大会準備

子どもたちの参加


「未成年部門?」


 合同会議も終わり、オルトゥスにお父さんとアドルさんが戻ってきてから5日程過ぎた頃、お父さんに呼び出された私はとある提案をされていた。


「そうだ。闘技大会で未成年部門を作って、子どもたちにも雰囲気を味わってもらおうか、って話が出てんだ。戦える子どもの数はさらに少ないからな……ギルドの所属に関係なく、参加させようってな。ま、お遊びみたいなもんだが、雰囲気を楽しめるからメグもどうだ?」

「わ、私も戦うの!?」


 闘技大会はルンルン観戦を楽しむ気でいたから驚きで声が裏返ってしまう。そんな私にくっくっと笑うお父さんは、絶対この私の反応を予想していたに違いない。もうっ!


「将来、仲間になってもらえそうな人材に目をつける、という意味もあるのですよ、メグ。子どもの頃から才能を見い出して援助出来ればと大人たちは考えているのです」


 そこへ、シュリエさんからの補足説明が入る。なるほど、子どもの数は少ないから、有能な人材は早めに確保しておきたいところだよね。子どもとしても、やる気であれば将来の安定した仕事が保障されたようなものだし。うんうん、いいかも。


「たぶん、アニュラスの双子も参加するんじゃねぇか?」

「! ルーンとグートも!?」

「あの2人は将来、アニュラスに入ると意気込んでいますからね。間違いないでしょう」


 そうなると、私が参加したらあの2人と戦う可能性も出てくるのかぁ。楽しみなような緊張するような。


「あとは魔王城の子ども園からも数人出るんじゃねぇかって思ってる。あー、ウルバノ? アイツは無理かもしれねぇが」

「ウルバノくんは、無理させたくないしね」


 巨人族のウルバノくんが出場したなら、優勝候補になったかもしれないよね。そう思う理由は単に身体が大きいからってだけなんだけど。でも、文通してわかった彼の性格はとにかく優しい。戦いには性格的に向いてなさそうとも思う。それに、まだ心の傷が癒えてないから、無理はさせちゃダメだ。


「でも、観に来たりするかな?」

「アーシュが誘うだろ。お前も出場するってんなら余計にな。来て欲しけりゃメグもそう手紙に書けばいいだろ」

「元々誘うつもりではあったんだけど……」


 まさか出場側になるとは思わないじゃん? そうなると無様な姿を友達に晒すのは気がひけるじゃん? だって、基本的には運動神経が悪いんだから。魔術でどうにか誤魔化してるだけなのだ。ぐすっ。


「……今の身体の方がスペックは高いんだから、あの時ほど無様にはならねぇよ。心配すんな」

「それ、フォローになってないよお父さん!?」


 要するに、今も昔も鈍臭いと言ってるようなものじゃないか。酷い!

 ……でもそれは正直、事実だから何も言えない。私、本当に大会に出ても大丈夫なわけ? 私の武器といったら、自然魔術と予知夢くらいだし。……そう、予知夢。括弧書きで「仮」ってつけようかと思い始めている私の特殊体質だ。


 だって昨日見た夢は、明らかに過去の出来事だった。だから過去夢なのかな? とも思ったけど、未来のことも夢に見るしそれも違う。じゃあなんなのだろう、と目覚めてから小一時間ほど考えてはいたんだけど……結論として、よくわからない、で終わった。考えたってわからないもんー。仕方ないじゃーん。


 でも、一つだけ納得したこともあったんだ。私はすでに、過去夢を見たことがあったなって。お母さんであるイェンナさんが出てきた時の夢だ。それと……あんまり思い出したくはないけど、環が死んだ後の会社の同僚が会話している夢。2つめの方は過去夢と言えるのかさえ怪しいけど、間違いなく予知夢とは別物だった。けど、当時の私は色々と存在が不安定だったし、魂の記憶を夢として見てるのかなって漠然と思ってたんだよね。だからあの夢もそうではなく、もしかすると、あれも特殊体質が正しく働いたからこその夢だったのかもしれない。


 とまぁ、考えていてもわからないんだけど、焦ることはやめたのだ。だって、そのうちハイエルフの郷で療養するっていうし、その時にハイエルフさんたちに聞いてみようかな、って思うんだ。あの人たちなら長く生きているから何かわかるかもしれないもんね。他力本願? 大きくなったとはいえ私はまだ子どもなのだ。出来ることなんて限られてるんだよ……一応、図書館で調べてみるのもワンチャンかな?


「ああ、そうそう。リュアスカティウスにも声をかけているのですよ」

「えっ!? アスカにも? だ、だってアスカはまだ……」


 ぼんやりと考えに耽っていると、シュリエさんから久しぶりに聞く名前が飛び出したので我に返る。リュアスカティウス、これまた長くて複雑な名前の人物は、エルフの郷に住んでいるエルフの男の子だ。

 お父さんとわかりあった後すぐくらいだったかな。みんなで家族旅行という体で、エルフの郷に行ったことがあったんだよね。そこで知り合って、なんやかんやありつつ、結局仲良しになった子なんだけど……この子、なんと私よりも年下なのだ! すごいでしょ、年下なの! とはいっても数年くらいの差なんだけどね。あの時は見た目年齢が3才くらいで、小さくて可愛かったのをよく覚えている。


「あれから20年ほど過ぎているのですよ? 今はメグと同じくらいに成長していますよ」

「えっ、そうなの……?」


 エルフも、確か普通の亜人よりは成長が遅いって聞いたことがある。だから、まだまだ私の方が年上っぽく見えると思ってたのに……!


「他の亜人に比べれば遅いですが、エルフもハイエルフも、成人までの成長スピードはそんなに変わりません。成長期が終われば、そこで身体の成長も止まりますからね。その後の生の長さが違うくらいです。なので……」

「単純にお前の成長が遅いってだけだな。要は個体差ってやつだ。メグはただでさえちっこいからなー」

「頭領、そんなハッキリと……」


 わ、私が、普通よりも幼いってこと……? 本当なら、もう少し大きかった……? つまり、チビ!?


「ち、違うもん! ハイエルフだから、エルフよりも遅いだけだもん!!」

「いや、だから変わらねーって今……」

「うわぁぁんっ!!」


 ポカスカとお父さんをグーで殴りながら猛抗議する私。うっすら涙が滲んでいるのは内緒だ。だって、本当に幼いみたいじゃないかっ!


「頭領、メグのプライドを傷付けましたね……」

「わ、ま、待て……悪かったって!」


 許さないんだからねーっだ!! いーっだ、とお父さんに向けて舌を出していると、シュリエさんの元にネフリーちゃんがふわりと舞い降りた。


「……おや、そうですか。頭領、ちょうど今話していたアスカですが、闘技大会に参加したいと言っているそうですよ」

「お、そうか! だってよメグ。どうする?」


 なんてことだ。私より年下のアスカが即決してしまったとは。私の心は揺れている。そこへ、お父さんのダメ押しの一言。


「お前、実戦経験がないだろ? 闘技大会は安全に対人戦の実戦が出来るんだぞ? 魔物狩りよりずっと気が楽なんじゃねぇか?」

「! そっか、やる! やります!」


 言われてみればその通りだ。そうだよ、だって未成年部門だもん。いい修行になるじゃないか。大会って聞いたから思わず身構えてしまったけど、修行だと思えばむしろやる気が出る。胸をお借りする気持ちでやればいいのである。


「……ぶっちゃけ、メグに勝てるヤツの方が稀だけどな」

「え? 何? おとーさん」


 聞き取れないくらいの小声で何かをボソッと呟くから、何て言ったのかわからなかった。首を傾げて聞いて見たけど、お父さんがなんでもねーよ、せいぜい頑張れ、と乱暴に頭を撫でてくる。結局その話は有耶無耶で終わってしまった。なんだよう、もうー!


「っと、話には続きがあるみたいですよ」

「ん? なんだ」


 再びネフリーちゃんが伝言を運んできたのだろう、シュリエさんが少し驚いたように報告している。なんだろ、なんだろ?


「大会が終わるまでの間、アスカをオルトゥスで預かってほしいそうです。本人の希望もあって、修行がしたいそうですよ」

「アスカに会えるの!?」


 会うのはかなり久しぶりだから思わず両手を上げて喜んでしまう。だって本当に久しぶりなんだもん!


「……こんだけ喜ばれちゃあ」

「断るわけにもいきませんよね」


 そのせいで、受け入れることがあっさり決まってしまったようだ。え、責任重大?


「ま、元より断る理由もないけどな。強くなりてぇって子どもの意欲を奪うなんてこたぁしねぇよ」

「そうですね。では、いつでも受け入れると返事をしましょう。おそらく私が港まで迎えに行くことになると思います」

「おー、頼むわ。サウラには俺から言っとく」


 私のあんな一言であっさりとアスカの受け入れが決まってしまったようだ。い、いいのか? でも、幼い頃に一度会ったきりだからとても嬉しい! きっと美少年に成長しているのだろう。そうだ、どんな精霊と契約したのかなぁ。ウキウキと会った時のことをあれこれ考えてしまう。


「ね! アスカが来たら、私が街を案内してもいい?」

「子ども二人になるといつも以上に目立つからなぁ……しかも二人ともエルフだろ? メグは自分の身は守れてもアスカまでは守れねぇだろ」


 そ、そういえばそうでした。私もエルフなんだよね。ついついそのことが頭から抜け落ちてしまう。わかってはいるんだけど自覚が足りなかった。反省。


「だから、付き添いさえ誰かに頼めたら許可する。自分で誰かに頼めよ」

「いいの!? やったー! ちゃんとみなさんのスケジュールを確認してから頼みに行くね! 最後にサウラさんにも聞いてみるっ」

「……なんつーか完璧すぎる返答でそれ以上何も言うことはねぇよ」

「……つくづく優秀ですよね、メグは」


 そうかな? 先に先方の予定を確認するのは当たり前だと思うんだけど。ただの子どもじゃないことくらい、この2人だって知ってるじゃないか。

 よぉし、そうと決まれば早速準備しよう! どこを案内しようかなぁ?



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新章スタートです。2巻発売記念として、今章全12話は毎日更新いたします。

お楽しみいただけますように。


2巻発売は今週の土曜日!11月9日になります。書店様などでお見かけの際はぜひお手元に迎えてやってくださいー!


お読みいただきありがとうございました!


阿井りいあ

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