロニーもそれに慣れてきたのか苦笑を浮かべるだけである。お父さんよりよっぽど大人じゃない?
「呼び寄せて悪かったな、ロニー。だが、お前だからこそ頼みたい仕事があったんだ」
メグの報告を聞いたらちゃんと説明するからそう怒るな、とは言うけど! いつものことなのに直そうとしないって点に私は怒っているんだからねっ!
まぁ正直、言っても無駄だってことはわかっているので私も素直に報告を済ませてしまいます。ちゃんとルーン、グートの3人でダンジョンの攻略をしてきました、という簡単なものだったけれど、お父さんは嬉しそうに笑ってくれた。
「お前なら、いやお前らだな。きっと一度でクリア出来るって思ってたぜ。対魔物戦の問題は乗り越えられたと思っていいのか?」
「あー、それはちょっと、微妙かも……」
結局のところ、私は自分の手で魔物を倒すことは出来なかったということ、不審者撃退の要領で対応したこと、そして最後のドラゴン戦では無意識に魔王の威圧を使っていたみたいであることをかいつまんで説明する。ここで誤魔化したって意味はないし、ワイアットさんに聞けばすぐにわかることだからね。
「魔王の威圧って……。つくづく規格外な戦い方をするよな、メグは」
「ぶはっ、それ頭領が言いますぅ?」
呆れたように言うお父さんに、ワイアットさんが思わず吹き出す。むむ、血のつながりはないけど、規格外な戦闘という部分が似てしまったとでも言うのだろうか。解せない! でもあんまり言い返せない!
「メグはやっぱり、魔王に、なるのかな?」
「威圧が使えるし、なんていったって血の繋がりがあるからな。あとはアーシュがくたばる前にメグ本人の覚悟が決まるかどうかってとこじゃねぇか?」
ロニーの素朴な疑問に、お父さんが軽い調子で答える。私はといえば、心中複雑だ。ただ、前みたいに深く考え込んで心が乱れるってことはないよ? リヒトと力を分け合ったおかげで精神が安定しているから。
でも、やっぱり少し落ち込んでしまう。私にはまだまだ、魔王になる覚悟というものがないから。問題の先送りばかりで本当にダメなヤツである。今出来ることを一つ一つこなしていくことしかまだ出来ない、未熟者なのだ。
「くたばるって、言い方ぁ」
「ははっ、だがメグ。お前もあと数年したらたぶん成人するだろ? あんまりのんびりもしてらんねーってことだ」
「わ、わかってるけど……!」
そうなのだ。まだ先だと思っていたけど、実は成人も間近なのである。早く大人にはなりたいけれど、魔王になるという決断の時期が迫っているのは嫌だ。わがままですみません。
「あと数年でメグが成人かぁ。なんか、ずっとちっこいままだと思ってたから感慨深いなー」
「うん、僕もそう思う」
「ちょっとぉ。それってどういうこと? 私だってだいぶ大きくなったもん!」
ワイアットさんの言葉にロニーまでもが乗っかるなんて。確かに相変わらず普通より小さい気はするけど、ちゃんと成長してるもん。まだまだこれから伸びるんだからねーだ!
「……俺もアーシュも、もうそんなに長くはねぇしな」
「え? 何か言った?」
2人に対してプンプン言い返していたから、お父さんがポツリと何か呟いた言葉を聞き逃してしまった。その表情がどこまでも穏やかで優しくて……。なんだか少しだけドキリとする。なぜかはわからないけど。
「なんでもねーよ。さ、次の話に移るぞ。ロニーを呼び戻した件だ」
「そうだった! 早く教えてあげて!」
ニッと笑ってそう言ったお父さんは、いつものお父さんだった。娘の成長に何か思うところでもあったのかもしれないな。
「メグが試験合格したことで、正式に決まった。ロナウド、メグ。お前たちはチームを組んで人間の大陸を調査、そして優秀な人材を見付けたらスカウトしてきてもらいたい」
「えっ」
「やっぱりそのことだったんだ! やった、ロニーと一緒なら安心だね!」
話を初めて聞いたロニーは驚いたように目を丸くし、話をある程度予想していた私は両手を上げて喜んだ。
だって、どうせ行くなら信頼している人と一緒がいいもん! オルトゥスのメンバーならみんなのことを信頼しているけど、ロニーは特に大好きな人だからね。
それから、細かい部分をお父さんから説明を受けるロニーは、真剣にその話を聞いていた。
こちらの大陸から人間の大陸に遠征に行く者は多くなってきたけれど、逆がほとんどいないこと。行きたくても行けない、言い出せない人がいるかもしれないこと。そもそもそんな話を知らない人もいるだろうこと。優秀な人材を探し、その能力を伸ばして魔大陸や人間の大陸でその力を十分に発揮出来るようになってもらいたいこと。最終的にどの地で頑張るかを決めるのは本人に委ねたいことなども。
ただ、確実に魔大陸に来て勉強をした方が実力アップに繋がるから一度勉強に来ないか、というお誘いである。
もちろん、人間の大陸の全ての国が交流に賛成しているわけじゃない。あれだけ広くてたくさんの国があるのだから、色んな考えがあって当然だよね。
でも、結構な数の国が魔大陸との交流を望んでいるのはありがたい話である。悪いことを考えている人もいそうだけど、それはそれだ。
で、私たち調査隊は手分けして賛成国にそれぞれ向かい、スカウトしてくるというわけ。どんな国に向かうのか、今から楽しみだな。
「あ、でもチームは大人2人、子ども2人で組むんだよね? あと2人は?」
「ああ、それはな……」
確か4人チームで向かうって言っていたもんね。お父さんが口を開きかけたその時、思いがけず後ろからその答えが返ってきた。
「大人は俺だよ。おかえり、メグ! 頑張ったんだって?」
「え? あっ、リヒト!?」
扉の近くの壁に腕を組んで寄りかかっていたリヒトは、まるで最初からそこに居たかのような自然さで微笑んでいた。いつの間に!
「おいおいリヒト。いくらオルトゥスにお前の魔力を登録しているからって、そうポンポン勝手に転移してこられちゃ困るんだが?」
「そこは、すんません。でも、メグが戻ってきたのがわかったから、待ちきれなくて」
いい大人だというのに、悪戯を叱られた少年のように笑うリヒトはやっぱり相変わらずだ。いや、だいぶお父さんやその他のメンバーに慣れてきたって感じかな。最初は緊張してもっと丁寧だったけど、今は緊張がなくなって気さくになった感じだ。
それもこれも、リヒトがメキメキと実力をつけてきたからだろう。たぶん、オルトゥスでもリヒトに勝てるのはお父さんかギルさんくらいになっていると思うから。
でも、それを理由に天狗になることがないのは、ひとえにクロンさんの教育のおかげだと思う。「どんな相手にも敬意を忘れないこと。それが素敵な大人です、惚れちゃいます」って無表情で告げたと聞いた時は、クロンさんのやり手ぶりにめちゃくちゃ笑ったんだよね。そんなことを言われたらリヒトが守らないわけがない。
いや、今はそれよりなにより!
「リヒトも一緒に行くんだね! この3人で人間の大陸に向かうなんて、なんだか懐かしいっ」
そう。リヒト、ロニー、そして私の3人は人間の大陸で出会った仲間だ。あの頃は逃げるのに必死だったけれど、今は違う。それぞれが強くなった今行く旅は、きっと楽しめるに違いない。もちろん、仕事で行くわけだけど。
「あえてお前たちを組ませたんだよ。俺の粋な計らいを褒めるなら今だぜ」
「お父さん、ありがとうっ!!」
偶然にしては出来過ぎだもんね。でもすごく嬉しいよ! 本当に粋な計らいだ。私はもちろん、ロニーも嬉しそうにしているから、きっと私と同じ気持ちなんだと思う。
「だが忘れちゃなんねーのは、ここにもう1人加わるってことだ。子どもが加わるチームは4人って決めたからな」
「そうだよね。あと1人、子どもがいるはず……」
他のギルドから一緒に行くのかな? 双子は違うし、闘技大会に出た誰かかも? 首を傾げていると、お父さんがニヤッと笑う。
「将来、オルトゥスで働くために頑張ってるヤツは誰だ?」
「えっ、もしかして……アスカ!?」
「そうだ。そしてこの遠征が終わったら、アスカは正式にオルトゥスのメンバーとして迎え入れようと思ってる」
まさかの発表の連続に嬉しいを通り越してもはや何も言えなくなってしまった。え、だって今、アスカが正式にオルトゥスのメンバーにって言った? 言ったよね!?
「メグ、止まってる」
「ははっ、ビックリしすぎるとこうなるんだな」
「おーい、メグ。大丈夫すかぁ?」
ロニー、リヒト、ワイアットさんが口々にからかってくるけど、今はそれさえも気にならない。
「本当に本当だよね? 私、やっとアスカと家族になれるんだ!」
「や、そうなんだがお前、相変わらず誤解を招く言い方してんじゃねぇよ……」
やった、やったー! アスカもオルトゥスに来るためにずっと頑張ってきたんだもん。やっと努力が報われるんだ!
もちろん、遠征が終わってからっていう話だけど、それでもすごく嬉しい。
「私、遠征で頑張る。アスカがちゃんと胸を張って仲間になってくれるように!」
「メグのやる気がやべぇことになってるな。それはいいことだが、出発は2日後になる。ダンジョン攻略の疲れをしっかり取って、入念に準備しろよ?」
「うん、わかった! うわぁ、楽しみ! ちょっと不安に思っていたけど、全てが上手くいく気しかしないや」
荷物の準備は収納魔道具があるから問題ないよね。あとは、そうだ。武器屋さんにいって私専用の武器が出来ているか見に行かないと。
……ギルさんと、一緒に見に行った武器。ギルさんともちゃんとお話ししたいな。
「……リヒト、ロニー。メグのこと頼むぞ。この浮かれっぷりは心配だ」
「任せといてください。絶対に目を離さないんで」
「ん、僕も」
ちょ、ちょっと? さすがに旅に向かう時は気を引き締めるよ、私だって! そんなに信用ないのぉ?
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