大会についてお喋り
ランちゃんのお店では、私の戦闘服も注文することにした。もうあるじゃないかって? 甘い。何が甘いって、私のあの戦闘服はスペックが高すぎるのである! とても子どもが持ってていいようなレベルではないのだ。
過保護な大人たちの産物と言ってしまえばそれまでなんだけど、ほら、それなりに身の危険があるじゃない? 自分のことを守るためにも、このレベルの戦闘服は確かに必要ではあったのだ。
よく考えてみればあのエルフの郷で父様である魔王とシェルメルホルンが戦っていた時も、戦闘服だったからこそ吹き飛ばされずに済んでたのである。じゃなきゃ爆風で飛んでるよね。いくらニカさんやギルさんが側にいたからって、擦り傷などの小さい怪我さえなかったのはひとえに戦闘服のおかげだったのだ。
さらにいうならば、私がえいやーっと宙から下りて、フウちゃんの力を借りたとはいえ、無事に着地出来たのも、ホムラくんの炎の熱を感じなかったりしたのも戦闘服のおかげ。運動能力の補正みたいなのが働いていたんだと思うのよ。今でさえ運動能力に難があるのに、当時それが出来ていたのはつまり、ってことだ。知らぬ間に助けられていたということである。あの服を来てなかった人間の大陸ではそりゃもう情けない結果だったことからも明らかだ。戦闘服さまさま……!
話が逸れた。つまり、一般的な子どもが持っていてもおかしくないスペックの戦闘服を作ろう、ということになったのである。大会で使うわけだし、差がありすぎるのは良くないからね!
「あー、ラン。メグのはしっかり防護系の魔術をかけといてくれよ。結界が張れないのが痛いな……ギルさんたちがなんて言うか。あ、運動能力も少し……」
「ダメダメ! スペックがおかしくなっちゃうから! ランちゃん、みんなと同じでいいから! あくまでも、一般的なものでお願いしますっ」
オーウェンさんでさえこれだ。今ここでこっそり注文しておかないとハイスペックな戦闘服が2着出来てしまうという結果になる。もちろん自費なので、その辺も加味して作っていただきたい。うっ、一気に貯金がなくなるけど仕方ない! 必要経費である。またお仕事頑張ろう。
そんな私の話を聞いて、アスカも出せる分だけは自分で出すと言い張ったのもあって、大会までに間に合うように作るわ、と無事に戦闘服の注文を済ませることが出来た。出来上がりが楽しみである。
「自分のお小遣いで、初めてこんなに高い買い物した!」
「ふふ、ぼくも」
ちょっぴり大人になった気がして、私たちはふふふと笑い合う。
「あーーーーこれ、後で俺が、なんでお前払わなかったんだよって責められるやつだ!」
1人、オーウェンさんだけは頭を抱えていたけどね。大丈夫、ちゃんと私たちも言うから……。
その後は、街を一通り回って歩いた。そんなに大きな街じゃないから、すぐに見て回れるんだよね。でも、もっと小さい頃の私はそれでも疲れすぎて1日じゃとても歩ききれなかったけど。そう考えると私も大きくなったなーって思うよ。しみじみ。
歩きながらする話題は当然、闘技大会のことだった。未成年部門が作られたのはビックリしたよねーとか、そんな話。
「でも、未成年だから、もうすぐ大人っていう大きい参加者もいるってことだよね。ぼく、勝てるかなぁ」
アスカはそういいながら腕を組んで考えている。自分の能力を考えながら戦略を練っているのかもしれない。確かにそうだよね。それなら余計、私1回も勝てないんじゃないの? って思っちゃうよね。
『……っ! メグ……っ!』
ふと、脳裏に映像と音声が流れる。あ、予知夢だ。いつもながら突然だなぁ。いや、もはや予知夢なのかどうかはわからないけど、えーと……ええい、夢でいいや。
『……む、……から……』
あれは、ギルさん……? 地面に膝を付いて倒れている誰かを抱えている。……私?
『……、…………てる』
ぐったりと、意識を失っている私を抱きしめながら、ギルさんが小さな声でずっと話しかけているみたい。なんだろう……?
「ねぇ! メグ聞いてる!?」
「え? あ……」
アスカの拗ねたような声で我に返る。うーん、やっぱり今のは予知夢かな? そんな風にぼんやりしていると、ちょっと怒っていたアスカが今度は心配そうに顔を覗き込んできた。
「……どーしたの? 疲れちゃった?」
至近距離で見る美少年の悲しげな顔の破壊力よ。キューン! 可愛いっ!
「ううん! ちょっと考えごとしてただけ! ごめんね」
「そう? ならいいんだけど」
心配させちゃダメだよね。こういう夢はよく見るし、その度にぼんやりしちゃうけど、元気なのは変わりないから平気だってアピールしないと。両腕で力こぶを作って見せてみる。……こぶはない。
それにしても、今のはなんだったんだろう。多分予知夢だと思う。だって、過去にあんな状況なかったし。大怪我して抱かれてることはあったけど、さっきの夢の中の私は怪我なんかしてなかった。でも夢という曖昧なものだから絶対に違うとは言い切れないんだけど……。
「もう1回言うね? メグは、大会でどのくらい勝ち上がりたいの?」
「勝ち上がり……あ」
考えている時に告げられたアスカの質問によって思い付いた。あれって、闘技大会の時の夢だったのかもしれない。そうだよ、そう。で、私負けちゃうんじゃないかな? 気を失うかなんかして、ギルさんが心配してたんだ。
闘技大会での出来事なら、大怪我の心配もないから安心だね。気を失ったとしてもすぐに回復するだろう。それにしてはギルさんがものすごく必死に心配してたような気もするけど、過保護だしあり得る。
「なーに、メグ?」
「う、ううん。ただ、闘技大会ってトーナメント式だったなーって思って。私鈍臭いから、1回しか戦えなさそうだなーって」
訝しげにこちらを見るアスカの視線が痛い。ので、慌てて誤魔化す。あははと笑って見せるとアスカは頰を膨らませた。あれ?
「ダメだよそんなんじゃ! 優勝するくらいの気持ちで挑まなきゃ!」
あ、そっちか。誤魔化したのがバレたかと思ってヒヤッとした。まぁバレたところでそこまで問題はないんだけど。
「せっかく参加出来るんだもん。全力で戦わないと、相手にもしつれーでしょ!」
「う、そうだよね。ごめんなさい。私も精一杯頑張る!」
そして正論。弱気でいたら対戦相手に失礼だもんね。ちゃんと自分のベストを尽くそう。それで負けたならそれはそれ。悔しい思いをして、また訓練に励めばいいのである!
「おーおー。やる気に満ち溢れた子どもってのはいーもんだなー」
背後から付いてくるオーウェンさんが頭の後ろで手を組んで微笑ましげにこちらを見ていた。ま、大人からしたら遊びみたいなものかもしれないけどさ! 子どもは子どもなりに頑張るもんねー!
「あとぼく、大人の戦いも楽しみなんだ。みんながどんな風に戦って、誰が勝ち抜くのか……すごく気になる!」
「あ、それは私も気になる! 魔物と戦うのとはわけが違うだろうし、あくまで力試しの大会だし、強いからってだけで勝ち抜けるとも限らないもんね」
そうなのだ。普通に考えて、優勝するのはギルさんだと思う。対魔物だろうが人だろうがなんでもソツなくこなしそうだし、強さも揺るがない気がするもん。娘としての贔屓目かもしれないけど。
でも、ルールのある大会だし、何がどう作用するかわからない。みんなの戦闘を間近で見られるチャンスでもあるし、むしろ私的には自分の戦いよりそっちの方がメインだったりする。
「同じエルフとして、シュリエに勝ってほしいなぁ」
「エルフの希望の星だもんね!」
目を輝かせながらそう語るアスカは、なんだかんだで同族が好きなんだろうと思う。あと、シュリエさんにすごく憧れてるのが伝わってきた。私ももちろん憧れている。
「他の特級ギルドのメンバーも気になるなー。オルトゥスのメンバーしか知らないし……あ、そういえばね! アスカに紹介したい子たちがいるんだよ」
他のギルドのことを考えていたら思い出した。アニュラスにいるルーンとグートの双子と、魔王城にいるウルバノのことだ。せっかく年も近いんだし、アスカとも仲良しになってもらいたいと思ったのだ。
「ぼくたちと同じ年齢の子かぁ。メグの友達なんでしょ? じゃあぼくも友達になる」
「うん、仲良くしてくれたら嬉しいな。それに、未成年部門を開くなら、もっと友達も増えるかもしれないよね! えへへ、楽しみ!」
魔王城ではちょっとアレな理由で捗らなかった友達作りも、大会を機に出来るかもしれない。新たな出会いに期待である。
「でも、そしたらライバルも増えそうだなー」
「ライバル? うーん、まぁ、でも闘技大会だし……」
ふと、難しい顔でアスカがそう言うので、大会を開くんだからみんなライバルなのは当たり前だということを告げると変な顔をされた。え? なんで? 変なこと言った?
「アスカ、双子のグートは手強いかもしれないぞ」
「えっ、グートもなの!?」
「たぶんな」
「うー、油断できない……!」
オーウェンさんからの言葉を聞いて、ぐぬぬと唸るアスカ。そっか、グートって強いんだなぁ、私も頑張ろう、と思っていると、オーウェンさんに頭を撫でられる。
「たぶん、メグが思ってるのとは方向性が違うけどな。俺らが言ってるのは」
「え? え?」
「そそ、メグは気にしなくていーの!」
なんだか私だけ話についていけてないぞー? 脳内疑問符だらけの私を差し置いて、アスカとオーウェンさんはあーだこーだと作戦会議をしている。ちょ、ちょっとー! 置いてかないでー!
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特級ギルドへようこそ!2巻は本日発売でーす!
書店様でお見かけの際はぜひ連れて帰ってやってください!
オンラインストアや電子書籍もありますよ!こちらは特典SSがつきますのでぜひに!
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