双子ちゃん


 うっかり移動中に寝てしまった! 思えば環の時も通勤電車の中でよく寝てたなぁ。流れる景色があの時のそれと重なってついつい寝てしまったみたいだ。あの頃は立ったままでも寝れたよなぁ、なんてつい遠い目になる。今はやれと言われても無理だ。


「そろそろ街に入る。ここからはゆっくり歩いて行くからね。メグは一緒に歩くかい? そこなら乗っていてもいいけど」


 徐々に減速し、チェートが走るのをやめて歩きだした頃、ルド医師が手綱を持ったまま器用にヒラリと降りて、尋ねてきた。きっとこれから街の中を歩くんだよね? そんな中1人で呑気に乗っているのはなんだか気まずい。私は一緒に歩きます、と答えて車両から降りる事にした。


「フウちゃん」

『はーいっ! おまかせあれっ』


 ぴょんと飛び降りながらフウちゃんに声をかければ、わかってましたよ、とばかりにフウちゃんは風で私を包み込んでくれる。その力を利用して私は転ぶ事なくフワリと地面に降り立った。


「やっぱり魔術が随分うまくなったね。抱き上げて下ろしてた頃が懐かしいよ」


 そう言って褒めてくれたルド医師は、少し残念そうでした。ルド医師に関わらず、みんな私の成長を見ると最近いつもこうなんだよね。私もちょっぴり寂しいけど、それが成長するということなのだ。親離れ、子離れ、お互いがんばろうね……。


 地面に降りたところでルド医師の隣に移動して並んで歩く。ずっと獣車に乗っていたから地面がフワフワするよう。時々よろけてしまうのはご愛嬌。やっぱ、私って運動神経ないなぁ、実感させられるよね。それでも努力によってかなり動けるようにはなってるけど! ただ、センスがないのだ。自分でもわかる。努力で埋められない壁ってあるんだよ……!


「大丈夫かい? 少しよろけているけれど」


 そしてバレてる! うん、わかってた。ルド医師は基本的になんでもお見通しなのだ。私は笑って誤魔化しつつ平気だと答えた。だけど、ルド医師が空いている方の手を差し出してくれたので、大人しくその手を掴みます。正直、助かります、すみません。


「チェートを返したら、昼食にしよう。そこで一休みできるから」


 そう言って微笑みかけてくれたルド医師を見て、私はようやくホッとした。だって、なんとなくだけど、チェートに乗ってる間のルド医師はどこか元気がないように見えたから。本当は私は邪魔なんじゃないかなって思って。お墓参りだもん。優しい思い出や、悲しみに浸りたい時だってあるだろうから。

 でも今回、ルド医師は私を連れてきてくれた。本当にそれで良かったんだってことだよね。いくら私に甘いといっても、大切な時はやんわり断るはずだもん。ちゃんと考えて、結論として私を連れて行ってもいいって判断してくれたからこそだと信用できる。だから、あれこれ気にしてはしまうけど、私に出来ることはただひとつ。


「えへへ、お腹空いちゃった!」


 いつもと変わらず、能天気にニコニコすることだ。そして、迷惑かけないことー! これ重要。せっかくのお墓参りなんだから、他のことに手を煩わせたくないのだ。自分でできることは自分で、そしてスムーズにいけるように良い子は言うことを聞くのです。

 ほら、ね? ルド医師は私の言葉にいつも通りの笑顔を見せてくれた!




 こうして私たちは並んで歩いて街に入り、恙無く獣車の本店にてチェートを返した。街を歩く際は目立つのか、ちょいちょい視線を感じたけど。ま、仕方ないね! 観光客だからキョロキョロしてしまうのは許してほしい。

 そのまま、後で借りる予定の空飛ぶ獣を予約してから店を出た。言っておかないと借りられちゃうからね! ここで借りられなかったら、またもう一つ先の支店で借りることになってしまう。そこで運良く借りたい獣がいるかはわからないから、予約という形を取ったのだ。


「本店なら今いなくてもすぐに望み通りの能力を持つ獣を連れてきてくれるからね」


 つまり、ここで選べば望み通りの獣が借りられるということである。さすがは本店だ。


「せっかくだから、特級ギルドアニュラスで昼食をとろうか。メグは行ったことがないだろう?」

「! ないです! というか、他のギルドがはじめて!」


 特級ギルドはいま、オルトゥスを入れて3つしかないんだよね。ネーモがほら……あの事件があってなくなっちゃったから。そのひとつであるアニュラスは商業ギルドだってことは聞いていた。オルトゥスもよくお世話になっていて、アニュラスからお客さんや配達、お仕事関係で来る人も結構いるのだ。

 でも私ははじめて! そもそも他のギルドの中に入ること自体が今までなかったからドキドキしてしまう。


「アニュラスは仕事柄、食品も全て素晴らしいよ。だからランチも期待していい」

「ふわぁ! 楽しみー!」


 思わずぴょんぴょん飛び跳ねて喜んでしまった。私ったら単純……でも、食にはこだわりたいじゃない? ただの食いしん坊とも言うけどね!

 そんな調子でルンルン歩いていたんだけど、その目的地であるアニュラスの前で、何やら言い合う2人を発見。本当ならそのままスルーして先に行くところなんだけど、ちょっとこれは知らんふりできなかった。身体が勝手にその2人の元まで向かってしまったのだ。


「あの、どーしたの?」


 そしてそのまま声をかける。すると、言い争っていた2人が揃って首をくるんと動かし、こちらに顔を向けた。あ、やっぱり!


「「こいつが悪い!!」」


 そして見事にハモるセリフ。お見事! 思わずほへー、と感心してしまった。


「おや、双子かな。珍しいね。でもこんなところで喧嘩していたら、人の邪魔になってしまうよ」


 関心しているその横で、ルド医師が2人の背に合わせて屈んでそう注意を促していた。

 そう、この双子は子どもだったのだ! しかも私と見た目年齢がそう変わらない。だから思わず駆け寄っちゃったんだよね。だって、オルトゥスの近くにはそこまで年の近い子がいないんだもん。赤ちゃんとか幼児はいるけどね? いずれ私の見た目年齢を追い越していくだろうけど、今はまだ会話も成立しないからさっ。


「ご、ごめんなさい。でもね、でもね、グートったら……って、グート? ねえ、グート? どうしちゃったのぼんやりして!」


 ルド医師の言葉にすぐさま反応したのは女の子の方。きちんと謝って偉いなぁ。しっかり者って感じだ。そしてもう1人の方は……たしかにぼんやりしている。さっきまであんなにキャンキャン2人で喧嘩していたというのに、その威勢はどこかへ行ってしまったようだ。……ん? というか、私を見てる? なんだろう。顔に何か付いてるかな? そう思って首を傾げながら聞いてみた。


「なぁに? 何か、変?」


 やだなぁ、さっき寝てた時のあとがほっぺにまだついてるのかも。そう思ってほっぺに手を当てて触ってみる。触った感じはもう消えてると思うんだけど……すると、再起動したのか男の子の方が慌てて姿勢を正して声を出した。


「な、ななななんでもない! 変だなんてとんでもない! こんなにかわい……あ、えっと、なんでもないったらない!」


 そして慌て始めた。な、なんなんだ。フリーズしたかと思えば今度は大慌てで手をブンブン振っている。あ、耳と尻尾が出てきた。クリーム色のモッフモフな尻尾もブンブン振られている。……かわいい。


「ははーん。さてはグート……」

「なんでもない! ないからな!? ルーン、余計なことを言うなよ!?」

「ふふーん。ま、いいけど。耳と尻尾出てるわよ」

「げっ!?」


 女の子に指摘された男の子は、慌てて耳と尻尾をしまってしまった。あー! モフモフがー!


「もう耳と尻尾の出し入れができるのかい? まだ小さいのにすごいな」

「小さいって言っても、俺らもう50才過ぎてるからな!」


 ふふんと胸を張って誇らしげに言う男の子だけど、ごめんね。私は未だに魔大陸の亜人がどんな速度で成長していくのか理解できていないんだよ。年齢で言われてもピンとこないのだ。だから見た目の年齢で全てを判断している。それが一番ハズレがないからね! ただし基本的に一番良い年齢で体の成長が一度止まるっぽいので、それさえ当てにならないことも多いけど。難しいよ、亜人。


「いや、それなら余計にすごいさ。成人前にそれが出来る子はほとんどいないからね。私だって出来るようになったのは成人した後だったし」


 と、ルド医師が言うのでやはりこの2人は子どもなのだということがわかった。確か、見た目に関わらず、100才以上が成人とみなされるんだっけ。つまり、私もいくら見た目がまだ小学生だったとしても、あと30年で成人となるわけだ。せめてその頃までに高校生、いや、中学生でもいいからそのくらいの外見になっていてほしいところだ。気持ち的な問題で。

 そしてルド医師の半魔型が非常に気になる。蜘蛛だもんね? 見たいような見たくないような複雑な気持ちです……!


「そりゃそうよ。私たち、成人したらすぐにアニュラスで働きたいんだもの」

「このくらいは、出来るようになってないとね!」


 双子は2人揃って腰に手を当てて胸を張っている。とても可愛い。耳と尻尾がないのがちょっと残念だけどもちろん黙っておく。


「でも、あなたもまだ小さいのに、出来るのね!」


 女の子の方がずいっと私に顔を近づけてきたので思わず後ろに引いてしまう。おお、こういう感じ、久しぶりだ。グイグイくる女友達がいたんだよね。とてもいい子なんだけど、その勢いに私はいつも圧倒されていたっけ。そう、今もやや圧倒されている。けど、この誤解は解いておかねば!


「う、ううん、違うの。私はエルフだから、もともと尻尾はないし、耳はこうなんだよ!」


 亜人と違って、獣型にはなれないし、その特徴もない。人間と同じように、生まれた時からこの姿は固定なのだ。なのでそれを教えるために耳の後ろに手を当てて見せてあげた。


「え、エルフ……道理でかわ、あ、えっと、綺麗な髪だね! キラキラで!」


 男の子の方がほんのり頰を染めながら褒めてくれた。うんうんわかるよ、エルフって輝く髪が特徴だからキラキラして綺麗なんだよね! 私も初めてシュリエさんに会った時見惚れたもん!

 褒められたのが嬉しかったので、とびっきりの笑顔を心がけてありがとう、と言うと。男の子はまたフリーズしてしまった。あれぇ? 変なこと言ったかなぁ?

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