精霊紹介


「この子が僕の精霊、ヒロだよ」

『はじめましてー、ヒロですー』


 とある休日の午後。そういえば、精霊たちの紹介をしてなかったよね? と気付いた私とロニーは、ギルドの裏庭で互いの子達を紹介し合っていた。

 まずは姿が見えるように、何の精霊かを言い当ててから。ロニーの精霊は大地の精霊って聞いてたからすぐにその姿を現してくれたよ!


 クリクリとまん丸な目が可愛いリスみたいな姿の子、ヒロくんは、どこかのんびりした口調だ。性格ものんびりさんなのかな?


「はじめまして、ヒロくん。私はメグ! この子はね……」

『ショーちゃんなのよー!』

『はーいっ! アタシはフウだよっ』

『オレっちはホムラなんだぞ!』

『皆、慌てすぎなのだ。まったく……妾はシズクなのだ。よろしく』


 そしてうちの子も紹介をー、と思ったんだけど、自己主張の強いみんなは我も我もと勝手に自己紹介を始めてしまった。しゅ、主人としての面子が……!


「ふふ、みんな元気だね? 僕は、ロナウド。よろしくね」

『知ってるのよー! ロニーなのよ!』

『ロニーねっ』

『おう、ロニーよろしくなんだぞ!』

『よろしくなのだ、ロニー』


 おおう、賑やかだ。精霊が見える人っていうのは貴重だから嬉しいんだろうな。魔力を使えば、誰の目にも見えるようにはできるけど、余程の理由がないとそんなことしないしね。

 あ、ってことはヒロくんも、他の人と話せて嬉しいとか思ってくれてるかも。よし、ちょっと話しかけてみよう。


「ヒロくん、あの時は助けてくれてありがと! みんなを足止めしてくれたでしょ? すっごい魔術だったね!」

『えっ、えっとー、うんー、そのー、でも、真名を呼ばれたからー。それにー、ちょっとだけだったしー……』


 お礼を言われたのが意外だったのか、ヒロくんは恥ずかしそうにモジモジしつつ、大きな尻尾を抱えるように抱きしめている。か、可愛い……!


「それでも、すっごく助かったもん。本当にありがとう!」

『ふあ……え、えへへー。どういたしましてー』


 指の背でそっとヒロくんの背中を撫でると、嬉しそうに目を細めてくれる。うわぁ、可愛い。モフモフ。癒しだ。究極の癒しである!

 実際、あの時助けてくれなかったら、今頃私は腕がなかったからね? そう考えると背筋が冷える。


「メグは、本当にたくさんの精霊と、契約してるんだね?」

「あ、そうなの。ちょっと聞こうと思ってたんだ! 普通は、1人につき精霊も1体だって言ってたけど……本当?」

「んー、普通はって言われると自信がなくなる。僕は、鉱山の中でしか生きてきてないから。少なくとも、鉱山ドワーフは、1体か、多くて2体だった」


 それもそうか。普通は、なんて言われてもわからないよね。私もロニーも、狭い世界で生きているわけだし。


「精霊たちに聞いた方が、いいんじゃない?」

「あ、そっか!」


 確かにその方が一般的な数がわかりそうだ。そう思って、ショーちゃんに目を向けると、ショーちゃんは自信満々で胸を張っていた。やる気だ……!


『ご主人様の聞きたいことはなんでもお見通しなのよー! ショーちゃんに、お任せ!』


 すると、なにやら講義を始めるかのように、私たちに並んで座れと指示を出すショーちゃん。私もロニーも、言われるがままに芝生の上に座る。あ、体育座りですか? 拘るなぁ。精霊たちもちょこんと並んでお座りしている。……やっぱり可愛い!


『おほん! では説明するのよ! 先にけつろん・・・・から言うと、種族や個体によって違う、っていうのがせーかいなの!』


 ショーちゃんはおぼえた、ほんの少し難しい言葉を使いながら、説明し始めた。うんうん、可愛いよ、すごいよ、ショーちゃん!


『ドワーフは種族柄、頑丈だし、たくさんの精霊と契約するひつよーがないのよ。だから、基本は1体か2体になるの! エルフは自然と共にある種族で、他の種族より身体の作りは弱いの。だから、多くの精霊の力を借りられるのよー!』

「えっ!? エルフって、身体が弱いの?」


 初耳だ。だって、シュリエさんとか、魔術を使わなくても体術もかなりの腕前だって聞いたよ?


『ギルドのエルフは、とっても努力したのよ? でも、身体を使った後は、たっくさん寝てるはず。他の亜人に比べて、寝る時間は多いと思うのよ? ご主人様だって、いつも眠いでしょー?』


 確かに……! 私はまだ子どもだし、軟弱だし、疲れやすいからたくさん寝ちゃうんだと思ってたけど……そもそも種族柄、身体が弱いから、寝ることで無意識に回復してたんだ。目から鱗! シュリエさんがたくさん寝てるかどうかはわからないけど、ショーちゃんが言うならそうなんだろうな。ほえー、知らなかった!


『その分、エルフは魔力が多い種族。扱うのも誰よりも上手なのよ? だからご主人様も、身体を鍛えるより魔術を鍛える方が得意なの!』

「うん、それは薄々わかってた」


 そうかー。これで、私とロニーの普通が違う理由も納得だ。どちらも正解だったんだね! ロニーと顔を見合わせて頷きあった。


「でも、身体も鍛えておかないとね。弱点を突かれたら、すぐ負けちゃうようじゃ、オルトゥスのメンバーとしては不十分だもん!」

「ん、僕も。身体だけじゃなくて、魔術も鍛えなきゃ。もう1体くらい、精霊とも契約したい、なぁ」


 私とロニーは得意分野と苦手分野が綺麗に真逆なんだね。これって、お互いに教えあえたりしないかな? もちろん、それぞれ有能すぎる師匠がいるわけだけど、こうしてお休みの日にも、情報交換できたりしそうだよね!


『それなら、ロニーにぴったりの精霊がいるのよー!』

『アタシも知ってるっ! きっとショーちゃんが言ってるのと、おんなじ精霊だよっ』


 すると、ショーちゃんとフウちゃんがそんな事を主張し始めた。なんて幸運。相性が良さそうなのって、精霊同士わかるものなんだねぇ。


『草花のか。少し臆病だが、知識は豊富なのだ。ロニーなら、打ち解けると妾も思うのだ』

「シズクちゃんも知ってるの? ホムラくんは? 知ってる?」


 草花の精霊か。みんな知ってるならホムラくんも知ってるだろうと思って聞いてみたんだけど……


『お、オレっちは、隠れてる……あの子は、オレっちがいると、怖がって逃げちゃうんだぞ……』


 そう言って真っ赤な尻尾をしょんぼりと下げてポツリと呟いた。そ、そっか。草花に火は禁物だよね。


「だ、大丈夫! 慣れればホムラくんが優しい精霊だってわかってもらえるよ!」


 あまりにもしょぼくれているので、元気付けてみた。ホムラくんが目を輝かせて顔を上げる。よしよし、いいぞー!


『でも、ロニーと契約するまでは隠れててっ! 怖がって契約できなくなっちゃうもんっ!』


 けど、続くフウちゃんの遠慮のない物言いに、再びしょんぼりうな垂れてしまった。あーっ! ホムラくん、元気出して!


『今から行けるよっ? 行くー?』


 そんな様子を気にかけずに問いかけるフウちゃん。案外、ガンガン系よね、フウちゃんたら。悪気はないんだろうけど!


「ん、行ってみる。メグ、いい?」

「もちろん! 精霊たちが行くなら、私も行くよ! 善は急げっていうしね!」


 こうして、私たちは立ち上がり、草花の精霊の元へと向かうこととなった。

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