お姉ちゃん
「いらっちゃいましぇ!」
サウラさんからの許可があっさりと下りたので、私とアスカはお父さんに連れられて獣車乗り場までやってきた。お店に顔を出すと、すぐに看板娘のミィナちゃんがとてとてとやってきた。相変わらず可愛いっ!
「んじゃ、俺は店主と話してくるから」
「うん! 私たちはここにいるね!」
ミィナちゃんの可愛さに癒されていると、お父さんがそう声をかけてきたので返事をする。ここなら店の中だしテーブルもあるからミィナちゃんとも一緒に遊べると思ったのだ。
「えっと、はじめましてミィナちゃん?」
「は、はじめましてぇ……」
お父さんの背を見送っている間、アスカが年上としてミィナちゃんに優しく声をかけていた。ニッコリと微笑むアスカの笑顔はやはりものすごい威力だ。なんの、ってトキメキ効果の。ミィナちゃんはボフッと音が鳴りそうな勢いで顔を真っ赤にさせてしまっている。私の後ろに隠れながらもきちんと挨拶を返したミィナちゃんの愛らしい姿に、今度は私がときめいたよ。トキメキの連鎖である。っと、キュンときている場合ではない。ちゃんとアスカを紹介しなきゃね。
「ミィナちゃん、この人はアスカ。エルフの郷に住んでるんだけど、今はオルトゥスに来ているんだよ」
「少しの間だけどね。本当の名前はリュアスカティウスっていうんだけど、長いからアスカって呼んでね」
「えっと、ア
「お、お兄ちゃんだって! ねぇ、メグ、聞いた!?」
お兄ちゃんと呼ばれたことに衝撃を受けたアスカがニヤけながら興奮している。ああ、すごくわかる。呼ばれた瞬間、脳内でミィナちゃんの呼ぶ声がリフレインして聞こえるんだよね。経験したからよくわかるよ。嬉しいんだよね! 年下の存在って!
「ふふ、じゃあ一緒に遊ぼうか。色んなおもちゃを持ってきたんだよ!」
「いいの?」
「もちろん! 今日はお父さんの仕事が終わるまでちょっと暇なの」
一緒に遊べるとわかったミィナちゃんはパァッと顔を明るくさせて喜んだ。
「ありがとーメグおねーちゃん!」
「ぼくもぼくも! ありがとうメグお姉ちゃん!」
「も、もうアスカまで!」
ここ最近はずっとメグって呼んでたからその呼び方久しぶりだよ! 絶対おもしろがってる。私、アスカにまでからかわれるようになったんだなぁ。くすん。
しかしそう落ち込んでもいられない。せっかくのお遊びタイムなのだ。精一杯遊んじゃうぞー! おー!
私は持ってきたおもちゃをひとまずテーブルに並べてみた。木で出来たパズルやブロックも楽しいみたいだけど、ミィナちゃんはお人形遊びが気に入ったようだった。女の子だもんね。洋服を着せ替えたり髪を梳かしてみたり、小さなままごとセットでピクニックにも行った。
ちなみに私の持ってる女の子のぬいぐるみはミィナちゃんの人形の妹ポジションだ。やっぱお姉ちゃんに憧れがあるのねって思って微笑ましい。
その横でアスカはブロックでせっせと障害物や建物を作ってくれていた。坂道を作って滑り台にしたり、庭付き一戸建てを作ってくれたり。ミィナちゃんと私でそれを使ってお人形遊びをする、という流れが出来ている。というか、アスカの建築技術、半端ない。ブロックとはいえなかなかのクオリティー。
「ここのお店はいい
「うわぁ、楽しみー! ミィナおねーちゃん」
私がミィナお姉ちゃんと呼ぶたびに うれしそうにくふくふ笑うのが本当に可愛くて、ついつい連呼してしまう。ほっこり癒されていると、いつの間にそこにいたのだろう、お父さんの小さな呟きが妙に耳に残るように聞こえてきた。
「違和感ねぇな……素だろ」
「ち、違いますぅぅぅぅっ!」
失礼しちゃう!!
私的にはもう終わったの? というくらいの時間だったんだけど、外を見ればもう夕焼け空だった。午後の時間を目一杯使って全力で遊んでいたことになる。き、気付かなかった……!
「よっぽど楽しかったんだな」
「うん……なんか、夢中になって遊んじゃったかも」
やっぱり私は今、年相応の感性を持ってるんだなぁって実感したよ。70歳くらいだけど、年相応とはこれいかに。いつまでも日本人の感覚でいたらダメだね!
「メグおねーちゃん、ア
私でさえこうなんだから、普段同じように同年代と遊ぶことの少ないミィナちゃんは余計に寂しく感じたのかもしれない。目に涙をいっぱい溜めてそう声をかけてきてくれた。胸にくるものがある……っ! ミィナちゃんのお母さんがそっと抱き上げて、泣かないで挨拶できてエライね、って褒めているのがまた胸にきた。むしろ私が泣きそうだよ!?
「うん、また遊ぼうね。これ、ミィナちゃんが持ってて?」
出そうになる涙をグッと堪えて、私は笑顔でおもちゃを指し示した。きちんと片付けたよ? 当然です。おままごとセットやパズルにブロック、今日使ったおもちゃ全部を2つの箱に入れて置いておいたのだ。
「い、いいの?」
「うん! いつでもここに来た時に、遊べるように。ね?」
ミィナちゃんのお母さんに、本当にいいんですか? と聞かれてもちろんと笑顔で答える。
「私はもう一人では遊ばないし、ただ持ってるだけなのはもったいないから。おもちゃも遊んでもらえた方が幸せかなって! だからミィナちゃん、私たちがいない時でもおもちゃで遊んであげてね!」
これらは全部オルトゥスのみなさんが私にってプレゼントしてくれたものだ。常々、もったいないなって思ってたんだよね。一人で暇な時に結構遊ばせてもらったけど……ほら、中身は大人だったし、たぶん普通の子どもよりは遊べてなかったと思うのだ。捨てることは絶対に出来ないからどうしようって思ってた。だから、ミィナちゃんが持っていてくれて、遊んでくれるならとっても嬉しい!
「ありがと、メグおねーちゃん! わたし、大事にするね!」
「うん! こちらこそ、ありがとうミィナちゃん」
えへへ、と笑い合って最後にヒシッと抱き合ってからようやく私たちはお店を出た。いつまでも手を振ってくれるミィナちゃんに答えるべく、私も手を振り返しながら歩いていたらうっかり躓いてアスカに支えてもらうハメになる。ご、ごめん。
「もー、気をつけて? メグおねーちゃん?」
「うっ、わかってるもん! アスカの意地悪ーっ」
アスカってばやっぱりちょっと意地悪に育ったよね! ごめんごめんってすぐ謝るし、悪気もないし、可愛いから許しちゃうんだけど!
「そうだぞ、メグお姉ちゃん」
「お父さんまでー! 酷いっ」
くっくっと笑いながらお父さんまでからかってくる。もーすぐ悪ノリするんだから!
「ね、獣車の件はどうなったの?」
話を変えるためにも、当初の目的についてお父さんに聞いてみる。闘技大会中、移動手段として使えたりするのかな? 参加メンバーは個人でどうにかするとして、応援に行くっていう人も少なからずいるだろうし、どうしても混雑はするはずだから。たぶん、その辺も含めて今日は話し合いに来たんだと思うんだよね。
「あー、実は大会に向けて大型の獣車を準備しててな。人が乗り込む部分を大きくしたのをオルトゥスで作ってるとこなんだよ。大型バスをイメージしてくれりゃいい。通常サイズだと獣1体でひくんだが、それだとスピードも出ないし負担も大きい。だから獣2体か3体でひけるように考えてんだよ」
「んーっと、馬車みたいな?」
「まぁそうだな」
陸上を走る獣なら馬車のようなタイプで、それの応用として空の便も考えてるんだって。そうなると、それらを運ぶ獣が重要になってくる。基本的に群れを作ることの少ないこの世界の大型の獣たちが、2体以上できちんと同じ方向に走らせたり飛ばせたり出来るのかが問題になってくるんだって。獣同士で喧嘩したり暴れたりしたら、乗ってる人たちが大変なことになるもんね……!
「最悪、魔道具を使っての乗り物を開発しようかとも思ったんだがな……飛行機とかさ。けどそれをすると……」
「うん、わかるよ。一気に獣車が廃れていくかもしれないもんね」
「コストの面で魔道具使用の乗り物は そう簡単に普及はしないだろうが……開発が進めばわからないしな。それに」
お父さんはフッと目元を和らげて空を見上げた。
「この世界にあの景色は似合わねぇよなって思うんだよ」
日本にいた頃よく見かけた光景。高い建物が並び、車や電車がたくさん走って、飛行機が飛ぶ。それはとても便利だし、私だってよく利用してたけど……たしかにこの世界はこのままがいいなって私も思う。遠い未来ではそんな考えが時代遅れだー、なんて言われる日が来るかもしれないけれど。
「うん。私も、今のままでいいって思うよ」
「だよなー」
わざわざ自分たちでそのきっかけを作ることもないかなって思うんだ!
なんの話―? とアスカが聞いてきたところで、この話はおしまい。少し大きな獣車が問題なく利用できそうだって話だ、ってお父さんが締めてくれた。口ぶりから察するに、心配してた獣同士の問題も解決出来そうっぽいしね。
「よーし。これからどんどん忙しくなるぞ。群れを作る獣の捕縛とテイマーを探して仕込んでいかねぇと。あとはそろそろ景品とトーナメントやルールブックなんかも作ってかねぇとな。あとは……」
ググッと伸びをしてお父さんが気合を入れ直したようだ。本当にやることは山積みなんだな。ハイエルフの郷でも出来ることがあればいいんだけど……そもそも手伝えることがほとんどないんだから無理な話ではある。き、気持ちだけは……!
明日はいよいよハイエルフの郷に向かう日。特殊体質について調べられたらいいな。今の私の仕事は魔力の流れを整えて暴走を抑えることと、自分についての謎をしっかり調べることなんだから。私も心の中でやることを決めて、気合を入れ直した。
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これにて、今章は終わりになります。毎日更新も本日でおしまい!がんばった……_(┐「ε:)_
しかーし!次の章は18日の月曜日からスタートします!また週一更新になりますがお付き合いくださいませ。
お読みいただきありがとうございます!
阿井りいあ
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