考えごと


「あ、さっきね、クロンさんと子ども園に行ってきたよ。そこで、ウルバノくんともお手紙交換することになったの」

「何? ウルバノとか?」


 父様の様子が落ち着いたところで今さっきのこともご報告。まだクロンさんからの報告は来てなかったみたいだ。そりゃそうか、お仕事だっていって別れたわけだし。


「ウルバノ?」


 名前に聞き覚えがないのか、お父さんが首を傾げた。そこで父様がウルバノくんについて軽く説明。お父さんもシュリエさんもふむふむと聞いている。


「それにしても、巨人族とは珍しいな。俺も1回くらいしか会ったことねぇ」

「私もです。仕事で集落の近くに行ったことがありますから、その時にチラッと」


 そんなに珍しい種族なんだ、と私が呟くと、珍しいのはそうだが、と父様が教えてくれた。


「あまり表に出てこない種族なのだ。基本的には集落から出ることはない。エルフやドワーフ、小人族や妖精などと同じだな。亜人との違いでもある」

「そうなんだ……オルトゥスにはみんないるからなんだか不思議」

「言われてみればそうですね。ふふ、オルトゥスにいる私たちが変わり者なのですよ。そこへ行くとメグも変わり者の1人になってしまいますが」


 変わり者かぁ。そこは正直否定はしない。でもさ、オルトゥスのメンバーって基本的にみんな変わり者だよね? あえて口には出さないけども。やっぱ頭領であるお父さんが変わり者だからだろうなぁ。以前からずっと思っていたけど、要するに類は友を呼ぶのである。


「でも、そうか……ウルバノが心を開いたか。さすがはメグであるな」

「えっ、まだ心を開いたとは言えないと思うよ……?」


 ちょっと話してくれただけでそう簡単に心は開かないと思うんだけど。そう思って言ったら、リヒトが違うんだよメグ、と声をかけてくれた。


「ウルバノは、魔王様が話しかけても口を開けることはなかったんだ。巨人族っていうのは基本的に警戒心が強いらしくてさ。だから、気を許した相手じゃないと話したりしないらしい。子ども園の先生たちには少し気を許して話すらしいけど、それでもものすごく時間がかかったって聞いたぞ」

「だというのにメグ、そなたは今日初めて会ったのであろう?」


 それでウルバノと話すなんて快挙だ、と父様は言った。そんなにすごいことだったんだ……思いもよらなかったよ。やっぱりこの緊張感のない顔のおかげかな?


「ウルバノくんが、少しでも元気になってくれたなら、うれしーな」

「まじで人誑しだな、お前」

「お父さんには言われたくないもんっ」


 失礼だな! 別に誑してないもん! 出来るだけ、人には優しく接したいと思うだけだよ。初対面ならなおさら。よっぽど極悪人とかでなければ、だけど。だって、優しくされたら誰だって嬉しいでしょ? 優しくされて怒る人はよほどのことがあったか、どうしようもなく性格が悪いかになるし、それが絞られるから優しくするのは結構有効な手だと思うんだけどなー。こんなこと思ってるからお前は甘いんだって良く言われるんだけど。


「ウルバノと、仲良くしてやってくれ。我も、あの子どものことは気になっていたのだ。1人でも2人でも、信用できる者が多いのは、良きことだ」


 私がプンスカしていたら、父様がそう言いながら頭を優しく撫でてきた。わ、父親っぽい。チラッと見上げると、本当に嬉しそうな顔で微笑んでいる父様と目が合う。国民のことを大事に思っているんだなぁ、いい王様でもあるんだなぁって実感できた。そりゃ残念なだけじゃ務まらないよね。だって、私は父様の残念な姿ばっかり見てるからさっ。


 ……王様、か。私も、いずれ王様になるのかな。魔王に。


 そう考えると、なぜか気持ちが落ち込む。なんでだろう? 確かに私は魔王にならずにずっとオルトゥスにいたいって思ってる。でも、これが逃れられないことだというなら、受け入れるつもりでもあるのだ。オルトゥスに行けなくなるわけじゃないんだもん。それに、魔王城や、城下町の人たちも優しくて好きだし、子ども園の子たちとは長く一緒にいられるし。


 嫌、なのかな。そんなに魔王という立場が嫌なのかな、私。そんなこと、ないと思うんだけどなぁ。でも、無意識下のことはわからない。自分のことなのに、よくわからないなんて……まぁ、よくあることか。あんまり気にしない方がいいんだろうけど。

 でも、なんだろう。うまく言葉には出来ないんだけど、このことを考えると胸の奥がゾワゾワするというか、頭がぼんやりするというか、緊張するというか興奮するというか? 自分でも何考えてんだかわかんないんだけど、どうも落ち着かなくなってしまう。だから、出来るだけ考えないようにしていたんだけど……でも────


「……っメグ!!」

「…………え?」


 突然、私のことを呼ぶ父様の声でハッとする。あれ、私ぼんやりしてたかな? でも、そんなに長い時間じゃなかったと思うんだけど。


「えっと……なぁに?」


 みんながどこか驚いたような、心配するような目でこっちを見ているから、首を傾げてしまう。ちょっと考えごとをしていただけだよ? それだけでそんなに心配しなくてもいいのに。


「い、いや……呼んでも返事がなかったのでな」

「えっ、ごめんなさい。私、そんなにぼんやりしてたのかな……?」


 呼んでたのかー! 気付かなかった。そりゃちょっと心配にもなるか。せっかくみんなでいるんだから、しっかりしなきゃ。反省。


「……どこか、調子が悪いとかはないか?」

「ううん、元気だよ! 本当に考えごとしてただけだから!」


 リヒトも心配そうに聞いてくる。や、本当に大丈夫だからね? だからシュリエさんもお父さんも難しそうな顔しないでー!


「……メグのことだ。おやつ何かなー、とか考えてたんだろ」

「私っ、そんなに食いしん坊じゃないもんーっ!」


 確かに今言われて、おやつ何かなって気にはなったけど! そんなことくらいで声が耳に入らないほど考えごとしたりしないもん。本当に、お父さんはいっつも私をからかうんだから。


「でもメグ、精霊たちも今、心配していましたよ?」

「え? あ、みんな……」


 シュリエさんの言葉を聞いてふと頭上を見上げれば、ショーちゃんを始めとする精霊たちが集合して、心配そうに私を見下ろしていた。


「なんか、ごめんね? でも、平気だからね? 心配してくれてありがと!」

『……ご主人様は本当にそう思っているのね。うん、わかったのよー』

「ああ、ショーは真偽がわかるのでしたね」


 ショーちゃんの言葉を聞いて、シュリエさんもようやく安心したようだ。そう、ショーちゃんは声の精霊なので、私の考えてることとかも全てお見通しなのだ。要するに嘘はつけないってことと同義である。それはそれでなんだか恥ずかしいけど、私に関することをショーちゃんが他の人や他の精霊にさえ勝手に話すことはないからいいのだ。どうだ、この信頼関係!


「まじな話、なんか眠いとかでもいいから、いつもと違うなって思ったことは言えよ?」


 さっきまで私をからかっていたお父さんが突然真面目なことを言い出したのでキョトンとしてしまった。うん、そっか。あれはお父さんなりに私を心配してたってことだもんね。


「うん、わかった。ちゃんと言うね」


 だから、私もきちんと言わないとね! 社畜時代の悪しき習慣はだいぶ消えてきたと思うけど、うっかり無理をしちゃうのはなかなか変えられない私なので、意識的に改善しようと思います!


 その後は他愛もない話で盛り上がりつつ、楽しい時間を過ごすことができた。父様とたっくさんお話しできたのはよかったな。やっぱりあんまり会えないからね。私だって寂しいって思ってるよ? そう言ったら泣かせてしまったけど、私は嬉しかったよ!




 食事の後は魔王城内を父様と一緒に歩くことになった。ここはこんなことをする場所だとか、今はこういう仕事をしてるだとか。そうやって、魔王城のことを私は少しずつ知っていくのだ。要するにお勉強である。

 もちろんそれだけではなく、庭園だったり訓練場も見て回ったよ! なんと、遊戯場もあった。息抜きにカードゲームをしたり、ちょっとしたスポーツができる場所なんだって。スポーツという概念があったことに驚いたけど、これ、どうやらリヒトの提案だったみたい。


「娯楽が少ないよなぁって思って。人間より血気盛んな魔族が発散する方法ってのが戦闘だけでさ、生傷絶えないからこういうのはどうかって言ったんだよ」

「なかなか良い提案であった。おかげで怪我人がかなり減ったからな! 中には血を流すことで満足する種族もいるゆえ、完全になくなるわけではないが」


 何その種族!? 鬼族みたいな感じなのだろうか。ま、まぁそれでいいっていうのなら何も言うまい。怖い。

 それにしても、リヒトもただ魔王城でお世話になってるだけってわけじゃないんだな。ちゃんと自分に出来ることを探して、見つけて、実行してるんだ。そして、貢献してる。うーむ、これは私も負けてられないぞー! なんだか気合いが入ったよ。


「日が暮れちまったな。オルトゥスに着くのは夜中になるなぁ」

「泊まっていけば良いものを」

「そうはいかねぇさ。早くサウラたちに報告しなきゃなんねぇし……どこかの影鷲が遅いって不機嫌になるだろうし」


 どこかの影鷲って。ギルさんだね! お父さんと一緒だから大丈夫だとはわかっていても、遅くなれば心配もするかも。私も会いたいし。

 にしてもオルトゥスまではかなりの距離があるのに、お父さんたらどんな反則してんのかな? 行きも思ったけど、獣車を乗り継いで行ったとしたら軽く半月はかかる距離なのに数時間で着くとか。まぁ、あんまり深く考えちゃダメだよね。なんたってお父さんだし。


「では、メグと会えるのはおそらく、闘技大会の時になるであろうな……」

「開催されればな。ま、するだろうけど。そんなもんすぐだ、すぐ!」

「わかってはいる。だが理屈ではないのだぞ!」


 こうして名残惜しむ父様がいるからじわじわ遅くなったんだけどね。ま、仕方ないと諦めよう。


「リヒトとは、合同会議で、だな!」

「はい。よろしくお願いします」


 リヒトが合同会議に参加するんだもんね。いいなぁ、お父さんはまたすぐに会えて。でも、私も闘技大会は見に行くだろうからそこで会えるもんね。……あの未来を阻止せねば!


 こうして、涙を流す父様と手を振るリヒトに別れを告げて、私たちはお父さんの愛車、カケルくんに乗り込んだ。クロンさんと、挨拶出来なかったのが心残りだけど。だから、父様へのお手紙にクロンさんへの挨拶もいれようと決意したのでした!



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これにて今章は終了となります。そして、1巻発売記念の毎日更新もおしまいです!

お付き合いくださりありがとうございました!(*´∀`*)

次回は7月29日月曜日からまた週1更新で進めてまいりますのでよろしくお願いします。

2巻制作作業に入りますので!(*´∀`*)ニヘッ


書籍版特級ギルド1巻発売中ですので、書店等で見かけた時はぜひお手に取っていただければと思いますー[壁]ω・`)

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