街の散策


「おはようございます! オーウェンさん!」

「おはよーございまーす!」


 さぁ、いよいよ今日はアスカに街を案内する日である! 意気揚々と私たちはギルドのホールへと辿り着く。今日は動きやすい服装と髪型で、気合も十分! すでに入り口で待っていたオーウェンさんにアスカと2人で挨拶をした。


「おー、元気だな子どもってのは。おはよう、メグにアスカだっけ?」

「うん、ぼくはリュアスカティウス。だからアスカでいいよ!」

「うん、長ぇな」

「エルフは名前が長いんだよねー。あれ、そういえばメグは短いね?」


 確かめるように名前を聞くオーウェンさんに、答えるアスカ。確かにエルフって名前が長い人多いよね。というか、エルフでなくても長い名前の人は多いんだけど、特にエルフは長いイメージが確かにある。だからこそ、アスカの疑問も尤もだ。


「んー、私の名前はお母さんとお父さんで決めたらしいから……」

「あ、お父さんって魔王様なんだよね! ふぅん、だから名前が短いのかなー?」

「そこが関係あるのかはよくわかんないけど……」


 お父さんが魔王だから名前が短い、という子どもならではの発想で納得するアスカに思わず苦笑を浮かべてしまう。もっと正確に言うなら環の名前からきてるんだけど、ややこしいので割愛だ。どのみち言えないしね!


「ま、覚えやすくていーじゃん。さ、早く行こうぜ。朝食も外で食うんだろ?」


 ニッとワイルドに笑うオーウェンさんが話を変えてくれたので私たちもハッとしてその話にのる。そう、いつもはギルドの食堂で食べるんだけど、せっかく観光なんだから朝ごはんも外で食べたら? といろんな人にアドバイスをもらっていたのだ。お腹も空いてきたことだし、早速出発だー! と、その前に。


「オーウェンさん、今日は1日よろしくお願いします!」

「あっ、そーだね! オーウェン、よろしくー!」

「アスカは呼び捨てかよ! まーいいけどよ。任せとけ! さ、行くぞー」


 こうして私たちは3人でギルドを後にした。

 ……んー、振り返った先にもギルさんはいない。あれから、話を聞けてないんだよね。いやいや、今は他のことを考えてちゃダメだ! 次に会えた時にギルさんには話を聞こうと心に決めて、朝食のお店へと足を進める。


「アスカは、お魚の方が好きなんだよね? お昼はお魚にして、朝はあったかスープとパンのお店に行くよ!」

「ほんと? 楽しみー!」


 アスカがとてもいい反応をしてくれる。ワクワクを隠せないみたいで、目を輝かせているから私も嬉しくなってあれこれ説明しちゃう。


「とってもおいしーの! これから行くとこはね、お野菜いっぱいのスープと焼きたてのパンも色々あってさいこーなのぉ!」

「えっ、それはさいこーだね! ぼく、いっぱい食べちゃおーっと」


 両拳を握りしめてプレゼンすれば、アスカはそのノリに合わせて一緒に目を輝かせてくれる。ああ、可愛い。朝から癒しの笑顔ごちそうさまです!


「お、お前ら、本当に2人だけだと危険だな?」

「えっ、なにが?」


 2人でキャッキャと話している背後から、オーウェンさんの焦ったような声が聞こえたので振り返る。アスカもよくわかっていないようで首を傾げていた。


「自覚ねぇのかよ。あー、もー何でもねーよ! こっちはこっちで仕事をこなしとくから、気にせず続けて。邪魔して悪かったよ」


 シッシッと手を払うように言いながらも、どことなく緊張感を漂わせている様子。オーウェンさんって結構、適当なイメージがあったけど、職務に忠実なんだぁと感心した。


「変なオーウェン」


 だからそんなこと言っちゃメッなんだよ! アスカ!




 朝食場所に到着した私たちは、オーウェンさんも含めて3人で早速朝ごはんをいただく。3種類のスープと数10種類ものパンの中から値段に合わせた数のパンを選んで食べられるのだ。贅沢ぅ! ちなみに私は1つずつ。し、仕方ないでしょ! 食べたい気持ちはあるけど胃が受け付けてくれないんだから! それに、ここのパンはボリュームがあるのだ。特にこのタマゴサンドはガツンとくるので1つで十分。でも美味しいの。フワフワ卵焼きが挟んであって幸せなの。はふぅ。カボチャのクリーミーなスープも最高に合います。


「オーウェン、すごい食べるね。メグは食べなさすぎだけど」

「そーか? 大人になりゃアスカもこんくらい食えると思うぞ?」

「そうかな? それなら、早く大人になりたいかも」


 アスカの言うように、オーウェンさんのお皿には山盛りになったパンが積み上がっている。アスカの3つもだいぶ多いと思うんだけどなぁ。それぞれ、オニオンスープとクラムチャウダーをチョイスしている。

 あ、もちろん名称はこちらの世界仕様だけど、相変わらず慣れないので脳内では日本のままだ。だって、難しすぎるよ……!


「それに、大人になったらメグと結婚できるもん」

「ぶふぉっ! ごっほ、ごふっ……、あ、アスカ、い、今なん……!?」

「うわ、汚いなぁ、何やってんのオーウェン」


 いや、今回のそれはアスカが悪いと思うよ……ほんと、何を言ってんですかねぇこのませた子は! 昨日から目が合えば口説いてくるので私としてはだいぶ慣れてきたんだけどね。でも、そろそろこれ、本気なのかな? って気になってくるよね。はぁ。


「結婚って言ったの! ぼく、メグとは番になるんだもん。絶対メグはぼくの番だもん。そう、心が言ってるから」

「なんつー野郎だ。アスカ、お前……」


 スッと真顔になったオーウェンさん。さすがにそういう話は早いって言う気なのかな? そう思って黙って待ってたんだけど……。


「すげぇな! 自分に素直でよー。俺も最初からそうしとけば良かったってすげー後悔してんだよ!」


 まさかの賞賛に椅子から落ちそうになったよね! え、そっち!?


「え、オーウェンも番にしたい子がいるの?」

「おう。ずっと回りくどいことばっかしてたんだけどな、それじゃいけないって最近気付いたんだ。それからはひたすら口説いてんだけど、これまでのことがあったからかなかなか振り向いてくれなくてなー」

「あー、素直が一番だよオーウェン。女の子は自分だけに特別ってのが好きなんだから、他の子は眼中にないってことをもっとアピールしなきゃ!」

「今はずっとそうしてんだけどなー。脈はありそうなんだが素直になってくれないんだよなー。そこがまた可愛いんだけど」

「あ、じゃあさ、こういうのはどう?」


 お、おやぁ? 何やら意気投合してるぞ? というか周囲にいた数人の男性客も聞き耳立ててない? すごいなアスカ。女の子を口説く極意を講義し始めたよ。本当に子ども? ってかそれどこで覚えてきたの? 色々とツッコミどころ満載すぎて暫し遠い目になってしまった。私、悪くない。

 その後、私がもう行こうよーと拗ね始めたことでようやく講義が終わり、やっとこさ街の散策へと向かうことになったのである。まったくもう!


 まずはやっぱりランちゃんのお店へ。お世話になってるし、せっかくだからアスカも紹介したいしと思って。それに、ランちゃんならアスカを一目見て……、


「んまぁ! 可愛いエルフの子ねぇぇぇ! ね、ね、服! 服を作らせてちょうだーい!」

「え? いいの? やったぁ!」


 とまぁ、こうなるだろうってわかってた。予想通りすぎて面白いくらいだよ。ここで素直に喜べるのがアスカのいいところだよね。私はついつい遠慮しちゃうというか、申し訳なくなっちゃうからさ。


「そういえばアスカ。お前、戦闘服は持ってんのか?」

「え? 訓練用の服なら持ってるけど……」

「ふむ。荷物も部屋か。収納魔道具とかも持ってないのか?」

「オルトゥスに来るときに必要だからって、母さんのを借りてきたけど、自分のじゃないよ」


 あ、そうか。アスカも闘技大会に出るって言ってたもんね。戦闘服はあった方がいいのかもしれないけど……でも、あれって作ろうと思うとかなりお金がかかるんだよね。一般的にはそうホイホイとは作れないのだ。収納魔道具も然りである。オルトゥスの基準がおかしいの!

 オーウェンさんが聞き出したところによると、訓練用の服も多少動きやすくて痛みにくい効果はあるものの、魔術に強いとかそういった効果はないようである。そう、これが一般的であり基準なのだ。間違えてはいけない。


「ラン、俺が少し金出すからさ、ちょっとだけ付与魔術つけてくんねぇ? 今度こいつ、闘技大会出るんだよ」

「闘技大会? そういえば噂で聞いたわ。特級ギルド合同で大きな大会をするんですってね。子どもが戦う部門でも作るのかしらぁ? それなら必要よねぇ」


 おや、闘技大会の話はすでに少し広まってるようだ。集客することで資金も集まるし、宣伝は必要だよね。でもここかは遠いから、この辺に住む人たちは行ける人も少ないだろうけど。


「えっ、オーウェンいいよ。ぼく、普通ので」


 さすがに、付与魔術のついた服については遠慮の姿勢を見せたアスカ。その価値を正しく理解してるってことだよね。わかる、震えるよね……!


「でも、それなりの物は準備しとかねぇと。周囲との差がついちまうし、何よりお前の身を守るためでもあるからな」


 曰く、闘技中に負った怪我は闘技場から出ればある程度は治るように魔術がかけられる予定なのだそう。なにそれ、すごい。それでも怪我をすれば痛いし、場合によっては完全に治りきらないこともある。そうなるリスクを減らすために戦闘服は必要なのだそう。それもそうか。それなら!


「ランちゃん! 私からもお願い!」

「えっ、メグまで? さすがにメグはお金出すとか言わないでよ!?」


 私が声を上げると、アスカは余計に焦り出した。同年代の私がお金を出す、ってなるとオーウェンさんに言われるより気がひけるだろうことはわかってる。だからもちろんそんなことはしないよ。


「言わないよ。ただ、ランちゃんのお店で私、たまにお手伝いもしてるの。お店で働いたのは1回だけだけどね? ランちゃんのとこのお洋服を着てお仕事して、街を歩いてってすることで、このお店を宣伝してるんだ」

「あら。言いたいことがわかったわぁ。つまりメグちゃん、こういうことねん?」


 ランちゃんが私たちのやり取りを聞いて察してくれたようだ。バチンと音がなりそうな勢いでウインクをすると、私の代わりにアスカに提案してくれる。


「貴方も、メグちゃんと一緒に宣伝してくれなぁい? うちの商品をかっこよく、可愛く着こなして街を歩いて欲しいのよぉ。そうすれば売り上げも上がること間違いなし! それとオーウェンからのお金とで、貴方にピッタリの戦闘服を作ってあげるわぁ」

「い、いいんですか!?」


 頬を上気させてアスカはやらせてください! と元気に返事をした。オーウェンさんにも深々と頭を下げてお礼を言っている。こういう姿を見ると、やっぱりいい子だなぁって思う。それにあの頃からの成長を感じてお姉さん感無量……口説くのさえやめてもらえたらいいんだけどね!!

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