ショッピングタイム


 商店街は広場と同じくらい人で賑わっていたけど、あの場所と違って活気に満ち溢れていた。ここには各地から色んな人たちが集まってくるから、商売も繁盛しているんだろうな。

 本当にたくさんのお店が並んでいるから、とりあえず通りを歩きながらのんびり見て、気になるお店があったら寄ってみようと決めて歩いていた。


「わ、見てメグ! あのお店は装飾品がいっぱい並んでる!」

「可愛いのがたくさん! 全部一点ものだって。全部手作りなのかな?」


 けど、もう何を見ても楽しくって、端の店から順番に覗いて回っている私たち。これじゃあ半日で通りの端まで辿り着けそうにない。だって楽しいんだもん!


「手作りか。人間の大陸の文化を取り入れているのかもしれないわね。人間の職人は本当に腕がいいって聞いているもの。私があの大陸にいけることになったら、そんな職人をスカウトしたいなー」


 ルーンはむむむ、と顎に手を当てながら商品を一つ一つ眺めている。さすがは商人の娘って感じの着眼点だ。私なんか手作りなんてすごい、とかこの形や色が好み、とかそんな感想しかないもん。

 そんなルーンの隣で、私は隣の店に並ぶ商品に目を奪われる。これは、ガラスペン、かな? インクを付けて使うペンなのだろうけど、キラキラしているし色も種類があってとても綺麗。


「なぁに? それが気になるの? お目が高いわね! 最近になってアニュラスで取り扱いを始めたものだよ。ふーん、この辺りでも流通してるんだぁ」


 なんでも、ガラスペンなのに丈夫だし書きやすい上にお洒落で今人気急上昇中の商品なんだとか。へー!

 でも、私はいつもオルトゥスで開発されたインクが内蔵されているタイプのペンを使っているから、インクにつけて使うペンは使ったことがあまりないんだよね。日本から流れ着いたと思われる、異世界からの落とし物の中にあったボールペンが元になっているものだから、私としても馴染みが合って使いやすいのだ。


 だけど、こういうペンって憧れちゃう。一本買っていこうかなぁ。


「ねぇ、そんなに気に入ったのならお揃いで買わない? 私も今度買おうかなって思ってたの」

「本当? 嬉しい! 買おう、買おう!」


 ピンク色のペンを持ってジッと考え込んでいた私に、ルーンがそんな素敵な提案をしてくれた。友達とお揃いだなんてウキウキしちゃうね。ちなみに、ルーンはオレンジをチョイス。好きな色なんだって。そっか、覚えておこうっと。


「ふふ、今度からこれでお手紙書こうっと」

「私もそうする! あ、それなら他の文通相手にも贈ってあげたいなぁ……。ルーンと二人だけのお揃いにはならないけど……」


 クスクス笑い合う中、そんなことを思いついたけど、せっかくの2人だけのお揃いが台無しになっちゃうかもなぁ。すると、ルーンは一瞬だけきょとん、とした顔になったあと、ほんのりと頬を染めた。


「メグったら、そんな風に考えてくれていたの? えへへ、嬉しい。ありがと!」


 でも、商人としてはいい物はたくさんの人に広めたいと思っているから、とルーンは私の考えに賛成してくれた。それに、これだけの人気商品、色んな人が持っているのだからお揃いも何もないよ、と。それはそうかも。


「だからさ、ペンはメグが贈りたい相手にも贈るとして、私とのお揃いはこっちのお店で選ばない? ここなら、一点ものだから確実にお揃いに出来るよ!」

「! 乗った!」


 ルーンはいいことを思いつくなぁ! 私たちはキャッキャッと話し合いながら、贈る用のペンの色を選び、その後に2人だけのお揃いの物を探した。

 そうしてたっぷり時間をかけて私たちは髪飾りをお揃いにすることに決める。これなら他の男の子たちにはあげられないもんね。


 それにしても、すっごく可愛い。和柄っぽい布で作られたリボンに小さなお花が3つ、編んだ糸で繋がってついているのだ。結った髪に挿す櫛型の簪って感じのデザインで、動くたびに3つのお花が揺れるのが特に気に入った。


「私はいつも2つに結ってるから、2つ買う!」


 ルーンはそれを迷うことなく2つ購入。ルーンの好きなオレンジの飾りだ。私は1つにまとめることが多いけれど、ハーフアップにする時2つに結うこともあるので同じく2つ買うことに。ちなみに色は赤をチョイスした。

 それぞれ支払いを済ませ、今着けていくかい? というお店のご主人のお言葉に甘えて私たちはお互いに着けてあげることに。私、不器用だけど大丈夫かな? 心配になったけど、結んである部分に挿すだけだったからすぐに出来た。うん、曲がってない!


「ルーン、似合ってる!」

「えへへ、ありがと! メグもすごく似合ってるよ!」


 私たちは互いに褒め合った。女子っぽいー! こんなやり取りが出来る日が来るなんてっ! 感動である。


「やーっと決まったみたいだなぁ。うん、確かに2人とも可愛いけど」

「女の子の買い物の体力、すごいんすね……」


 後ろで待っている男組には申し訳ないことをしたなって思っていますとも。ご、ごめんね。


「待たせちゃって、ごめんなさい!」

「いーの、いーの。覚悟の上だから。これに付き合えるかどうかで器の大きさがわかるってもんっしょ!」


 素直に2人に謝ると、ワイアットさんはカラカラと明るく笑ってそう言ってくれた。こ、これはモテ男の発言だ。オーウェンさんの方が遊び人っぽいイメージがあったけど、案外ワイアットさんもモテモテなのでは。


「ワイアット、心が広ーい! グートとは大違いね!」

「なっ、今日は文句言わなかっただろっ」

「いつもは言うもん。メグがいるからって澄ましちゃってさ」

「そっ、そういうわけじゃねーし!」


 ああ、なるほど。グートも今日はすごく我慢してくれたんだね。けど、グートの気持ちはよくわかるよ。


「いつも一緒にいる双子のルーンだから、気兼ねなく文句が言えるんだよ。仲良しの証拠! 誰だって、興味のない買い物に付き合うのは疲れるもん。私もそうだし、ルーンもそうでしょ? だから、我慢してくれたっていうなら、やっぱり感謝だよ!」


 だから喧嘩はやめてね、と2人を宥めると、さらにヒートアップしそうだった2人はすぐに大人しく口を噤んでくれた。ふふっ、こういう素直なところ、好きだなぁ。

 ルーンもグートもお互い気まずそうに目を合わせると、すぐにこっちを向いてごめんと告げた。ごめんって、何が? あ、喧嘩したことに対してかな? 謝るほどのことではないけど、気にするというのなら謝罪は受け取っておこう。


「いーよ。私、2人が喧嘩していても本当は仲良しなの、知ってるもん。でも、仲良くしている2人を見てる方が好きだよ」

「んもー、メグには敵わないなー」


 私の言葉に、ルーンが眉尻を下げながら笑う。グートもおんなじ顔をしていたからつい吹き出しちゃった。


「たくさん待たせちゃったから、どこかで休憩しよ? それとも行きたいところがあったら言って?」

「うん、そうだね! 今度はワイアットとグートが決めてよ! 自由時間、こうたーい!」


 私たちが揃ってそう言うと、男2人が今度は顔を見合わせてフッと笑った。

 ワイアットさんが「2人は将来、良い女になるなー」と言うので、ルーンが「すでに良い女ですぅ!」と言い返す。なんだかそんなやり取りがおかしくって、私たちは人通りの多い露店街を笑いながら歩き続けた。なんだか修学旅行生の気分だー!


 結局、ワイアットさんとグートが選んだ行先はカフェとなった。少しお茶を飲んで休憩出来ればどこでもいい、と言っていたワイアットさんだったけど、女の子が気に入りそうな外観とメニューだったことから、さりげなくそういったお店を選んだのだろうなって思う。出来る男、ワイアットさんである。やっぱり絶対、慣れているよね! 侮れない……!


 現にルーンは大喜び。いいお店を見つけたねー、と無邪気にはしゃいでいる。可愛い。


「これと、これ。あとこれも食べたいなー」

「全部甘い物じゃん。ルーン、食べすぎじゃないか? 宿に戻ったら夕飯もあるんだぞ」

「甘いものは収まるところが違うから大丈夫ー」


 メニューを見ながらルーンがぽんぽんと注文していくものだから驚く。ワイアットさんの言う通り、もうすぐ夕飯なのに。あと収まるところはどちらも同じだからね!?

 けどグート曰く、実際にちゃんと夕飯も食べきるから問題ないという。羨ましい胃袋の持ち主である。


「私は飲み物だけにしておくね」

「メグは相変わらず少食なのね?」

「ルーンが羨ましいよう!」


 本当に、美味しい物を食べたいだけ食べられるのはすごく羨ましいっ! しかし、無理な物は無理なので大人しく飲み物だけで我慢します。あ、でもこのココア、生クリームが乗ってて美味しー!


「俺もよく食う方だけど、さすがに甘いものをこんだけの量は無理だ」

「あ、それはオレも。けど肉ならいくらでも食えるからさー、好きな物は別ってことなんだろうなー」


 グートの言葉にワイアットさんも頷きながらジュースを飲んでいる。それぞれおつまみチキンとポテトを食べているから、私から見れば2人もよく食べる部類に入るんだからね! それ、結構な量あるよね?


「メグー。そんな顔すんなって。ほら、ちょっとやるから。このくらいなら平気だろー?」

「メグ、私のも一口あげるよ!」

「えっと、俺のも、いるか?」


 ワイアットさんの言葉をきっかけに、3人がそれぞれに私に一口ずつ分け与えてくれる。そ、そんなに物欲しそうな顔、していたかな? でもせっかくのご好意なのでちょっとずついただきましたよ。んー! 美味しいーっ!

 ……って、あれ? なんで3人ともニヤニヤしてるの? 私が幸せそうだったから?

 だ、だってちょっとずつ美味しいものを食べられるのってすごく贅沢じゃない! ああもう、このすぐ顔に出る癖、どうにかならないかなー!? 恥ずかしい! 生温かい目で見てくるのはやめてーっ!

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