練習試合
先手必勝、とばかりにアスカが仕掛けてくる。シャイオって呼んでたから光魔術で目眩しかな? 脳内で瞬時にフウちゃんとリョクくんに指示を飛ばす。
「うっそ、速いっ」
全身の力を抜いてフウちゃんの風に身を任せておけば、私は動く必要がない。フウちゃんが攻撃を避けてくれるからね! だから私はフウちゃんを信じて眩しい光を直視しないように目をギュッと閉じる。無事、アスカの攻撃をフワリと避けられたみたいだ。主様には攻撃を絶対当てさせないっと意気込むフウちゃんの言葉にほっこりしてしまう。おっと、ダメダメ。今は試合中なんだから癒されてる場合じゃない。
光が収まったのを確認して目を開けた私は、アスカの位置を確認して足元に種を投げる。その瞬間、リョクくんの魔術によって種が急成長し、蔦がアスカを捕らえようと伸びていった。
「わ、わ、反撃のオマケ付き!? むむっ、メグやるなぁ。でも捕まってなんかやーらないっ」
けれど、アスカは蔦を難なく避けた。身体能力だけで避けているのがわかる。私と違って運動神経が良いアスカにとって、これくらいはわけないのだろう。喋る余裕もあるみたいだしね。
避けられちゃったのは残念だけど、このくらいで決着がつくとも思ってなかったよ! 魔術は補助程度に使い、距離を詰めて攻撃してくるアスカは正直なところ手強い。でも、負けるもんか! 私だって、ギルさんと特訓したんだから!
私の武器は、自在に操れる多種多様な自然魔術。たくさんの魔力を込めればあっさり勝てるのはわかってる。でもそれはとても危ないことだからね。私の魔力は桁外れに多いから、加減を間違えると辺りが焦土と化してしまう。というか、精霊たちが受け取りきれずに暴走しちゃう。それは精霊を苦しめることにもなるから細心の注意が必要なのだ。
ハイエルフの郷で魔力の解放をしておいてよかったってすごく思うよ。実感として、これはやばいってしっかり覚えることが出来たから。シェルさんには本当に感謝してる。
だから、私は魔力放出のコントロールを重点的に訓練してきた。精霊たちを傷付けるなんて絶対に嫌だもん! この辺りはみんなともたくさん話し合ったんだ。危険だと思ったら受け取らないでって何度も約束をして。申し訳ないことに、どれだけ訓練をしてもまだコントロールが甘いところがあるから……。
でも、みんなは私を信じてくれた。未熟なところは、自分たちがカバーするとまで言ってくれたんだ! もう、いい子たちすぎるっ。一生、この子たちを大切にするって改めて思ったよ!
「ホムラくん、ライちゃん!」
『わかったんだぞ!』
『はいな! 加減もウチに任せてー!』
フウちゃんに身を任せてアスカの攻撃を避けつつ距離を取ったところで、火と雷の自然魔術を使う。この二つは攻撃専用みたいなところがあるから、いつも以上に注意が必要。でも、手加減というのを訓練で何度も繰り返したから、二人とも自信満々で魔術を使ってくれる。やっぱり反復練習は大事だね。練習の時と同じように、ちょうどいい加減の炎と雷を出してくれた。
「わ、わ……うっ」
私が指示したのは、炎でアスカを取り囲み、動きが一瞬だけ止まったところで電撃で痺れさせる、というもの。見事にアスカは炎に囲まれて足を止め、電撃に痺れたようだ。そこですかさず距離を詰め、私はアスカを押し倒す。
「捕まえ……ひゃっ」
「ま、まだまだぁ……!」
取り押さえた、と思った瞬間、風でフワリと自分の身体が浮くのを感じた。アスカの風の魔術だ。くうっ、身体の軽い私はあっさりと持ち上がり、逆に仰向けになってアスカに馬乗りになられてしまった。こうなると力のない私では抜け出せない。……でも!
「シズクちゃん!」
『御意っ』
「うわっ、冷たっ」
私だって最後まで諦めない! 水の魔術でアスカの顔に思いっきり水を飛ばしてもらった。怯んだところでサッと拘束から抜け出し、フウちゃんの力を借りて再び距離を取った。ふぅ、危なかったー!
「やるじゃん、メグ!」
「アスカだって!」
顔と上半身がびしょ濡れになったアスカだったけど、生活魔術と風の魔術を使ってあっという間に服と髪を乾かした。うーん、魔術の腕が上がってるなぁ。ちょっと大雑把なところがあるみたいだけど。それを身体能力で補ってる。
「今度は私からいくよ!」
「どっからでも来いっ」
こうして、私たちは試合を続け、15分くらい過ぎた頃、どうにかこうにか私がアスカを追い詰めて試合終了。審判をしてくれているロニーやケイさん、ジュマ兄たちがやんややんやとアドバイスをしてくれたりと、なかなか身のある練習試合になったと思う。
「くーやーしーいーっ! あとちょっとだったのに!」
「危なかったぁ。ふふ、でも勝てたもんねっ」
「むぅ、メグ、言うようになったよね。いいもん、大会では負けないもん」
荒い息を整えながら、二人で感想を言い合う。アスカは当然、負けて悔しそうだ。私も負けてたら悔しいって言ってたと思う。今勝ったからって油断せずに、本番でも頑張ろう。そう思いながら精霊たちに労いの言葉とともに魔力を渡していくと、みんな嬉しそうに魔力を受け取って飛び回った。可愛い。
「メグ、アスカ、二人とも、すごく強くなった」
「おー。動きが良くなってて別人かと思ったぞ」
ロニーとジュマ兄もそう言って褒めてくれる。それからあの時はこうだった、こういう時はこうするといい、など細かいアドバイスもしてくれた。ロニーはともかく、ジュマ兄の助言が的確でいつも驚くんだよね。いつもはあんなだけど、戦闘に関しては一流なんだなって改めて実感するよ。
「でも、メグの魔術の使い方は、僕の方が、勉強に、なった」
「んー、魔力のコントロールはボクより上手なんじゃない?」
最後にロニーとケイさんがそんなことを言ってきた。え、そうかな? さすがにケイさんの言葉は大袈裟だと思うけど、褒められて思わずえへへと照れてしまう。するとアスカが頰を膨らませて、見習うのは難しいけどねーと口を出す。
「メグの自然魔術は特殊すぎるもん。頭で思い描いてるだけで精霊に伝わるから。信頼関係もすごいし!」
「ん、わかってる。でも、信頼関係なら、僕も、負けてない」
「そ、それはぼくもだけどぉ」
自然魔術を使う者同士の会話である。2人も私と同じように精霊たちが大好きなんだなってわかってむしろ微笑ましい。仲良しなのはいいことだ!
「じゃ、あとは個人でいつもの訓練しようぜ。お前ら子ども組は、少し休憩したら終わりにしとけよー」
「「はーい!」」
ジュマ兄にそう言われて、アスカと2人で元気にお返事。ロニーもジュマ兄たちもこれから本格的な訓練に入るんだろう。ケイさんはしばらくロニーの指導につくみたいだ。私たちに付き合ってくれてありがとう、としっかりお礼を伝えてみんなの背を見送った。
「じゃ、もう少しだけ訓練しようか」
「だねー。終わったらさ、屋台の方に行ってみよーよ! ケイにも後で聞いてさ」
「うん! ケイさんが忙しくなかったらね!」
こうして、午前中は2人でひたすら訓練と休憩を繰り返して過ごした。ふぃー、疲れたぁ!
「屋台巡りかい? んー、連れて行きたいのは山々なんだけど……」
大人たちの訓練が終わるのを待って、一緒に広場へと戻る途中、ケイさんに聞いてみると申し訳なさそうに謝られてしまった。何でも、自分一人では何かあった時に助けてあげられないから、だそう。私たちもそれなりに戦えるようになったとはいえ、子ども2人を連れて治安のあまりよくない街を歩かせるのは不安だよね。ケイさんは強いけれど、そういう戦い向けじゃないのだ。
「じゃあさ、私たちと一緒ならどう?」
残念に思っていると、後ろから明るく元気な声で話しかけられた。ビックリして振り向くと、そこにはクリーム色の癖っ毛さんが2人。
「ルーン! グート!」
「えっへへー、久しぶりだね! メグ!」
「よ、よぉ、メグ。その、元気そうで、何より……」
特級ギルド、アニュラスの双子ちゃんである! おっどろいたー! 何でも、アニュラスの皆さんは今日の午前中にこの街に到着したんだって。そこへ私の姿を見つけたから声をかけたのだそう。うわーうわー、嬉しい! ルーンと手を取り合ってピョンピョン跳ねる。そのたびにルーンのツインテールもぴょこんと動くのでとっても可愛い。癒された。
「話が聞こえちゃったんだけど、屋台巡りに行きたいんでしょ? 私たちも今から行こうかって話してたの。だから一緒にどうかなって思って」
「えっ、いいの!?」
キラキラとした瞳でルーンがそう言ってくれたので、バッとケイさんの方に顔を向ける。ケイさんは顎に手を当てて何やら思案しているようだ。
「そちらの引率者は彼だけ?」
「そう、アシュリーさんっていうの。ぜんっぜん喋らないけど、実力はアニュラスでもトップクラスだよ!」
ケイさんの質問に元気に答えながらルーンはサッと手で一人の男性を示した。すっごく背の高い男の人だ。ニカさんくらいはあるんじゃないかな。身体の線は細めだからヒョロっとして見えるけど、体幹がしっかりしているのと、魔力の質がいいのがパッと見ただけでもすぐにわかった。ルーンの言うように相当な実力者なんだろう。
グレーの髪のところどころが緑に色付いていて、メッシュを入れているみたいに見える。そして口元はギルさんのようにマスクで隠されていた。本当に喋ることがないのだろう、アシュリーさんは私たちを見て軽く会釈だけをしてくれた。目が細めなので、表情の読み取りにくい人、という印象である。
そういえば会議の時も名前だけは聞いたな。経理の人ってアニュラス
「じゃあ、ご一緒させてもらおうかな。構わないかい?」
ケイさんもこの人なら大丈夫だろうと判断したようだ。アシュリーさんにそう尋ねると、彼はこくりと一つ頷いた。側でルーンが大喜びしている。私も嬉しい!
「め、メグ!」
「? なぁに、グート」
グートが声をかけてきたのでそちらを向く。でも、あれ? なんだか顔が赤い? そうだ、照れ屋さんなんだよね、グートは。慣れてる人ならそうでもないらしいけど、私とは久しぶりだからまだ照れてるのかな。可愛い。
「や、約束が果たせそうで、う、嬉しいよ」
「あ、お手紙で一緒に出かけようって言ってくれてたもんね。私も嬉しい!」
「2人きりじゃないのが、残念だけど……」
ボソボソと何かを言ったみたいだけど、うまく聞き取れなかった。何かが残念って言った? 聞き返そうとしたその瞬間、どんっと勢いよく後ろから誰かに抱きしめられた。え、わ、アスカ?
「どーも! メグの番になる予定のアスカだよ! エルフなんだ。メグと一緒のね!」
「え、な、つ、番……!?」
「ぼくとも仲良くしてねぇ? グート?」
「な、お、お前っ、メグから離れろよっ」
「やーだよ! ぼくはいつもメグとこうしてるもーん」
何をー!? 何だよー! と、グートとアスカの間で不穏な空気が漂い始めた。え、何で? 何? 何が起こったのー!?
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