ケイとのデート
今日はいつも通り午前が仕事で、午後が訓練……なんだけど、訓練は少し早く切り上げて、夕ご飯を外で食べるのだ!
「メグちゃん、準備は終わったかい?」
「ケイさん! 終わりましたー!」
そう、人間の大陸に行った時に約束してた、ケイさんとのデートである。忙しくてなかなか時間が取れなかったんだよね。ケイさんも、仕事やロニーの特訓で忙しいからね!
というわけでシャワーを浴びて汗を流し、おしゃれ着に着替えてホールで待ち合わせしていたのだ。ちょっぴり背伸びしたデザインのシンプルな紺のワンピースで、金のオシャレなボタンが付いている。上からフワンと白いストールを肩からかけています。同じ金のブローチで留めてあるのがお気に入り!
髪型は、このまえもらった蝶々のバレッタでハーフアップにした。
「んーっ、いつも可愛いけど、おしゃれしてるメグちゃんは一段と可愛いね。ついつい見惚れちゃうよ」
「え、えへへ、ありがとぉ……」
そしてケイさん、誉め殺しを忘れない。いつも通りではあるけどこれだけは慣れない。て、照れる!
「じゃあ、行こうか」
「あれ? ギルさんは?」
確か、護衛として付いてきてくれるって話だったと思うんだけど……そう思って首を傾げていたら、ケイさんが人差し指で私の唇をそっと押さえた。ふぉぉぉぉ!?
「せっかくこれからデートなのに他の人の事を気にするなんて、イケナイ子だな。んー、でも大丈夫だよ。ギルナンディオには、影で護衛してもらうように頼んでるから。だから、出てこないで、ね? 違約金かかるよ?」
色気ダダ漏れです! ごちそーさまでっす!! 最後の二言は恐らく影に潜むギルさんに言ったのだろう。違約金……いざとなったら払っても構わないからって出てきそうだ。それほどギルさんは過保護なのである! あの事件から余計に心配性になった気がするんだよねぇ。
でも、私の居場所が何となくわかるようになってからは、比較的自由に行動させてもらえるようにはなったけど。ギルさんも親スキルが上がった……でも心配性は酷くなった、という。ままならないね!
「さ、お嬢さん。お手をどうぞ」
「ふわぁ、ありがと、ケイさん!」
さて、今はケイさんとのデートを楽しもう! お姫様扱いしてくれるので、ついウキウキしちゃう。メグ姫が行くぞー! 調子乗りすぎかな? えへ。
ケイさんは私に合わせた歩幅でゆっくり歩いてくれる。さすが、完璧なエスコートだ。それから途中のお花屋さんで淡いピンクの小さな花束をプレゼントしてくれ、そのままオープンテラスのお洒落なお店へと顔パスで入店して行った。なんかもう、色々すごすぎてすごい。
「いらっしゃいませ、ケイ様、メグ様。お花はお食事中、花瓶に飾りましょうか?」
「んー、とても素敵な提案だね。ぜひ頼むよ」
「お、お、お願いしましゅ……!」
自然体なケイさんとは対照的に、どもるわ噛むわでダメダメな私。だって! 仕方ないよね? ね?
「ふふ、可愛らしいお客様。どうぞ、リラックスしてくださいね。すぐに料理を運びます。とても美味しいですよ」
「わぁ、はい! 楽しみでしゅ!」
緊張を解そうとしてくれる店主さん、素敵! でもまた噛んじゃったけど。それに、自分の店の料理を、自信を持って美味しいと言えるのも素敵。よぉし、いっぱい食べちゃお。
テーブルの中央に綺麗なガラスの花瓶に活けられた花束が飾られ、次から次へと美味しそうな料理が運ばれてくる。食前酒、私はジュースだったけど。
運ばれてくるたびに、琥珀に輝く、透き通るスープに舌鼓を打ったり、彩り豊かなサラダにはしゃいだり。メインのお肉は最初から私のは食べやすいように切ってくれてたので、気遣いに感謝したり。幸せー。
「メグちゃんは、将来どんなことしたいって、考えてたりするのかな?」
そして、食事の合間にそんな会話をしたり。
将来、かぁ……まだまだ先の事すぎて、ちゃんと考えられないっていうのが正直なところだ。でも、そういうところが良くないよね。リヒトもロニーも、将来の目標に向けて頑張ってるのに、私は宙ぶらりんのままだ。
「何となくね、メグちゃんは少し、ううん、かなり悩んでたりするんじゃないかなって思ったんだ」
「えっ? そんなにわかりやすかったかな……」
「んー、やっぱり悩んでたんだね?」
「あうっ」
語るに落ちるとはこのことである。でもあれぇ? 態度に出してないと思ったんだけど、甘かったかな。
「メグちゃんの事が大好きだと思ってる人は、きっとみんな気付いてると思うな」
うっ、そうなんだ。でも、気付いてて誰も聞かないでくれたんだ。心配かけたかも……だから、ケイさんがこうして聞き出してくれてるのかな? 確かにケイさんは、こういうの得意そうだもんね。私としても、話しやすいし。
「ボクでよければ聞くよ? それに、きっとギルナンディオもどこかで聞いてる」
クスッと笑ってケイさんはそう言った。そうだよね、ギルさんだって心配してくれてる。うん、ちゃんと相談しよう。
「あ、あのね……? 私、自信がないの……」
私は、ポツリポツリと話し始めた。次期魔王と言われてもピンとこないこと。いずれ強くなると言われても実感がないこと。ついつい焦ってしまうこと。誰よりも長生きして、みんなに……いつか、置いていかれてしまうこと。
そのどれもが心に重くのしかかっていて、まだ先の事だから考えないようにって思っても、ふとした時に過って悲しくなる。
「それに、私、本当は……」
「? 本当は?」
本音を言う直前に、口籠る。これは、言ってはいけないことなんじゃないかなって思うから。すると、何かを察したケイさんが、そっと私の手を両手で取った。
「ここだけの話だよ、メグちゃん。この話を聞いてるのは、ボクとギルナンディオだけ。ね?」
それは、他の人には言わないよってことだった。優しさが嬉しくて、ほんのり視界が滲む。私はゆっくりと口を開いた。
「ほ、本当は……魔王には、なりたく、ないの……」
私はずっと、オルトゥスにいたい。オルトゥスのメグでいたいんだ。
だけど、血筋からいって、私が魔王になる事は決定してる。これだけは変えようがないのだ。今、魔王国にいるどんな強者でも無理だし、魔王城で修行してる、日本からやってきた特別な力を持つリヒトでさえ無理。そもそも、人間のリヒトは、私の大切な人の中で最も早くに別れがやってくる。
責任が重たいんじゃない。自信がないんじゃない。それは全てただの言い訳で、私が、なりたくないだけなんだ。
魔王国の人たちは好きだ。守りたいとも思う。だけど、そうじゃないんだ。そうじゃないの。うまく言えないのがもどかしい。
「うん。よく言えたね、メグちゃん。やりたい事とは違う将来は、なんだか苦しいんだよね? 嫌だってわけじゃないのも、よくわかるよ。わかってる、大丈夫だよ」
だけど、私の気持ちをちゃんと察して、優しい言葉をかけてくれるケイさんを前に、ホロホロと流れる涙を止められなくなってしまった。うぅ、せっかくの楽しい時間が。
「いいんだよ、メグちゃん。申し訳ないことにボクには、ううん、誰にも解決できない問題ばかりかもしれないけど……こうして本音を言って、時には涙を流す時間は、必要なんだ」
だから、ボクやギルナンディオの前で、またこうして泣いてほしい。ケイさんはそんな言葉を残し、私が落ち着くまで頭を撫で続けてくれた。足元の影からも、なんだか温かい気持ちが伝わってきて、私はとても幸せで、切ない気持ちになったのだ。
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