ポンコツメグ


 その後、私たちは3階層をどんどん突き進んだ。警戒しながら襲撃してきた魔物を倒し、あっという間に4階層に下りる階段の前まで到着。

 ルーンが魔物の少ない道を選んでくれたことで、かなり早く進めたよ!


 この階では狼、ウォルグ系の魔物が序盤でたくさん出てきた。どうも3階層に下りたばかりの位置が彼らのなわばりになっているっぽいんだよね。だからこそ、油断している人たちの洗礼の場になっていたりするのだろう。


 中盤は鹿のような大きめの魔物と何回か遭遇したな。他にも、蜂のような小さな魔物が集団で襲い掛かってきたりもした。あれにはゾワッとしたよ! 飛んでいる魔物だからルーンも察知出来なかったしね。

 咄嗟に風の魔術で吹き飛ばしてしまったから、倒したかどうかは定かではない。だって刺されたら嫌ぁって思ったんだもんっ! つい!


 そんなわけで実は、私はまだ1匹も魔物を倒していないのである。ほぼグートとルーンの2人で撃破出来てしまうから。私の支援を必要とする場面がないともいう。

 それはそれでいいんだよ。いいんだけど、私としては不安が残る。だって、私はいまだかつて一度も魔物を倒すということをしたことがないのだから。


「あ、あの! 1つ頼みがあるの……」


 なので、思い切って2人に声をかけました。このまま先に進んで、初めて戦うのが強い魔物になっちゃったりなんかしたら……自分がちゃんと動けるかわからなかったから。それは一緒に戦う2人を危険な目に遭わせることに繋がるかもしれない。それだけは避けたかった。


「え!? メグ、魔物を倒したことがないの!?」


 私が思い切って告白すると、2人はまさかそうとは思っていなかったようでかなり驚いた様子だった。す、すみません。もっと早く言うべきでした。


「魔物を見ていると、どうしても倒せなくって……。命が消える瞬間の苦しい思いとかが、なんとなくわかっちゃうの」


 自分で倒したことはなくても、大人たちの依頼について行って魔物の死を見たことは何度もある。その度に、苦しい感情とか自分の死に気付かないまま不思議に思いながら死んでいく様子を見てしまってどうしても心苦しくなっちゃうんだよね。

 倒さなければならない個体であることはわかっていても、きっと私には倒しきれない。だから、そういった依頼はまだまだ受けられないだろうなって自分でもわかっているのだ。


 だけど、これから大人になるにつれて、倒さなければこちらが危ない目に遭うなんて場面に遭遇したら? 怖いとか嫌だとか思っていられないのだ。魔物を倒すことに慣れる必要はないと思っているけど、いざという時に出来るかどうかが大事である。

 そのための第一歩として、ダンジョンの魔物は自分で倒さないといけない。私は今回ダンジョンに来たことでそれを克服しようと思っていたのだ。


「と、いうわけだから……今のうちに一度は倒しておきたいの!」

「なぁんだ。そういうことなら早く言ってよー! もちろん、協力するよ!」


 全てを正直に告げると、ルーンはウインクをしながら快諾してくれた。どうしても倒しきれない場合はフォローもしてくれるという。頼もしい!


「でも、魔物の気持ちがわかるなんて大変だな……。そりゃあ、戸惑う気持ちもわかるよ」


 一方でグートは心配そうに私を見てくれている。どうしても辛かったら無理しなくていいよ、と言われて、その優しさにじんわりと心があったかくなった。


「ありがとう、グート。でも大丈夫。今回は克服したいと思って覚悟を決めているから!」

「そっか。それなら、俺も全力でサポートする」

「うん! 頼りにしてる!」


 2人が一緒で良かったなって改めて思うよ。よし、協力してくれる2人もいることだし、なんとしても克服するんだから。魔物たち、覚悟ーっ!




 ……と、意気込んだものの。


「うぅぅ、そんな目でこっちを見ないでぇ」


 追い込むことは簡単だし、あとはトドメの一撃を放てば倒せるのに、その大事な一撃が出来ないでいた。やるぞって思った時に魔物と目が合ってしまうのだ。そうして私が一瞬止まってしまった隙に、魔物が逃げて行ってしまうのである。

 落ち込むのと同時に、倒さなくて済んでよかったってホッとしている自分がいるんだよね。ダメダメである。


「焦らずいこう、メグ。いくら決意を固めていても、そう簡単にいかないのは当然だと思う」

「そうそう。攻略も始まったばかりだし、結果的に魔物を退けてはいるんだから! ほら、元気出して? ね?」


 そんな私を励ましてくれる双子が天使に見えてきた……。うわぁん、自分から頼んでおいて足を引っ張ってごめーん!!

 2人のいうことは尤もだし、私も焦っちゃダメだってわかってる。だけど、本当に先が思いやられるよ……。このままじゃ、私は人間の大陸への遠征メンバーには選ばれないかもしれないな。

 それならそれで仕方ないと割り切るとして、せめてこの2人だけは選ばれるように攻略だけは絶対にしてやるんだから!


「2人とも付き合わせてごめんね。そろそろ先に進もうか! ちょっとずつでも克服出来るように頑張るから」


 このままここでいくら頑張っても出来るようになるとは思えない。これ以上私のワガママに付き合わせられないからね。私の言葉を受けて、2人は互いに一度顔を見合わせた。


「わかった。でも、またいつでも協力するからな」


 その心遣い、やっぱり天使ー! 私は再度、ありがとうとお礼を言った。


 それからはダンジョン攻略に集中してどんどん先に進んでいく。出てくる魔物のレベルは3階層とあまり変わらないため、危なげなく4階層の最奥まで辿り着いた。もちろん、ほぼ双子が倒してくれました。私の役立たずっぷりよ……。いや、この先できっと役に立てるはず。うん。頑張ろ。


 そして今、目の前には見覚えのある大きな扉。この場所に来たのはかなり昔だけど、しっかり覚えてるよ。だって、岩山に突然不自然な扉があるんだもん、こんな衝撃的な景色、忘れられないよね!


「ボス部屋だね」

「ここが、ボス部屋……」


 ギルさんに連れられてここまで来た日が懐かしいや。あの時はライオンみたいな魔獣がいて、それをギルさんが一瞬で倒してしまったっけ。あれはすごかった。魔獣が怖いよりも何よりも驚きが勝ったんだよね。

 今思えば、私を少しでも怖がらせないためのパフォーマンスだったのかもって思う。やはり気遣いの男である。


「確かレオガーのキメラだったっけ。前情報の通りだったら、だけど」

「あっ、その通りだよ。私、一度見たことがあるから」


 グートがゴクリと喉を鳴らしながら言うので、私も答えると双子が揃ってグルンッと勢いよくこちらを見た。見たことがあるの!? って声を揃えて聞かれて思わずたじたじである。


「もっと幼い時だよ? あの時はギルさんが一瞬で倒しちゃったから、どんな攻撃をしてくるかとかは知らないよ……?」

「あー、あの人か。すっごく強そうだもんね……」


 ルーンが腕を組んで苦笑を浮かべている。ギルさんのことをあまり知らなくても、強そうっていう印象なんだね。さすがはギルさんだ。


「というか、そんな幼い時にダンジョンに来たのか? なんで……? って、まぁ色々あったってことか。ごめん、聞かなかったことにして」


 そこへ、グートが当然の疑問を口にした。そりゃそうだよね、気になるのは当たり前だ。

 だけど、言葉の途中でルーンに軽く小突かれたことで「色々あったのだ」ということにしてくれたらしい。あぁ、気を遣わせてしまったな。


「うん、色々あったの。別に隠しているわけじゃないから、また今度話すよ。それよりも、今はボス戦! だよね!」


 聞かれてまずい話じゃないよ、ってことが伝わればいいよね。2人にもちゃんと伝わったみたいで、笑みを浮かべて頷き返してくれる。

 それを確認してから私は振り返り、少し離れた位置で腕を組んで見守ってくれていたワイアットさんに声をかけた。今の私たちで、ここのボスは倒せると思うか聞いてみたかったのだ。

 すると、ワイアットさんはニッといたずらっぽく笑ってそっぽを向いた。


「さぁ? オレにはちょっとわかんねーかなー」

「むむ、答えられないってことね? これも試験の内だもんね。いいわ! 受けて立とうじゃない!」


 わざとらしく言うワイアットさんにルーンが唸る。あはは、まぁそりゃそうか。見極めも含めて試験なんだもんね。

 つまり、倒せそうかどうかも自分たちで考えなきゃいけないのだ。どのみち、この扉は開けなきゃいけないってことである。


 いまだに魔物を1匹も倒せない私としては不安でしかないけど、2人のサポートなら出来るはずだ。自信がないとか言ってる場合じゃない。私たちは改めてそれぞれの役割を確認すべく、作戦会議をした。


 グートはそのスピードを活かしてかく乱しつつ、ヒットアンドアウェイをするという。それを補佐するようにルーンが足元に罠を張って敵の動きを鈍らせる、と。

 確か、ジュマ兄が言っていたっけ。まずは足を狙えって。動きを封じることが大事なんだよね。


「私は、敵の攻撃が皆に直撃しないように逸らしたり防いだりは出来ると思う」

「うん、頼むね。少しずつ焦らず敵を弱らせて、最後にグートがおっきい魔術で仕留める。こんな感じでいいかな?」

「よし、それでいこう。でも、必ずそうなるとは限らないから、臨機応変に!」


 確認を終えた私たちは互いに頷き合う。そして、いよいよボス部屋の扉を開けた。

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