特級ギルド合同会議

影響力


「いらっしゃいませっ!」

「あら、メグちゃんじゃないの。どうしてここに? お手伝い?」

「はいっ、今日はランちゃんのお店の人なの!」


 さて、お店が開店しまして第1号のお客さんは、常連さんの奥様。ランちゃんのお店はリーズナブルなものから高級品まで品揃えもいいから、色んな層のお客さんがやってくるのだ。そしてこの奥様はお求めやすい系の服をいつも買って行ってくれるお客さんである。もちろんランちゃん情報だけど、実はギルドの軽食コーナーにもよく来る方なので私も知っていたりするのだ。


「明日行こうかなって迷っていたけど、今日来て正解だったわ。メグちゃんがいるなんて、今日はとってもいい日ね」

「えへへ、ありがとーございます! 私も嬉しい!」


 いつもニコニコ優しい笑顔で褒めまくってくれるこの人が、私も好きである。見た目や仕草、話し方からもこの人の穏やかさが伝わってくる感じ。ほのぼのでおっとりで、なんだか癒されるのだ。思わず2人でニコニコ笑い合う。


「んふふ、奥様ったら運がいいわねぇん」

「ランちゃんたら、前もって教えてくれたら良かったのに。あ、でも知らせたらお店が混雑しちゃうわね」

「ご名答よぉ。みぃんながメグちゃん目当てに来ちゃうじゃない? あたしとしては嬉しいけど、メグちゃんが大忙しになっちゃうのはかわいそうでしょお?」

「その通りね。でも、メグちゃんがお店の前にいるだけですぐに人が集まってきそうね?」


 奥様とランちゃんが談笑を始めた。え、そんなに影響があるものかな? ランちゃんのお店は元から人気店だし、私がいるってだけでそこまで変わんないと思うけど。でも、顔見知りさんは寄って行ってくれるかもしれない。


「本人には自覚がないみたいだけどねん」

「あらあら。メグちゃん、貴女は自分で思っているより人気者よ?」

「そ、そうですかねぇ? 私がまだ子どもだから、みなさんが優しくしてくれるんだと思います、よ?」


 そう、まだ子どもだからだ。子どもは貴重だし、私はオルトゥスのみんなに良くしてもらってるから、余計に大切にしなきゃって思ってもらってるんだと思う。大人になって1人前になったら、こうはならないんじゃないかなぁ?


「謙虚ねぇ……」

「本当に。メグちゃんがいい子だからこそ、みんなが慕うのよ? 少なくとも私は礼儀正しくていつも笑顔で、元気に頑張るメグちゃんだから大好きなのよ?」

「あう、あの、ありがとーございます……!」


 真っ直ぐ褒め言葉を言ってくれるから、思わず照れてしまう。そうかなぁ、そうかなぁ? でも、奥様が言ってくれたことは、私がそうあろうと努力している部分でもあるから、認めてもらえたみたいでとても嬉しい。え、えへへ。

 そう、嬉しいのだ。だってね? その、私って外見が美少女じゃない? いや、嫌味とかじゃなくて! 客観的に見てさ! 未だに鏡見ると可愛いなぁおい、って思っちゃうもん。でもそれは仕方のないことでもある。だって、彫刻のような美しさを誇る魔王さんと、とにかく美しかったと言われているハイエルフなお母さんから産まれりゃそりゃそうなるでしょうよ? お母さんは見たことがないけども。ハイエルフってだけで種族柄美しさは確定したようなものだし。


 で、まあ、見た目が整っているっていうか、恵まれているのはわかってるんだ。でも、だからこそね? 自分には、それしかないって思われるのは嫌だなって思ったのだ。可愛いから許されるだとか、何もしなくていいだとか、そういうのは人形と一緒だし、私らしさとは言えない。自分にできることは精一杯やりたいし、それが大好きな人たちのためになるなら余計に頑張りたいんだ。というか、私らしさってそこしかない気がするんだよね。


 ……まぁ? それをやりすぎて社畜になって過労死してしまったという前科があるわけだけども。

 大丈夫、過去の過ちは繰り返しませんとも。ようやくこの身体の限界だとか、どこらへんから無理になるのかとかわかってきたから。それに、自分で気付く前に止めてくれる保護者もいるからね。だから、もちろん無理はしないけど、私は私らしく、色んなことに挑戦したり、目の前のことを精一杯頑張るスタイルを貫きたいと思う。


 そう思って張り切って呼び込みを続けた結果、現在お店は人でごった返しております。あ、あれぇ? 途中でランちゃんからのストップがかかってからはお店の中に引っ込んで、洋服のプレゼンしたりお客様のどっちがいい? な質問に答えたりしてたんだけど、それでもどんどこお客さんが来るわ来るわ。おかげで大忙し!


「やっぱりメグちゃんがいるって噂が広まっちゃったのねぇん。予想以上の効果だわ……」


 ランちゃんや他の従業員の皆様も嬉しい悲鳴を上げている。今は店内に入る人数制限をしている状態なのだ。ちなみに、私がいるから私に会いに来た、って人が多いみたいではあるんだけど、みなさんちゃんと買い物はしていく。用もなく会いに来ただけって人はいないんだけど……。


「品物を買うのがメグちゃんに会うためのチップみたいになってるわぁ。うちはウインドウショッピングも歓迎なんだけどぉ……」


 そう、商品をよく見もせずにじゃあこれ頂戴っていうどことなく失礼な人も中にはいるのが厄介であった。買い物はしてるし、お店としても追い出すわけにもいかないというなんとも歯がゆい状況である。なにこれ、私むしろお店の邪魔しちゃってない?


「ランちゃん、ごめんなさい……私、一度帰った方がいいかなぁ」


 なぜここまで私なんかを見に来たいのかは正直理解出来ないけど、この状態は私が招いたことだろうことはさすがにわかる。お店に貢献は出来たと思うけど、ここまでは望んでいないし、純粋にお店の良さを理解されないのは悲しい。もちろん、お店のファンだからって来る人もたっくさんいるけどね! 一部のマナーの悪い人がいると、どうしても、ね。


「何を言うの! メグちゃんが謝ることなんてこれっぽっちもないわぁ! 見通しが甘かったアタシの責任よぉ。でもそうね、混雑しすぎて危ないから、少し休憩もかねて戻った方がいいかもしれないわねぇん」


 決して迷惑だからではない、むしろこんなにたくさんのお客さんを集めてくれて嬉しいから絶対に勘違いしちゃダメよ、と何度も釘を刺された。ランちゃんたら、私の性格わかってるなぁ。実際、落ち込んじゃうもん。くすん。でも、そう言ってくれたランちゃんの気持ちに嘘はないって伝わる。だから、ここは私も落ち込んではダメなんだ。


「忙しい時に抜けてごめんなさい。また、頃合いを見て戻りますっ」

「ふふ、本当にいい子ねぇ。ええ、ゆっくり休んで来てねん。待ってるわぁ」


 まだまだお店も忙しいんだから、ここで時間を取るのは良くない! それをランちゃんも察してくれたから、あっさりと見送ってもらって、私は裏口からこっそり店を抜け出すこととなった。はふぅ、酸素がおいしいです。

 それにしても本当に人で苦しかったし、従業員さんたちもきっとヘトヘトだろうから、戻ってきた時には何か差し入れを持って行こう。お詫びもかねてね! お店の方を振り返りつつそんな決意を固めた。何がいいかなー?


「メ、グ、ちゃぁぁぁん?」


 お店から出てしばらく歩いたところで背後から声をかけられる。あ、これは好ましくない声だって雰囲気で察した。

 実はたまにこういう声のかけられ方をするのだ。私はまだ子どもで、でもオルトゥス所属だから狙いやすいと思われがちなのだ。要するにこの手の人たちは私を利用しようとしてるか攫おうとしているか、まぁ良からぬことを考えているタイプの人たち。今回はどんな種類の人でしょうねぇ、などと考えつつ、すぐにでも対応できるように振り返って相手を見る。


「あぁぁぁ、本当に可愛いめちゃくちゃ可愛い……連れ帰って僕たちと暮らそう? ね、そうしよう?」


 あ、変態の人でしたか、そうですか。ゾワっと悪寒が全身に走る。対処は出来ると思うけど、嫌だなって怖いなって感じるのは仕方ない。思わず顔も引きつってしまう。

 やだなぁ、この街は本当にいい街だから。住んでる人も、よく来る人も、みんな親切だし。さっきお店が大混雑してても誰も嫌な顔しないで並んでいたのがいい例である。イライラする人は一人もいなかったんだよ? ちょっとマナーの悪い人はいても、悪気はこれっぽっちもないんだから。


 だからこの人たちは外部から来た人たちだ。3人かぁ。大人3人で子ども1人相手に何しようとしてるんだろう。気分が落ち込む。そりゃ、世の中いい人だけってわけにはいかないよね。はぁ。


「ライちゃん、リョクくん」

『はいなー! ビリっとさせればいいのねー!』

『はぁい、捕まえればいいんだよねぇ?』


 すかさず私は精霊たちに声をかける。こういう時は迷っちゃダメだと何度もギルさんたちに言い聞かせられているからね。もしこちらの勘違いだったとしても、そう思わせる相手が悪い。気になるならあとでいくらでも謝ればいいのだから、迷わず先手を打ちなさいって。情けは身の危険に繋がる。それに責任は自分たちが取るから遠慮はいらないって。

 でもさすがに怪我をさせたりするのは気がひけるから、意識を奪って拘束するのが私の限界なんだけどね。甘い? わかってるけどこればっかりはどうしてもー!


『いっくよー! ビリビリーっ!』


 ライちゃんが軽い電撃で大人3人を攻撃する。それを見届けてから、私はリョクくんに向かって小さな種を放り投げた。


『次はボクの番―。グルグルー。はい、出来たよメグ様ぁ』


 種から発芽し、みるみる内に蔦が成長し、リョクくんがそれを操って感電して動けない大人3人を拘束。見事な連携プレイである!


「2人ともありがとう。おかげで助かったよ!」


 優秀な私の精霊ちゃんたち。私がちょっとイメージを伝えただけで仕事を終えてしまった。黄色いミニウサギな姿の雷の精霊ライちゃんと、緑の小さなカエル姿の蔦の精霊リョクくんである。ネーミングセンス? なんですかね、それは?


 こうして無事に3人の不審者を捉えたところで、私の足元の影が揺らめいた。保護者なパパの到着らしい。ホッ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る