引率者ジュマ


「よっしゃ、オレに任せとけよお前らー!」

「声が大きいよージュマ兄っ」


 現在、私、ロニー、そしてジュマ兄の3人で、街の外にある森へと向かっております、どうも。なぜこんなことになったのかといえば、まぁ、たまたまというか、なんというか。


「街の外の森に行くの? 2人で? うーん、森には魔物も魔獣もいるし、2人だけっていうのはちょっとね……」


 ショーちゃんによると、草花の精霊は街の外にいるとのこと。さすがに黙って行くのはよくないよね、ってことで私たちはまずサウラさんに相談しに行ったのだ。すると、今はみんな仕事で出掛けていて、空いてる人がいないのよねー、と悩み始めたのだ。な、なんかすみません。

 気持ち的にはまた後日、と言いたいところだったんだけど、精霊の契約っていうのは不思議なもので、今だ! と思ったらすぐに行かないと縁を逃してしまうのだ。だから、ロニーのためにもぜひ今行っておきたい。


「ふー、たっだいまー! 今日も大量、大量ー!」


 と、そこへギルドのドアを豪快に開けつつ戻ってきたのが……ジュマくんだった。


「ジュマ、ジュマかぁ……うーーーーーーーーーーん……」


 その時のサウラさんは、今まで見たこともないほど、苦悶の表情を浮かべておりました。そんなにか。


「し、仕方ない……万が一でも、メグちゃんとロナウドを危険な目に遭わせるわけにはいかないもの……」


 背に腹はかえられぬ、とはまさにこの事! 決断するだけで少しやつれたように見えたサウラさんは、力なくジュマくんを呼んだのである。


「絶対、余計なことをしないこと! あんたは黙って、2人のことを後ろから、見守ること! いいわね!?」

「わーってるわーってる! まかせとけって! ほら、さっさと行こうぜー!」

「後ろからって言ってんでしょ!? はぁ、もういや……」


 先陣切って先を行くジュマくんの後を、私たちはついて行くしかなかった。ジュマくんは人の話を聞かない……知ってた……




 こうしてジュマくんを先頭に森へとやってきた私たち。ちょっぴり不安だったけど、護衛としてはジュマくんはかなり優秀だということがわかった。


「行きたい方角言ってくれー」

「えっと、もっと奥。北西の方角だよ」

「ん、わかった。オレの後ろからついて来いよ? 道が逸れたら教えてくれ!」


 そんな感じで先頭は譲らなかったから、どうしてなのかな? と思って聞いてみたのだ。すると。


「だいたいどっちに魔物とか魔獣がいるかわかるんだよ。メグはまだちゃんと覚醒してない魔王の子だろ? 魔物を跳ね除けられねーし、魔獣は関係なく襲ってくる。獣だしなー。 危ねーモンには近付かないのが1番だろーがよ」


 おっしゃる通りで! ビックリしたよ、ジュマくんがまともで! いや、その言い方は失礼だけどさ、基本的に抜けてるジュマくんだけど、戦闘とかこういうお仕事に関してはプロなんだなって思い知ったというか。


「ジュマ兄、頼もしー!」

「そうだろ、そうだろ! 兄ちゃんはすげぇんだぞ、メグ!」


 嬉しそうに犬歯を見せて笑うジュマくんはちょっぴりお調子者だけど可愛かった。


「ん、ジュマさん。もっと西の方に行きたい。あと、ちょっと様子がおかしい……?」


 歩き続けること10分ほど。方角がズレてきたと、案内係のショーちゃんやフウちゃんがそう言うので、ロニーがそれを伝えた。精霊たちみんなが、なんだか怖がってる気もするから、それも一緒に伝えてみる。


「お、よくわかったな。あっちの方にはちょっとデカめの魔獣がいんだよ。でも、あっちなんだな?」

「うん。魔獣……僕、直接は見たことない」


 なんと、魔獣がいるんだね。実は私もちゃんと見たことはない。ダンジョンにいたボスっぽいライオンみたいな魔獣は昔見たことがあるけど、それ以来だ。


「おぉ、初めての狩りってわけか! なら、オレが狩るのをしっかり見とけよ? いつもよりゆっくりやってやるからよ」


 ジュマくん曰く、その魔獣がこの森では強者だから、周囲に他の魔獣はいないらしい。だから安心して少し離れてついて来い、と言う。安心して強い魔獣の元へ向かうというこの矛盾。まぁ、ジュマくんの様子からしても、余裕なんだろうことがわかるけど……


 ちょっと怖いけど言われた通りにするしかないので、私もロニーもジュマくんから少し離れてついて行く。出来る限り気配を消せとのことなので、修行も兼ねて息を潜めた。

 精霊たちは怖いのか、それぞれ魔石の中に避難してるみたい。人間の大陸に行った時から、この子達は魔石の中がお気に入りのようだ。呼べばすぐ私の元に来られるんだから、他の場所に行ってきていいのに、そんなの冒険じゃないのよー、とショーちゃんに怒られてしまったのだ。な、なるほど?




 しばらく進むと、ジュマくんの言ってた通り、大きめの魔獣がお食事しているのが見えてきた。当然、何か他の獣を召し上がっているのだろう。遠目だからよく見えないけど、よく見えなくてよかったと思う。慣れてない光景だからね。でも血みどろなのはわかる……! 弱肉強食だから仕方ないけど!


「キメラか……まぁ、いいや。解説しながら討伐すっから、そこから見てろ」

「解説って……聞こえないんじゃ」

「メグの精霊がいんだろ? じゃ、しっかり学べよー!」 


 確かにショーちゃんなら声を拾えるけど、丸投げかーっ! しかも、私たちの勉強と言いつつ討伐するのが楽しみで仕方ないって顔になってるよ? 狩りをする前の鬼の形相はなかなか迫力あるよね!


「わ、すごい」


 そして、あっという間に空を駆けるジュマくんを見て、ロニーが呟く。まるで、空も地面の一部とでも言うような動きだ。そこかしこに見えない壁があるみたいっていうか。

 私の少ない語彙力ではうまく言えないんだけど、とにかく自由に跳び回って移動するジュマくんの闘い方は、大迫力だ。


 魔獣に気付かれないように近付いたジュマくんは、収納魔道具から取り出したであろう、本人の背丈より大きな剣を片手で振り上げた。なんであんなの片手で振り回せるのか不思議で仕方ない。


「どんな魔獣も出来れば一撃で倒したいってのが本音なんだけどよ、それじゃ勉強にならねーからな! まずは急所っぽい目だ!」


 ショーちゃんによってジュマくんの声がリアルタイムで届けられる。目視出来るから、かなりスピードを落として動いてくれてるのだろう。おぉ、ジュマくんたら、ちゃんと私たちのために考えてくれてるんだね!


 大剣で軽く小突き、こちらに魔獣が振り向いたところで、ジュマくんがすかさず大剣の柄の部分で魔獣の目を突いた。


「ブモォォォォォ!!!!」

「と、まぁこんな風に、むしろ余計暴れてちと危ない。だから目を狙うのはやめた方がいいぞー」


 猪のような姿の魔獣が目をやられたことで、叫びながらあちこちに突進して回っている。すっごい暴れてるぅ……!

 たしかにこれだけ暴れられちゃ、迂闊に近付けないし、遠距離攻撃も当たりにくくなりそうだ。


 次第に興奮が収まったらしい魔獣が、ものすごい形相でジュマくんをロックオンし始めた。立派な牙も生えてるし、元々すごい形相ではあるんだけど、気迫っていうのかな? 魔獣からはコイツ、敵! みたいな怒りの雰囲気が伝わるのだ。怒ってるぅぅぅ! 思わず隣にいるロニーの腕にしがみつく。


「大丈夫?」

「だ、大丈夫! で、でもちょっぴり腕貸してぇ、ロニーぃ……!」

「ん、いいよ。いくらでもどうぞ」


 ロニーはあまり怖いと思っていないのか、ずいぶん余裕があるようだ。初めて見るっていうのにすごいよ! 驚いてるよ? とは言ってるけどそんな風には見えないからね、ロニー?


 こうして、ジュマくんの実戦付き指導はさらに続いた。意外と勉強になるから、怖がってないでしっかり見なきゃ!

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