草花の精霊
「お待たせ」
ジュマくんの寝顔を眺めつつ、ロニーの様子を見つつで待っていると、ついにロニーがにこやかに戻ってきた。肩に乗ったヒロくんと、その横でフワフワ飛ぶ緑の光。ということはー!
「おかえり、ロニー! うまくいったんだね!」
「ん、おかげさまで。ありがとう、メグ。精霊たちも」
嬉しそうに顔を綻ばせたロニーに、私もショーちゃん、フウちゃんも大喜びで出迎えた。それから、紹介してー、という私たちのリクエストに応え、ロニーが許可してくれたので、草花の精霊さんと声をかけさせてもらった。
「わぁ、可愛いーっ!」
緑の光は輝きながら姿を変えていく。それはもっふもふな緑のウサギさんでした! ふぉぉ、可愛い。ロニーの周りは一気にメルヘンな森と化した。黄緑の小鳥なフウちゃんも周囲を飛び回ってるので余計にである。さ、触りたい……! でもこの子は臆病なところがあるって聞いてるから、我慢!
「この子は、マリム、って名付けたんだ」
「マリムちゃんかぁ。ふふ、よろしくね」
マリム、可愛い名前だ。そして私の脳裏に浮かんだのはマリモ……緑だし、丸まったらまさしくマリモである。ごめん、つい! でも覚えやすいし可愛いからよしってことで!
『よ、よろしくですの。魔王様の御子様』
うっ! モジモジしながら上目遣いとか反則ぅぅぅ! 可愛い、可愛いよぉ……
「あの、あの、マリムちゃん。撫でちゃ、ダメ?」
耐えきれず私がそう言うと、マリムちゃんは耳をピンッと立てて背筋を伸ばした。あ、嫌だったかな?
『こ、こここここ光栄ですのっ! ぜ、ぜひその柔肌なおててで撫でて、撫で、て……ふぁぁぁぁ』
と思ったけどなんだか様子が違う。まだ触れてないのに悶絶して転げ回っているマリムちゃん。ど、どうすれば?
すると、様子を見ていたロニーがクスクス笑いながら説明してくれた。
「精霊の間で、メグは有名、なんだよ? 憧れの存在、ってやつ。だから、撫でてあげて。マリムも、喜ぶ」
「そ、そうなの? なんでだろ……でも、じゃあ、遠慮なく!」
マリムちゃんに近寄ってしゃがみ込んだ私は、転がるマリムちゃんの頰や背中、お腹なんかを優しく撫でた。ふわふわぁぁ幸せぇ……
『し、あ、わ、せ、ですのぉぉぉ……!』
幸せに浸っていたら、マリムちゃんがそんな事を言い出した。えっ、マリムちゃんも? それならウィンウィンですね! というかなんで有名なんだろ。エルフで魔王の子ってところが何か影響してたりするのかな?
あ、今ならホムラくんを紹介してもいいかな?
「ね、マリムちゃん。私のお友達にね、火の精霊のホムラくんって子がいるの」
『火の、ですの!?』
火の精霊、という単語が出てくると、ビクッと体を硬直させてしまったマリムちゃん。大丈夫、大丈夫、という気持ちを込めて、さらに撫でてやると、ふにゃんと力を抜いてくれた。
「とっても元気だけど、優しい子だからマリムちゃんとも仲良くしてほしいなって思うの。どうかなぁ?」
『怖くない、ですの……?』
「うんっ!」
少しだけ興味を持ってくれたところで、私はホムラくんを呼び出した。けどホムラくんは恐る恐る、といった様子で、長くて赤い尻尾を私の腕に巻きつけつつ、背中にしがみ付いている。ほんの少しだけ顔を出しているようだ。んもう、うちの子可愛い。
『あうっ、えっと、その……はじめまして、マリム、ですの』
『お、おうっ。オレっちは、ホムラなんだぞ。そのー、怖くないんだぞ?』
火の精霊、というだけでほんの少し萎縮してしまっている様子のマリムちゃん。でも、辿々しく挨拶を交わせたから今はこれで十分だろう。少しずつ慣れて、仲良くなれたらいいな。
「んー……? 終わったか?」
ホムラくんとマリムちゃんがほんの少し打ち解けたところで、ジュマくんが起きて伸びをし始めた。おぉ、なかなかいいタイミングだ。
「うん、無事に目的を達成したよ! ね、ロニー」
「ん、ちゃんと、契約できた」
「おー、やるじゃねぇか! ミッション達成だな!」
ジュマくんは、いつもの笑顔を浮かべると、ロニーの頭をガシガシ撫でた。やはり力が強い。かなり加減してくれるようにはなったけど、ロニーの髪がボサボサである。ロニーは少し嬉しそうだからまぁいっかな?
「んじゃ、帰るとすっか。もうじき暗くなるしな! サウラがうるせぇし!」
空を見上げれば、ほんの少し赤く色付きはじめていた。いつの間に! 私たちは、新たな仲間を連れてギルドへと戻って行った。お腹すいてきた!
「はぁっ!? キメラを狩ってきたの!? あの子たちがいるってのに何考えてんのよ! あれ倒せるのもうちじゃ数人しかいないほど恐ろしい魔獣なのに!」
ギルドに戻ると、サウラさんをはじめケイさんやギルさんもホッとしたような顔で出迎えてくれた。森まで向かいそうな勢いだったギルさんは、信じて待ちなさい、とサウラさんに止められたそうだ。ブレない。
「オレが2人を危ない目に遭わせるわけねーだろー? それにこんなキメラくらい、どーって事ねぇし」
ブーたれて文句を言い返すジュマくんに、あの子達が簡単に倒せる相手なんだ、と思うようになったらどうしてくれるのよ! とサウラさんはお説教をしている。あぁ、安心して。私もロニーも、そんな間違い絶対しないから! 私はロニーと顔を見合わせて苦笑を浮かべた。やっぱりジュマくんも、尋常じゃない実力者って事がよくわかったもんね。
「サウラさん、とても、勉強になったし、僕はまた、付いていきたいって、思ったよ?」
「うー、ロナウドぉ! それはそうかもしれないけど、それなら事前にそうと知らせて欲しいのよっ! 心配するでしょ?」
ジュマくんを庇ってくれたのはロニーだ。その姿にサウラさんが困ったように眉を下げて言う。確かに心配するよね。もし何かあった時に気が気じゃないって言葉に、私も少し反省した。
「サウラさん、ごめんなさい! 心配させて……ほら、ジュマ兄もまずは、謝って!」
「ええっ!? むむー、でもメグが言うなら……悪かったよ、サウラ」
少し不服そうだけど、ジュマくんも口を尖らせて謝った。うんうん、まずは謝るのが大切っ!
「けどね? 私もとっても勉強になったよ! 今度はちゃんと知らせるから、今日はあんまりジュマ兄を怒らないであげてー?」
「うっ、メグちゃんまでそういうなら、仕方ないわね……本当に、危険はなかったのね?」
サウラさんの念押しに、私もロニーも首をブンブン縦に振る。すると、軽くため息を吐いたサウラさんは苦笑を浮かべた。
「わかったわ。でも今回だけよ? 次からはちゃんと事前に言うこと! 特にジュマはそうでなくても事後報告が多いんだから! この子たちが関わることは、些細な事でも先に言って!」
「わーったよ! メグ、ロニー、ありがとな!」
珍しくトラップ地獄を逃れたジュマくんは、嬉しそうに笑って私とロニーの頭を撫でようとした。また髪が乱されてはたまらない、と私は直前でジュマくんの手を両手で止めたんだけど……隣でロニーも同じ事をしてたのでつい吹き出した。
「な、なんだよ、お前らぁ」
「だって、ジュマ兄が撫でると髪がぐちゃぐちゃになるもん」
「ん、ちょっと、乱暴」
私たちの抗議に、なんだとー? と意地悪く笑ったジュマくんは、そのままぐいーっと腕を肩まで上げた。力持ちポーズである。手を掴んでいたままの私たちは一緒に宙ぶらりんである。
「かなり加減してんのに、まだダメかよー」
そう言いながら両腕に私たちを座らせるように抱え直してくれたジュマくん。片腕でひょいひょいと器用だなぁ。一瞬浮いたけど!
おかげで、ジュマくんとロニーの目線が近くなる。
「ロニー、やっちゃう?」
「ん、賛成」
せっかくの機会なので、私はニヤリと笑いながらロニーに告げる。悩む間も無く了承したロニー。お主も悪よのぅ。
「あ? 何が……っておいっ? うわ、やめろー!」
せーの、の合図で私とロニーはジュマくんの頭をわしゃわしゃと撫でまわしてやった。もう容赦なくグッチャグチャに! いつもこんな感じなんだぞー? やられる気持ちはいかがか、ジュマくん?
私たちに撫で撫で攻撃されつつも、足元はしっかりしていて、私たちを抱く腕も動かさないあたりさすがである。やめろ、と言いつつもケラケラ笑ってるしね! 周りで見てた人たちもいいぞいいぞ、と笑っている。
夕方のギルドホールには、みんなの明るい笑い声が響き渡ったのでした!
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