来客室へ
ギルさんとオルトゥスに戻った私は、そこでのんびりめにお昼ご飯タイム。ギルさんは、仕事の途中で駆けつけてくれたから、また仕事場に向かって行った。ご迷惑をおかけしてます……!
お昼の後にまたランちゃんのお店に向かうことを最後まで心配してたけど、さっき話したこともあって今日はもう行くなとかは言われなかった。顔には出てたけどね、本当は行かせたくないって!
まぁ、私だって本音を言えば今日はちょっと、怖い。引きこもってたい気持ちはあるんだ。でも、ギルさんが子離れを頑張ってくれているし、何より私が信じてって言い出したことなんだから引くわけにはいかないのだ。怖いことがあった時こそ、すぐまた行動しないと、恐怖心って増幅するからね。ここはグッと気合いを入れて行かなくては!
『オレっちたちがずっとご主人と一緒にいてやるんだぞ!』
『妾もついているのだ。主殿、心配いらないのだ』
『アタシも! 周囲の警戒はまかせてっ』
「ホムラくん、シズクちゃん、フウちゃん……! 頼もしいよ! ありがとう」
私の不安に気付いたのだろう、呼ぶ前に精霊たちが現れて、私を励ましてくれた。なんっていい子達なの!?
『もちろん、私もいるのよー? 攻撃とか、そういうのは出来ないけど……』
「ショーちゃんがいるから、他の子達に私の意思がしっかり伝わるんだよ! ショーちゃんがいるの、とっても心強いんだから!」
ここで、声の精霊であるショーちゃんがちょっぴりしょげていたのですぐさまフォロー。本当に助かってるんだからね? 私の自然魔術の腕が上がったのは、ショーちゃんのおかげといっても過言ではないんだから。
そんな私の心の声も聞き取ったショーちゃんは、みるみる元気を取り戻し、私も頑張るのよー! と頭上をクルクル飛び回る。ふふっ、可愛い!
そんな心強い味方のおかげで精神的に無敵になった私は、お昼休憩を多めに取った後に再びランちゃんのお店に向かうことが出来た。何事もなくお店につけたから安心したよ! 相変わらずお店は大繁盛してたので、ここで私が出て行くのは良くなさそう。ってことでお店の裏方のお手伝いに徹しました。裏からサイズ違いや色違いの服を探して持って行ったりとか、在庫の確認とかね!
いつも働いてる人からすれば、手際も悪いし失敗もするし色々と遅い私。にも関わらず助かるわ、と言ってくれた従業員さんが天使に見えたよ……! 忙しいのにイライラせずにそんな風に言えるなんて……! 見習おう。
こうして仕事も無事に終わり、陽が傾く前に帰りなさいというランちゃんの言葉に甘えて本日のお仕事は終了。夢が叶って嬉しかったわ、とランちゃんが涙ぐむものだから、私も一緒になって泣いた。泣き虫は変わりません、すみません。大騒ぎになっちゃったけど、またお手伝いしに行きたいな!
「ただいま戻りましたぁー!」
ギルドに戻って元気に挨拶。いつもはこの挨拶を聞いておかえりなさいってする方だからね 実は、ただいまって挨拶するの好きなんだ。みんながおかえりなさいって笑顔で迎えてくれるのがくすぐったくて、嬉しくて! えへへ。
「お、メグじゃないか。今日は外だったの? 珍しいね」
「オーウェンさん! えっと、ランちゃんのお店のお手伝いに」
「なるほどー」
もはや私のオアシスとなっている私専用カウンターに向かっていると、珍しい人物が声をかけてきた。オーウェンさんはワイルド系の顔立ちで、ちょっと軽いイメージがある。補助系の魔術を得意とする守護ムササビの亜人さんで、双子の弟であるワイアットさんとよく行動を共にしている。そしてここが重要、オーウェンさんはメアリーラさんが好きなのであるー! ばばーん! ……進展はなさそうなんだけどね。メアリーラさんが素直になればいいのになぁ。
「夕方の会議に参加するんだって?」
「はい! オーウェンさんも、参加するの?」
合同会議が始まるのは陽が傾く頃。つまりあと少しである。ま、参加っていっても聞いてるだけだと思うけどね。このことは、オルトゥスメンバーはみんな知っている。会議の参加は自由らしいけど、ある程度の実力者じゃないとダメなんだって。オーウェンさんはクリアしていると思うから聞いてみたんだけど……。
「いや、俺は行かないよ。たぶん、闘技大会についての会議になるんだろ? その期間、主要人物が大会に出るならギルドを守れるヤツがいなきゃだろ。俺は留守番する予定だからさ。決定事項だけ後で聞かせてもらえればそれで十分」
そっか。闘技大会だからって強い人たちがみんな大会に出場してしまったら、その間ギルドは手薄になっちゃうんだ。セキュリティは万全なオルトゥスではあるけど、無防備になるのは良くないもんね。いつ誰が訪問してくるかわからないし、トラブルが起きない保証なんてどこにもないのだ。
「ワイアットと残るから、オルトゥスのことは任せとけな。せっかくの闘技大会なんだ、メグも楽しんでくるといい」
なんだかもう闘技大会が開かれるのは決定みたいな話の進め方だ。私も予知夢でギルさんとリヒトが戦うのを視たし、決定だろうけどね。ともあれ、オーウェンさんの言葉はなんとも頼もしい。さすがは、オルトゥスの次代を担うメンバーの1人だ。
「じゃあ、お土産話、いっぱい持って帰ってくる!」
「ん、楽しみにしてるわ」
そう言ってニッと笑ったオーウェンさんは、私の頭を軽く数回ポンポンすると、その場から去って行った。見かけるたびに軽く挨拶をしたりちょっとした話はするオーウェンさんだけど、こんなにしっかり会話したのは初めてかもしれない。とても気のいい人だよなぁ。メアリーラさん、なんで嫌がるんだろ? やっぱちょっとチャラいからだろうか。昔は女遊びが酷かったらしいけど、今はメアリーラさん一筋なのにー。なかなかじれったい2人である。複雑な恋心とかわかってない私には何も言えないけどね!
「メグ」
マイカウンターで寛ぎながらギルドに来る人たちに挨拶をしていると、ギルさんが早足でこちらに向かってきた。顔に心配してたって書いてある。基本、表情のわかりにくい人だけど、こんなにもわかりやすいのはいつも一緒にいるからかな?
「ギルさん、おかえりなさい! あれからは特に何もなかったよ?」
私は元気である! ということをアピールするために両腕を上げて力持ちポーズ。……力こぶはない。安定のホヨホヨ腕だ。おかしい、あんなに修行してるのに!
「そうか、良かった……ただいま」
ホッとしたように微笑みを浮かべたギルさんは、外出モードから寛ぎモードへ。つまりフードとマスクを外してそう言った。いつもこの瞬間に萌えを感じます。ごちそうさまです。
「じゃあ、来客室に行くか」
「はい!」
ギルさんが帰ってきたってことはそろそろお時間ってことだ。ま、私もギルさんと一緒に行くために、帰りをここで待ってたんだけどね。いよいよ特級ギルドの合同会議だ。会議室じゃないのかって? 相変わらず居心地のいい来客室を使うことが多いのである。堅苦しいのはみんな苦手ってことだね! 類友、類友。
「あっ、来たわね!」
来客室の扉をギルさんが操作して開けると、そこにはすでに皆さん勢揃いしていた。使用中の来客室は特別な魔術を施さないと開けられないんだよね。私にはまだまだ無理なのである。
「……あっちももうすぐ全員揃うか、といったところだ。頭領とアドルはもう着いている」
「ええ。ギルが間に合わせて来るってわかっていたから心配していないわ」
そっか。ギルさんは影鳥を通じて向こうの様子がわかるんだったね。焦った様子が見られないのは、まだ会議が始まってないことを知ってるからだ。何度も言うけど、便利……。
「メグちゃん、ハーブティー飲むかい?」
「あ、ショコロンの焼き菓子もあるわよ! 小さいお菓子だから夕飯前でも大丈夫よね?」
「ふわぁ! いーんですか? いただきたいですー!」
私が室内に足を踏み入れると、流れるような動きでケイさんがエスコートしてくれる。やはりイケメン。サウラさんの用意するお菓子はいつも美味しいんだよねー! ウキウキ。
「お茶会みたい……」
「あ、ロニー」
ボソッと呟くロニーの姿に、思わず苦笑する。確かに、これから会議だっていうのにそんな雰囲気はないよね。せっかくなのでロニーの近くの席に座る。いまだに普通の椅子だとテーブルに届かないので厚めのクッションを収納ブレスレットから取り出し、その上に座った。慣れたもんですよ、くすん。
「会議っていっても、ボクらは聞くだけだからね。気楽に、ね」
「は、ぁ……」
ケイさんがウインクしながらロニーの前にもカップを置く。相変わらず腑に落ちてない様子のロニーだけど、そんなものかとすぐに納得したようでそれ以降は何も言わずにカップに口をつけた。ケイさんは師匠でいつも一緒だもんね。ロニーも慣れてきたのかもしれない。
「とはいえ、気になった部分はメモを取ったり意見を言ったりしていいからね。場合によってはギルが頭領にその意見を伝えられるから」
そこへ、ルド医師が穏やかに微笑みながら付け加えた。メモは当然として、意見をすぐに現場に届けられるっていうのはいいね! ギルさんのおかげである。
「む、会議が始まるようだ。影鳥は中央でいいか?」
「そうね、お願い」
ギルさんの手元から飛び立った小さな影鳥ちゃんが、来客室中央に置かれた机に降り立つ。来客室に集まったメンバーも自然と口を閉ざし、聞き体制になった。聞こえるのはカチャカチャという茶器の音くらい。どことなく走る緊張感とハーブティーの香りでどっちつかずな雰囲気だ。
けど、このくらいがちょうどいいのかもなって思う。だって、特級ギルドのトップたちが集まる会議だよ? 改めてすごいメンバーだと思うわけ。緊張するなって方が無理だもん!
緊張を解すためにも、私はパクリと焼き菓子を頬張る。そう、緊張を解すために仕方なく……おいしー!
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