スリル満点フロア
さて、いよいよ5階層へ向かいます。次のフロアは、実は調べた時から楽しみにしていた場所でもあるんだよね。
ドキドキしながら降りていくと、フワリと風を感じる。どんどん強くなっていくみたいだ。まだフロアに着いてもいないのに届くなんて、やっぱり情報通りの場所なのだろう。そして階段を下り切った先で私たちが見た光景は……。
「わぁ……」
「すっげぇ。やっぱ、聞いていたのと実際に目にするのでは衝撃が全然違うよな」
広がる空! 見下ろしてもあるのは雲と小さな足場だけで地面が見えない! そう、5,6階層は空のフロアと記されていて、足場を渡って移動するってことは事前に知っていたのだ。
だけどグートの言うように、実際に目の前にすると驚きが勝つよね。とても建物内とは思えない不思議現象。いや、ダンジョンだからあり得ることではあるけど!
「情報通り、飛び石をピョンピョン渡って次の階段まで行くってことね! くぅぅ、スリル満点!」
ルーンの言う通り、宙には複数の岩が浮かんでいて、そこが足場になっているのがわかる。飛び石のように並ぶ宙に浮いた岩は、大きさも5人くらいが余裕で乗れそうなものから1人でギリギリの大きさまで様々なのが遠目からでもわかった。
ここを渡るのは、わかっていても怖いなぁ。空を飛ぶのは平気なのになんたる矛盾。
「加えてわかりやすく、飛翔系の魔物が待ち構えているしな。でも足場は決まってる。わかっちゃいたけど、飛べない俺らにはなかなか厳しいフロアだよなー」
「魔物に気を配らなくていいっていうなら余裕なんだけどねー。もしくは、落ちる心配をしなくていいなら大丈夫かも?」
けど、飛翔系の魔物というのは大体厄介であることが多い。空に逃げられたらなかなか追いかけられないし、遠距離からの攻撃をしてくるタイプなので足場を悠長に渡っていたら狙い撃ちされちゃう。当然、遠距離だけではなく直接攻撃もしてくるだろうし。
「それなら、私が魔術で2人のことをサポートするよ。落ちる心配はしなくてもいいよ! 魔物にまで気を回せなくはなっちゃうけど……」
ここは私の出番だよね。フウちゃんと私の有り余る魔力があれば、次の階段に到着するまでなら3人に風の魔術をかけ続けることは出来る。ただ自分以外を飛んで移動させる、っていうのは難しい。運ぶだけならなんとかなるけど、攻撃を避けながら、となると一気にハードルが上がるのだ。
今の私には、足を踏み外した2人を近くの足場に運ぶのが精一杯。攻撃をされた時に防御したり逃げたりはなんとか出来るかもしれないけど……全てを同時にやれるか、というとあんまり自信がない。
いくら魔力があっても、精霊たちが魔術を行使してくれるといっても、私の処理能力が追い付かないんじゃ出来ることも限られてくるのである。精進します……!
「じゃあ、魔物の対処はグートがメインでお願い。私はその援護とメグの守護を担当する!」
「それがよさそうだな。魔物はまかせてくれよ。ドラゴン系以外なら雷で撃ち落とせるからさ」
そうだ、今は心強い仲間が一緒なんだから素直に甘えちゃおう! 2人とも、よろしくね! 私も頑張る!
簡単な作戦会議を終え、私たちは早速グートを先頭に5階層の攻略に踏み出した。
「フウちゃん、サポートよろしくね!」
『おまかせあれっ! 主様は飛ぶ?』
「ううん、みんなと同じように足場を渡るよ。誰かが危なくなったら近くの足場に運んでほしいな」
『わかったーっ』
飛んでしまえば楽ちんだけど、私にとっての修行にもなるからね。それに、必要な時に発動してもらえる方が、急に魔物が此方へ向かって来た時にも対応しやすいから。
グートを信頼していないわけじゃないよ。不測の事態というものはいつ起きてもおかしくないものだからである。もしものことを考えて対応出来るようにする、というのはオルトゥスの教えなのだ。
にしても、である。
「は、はやぁい……」
「ほらメグ、遅れてんぞ」
「ワイアットさん! わ、わかってるもん!」
双子の身体能力の高さたるや! トントンと足場を渡る足取りの軽さが尋常ではない。元から運動能力が高いとか、種族柄なのもわかるけど、それに加えてかなり訓練しているのだろう。
私もそこそこスピードには自信があるけど、魔術で底上げしなければ一般的な子どもの域を超えないからね。いや、それが普通なんだけども。
一歩間違えたら真っ逆さまだというのに、2人の迷いのない移動っぷりに感嘆のため息が出ちゃうよね。もしも落ちた時のために、なんていう私の魔術なんていらなかったのでは、と思う程だ。いや、保険は必要。きっと。
「あっ」
グートとルーンとの距離が少し空いてしまったところで、鳥の魔物と目が合った。確実に今、得物認定された気がする!
グートが先に魔物を一網打尽にしていたとはいえ、距離が開いてしまったことで新たな魔物がやってきたのだろう。くっ、私が遅いばかりに!
こちらに突進してきた鳥の魔物は、おそらく嘴で突き刺すつもりなのだろう。魔術での遠距離攻撃タイプではないようだ。
それなら、ギリギリまで待ってから次の足場に移動するのがよさそう。タイミングを間違えないように、魔物をジッと見つめる。怖いけど、目を離しちゃダメだからね!
「メグーっ! どりゃぁぁぁ!!」
「ルーン!」
避けようと足に力を入れた瞬間、ルーンの声が頭上から降って来た。そして目の前で鳥の魔物の横っ面に跳び蹴りを決める。かっこいい!
しかし、見惚れている場合ではない、そのまま魔物と一緒にルーンも落下していくではないか。ひえっ!?
「フウちゃん!」
『もちろん、バッチリだよっ!』
途中で風の魔術がルーンを包み込み、そのまま私のいる足場へと運ばれてきた。さすがはフウちゃん。打合せ通りに完璧な仕事をしてくれたね!
「ごめんね、メグ。私が護衛の役割だったのに先に行っちゃって」
「ううん、私が遅れていたのがダメだったんだよ」
「違うよ。私たちがメグのペースに合わせて移動するべきだったの。ついグートと2人だけの時の調子で行っちゃったから……」
そして、大反省会である。こういう点も、あらかじめ確認するか配慮の一言が必要だったよね。今後は気をつけよう。
でも一つだけ、ルーンには注意しておかないと!
「ルーン、いくら私が魔術で受け止めるっていっても、あんな風に無謀に飛び込んじゃダメ! 落ちていくのを見た時、心臓が止まるかと思ったんだから!」
や、本当に! フウちゃんならやってくれるって疑ってなかったけど、落ちていくルーンを見た時は背筋が凍ったもん!
「えー? そこはいいじゃない。メグの仕事なわけだし、失敗しないってわかっていたし! 実際、完璧に助けてくれたじゃない? 空が飛べたみたいで私は嬉しかったよ」
「もう、ルーンたら」
疑いもなく信じてもらえてた、って聞いたら怒るに怒れないじゃないか。私たちは顔を見合わせて笑い合った。
「2人とも大丈夫か? ごめんな、メグ。気付かなくて」
「グート、それはさっき私が言ったからもういいの」
すると、そこへグートが私たちの元に駆けよってきた。申し訳なさそうに言うグートに対し、ルーンが腰に手を当てて言い返している。きっと、角が立たないようにっていうルーンなりの気遣いだよね。
「いや、それでもだろ……。本当に悪かった。次からはもっと気を付けて進むから、メグも早いと思ったら声かけてくれ」
「うん。ちゃんと言えばよかったよね。ごめんね。私も気を付ける!」
よし、とグートとも頷き合い、私たちは再び進み始めた。今度は速すぎず、遅すぎない絶妙なスピードだ。そしてさっきとは何よりも違うのは、お互いがお互いの場所、様子を常に意識するようになったこと、かな。
思えば、チームという意識はありつつも、まだ私は私、双子は双子、っていう動き方のままだった気がする。これで本当の意味でチームとしての動き方が出来るようになるといいな。
足を引っ張らないように、って考えじゃないよ。足りない部分を補い合って、助け合って攻略していくことが大事なんだと思う。気持ち、切り替えていこうー!
お互いを意識し始めてからの私たちは、自分で言うのもなんだけどぐんと動きが良くなった。
5階層を楽々とクリアし、続く同じような空中フロアの6階も問題なく攻略出来たからね!
5階層よりも出てくる魔物は強かったけど、私も魔術での支援が出来たから危なげなく倒せたよ。直接攻撃はまだ出来ないけど、お手伝いなら出来るようになったから、私もちょっとだけ進歩したといえよう。
うぅ、直接倒せるようになるのはいつになるのかな。亀の歩みだけど、一歩進めたことを喜んじゃうんだから。
7階層へと降りる階段の前で、私たちは拠点を張ることにした。残りはあと3フロア。1日でここまで来られたのってすごくない? と3人で健闘を称え合う。
とはいえ、無理をしてはならない。ダンジョンは残り数フロアが難しい、ということを私たちは事前情報で聞いているからね。
ここまで難なく来られたんだからと油断して挑み、脱落していく者は多いのだとか。正直、今の私たちも似たような心境ではあるけど、先人の言うことを聞き流すほどお馬鹿さんではない。
だから、今日は早めにしっかりと休んで、明日以降に備えようと決めたのだ。
「次から難易度が跳ね上がるんだよね。7階層は火山フロアだっけ?」
簡易テントを広げたり、周辺に簡易の結界魔道具を設置したりしながら明日の作戦会議である。ルーンの言葉を拾って、私は対処を提案するべく口を開いた。
「その熱さでまずやられるって聞いているから、魔術で薄く水を纏わせるのはどうかな?」
「んー、多少の熱さならそれでいいかもだけど、火山の熱気に当たったらすぐに温度が上がっちまわないかな?」
確かに。薄い水の膜だったらむしろ秒で蒸発する可能性が高い。その辺りはシズクちゃんに聞いてみた方が早いだろう。
『主殿が常に魔力を供給してくれれば、常に纏わせて火傷を防ぐことは出来るのだ。ただ温度調節はホムラの力を借りた方がいいと思うのだ』
「ホムラくんの? 火には火を、ってこと?」
聞けば、炎の温度は火の精霊が調節するのが一番だという。
そういえば、魔術を使う時も火の温度調整はホムラくんが難なくしてくれていたよね。そっか、自分が出した火以外でも調節出来るものなんだ。
『オレっちも、いつもより多く魔力を貰うことになるけど出来るんだぞ!』
なるほど。つまり、7階層攻略には私の魔力がたくさん必要ってわけね。どのくらいかって? 一度に大きく魔力を消費するのとは違うからハッキリとは言えないけど、5分維持するためには、大きめな攻撃魔術を1回使うのと同じくらい必要って感じかな。
「め、メグの保有魔力量、どうなってるのよぉ……」
「話には聞いていたけど、まじですげぇんだな」
魔力量に関してはノープロブレム! メグさんにまっかせっなさぁい!!
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【ちょっぴり宣伝】
ぜんっぜん関係なくて申し訳ないんですけど新連載を始めたので宣伝させてくださいー!m(_ _)m
『この度、獣人世界に転移した普通の人間である私が、幻獣人を束ねる「鍵の聖女」に任命されました。』
自分に自信の持てない女の子が獣人の世界に転移し、鍵の聖女と呼ばれるように。癖のある九人の幻獣人にチヤホヤされたりワガママ言われたり振り回されつつ、世界を救うお話です。
乙女ゲームやソシャゲちっくな物語になってます。
私には珍しくネガティブヒロインです(笑)
書いてて楽しい物語です。1話2000〜3000字くらいなんでサクサク読めるかと思います。
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