特級ギルドへようこそ!
吐き出して、泣いて、かなりスッキリさせてもらったので、その後はまた楽しく食事を進めた。話す内容も他愛のないことで、それを一緒に笑って。アフターケアも完璧なケイさんは本当に憧れる。感謝の気持ちでいっぱいだ!
「さ、デザートも食べたし、そろそろ帰ろうか。遅くなると、良くないしね」
そう言って、ケイさんは飾ってあった花を花瓶ごと私に手渡した。えっ、花瓶も!?
「今日の記念に」
ウインクとともに放たれたそのセリフに、私の心が射抜かれたのは言うまでもない。それを誤魔化すように、私はそっと花瓶の花を収納ブレスレットにしまった。帰ったら部屋に飾るんだ!
ギルドのホールへと到着した途端、私の影からギルさんが出てきた。契約はギルドに戻るまで、だったという。とても忠実である。
「ありがとう、ギルナンディオ。おかげでなんの不安もなくデートを楽しめたよ」
「メグも楽しそうだったからな。問題ない」
「ギルの基準はいっつもメグちゃんよね……知ってたけど」
おかえりなさい、と言いながらサウラさんもやってきた。楽しかった? との問いに私は満面の笑顔でうん! と答える。料理も美味しかったしお話も楽しかったもん! ちょっぴり泣いちゃったけどね。それはそれである。
「で、どんなデートしてきたの? ケイ」
「んー、知りたいのかい? サウラディーテ。それなら今度はサウラディーテがボクとデートする?」
「美味しいお店を教えてくれたらそれでいいわ。自分で行くもの」
つれないなぁ、とケイさんは笑う。その後、サウラさんはギルさんに実際どうだったのか聞き出そうとしている。別に普通だった、と答えるギルさんに不服そうなサウラさん。……普通、確かにケイさんの普通だったよね。嘘は言ってない。
「で? どう普通だったんだ?」
「もう、
そしてどこから現れたのか、お父さんもケイさんに問い詰め始めた。さらに周囲にいた人たちも興味津々で集まってきて……ってどんだけ気になるのみんな。
ワイワイと賑やかになるギルドホール。そろそろお部屋に戻ってお風呂入って寝たいんだけどなー、とぼんやり考えている時、ふと足元の影が揺れているのに気がついた。さっきギルさんが出てきた影だよね。
……ほんのちょっぴり、好奇心が疼く。これ、中ってどうなってるんだろう。実はいつも気になっていたのだ。みんなは話で盛り上がっている。これは、チャンスなのでは?
「……真っ暗」
私はしゃがみこみ、影を観察する。真っ黒な水面のようになっていて、ユラユラ動く影はまるでこっちにおいでと私を誘っているようだった。
ほんのちょっぴりなら、覗いてみても良いよね? だって、これはギルさんの影だもん。危険なんか絶対ないって確信があるのだ。でも、怒られるかもしれないから、ほんのちょっぴりだけにしよう。そう決めて、私はそーって影に顔を突っ込んで覗いてみた。
「──っ!?」
「えっ、何? どうしたのギル!?」
「な、おい。どうした、ギル。いきなり硬直して……ってメグ!? お前、何やってんだ!?」
ぼんやりと、サウラさんやお父さんが慌てる声が聞こえてきた。えっ、ギルさんに異常が!? そう思って私は慌てて影からひょい、と顔を上げた。まさかこんな一瞬でバレるとは。
「お、おい! メグ、大丈夫か!? 馬鹿野郎、ギルの影に入るなんて死ぬ気か!?」
「え? 大丈夫だけど……そ、そんなに危ないなんてまったく思わなかったの。ご、ごめんなさい」
お父さんが鬼気迫る様子で肩を掴んで揺さぶってくる。そんなに大変な事をしちゃったのかな、私? キョトンとしつつも返事をすると、今度はなぜかお父さんがポカンとしている。見ればサウラさんやケイさん、他の人たちも同じように呆気にとられていた。え? 何?
「お、お前……ギルの影を覗いて、大丈夫だったのか……?」
「え? うん。ほんの少し顔を入れただけだったし。真っ暗だけどあったかくて、でも、それだけだよ?」
あれぇ? 普通は大丈夫じゃないのかな? むむむ、と私は首を捻る。一方、驚愕の表情を浮かべて暫し停止していたお父さんは、すぐにハッとして今度はギルさんに問い詰めはじめた。
「お、おい! ギル! お前は大丈夫だったのか!?」
「あ、ああ……俺も、驚いている」
「なんだそれ? 影に入っても大丈夫な奴なんていんのかよ? なんか心当たりねぇのか!?」
「心当たり……?」
お父さんの質問に、困惑したように考える素ぶりを見せたギルさん。
そして数秒後、ギルさんの顔が一気に赤くなった。
……赤くなったぁっ!? ギルさんが!?
「えっ?」
「えっ……」
「え!? ギル!?」
「て、てめぇ、まさかギル……」
カァァッと、音が鳴りそうなほどの赤面ぶりを見せたギルさんは、片手で顔の下半分を覆い、サッと後ろを向いた。えっ、何? 何? 私ってばもしかして、ギルさんのデリケートな問題に首を突っ込んだりしてたのかな!?
ギルドのホールは大騒ぎである。だってあのギルさんが、ものすごく動揺してるんだもん。
「ギルさん……?」
そっと私も声をかけてみる。でも、あのギルさんがそれに気付かず、相変わらず顔を覆ったまま時折、いやまさか、とか、さすがに違う、とかブツブツ呟いている。な、なんか本当にごめんなさい!
「………………何でもない」
暫しホール内は大混乱となった。しかし、さすがはギルさん。すぐに立ち直って振り返り、そう言った時には、いつも通りの表情となっていた。まだ少しだけ赤いかもしれないけど。あー良かった。安心したよ!
「な、何でもないわけないでしょぉぉぉ!? 絶対、口を割ってもらうわよ! ギル!」
「そうだねぇ。ボクもすごく気になるかな。ふふ、相談ならのるよ?」
「絶っっっ対ゆるさんぞ、ギルこのやろぉぉぉ!!」
と、思ったけど。まだ落ち着いてない人たちがいた。というか、この3人に触発されて、ギルド内のメンバーみんながギルさんに注目していた。……なんかこれ、長くなりそう。そろそろ眠さの限界である。
仕方ない、後日ギルさんには改めて謝るとして、今日は寝させてもらおう。私はくあっと1つ欠伸をすると、騒がしいホールを後にした。
※ ※ ※ ※ ※
今日もいつもと変わらない平和な朝。
私専用の受付で、元気に挨拶を交わし合う。
よく見る顔や、たまに見る顔、初めて見る顔が行き交うホールで、笑顔を心掛けてお仕事、お仕事!
──ふと、私の前に髪の長い女の人が現れた。淡いピンクの、ふわふわとした髪。
母さま? そう思ったけど、違う。眼の色が、紺だから。
あ、これ、予知夢だ。起きてる時に見るのは久しぶりだなぁ。ってことはこの女の人は……
「私……?」
私がそう呟くと、女の人はくるりとこちらを向いた。予知夢のはずなのに、しっかりと私を
それから女の人は。
未来の、大人になった私は──ふわりと、笑った。
とても、幸せそうに。
「そっか……なぁんだ。なぁんだ!」
「ん? どうした、メグ」
不思議そうにこちらを見るギルさんに、何でもない、と笑顔で首を振る。さっきまで見えていた、未来の私はもういない。
でも、あの笑顔を見れただけで、心の奥底でずっとウジウジ悩んできたことが、ぜーんぶ嘘みたいに消えてった。
だって、未来の私は幸せだってわかったんだもん。
魔王になってるかもしれない。オルトゥスにいるのかもしれない。
でもそんなの、もうどうでもいい。どんな未来を選んだとしても、きっと私は幸せでいられる。
「じゃあ、俺は仕事に行く」
「はぁい! ギルさん、気をつけて行ってらっしゃい!」
行ってくる、とふわりと微笑んだギルさんを見送り、私も再び仕事に精を出す。
なんの心配もいらない。私は笑顔でいつものセリフを言えばいいのだ。
「特級ギルド、オルトゥスへようこそ!」
────────────────────
【あとがき】
これにて、特級ギルドへようこそ!〜看板娘の小さなエルフ〜完結となります!
蛇足として、ギルの「心当たり」に心当たりがない方は、「sideギルナンディオ3 後編」参照です。
長編となりましたが、最後までお付き合いくださった皆様、本当にありがとうございました!
とはいえ、まだ先があるんじゃ? という伏線にお気付きの方もいらっしゃるかと思います。
そうですね、続編、書きます!
と言っても、しばらく先になりますが!
本日から、新たに新作の連載を始めましたので、そちらが終わり次第、続編に取り掛かろうと思っております。
新作は
「スピリットチェンジ!〜訳あり少女は勇者の旅に同行します〜」
多重人格の少女が、なんやかんやで勇者の旅に同行するはめになり、なんやかんやある話です。(ざっくり)
こちらもぜひ、よろしくお願いします!(ちゃっかり)
それはさておき。
特級ギルドは私にとって、とても思い入れのある作品となりました。それもこれも、読んでくださり、応援してくださった皆様がいてこそ、だと思っています。
しつこいようですが、本当にありがとうございます!
続編「特級ギルドへようこそ!〜看板娘の少女はエルフ〜」
は、開始次第、また近況ノートなどで宣伝いたします。その際はぜひ、お付き合いください!
では、また皆さまとお会いできる事を祈って。
阿井 りいあ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます