ダンジョン攻略

いざ、攻略開始!


 本日は快晴! 昨日も快晴だったけど!

 うむ、ダンジョン攻略日和である。わかってる、ダンジョンに天気は関係ないってことくらい。潜ってしまえば外の天気なんて関係ないもんね。


 でもそうじゃない、気分の問題なのだ。天気がいいということは、お日様の光を浴びることが出来る! つまり、元気が出るでしょ? 私だけかもしれないけどっ。お日様ばんざーい! うん、無駄にテンションが上がっている自覚はあります。


「さ、準備はいいかー? 子どもたち。簡単な質問は受け付ける。でも、攻略のヒントになりそうなことは答えない。危なかったら手を出すけど、その時点で最初からやり直し。引くのも強さだし、その辺りも含めて評価するからなー」

「わかってるって。もう何度目だよ、その注意事項」

「ははっ! ごめん、ごめん。けど、マニュアルってことで聞いておけって。うんざりするくらい聞いておかないと、案外いざって時にうまく動けなかったりするんだからな?」


 現在、私たちはダンジョンの前で最終確認をしています。ワイアットさんたら、昨日もした話を朝食の席や移動中、そして今もまた話して聞かせてくるものだから、グートがそう言ってしまうのも無理はない。


 でも、ワイアットさんの言いたいこともわかるよ。頭ではわかっていても、いざという時に身体が動かないなんてことはよくあることなのだ。脳内シミュレーションをしていても、うまくいかなかったりするもんね。結局、実際にやって慣れないことには身体っていうのはいうことを聞いてくれなかったりするものなのだ。


 それでも、この身体は前世と違って順応が早いから助かっているんだけどね。一度経験したことなら、次の時にはある程度動けるもん。私の鈍臭さをカバーしきれているか、というと疑問が残るけど。ど、努力は継続中ですとも、ええ!


「よぉし。じゃあ早速行くよー、グート、メグ! 私たちの役割はさっき話した通りで!」

「おう」

「わかった! あとは臨機応変に、だね!」


 そう。今回は単独での任務ではないのだ。私たち3人が協力して攻略していかなければならない。パーティーなのだから。


 前線で戦うのはグート。突然魔物が飛び出してきても、グートの反応と移動速度があれば対応が出来るからね。それに、近接戦が得意だというからピッタリな役割だ。

 ルーンは偵察がメイン。地中犬の亜人であるルーンは、地面を通してあらゆる情報を得ることが出来るんだって。すごい。ダンジョン内は基本、全部が繋がっているからルーンにとっては戦いやすい場所なんだそう。

 ただその分、地面や壁に面していないと情報は伝わらないため、空を飛ぶ魔物や実体のない魔物なんかはあまり察知が出来ないらしいけど。でも情報を集めて私たちに指示をする司令塔という役割は、ルーンに最適だと思う。


 そして私は後方支援。基本的には補助的な役割だね! 回復も担当しています。後ろからついていって全体の状況を把握しつつ、必要に応じて指示を出しほしいって言われているんだ。結構重要な役割だよね。頑張らなきゃ!


「よし、確認も出来たな。オレはのんびりと後ろから見物させてもらうぜー」

「ふふん、ワイアットの出番なんてないんだから。さ、みんな行きましょ!」


 頭の後ろで手を組んでニッと笑うワイアットさんに、ルーンが自信満々に答える。正直、私はドキドキだけど、ここまで自信たっぷりに手を引いてくれるルーンがいると勇気をもらえるよ。グートも楽しみな気持ちが隠せない笑みを浮かべているし。2人とも頼もしいなぁ。

 私たちはせーの、で一緒に水晶に手を翳す。すぐに水晶の魔術が発動し、目の前の景色が変わっていった。転移の魔術はもう慣れたものである。


「わぁ、草原だー!」

「あれ、ルーンはこのダンジョン初めて?」

「いや、ルーン。何回か大人に連れて来てもらったことがあるだろ。2階までしか行ったことはないけど、ここは初めてじゃないぞ……」


 グート曰く、ルーンは毎回同じ反応を見せるのだそう。なにそれ、可愛い。ルーンはプクッと頬を膨らませて振り返る。


「いいじゃん。何度経験しても、目の前が突然草原になるのは楽しいんだもん!」


 まぁね、その気持ちはわかる。でももうここはダンジョンの中。平和そうに見えるけど、いつ魔物が飛び出してきてもおかしくはないのだ。


「道案内は任せて!」

「おし、じゃ行くぞ」

「おー!」


 頼もしい仲間とともに、いざダンジョン攻略だー!

 ……とはいっても、序盤はただの散歩のようなものだった。魔物は確かに出てくるけど、弱い個体だし、こちらが少し魔力を多めに纏うだけで逃げて行くから。


「わかっちゃいたけど、お前らほんっと規格外なお子様たちだよなぁ。1、2階は準備運動にもなんねーかもぉ」


 そのため、ワイアットさんからもこんなお言葉をいただいてしまった。気合いを入れて臨んだからこそ、私たちとしても拍子抜けではある。


「でも、3階からは一気に難易度が上がるみたいだし、どんなに余裕でも油断していたら足を掬われちゃう」

「お、わかってんじゃん、メグ。心配はいらなかったな」


 以前、ギルさんとここに来た時に聞いたのだ。1、2階で余裕だと勘違いした者たちが、3階で脱落しやすいって。それを覚えていただけなんだけどワイアットさんに褒められちゃった。えへ。


「そっか、一気に難易度が上がるのね。それに、どんなに余裕だと思っていても何が起こるかなんてわかんないもの。ちゃんと気を付けるわ! ありがとう、メグ」

「俺も気を付ける。ありがとう」


 双子たちにもお礼を言われちゃった! ワイアットさんが「この子たちが素直過ぎて辛い」と天を仰いでいるけど、私も同じ気持ちです。素直な双子、尊いです。

 さ、気を引き締めていきましょう!


 とはいえ、1、2階は本当に私たちにとっては散歩道のような状況だった。魔物に遭遇しても、討伐するのがかわいそうになるくらい目の前で怯えてしまうから、そのまま逃がすことにしたくらいである。

 だって、いくら魔力の塊とはいえ怯える魔物までは倒せないよ……! 意思のある生き物って感じる。その辺りの線引きはこの世界でも曖昧らしいけど、私にとってはダンジョンの魔物も生き物だ。


 うーん、ちゃんと討伐出来るかな? 不安だ。知らず知らずのうちに腰に装着してあるナイフの柄をギュッと握った。


「何ごともなくここまで来たな。次はいよいよ3階層に下りるぞ。俺とルーンは初めての場所になるから、気合いを入れ直していこうぜ」


 先頭を歩くグートが3階層に下りる階段の前で一度私たちに注意を促す。ルーンも私もそろってしっかりと頷いた。

 3階層は、私にとって思い出の地だ。この身体で初めて目覚めた場所。そして、ギルさんと出会った場所。


 ふとギルさんの顔が頭に過る。結局、気まずいままだけど……やっぱり、私はギルさんのことが大好きなんだなーって思うよ。顔を思い出しただけで心がホワッと温かくなるもん。

 そう、大好きなのは変わらないのだ。なのになんとなく気まずくて、恥ずかしい。これが思春期なんだなぁ、と頭では納得しているのに、だからといってうまく立ち回れるわけじゃないのがもどかしい。

 私ってこんなにウジウジするタイプだったんだ。自分のことながら新しい発見だよね。やれやれである。


 オルトゥスに戻ったら、ちゃんと話そう。このモヤモヤした気持ちも全部話してしまうんだ。きっとギルさんだってわかってくれる。ううん、もうわかってくれているかもしれない。気遣いの男だもん、あの人は。私が複雑な年頃だってことくらい、察しているはずだ。

 そう思ったら、なんだか気が楽になったな。よし、帰ってからの目標も出来たことだし、改めてダンジョン攻略に集中しよう。


「うわぁ、これまでと全然景色が違うね!」

「岩山だな。事前に知ってはいたけどやっぱりすげーや」


 3階層に降り立つと、双子は同じ顔で同じように目を丸くしていた。確かにこれまでとは景色が違うからビックリするよね。反応が新鮮である。


「っと、確かにここの階は魔物のレベルが高いみたいだ。俺たちの魔力にビビらず寄って来てる気配がする」


 グートが警戒を呼び掛けたことで、私たちもそれぞれ身構える。まだ姿は見えないけど、私も複数の魔物の気配を感じるよ!


「ウォルグ系の魔物よ。数は5匹! 群れで襲ってくるタイプだから、油断は禁物だよ! 死角からの攻撃に気を付けて」


 ルーンが地面に手を当てながら探りを入れてくれている。それから的確な情報を教えてくれた。わぁ、すごい! 事前に敵の情報がわかるってだけでものすごく対処がしやすいね。私1人だったら、来た魔物をひたすら倒していくだけだっただろうから。


「ようやく準備運動が始まりそうだな! お前らなら大丈夫だろうけど、頑張れ!」


 ワイアットさんが私たちから少しだけ離れて気配を消した。これからの戦闘の邪魔にならないように配慮してくれているのだろう。地味にハイスペックなことをするあたりがさすがだ。次代のオルトゥスを引っ張っていくと言われているだけある。


 と、そうこうしている間に魔物の群れが視認出来る距離にまで迫ってきた。前衛のグートが群れの先頭に突っ込んでいく。は、速いーっ!

 グートは雷を纏いながら魔物の群れの合間を縫うように駆け抜けた。その間、魔物に電流を流しているのだろう、一瞬でバタバタと倒れていく様は圧巻だ。躊躇わないその姿はカッコいい!


「隠れていても無駄よ!」


 グートが倒したのは3匹。つまりあと2匹いることはわかっていた。残る2匹は大きめの岩に隠れていたみたいだったけど、こちらに姿を見せる前にルーンが先回りして倒してしまう。

 こっちも瞬殺って感じだなぁ。爪のような武器を両手にはめたルーンもまたカッコいい。すごい、もう武器を使えちゃうんだ。


「2人ともすごいね。私、何もやることがなかったよ」


 そして私はその姿を見て拍手をする係である。いやだって、手を出す暇さえなかったんだもん。後方支援だし? サボってたわけじゃないよ! 応援、そう応援はした!


「まだまだ、この程度でメグの手を借りているようじゃ、攻略なんて出来っこないからな」

「そうよ。闘技大会の覇者の出番はもう少し後よ!」


 え、そういうこと言っちゃう? まるで私が切り札みたいな言い方してっ! でも2人の顔を見るとニヤニヤしているから、すぐに私をからかっているだけだって気付いた。私が持ち上げられると慌てること、知ってるんだからこの双子はっ!


「昔のことでからかわないでよ、もー! でも、本当に2人ともすごいよ! 倒してくれてありがとう」


 あの大会からは結構日が経っているんだから、今戦ったら前と同じ結果になるとは限らない。私が努力してきたように、この2人だって頑張ってきただろうことは今の動きを見ていたらよくわかるんだから。


 倒した魔物がスゥッと消えていくのを横目に、私たちはダンジョン初勝利をハイタッチで祝った。いぇい!

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