最強の女の子
「ショーちゃん、リョクくんの居場所、わかる?」
『わかるのよー! ショーちゃんに、まっかせなさーい、なのよ!』
再び歩き出した私たちの足取りは軽い。休憩前のダラダラとした重い足取りが嘘のようだ。進むべき道がわかっている、っていうのはこうもやる気が出るものなのか。出口がわからないと精神的にくるものがあるからね。
「いやぁ、予想外の解決法だったなー。さすがメグ」
「? もっと違う方法があったの?」
後ろからついてくるワイアットさんが楽しそうな声で言うので、聞き返す。すると、色々あるぜー、と答えてくれた。
「でも、今は試験中だから言わないぞ? それに、よほど困った状況じゃない限りは自分で方法を見つけ出した方がたぶん身になると思うしさ」
「それもそっか。よぉし、まずは攻略するぞー!」
他の攻略方法はまた別の機会に。そんな機会があるかはわからないけど、今はこの迷路を抜け出すことに集中! そう頭を切り替えて、私は前を向く。
迷いなく進むので、私たちの歩むスピードも速くなる。でも時々、ショーちゃんからの止まって、という指示もあるんだよね。
『道が動いているのよー。止まるまで、待っていた方がいいの』
リョクくんからの情報をキャッチして、そんなところまで教えてくれるのだ。精霊たちの連携プレイ。素晴らしい!
こうしてどんどん進むこと数10分くらいかな。だんだんと、その魔力源が私にもわかるようになってきた。近付いているんだ!
「ショーちゃん、もう道がわかるから案内は大丈夫! だから、リョクくんのところに行ってあげてくれる? 心細い思いをしているかもしれないから」
『わかったのよ! ご主人様、やさしーね!』
私の指示に、頭上で一回り飛んでから、ショーちゃんはリョクくんのところへと向かってくれた。優しいのはみんなの方だよー!!
「メグ、わかるの?」
「うん。だいぶ近付いてきたから、ハッキリわかるよ! 案内はまかせて!」
「すげぇな……」
足早に進み、会話しながらも魔力源を意識する。気を逸らしたら、また場所が変わった時に追えなくなっちゃうもん。
すぐにでもリョクくんを迎えに行きたくて、私は走りだした。ルーンとグートもそれに合わせて走り出す。ご、ごめんね! でも早く会いたいの!
「本当に、精霊たちと仲良しなんだね」
「早く迎えに行ってやらないとな」
けど、そんな私の心情はお見通しだったみたい。2人も優しいし、気付けば私の周囲にいるのは優しい人や精霊ばかりで、本当に幸せ者だ。
「ん! 私にもわかったかも!」
「俺も! あ、アレはなんだ?」
ついに、魔力源の姿が視認出来る位置にきた。グートの示した先には何やら大きめの箱。特に動く気配はないけど、間違いなくあの箱から魔力が放たれている。だって、放射線状に細い魔力が糸のように伸びているからね! あ、今ぐにゃっと曲がった!
「地形が変わっちゃう! リョクくん!」
魔力源の箱まであと50メートルほど、というところ。辿り着く前に地形が変わって、また離れてしまうかもしれない。そう思った私は箱の近くにいるはずのリョクくんに向かって種を投げた。当然、私がなげただけではそこまで届かないのでフウちゃんの風で届けてもらいます!
「蔦を私のところまで伸ばして! 地形が変わる前にっ」
『お安い御用だよぉー!』
リョクくんの元に届いた種から、こちらに向かって勢いよく蔦が伸びてくる。私はその蔦をしっかり握り、ルーンとグートにも掴まるように声をかけた。ワイアットさんは自分でどうにかするはず!
「リョクくん、引き寄せて!」
『はぁい!』
3人ともが掴まったのを確認し、私が声を上げると蔦が今度はどんどんリョクくんの方へと引き寄せられていく。それに合わせて私たちもものすごいスピードで箱の元に到達した。
勢いがついたせいで、着地の時はバランスを崩して尻餅をついてしまったけれど、双子はどちらも華麗なる着地を決めていた。運動能力の差ぁ!!
「グート!」
「わかってるって!」
グートを呼ぶルーンの声でハッとする。2人の方に顔を向けると、すでに魔力源の箱に向かって臨戦態勢をとっていた。慌てて私も立ち上がって構え、魔力で箱の正体を探り始める。
「あ、あれって生き物なんだ……」
「メグは初めて? あれはミミックボックスっていう魔物! 自分で移動は出来ないから独自の方法で餌を呼び寄せるの」
「呼び寄せる? で、でも、私たちはあの箱から遠ざけられていたよね?」
餌を呼び寄せるどころか、近付こうとすればするほど遠ざけるような魔力の仕組みになっているみたいだけど。首を傾げていると、バチバチィッという大きな音と爆発音が聞こえて我に返る。そうだ、考えるのは後! ぼんやりしていたらまた遠ざけられちゃう!
「くーっ、俺の攻撃はあんまり効果ねーな。ルーン!」
「任せて! こうなったら物理攻撃よ!」
なるほど、電撃は効果がいまいちみたいだ。グートの言葉を受けてルーンが地面に潜っていく。は、速い! あっという間に姿が地中に消えてボコボコと地面を盛り上がらせながら箱に近付いていく。そして次の瞬間には箱の目の前に飛び出し、拳を振りかぶっていた。ぶ、物理!!
「でぇぇぇぇいっ!!」
気合いの入った叫び声とともにルーンの爪付きの拳がミミックボックスにめり込む。そう、めり込んでいる。すごぉい! 爪の武器があるとはいえすごすぎるっ!
その衝撃によってミミックボックスは傾き、倒れていった。これで勝負はついたかな? と思った矢先、魔力の動きを察知する。
「っ、道が変わっちゃう! リョクくん!!」
『はぁい!』
まだ生きているミミックボックスが、身の危険を感じて再び私たちを引き離そうとしているのがわかった。ここで離されたらまた一から捜索することになる!
リョクくんに指示を出すと、意図をショーちゃんから伝えられたリョクくんがミミックボックスに巻き付くように蔦を動かした。そして同じ蔦で私とルーン、グートの手首に巻き付く。これで移動の魔術が発動されても離れ離れになることはない。
「おっ、と。おぉ、周りの景色だけが変わった。やるじゃん、メグ」
咄嗟に蔦を握ったのだろう、ワイアットさんが褒め言葉をくれる。良かった、成功したみたい。
「ありがと、メグ! よぉし、トドメーっ!!」
一瞬呆気に取られていたルーンだったけど、すぐに状況を把握して再び拳を握りこむ。そしてそのまま飛び上がり、勢いをつけてさっきと同じ場所に拳を叩き込んだ。
地響きを感じるほどの衝撃が起き、ミミックボックスの身体に穴が開く。か、貫通してるぅ!
「よっし!」
ようやく徐々に姿を消していくミミックボックスを見下ろしながら、ルーンが嬉しそうに拳を突き上げた。た、倒した!
「ルーン、すごい、すごい! カッコいいーっ!」
「えっ、えへへ! 女の子らしくはないけど、なかなかのものでしょ?」
すぐにルーンに駆け寄って抱き着いて喜ぶと、ルーンは恥ずかしそうに笑った。
「強くてもルーンは女の子らしいよ! 女の子らしいのに強いなんて、最強だよ!」
「そ、そっかぁ。そんな風に言われたの初めて。……ありがと、メグ! うん、私っ、最強ーっ!」
ちょっと気にしていたのかな? でも事実、強くて可愛いなんて最強以外の何物でもないと思う。うん、ルーンは最強!
『メグ様ぁ!』
「リョクくんーっ! いっぱい頑張ってくれてありがとう!」
ルーンを褒め称えていると、ピョンと肩に飛び乗る緑のカエル、リョクくん。頬擦りをしながら無事を喜びたくさん褒めつつ魔力をあげると、リョクくんも照れながら笑ってくれる。ああ、可愛い。
「ショーちゃんも、大活躍だったね。いつもありがとう!」
『うふふ、お安い御用なのよ!』
そしてショーちゃんもしっかり褒めます。はぁ、うちの子たちは本当にいい子!
「今回はルーンとメグのお手柄だな。助かったよ」
「そうでしょ、そうでしょ! もっと褒めてもいいんだよ、グート!」
「調子に乗るなって」
「あうっ、ちょっ、撫でるならもっと優しくぅ! あーっ、髪が乱れるでしょぉ!?」
グートが嬉しそうにルーンの頭を撫でまわしている。ほんと、仲がいいなぁ。少しだけ気が抜けてクスクス笑ってしまう。
「今回はチームの勝利だよ。みんなで助け合って乗り越えられたよね」
「メグの言う通り。初めて組んだにしてはかなりバランスの取れたいいチームだと思うぞー」
ワイアットさんが私たちを順番に撫でてくれる。3人で顔を合わせて思わず照れ笑いをした。
「それにしても、本当になんであのミミックボックスは引き離そうとしたんだろ? 餌を集めるためなら呼び寄せそうなものなのに」
改めてそのことについて考えを巡らせると、そのくらいなら教えてもいいか、とワイアットさんが口を開く。
「逆に聞くけどさ、お前たちなら強敵を呼び寄せたいと思うか?」
「あっ! そういうことかぁ!」
つまり、ミミックボックスは魔力でこのフロアを探り、自分よりも強者だと感じた相手は遠ざけ、弱者と判断したら呼び寄せていたってことだ。
あ、あれ、それがわかってたらもっと簡単にここまで辿り着けていたのでは……?
「それってぇ、私たちが魔力を抑えて探索していたらすぐにミミックボックスのところに呼び寄せてもらえていたってことじゃなぁい」
「マジで無駄足だったんだな……はぁ、妙に疲れた」
そう、ミミックボックスに弱者であると認識させていたら、こんなにずっと歩き回ることもなかったのである。からくりさえわかれば簡単なフロアだったってことだ。
「だははっ! 正解ーっ!」
「わ、笑わないでよ、ワイアット! 性格悪いわよっ!」
なるほど、それをわかっていたワイアットさんにとっては、私たちが困り果てて最終的に力技でどうにかしたっていうのはさぞ面白かったことだろう。
「けど、オレも勉強になったぜ。こんな攻略の仕方もあるんだなーってさ。ほら、機嫌直せって。あそこを見てみろよ」
みんなで睨みつけていたその目を、ワイアットさんの指し示す方に向けるとそこには私たちが探し求めていたものが!
「階段!」
「やったー! これで次の階に行けるね!」
「長かったぁ……」
先に進める、それだけで私たちは大喜びである。こういうところが、まだ子どもだなー、と笑うワイアットさん。また余計なことを言うー。そのせいでルーンから脛になかなかの蹴りをくらって悶絶していたけれど、そこは自業自得だと思います! 口は禍の元!
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