会議の日の朝


 あれよあれよという間に、合同会議の日がやってきました! 場所はステルラ。現地には各ギルドのトップとあと1人ずつが集まって会議を開くらしい。オルトゥスから向かうのは当然、頭領であるお父さんと、予定通りアドルさんとなったようだ。


「ステルラは肩凝るんだよなぁ……」

「格式高い感じはありますよね。そこが国から最も信頼されている所以ではないかと……」


 アドルさんが苦笑しながらフォローを入れる。どうやらお父さんはステルラの雰囲気が苦手なようだ。ルド医師とセントレイ国へ言った時は、アニュラスには行ったけどステルラには行かなかったからどんな様子かはわかんないんだよね。聞けば、超高級ホテルみてぇ、という非常にわかりやすい答えがお父さんからは返ってきたわけだけど。

 高級店より屋台の焼き鳥、みたいなタイプのお父さんには確かに窮屈に感じるかもしれないなぁ。私? 私も焼き鳥派です。でも、高級店もたまにはいいなって思うよ? ずっとは無理。ボロが出るもん……!


「そうだ、ステルラ代表はチーフであるシェザリオと……なんとイザークなんだってよ!」

「イザーク、さん?」


 思い出したようにそう言ったお父さんだけど、聞き覚えのない名前に首を傾げる。すると、ギルさんが教えてくれた。


「イザークは、ルドの甥だ」

「ルドせんせーの!?」


 そういえば、ルド医師には甥っ子さんがいるって聞いたことがあったなぁ。そっか、ステルラにいるんだ。


「ああ、メグは知らなかったか。そもそもルドの双子の姉がステルラにいるからな」

「ほえー、知らなかった!」


 ルド医師も双子だったんだね! お姉さんか妹がいるってことは聞いてたんだけど、考えてみれば当然か。亜人は出生率が低いから複数生まれるとしたら大体双子なんだもん。同じ人が再び子どもを授かる方が稀なんだよね。


「虫系亜人は双子が多いんだぞ? だから、そうまた珍しくもない。でもアニュラスの双子はそうじゃないからかなり珍しいけどな」


 さらにお父さんからの補足説明。それはまた初耳だ。あ、そっか。だからルド医師もルーンとグートを見た時に珍しいって言ったんだね。納得。


「イザークはちょっとばかり頭が固いところがあるからなぁ。嫌いじゃないんだが、やっぱり肩凝りそうだな」

「おっとりとしたルドさんとは真逆ではありますよね。でも、仕事に対する真摯な姿勢は似ているかもしれません」


 甥っ子さんかぁ。会ってみたいな。闘技大会の日に会えるかも? 人が多そうだから無理かもしれないけど。


「じゃ、行ってくるわ。帰りは明後日の朝になる」

「いってらっしゃい! 気をつけてね? アドルさんも!」


 そうこうしている間にお父さんとアドルさんがギルドを出ようとしていたので手を振ってお見送り。会議が長引くことも考えて向こうで1泊だけするようだ。

 本当、お父さんが使える異空間を通る秘密の経路って便利だよねぇ。どこもかしこも短縮ルートを通れるわけではないみたいなんだけど、それでもかなりの移動時間を短縮出来るのは大きいと思う。どう考えてもそっちの方が遠いのに近い方より移動時間が短い、なんていう時間差が起こるのもそのためなんだって。地図の意味ぃ。

 お父さんだけだと帰ってきたときに決定事項だけを知らせそうだけど、アドルさんがいるならきっとどんな話し合いがされてどう決まっていったのかってきちんと教えてくれそうだ。物すごい安心感。


「さぁてと。私たちも夕方までいつも通り働くわよー! アドルの分も仕事終わらせなきゃ!」


 2人が出て行った瞬間、ググッと伸びをしてサウラさんが言う。お、お胸が揺れております。相変わらずのナイスバディ。って、そうじゃなくて!


「夕方まで? 夕方に、何かあるの?」


 口ぶりがそんな感じだったので不思議に思ったのだ。すると、サウラさんはそうよーと笑顔で教えてくれた。


「夕方になれば会議が始まるでしょ? アドルは向こうで頭領の手綱を握る係。私たちは記録しなきゃいけないもの」

「え、記録? 出来るの?」

「あ、そうか。メグちゃんは聞いてなかったかしら。ギルの影鳥を頭領たちには連れて行ってもらってるのよ。アニュラスなら距離的にも問題ないし」

「あ、なーるほど!」


 ギルさんの影鳥。それはすなわち、リアルタイムで会議の様子を聞けるってことだ。本当に便利。というか、あれだけの距離でも問題なく繋げることが出来るギルさんの魔力量や技量がやばい。私も、魔術をそこそこ使えるようになってきたからわかるんだ。それがどれだけすごいことか!

 まぁ、私は精霊たちにお任せ! な自然魔術の使い手だから、根本的に魔術の扱い方が違うんだけどさ。それでもギルさんが規格外なのはわかるよっ。


「メグちゃんも、聞いてみる? 合同会議の様子」

「えっ、でも、私なんかが聞いててもいいのかなぁ?」

「もちろんよ。会議っていうのがどんなものか、知るのも勉強になるしね! 交渉術とか色々と、学べることは多いわよ!」


 サウラさんがそう誘ってくれたのでせっかくだからお邪魔させてもらうことにする。ぜひ! と両拳を握りしめて答えたらいい子いい子と頭を撫でられた。なぜ!?


「……それなら、メグも仕事をしっかり終わらせてこないとな」

「そうでした!」


 続くギルさんの言葉にハッとする。そうだ、今日は依頼をこなす日である。といっても、場所は街の中で、やることもお手伝いレベルなんだけどね。でも仕事は仕事。きちんとこなさねばー!


「確か今日は、ランのお店で売り子さんをするのよね」

「はいっ! だから、今日はランちゃんが特に気に入ってて、私に似合うって言ってくれた服を着てるんですよーっ」


 そう言って服がよく見えるようにクルンとひと回り。裾や袖にレースがあしらわれたミニ丈のサロペットスカートは動きやすいし、私もお気に入りだ。吊りベルトみたいになっているので、上に着てる白のお洒落なシャツも見えるのがいい。今日はポニーテールにしているので、スカートについているのと同じレースで出来たシュシュでまとめている。オマケ、と言ってランちゃんが一緒にくれたのだ。さすがである!


「うん! 今日も飛びっきりキュートよメグちゃん! ランの店だから大丈夫だと思うけど、色々と気をつけるのよ?」

「はぁい!」


 思えば、街の中で1人でお仕事に行けるようになるまでも色々あったよなぁ。ほら、みなさん過保護じゃない? いくら街中とはいえ、1人なんて危ないってなかなか許して貰えなかったのだ。それが許されるようになるまで、何度も保護者付きで依頼をこなしたっけな。本当、付き添ってくれる人たちの時間を奪うことになってすっごく心苦しかったんだから!


「何かあれば、呼べ」

「うんっ、ギルさんもいつもありがとー!」


 そして現在、私の影に魔術を施し、いつでもギルさんが影を通して駆けつけられるような状態でなら1人でもオッケーとなりました。それがなくてもギルさんには私の危機がなんとなくわかるからすぐに駆けつけられるらしいんだけどね。直接私の影と繋がってた方が早いから、という理由だそうだ。しかし危機を察知できるとか、それはそれでどういう原理なんだ、って不思議に思うけどね。ギルさんだから、で納得している。

 ……まだまだ過保護だということなかれ。ここまでくるのにどれだけ時間がかかったのかを考えればお察しいただけると思うんだ。私が1人前になる日はまだ遠い。


 というわけで! これ以上準備することもないので、私も意気揚々とギルドを後にすることに。あ、でもその前にー。


「では、いってきまーす!」


 挨拶は大事! 元気いっぱいにそう言うと、ギルド内にいる人たちがみんなでいってらっしゃいと声をかけてくれた。誰もが笑顔で見送ってくれるのがとても嬉しい。ああ、幸せ。思わず緩む頰を隠しもせず、私は1歩外へと足を踏み出した。




 道中、道行く人に声をかけられつつ挨拶しつつ、目的地であるラグランキラリンテーラーショップに辿り着く。相変わらずすごい名前だ。

 この街は本当にみんないい人たちばかりだから、本当に心配はいらないのになぁ、なんてつい思っちゃうけど、外部からの観光客とか仕事の人とかもいるし、こういう油断がいけないんだよね、と気を引き締める。何度か目の当たりにしたこともあるし。

 しかも今日はお店の売り子としてお客さんの呼び込みをしたりもするから、ちゃんと気をつけねば! これ、何度も何度も言い聞かせられたからね。色んな保護者から……。


「あらぁぁ、待ってたわよぉ、メグちゃん! その服着てきてくれたのねん! 嬉しいわぁ」

「ランちゃんおはよーございますっ! 今日はよろしくお願いしますっ」

「挨拶も完璧! よろしくねぇ、メグちゃん。いつか叶えたかった夢が叶って嬉しいわぁん」


 そして、店内から出てきた迫力の人物がこの人、ラグランジェさんことランちゃんである。相変わらず服装は派手で、ティガルの耳と尻尾が揺れており、ガタイもいいのにクネクネと動く存在感バッチリのお人である。でも、フリフリの服が似合うんだよねぇ。素材がいいのかも?


「夢、ですか?」


 ランちゃんが何気なく口にした言葉が気になったので聞き返す。すると、そうよぉ、と思い切り顔を近付けてきたので思わず1歩後ろへ下がってしまった。突然だったからビックリするよ!?


「メグちゃんがまだここに来たばっかりの頃、あたしが提案したじゃなぁい。ここで看板娘しない? って!」

「あ、そうだったかも!」


 でも、あの時は一緒にいたギルさんとケイさんに速攻で却下されちゃんたんだよね。1人で街にいるなんてとんでもないって。でも、そのおかげでオルトゥスの看板娘に就任出来たし、今の私があるのはランちゃんのおかげといっても過言ではない。


「だから、やっとうちの看板娘をやってくれることになって、とぉっても嬉しいのよぉ? 今日1日限定だけどっ」

「えへへ……私もこうしてお店のお手伝いが出来て、うれしーです! 今日は頑張るっ」

「んーっ! かんわいいわぁっ! 食べちゃいたいっ」

「ふあっ!? 食べるのはだめぇっ」


 至近距離で舌なめずりするものだから、思わず本気で震えて両手をブンブン振ってしまう。それを見たランちゃんがコロコロ笑って冗談よぉ、って笑ってるけど……ちょっとばかり目が本気だったのは気のせいだろうか? そして、ほんのわずかに自分の影が揺れた気がしたのも気のせいだと思いたい。ギルさん……。


 そんな一悶着がありつつ、私の本日の仕事が始まるのであった。頑張るぞー!

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