今後の予定


「リヒト! ロニー!」

「メグ!」

「メグ、おはよう」


 朝食を終え、着替えも済ませた私は、約束通り2人に会いに来た。それぞれ別々に個室で過ごしていたみたいだけど、私が会いに来るという事で2人ともリヒトの部屋で待っていたみたいだ。


「久しぶりに見たなその配色。なんか違和感あるなー」

「髪と目の色のこと? でも、これが私にとっての普通なんだよ?」

「わかってるけど、見慣れた色と違うとやっぱ、な」


 その気持ちはよくわかる。私もさっき鏡見た時変な感じしたもん。初めてこの姿を見た時ほどの衝撃はなかったけど、違和感は確かにあった。



「やっぱり、まだ、歩けない?」


 ギルさんに抱えられ、そっとソファに下ろされた私を見て、ロニーが心配そうに聞いてきた。


「うん、昨日起きたばっかりだから……でも20日も寝てたなんて、すごくビックリした! リハビリ、がんばる!」

「ん、メグなら、すぐ。僕も、リハビリ付き合う」


 ロニーは5日ほどで目を覚ましたんだって。ドワーフは丈夫さが取り柄なんだとか。それでもすごい。あれほどの火傷を完治させる治癒力を、メアリーラさんの力で促進させたのに。だから、今では元通り動き回れるんだって。リハビリも終わっているとは!


 リヒトはというと、私より4日前に目覚めたんだそう。だからまだリハビリの途中で、ゆっくりしか歩けない、と話してくれた。傷は綺麗に治ってるみたいだけど、やっぱりその分体力を使ったって事だよね。ああ、私が一番お寝坊さん……!


「部屋も隣だし、僕は元気だから、リヒトの部屋に、来た」

「なるほどー!」

「しかし、思うように動けないって辛いのな? こりゃ修行もやり直しだな」


 リヒトも私と同じような事を考えていたらしい。私たちは3人で笑い合う。それから……揃って顔を曇らせた。

 思い出すのは、ラビィさんのことだから。


「再会の挨拶は済んだかい? それなら、3人揃ったところでこれからの事について、話しておこうか」


 押し黙った私たちを見て、一緒について来てくれたルド医師がそう切り出した。……のだけど。


「はいはーい! その役目は私がやるわよーっ!」


 バーン! と扉を開けてやって来たのはサウラさんだった! ああ、眩しい。サウラさんのサバサバっぷりが久しぶりで眩しいっ!


「わかってるよ。最新情報もあるんだろう?」

「あら、良くわかってるじゃない。そういう事。ルドもそこで少し休むといいわ。大丈夫、この子たちの体調に何か異変があったら遠慮なく叩き起こすから」

「……そこはちょっと、気遣いを見せてくれてもいいんだが」


 容赦ない感じも久しぶりだ。うん、それがサウラさんである!


「ち、小さい美女だ……」

「小人、族……?」


 あ、リヒトもロニーも小人族は初めてなのかな? 目を白黒させてサウラさんを見ている。まぁ、性格も強烈だしね。でもとっても良い人なんだよ!


「んふふっ、美女だなんて嬉しいわね! 2人とも小人族ははじめて? 私はサウラディーテ。ギルドの統括を務めてるわ。気軽にサウラって呼んでちょうだい」


 サウラさんの自己紹介を聞いて、2人もそれぞれ簡単に名乗って挨拶をする。どことなく緊張した様子だ。わかるよ、サウラさんを前にすると何となく背筋が伸びるのだ。


「さて、まずは人間の大陸に行く日程だけど……これはね、実は出来るだけ早くって言われているの」


 サウラさんは腕を組んで説明し始めた。人間側はやはり、示しがつかない云々の事情により、罪人は早めに裁く必要があるんだとか。人間っぽい理由だよね……しがらみとかも多そうで面倒だけど、それが人間だし、人数が多すぎる分、そういう対応も早くしていかないとゴタゴタが増えてしまうのだろう。皇帝さん、大変だ!


「けどもちろん、あなたたちに無理はさせられないからね! 少なくとも、メグちゃんの食事が通常食に戻るまで待ってもらうつもりよ。でも逆を言えば、回復したらすぐ向かうって事よ。大丈夫かしら……?」


 無理そうなら誤魔化すわよ? と平気で言ってのけるサウラさん。やだ、男前。でもそれは大丈夫!


「私も、早く行きたいからそれで大丈夫です!」

「ま、そう言うと思ったわ。なら、メグちゃんの体調管理はギルに任せましょう」

「問題ない」


 そう、心強いギルさんがいるんだもんね! ただ過保護になりすぎないよう、注意が必要である。


「それからロナウド。貴方は鉱山までは送ることができるけど、そのまま一緒に行けるかはわからないわ」

「え……?」


 サウラさんがロニーに向き直って、眉を少し下げながら告げる。何でも、ロニーの父親がそれを許さないだろう、と言うのだ。えっ、ロニーってば鉱山ドワーフ族長のひとり息子だったの!? 知らなかった……


「貴方をここまで連れてくるのだって、かなり苦労したそうよ? アドルが強気で交渉してくれなかったら、今頃まだ傷痕もそのままだったわよ?」


 サウラさんはニヤリと笑ってあらましを教えてくれた。


『元気な姿の息子を連れてくる約束だっただろ!? お前らは約束を守れなかった。二度と転移陣は使わせない』

『その通り、私たちの役目は元気な姿の息子さんを連れてくること。その為に我がギルドで傷を完璧に治し、お連れします。約束はまだ継続中なんですよ。私たちは一言でも完了しました、と言いましたか?』

『ぐっ、ぬ……!』

『ああ、それから治療は代金が発生します。親として、払わないとは言いませんよね?』

『な、いや……』

『代金は、事件が完全に解決するまで、転移陣の使用を何度か許可してもらう事で結構です。転移する時の魔力は自分たちで賄いますし、安いくらいですよ?』

『いや、それはさすがに……!』

『おや。それならお金で払ってもらうことになります。大体……このくらいですが』

『っ!? ちっ、わかった! さっさと約束を果たせ!!』


 アドルさんすごい……というか話の進め方がサウラさんっぽい! さすがはサウラさん一押しの人材である。


「とまあ、そういうわけで、貴方を人間の大陸内まで連れ回すことまではできないの。ごめんなさいね」


 サウラさんの言葉に、気持ち肩を落とすロニー。けどさすがはサウラさん。それだけじゃ終わらない人である。


「だから、説得は自分でなさい」

「!」

「貴方には自分の意思がある。そうでしょ? 父親だから、族長だからって、なんでもハイハイ言うこと聞くのが息子の仕事なの?」


 どうやら、ロニーの家庭事情には色々あるっぽいなぁ。ロニーのお父さんは、うちの保護者たちとは少し違うタイプの過保護なんだ、きっと。


「貴方が、着いて行きたいと思うなら。自分の力でなんとかするのよ。簡単よ? 喋ることのできる口があって、意思も固まっているなら、ね!」


 サウラさんの激励を聞いて、ロニーからはなんだか吹っ切れたような清々しさが漂っている。表情も明るい。


「……うん、わかった。自分で、言います」

「ふふ、そうこなくっちゃ。健闘を祈るわ!」


 ロニーの力強い返事を聞いて、ニッコリと笑ったサウラさんは、その小さな手でロニーの肩をポンポン叩いた。

 私も応援する! ロニーの説得がうまくいきますように、と心の中でしっかり祈った。

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