2度目の旅立ち
リハビリの日々が続くこと大体1週間ほど。私の食事はついに通常食に戻り、少しの距離なら何かに掴まれば歩けるようになった。すぐ疲れちゃうけど、ここは頑張りどころだと思う。子どもの回復力、素晴らしい。
ロニーはもう以前と変わりなく生活出来ている。さすが丈夫なドワーフ! でもリヒトはまだ少し疲れやすいようだ。そこで、人間の大陸に向かう旅に、急遽もう1人付き添うことになりました!
「なんでケイなんだよっ! 護衛ならオレだろぉっ!?」
「ダメに決まってんでしょ、このバカ鬼! あんたみたいな歩く災害、おっそろしくてとても人間の大陸に放り込めないわよっ」
ギルドのホールに着くと、ジュマくんが吠えているのをサウラさんが調教しているところでした。
いや、だってなんか網の中に捕縛されてるんだよ……もがいて出てこようとするジュマくんだけど、余計に絡まってどうしようもないことになってるし。あれだ、不審者撃退グッズみたいだ。
ちなみにサウラさんは目の前で椅子に座り、足を組んで優雅にお茶を飲みつつ説教している。……いや、調教中かな?
「シュリエは自然魔術の使い手だから不向きだし、ニカはガタイが良すぎて人間を驚かせてしまうだろうし。女の子はメグちゃんしかいないし、ここは女の子のケアも完璧で実力もあるケイが適任よ」
「んーボクのこと、そんな風に評価してくれるんだね、サウラディーテ。光栄だよ」
「1番マシだっただけよ。消去法! 近付くんじゃない!」
ケイさんはつれないなぁ、とサウラさんに流し目を送りながらも穏やかにフワフワ笑っている。相変わらずである。
「……女の人、だよなぁ?」
そんな光景を見ていたリヒトが、小声で私に聞いてきたので、私は迷いなく答えてあげた。
「ケイさんに性別という概念は存在しないんだよ。ケイさんはケイさん。おーけー?」
「……おっけ。何となくわかった」
理解が早くて何よりである。リヒトの脳内には今、男、女、中間、ケイさん、という分野が追加されただろう。ちなみに、シュリエさんの事はすでに、しっかり男性だと強調して伝えてある。その姿を見て私の言葉を反芻し、これまた深く頷いたリヒトはやはり順応性が高い。お姉さん助かります。
「それにしても、メグちゃんとあなたたち、本当に仲が良いわね。ロナウドは今後の動き次第だけど……リヒトは特に行き先がないんでしょう? カタがついたらどうするつもり?」
「そ、それは……」
サウラさんの口ぶりからすると、たぶんギルドに来たいなら話を聞く、という意味だろうと思う。さすがにオルトゥスの仲間に入るのに、サウラさんの一存じゃ決められないもんね。つまり、誰の許可が必要かっていったら当然、
「あのね! リヒトはちょっと特殊なの。それを説明しなきゃいけないんだけど、最初に話すのはお父さんがいいかなって思ってて……」
「特殊? 最終決定は
サウラさんが首を傾げてそう聞いてくる。話を聞くということは、頭から拒否するつもりはないってことだよね。それが知れただけで少し安心。でも元日本人という事情はやっぱお父さんに最初に話した方がややこしくならないと思うのだ。私は一生懸命訴えた。
「そうしたいんだけど、やっぱり順序があるかなって思って。だって私……リヒトには、私の家族になってほしいんだもん!」
私がそう叫ぶように言うと、なぜかホール内が静まり返った。そこまで大きな声で叫んだわけじゃないと思うんだけど、妙に声が響き渡ったのだ。え? 何?
「順序……?」
「メグちゃんが……?」
「家族に、したい、相手……!?」
次第に、ザワザワとし始めるみなさん。なんで? なんか変なこと言ったかな? だってオルトゥスのみんなは、仲間になったら家族みたいな存在になるよね?
「め、メグ……気持ちはすげぇ嬉しいけどさ、ちょぉぉぉぉっと誤解を招く言い方だったと思うんだ……?」
「誤解? どうして? リヒトは家族になりたくないの?」
引きつった顔でリヒトが冷や汗を流しながらそんなことを言うので、ちょっぴり寂しくなった私は頰を膨らませてリヒトに聞く。
「痴話喧嘩……?」
「なんだよ、メグの誘いを断る気かあの小僧……」
「ちょっ! ま、待てメグ! 俺は今! この人たちに盛大に勘違いされている気がしてならない!」
ますます焦ったように後ずさりまでし始めたリヒト。全く意味がわからない。勘違いもなにも、言葉通りの意味にしか取れないよね? うーん、不思議だ。思わず首を捻ってしまう。ロニーも苦笑を浮かべているし。わからないのは私だけ? そう思って隣に立つギルさんを見上げた。ギルさんならわかってくれてるはず!
「……ギルさん?」
返事がない。立ったまま眠っているのかと思うほど微動だにしない。あのギルさんが!? 本当に何事!? 私だけが気付いてないだけで、実はとんでもないこと言っちゃってた?
困り果てた私は助けを求めるように今度はケイさんを見上げた。すると、どこか哀れむような真剣な眼差しで私を見たケイさんは、私に目線を合わせるように膝をつく。それから私の両肩に手を乗せて、諭すように語り始めた。
「メグちゃんの気持ちは尊重したいけど……人間が相手っていうのは、辛い思いをすると思うよ……?」
「だから! 違うから! ちょっとは俺の話聞いてくんない!?」
しかし、横からリヒトが大慌てで入ってきた。だから何をそんなに慌てているのか。そんなリヒトの肩に、ポンと手が置かれた。あ、ギルさん。動けたのね?
「……じっくり、聞こう」
「ひっ……は、ハイ」
地を這うようなその声に、リヒトは全身を震わせて返事をした。見ればその光景を見て、ざわついていた他のみんなも、やけにニコニコしている。なぁんだ、よかった。さすがはギルさん。見事に解決してくれたようだ。私はホッとしてみんなと一緒にニコニコ笑った。
「……えらい目に合った…………」
その後、せっせと旅の挨拶をしていると、ヘロヘロになったリヒトがギルさんとともに戻ってきた。どこへ行ってたんだろ? どちらに聞いても答えてくれない。男同士の話だってさ。ふーん。へー。
「ギルさんと2人でお話、ずるい……」
「……な? 全く問題ないでしょ? コイツが1番好きなのはギルさん!」
なにそれ? そんなの当たり前でしょ! 命の恩人でパパなんだから。だけどリヒトの言葉に少し照れたように顔を背ける可愛いレアギルさんを見られたので許そうと思います!
「もう嫌……メグ、お前愛されすぎ……」
「なんでリヒトが疲れるの? 確かにみんな過保護すぎるとこはあると思うけど……」
「あ、もういい。お前に聞いた俺がバカだった」
「リヒト、お疲れ。愚痴なら僕が、聞く」
「ロニーぃぃぃぃぃぃ!!」
今度はロニーと仲を深めている。男の子って、よくわからない。
「じゃあそろそろ行こうか。ギルナンディオ、よろしく頼むよ」
「ああ」
こうしてホールにいるみなさんに行ってきますと告げた私たちは外へ出る。するとそこには見覚えがありすぎる籠が! でも少し大きめ!
「みんなまとめて鉱山まで運ぶ。乗れ」
みんなまとめてコウノトリだー! ケイさんは、これ乗ってみたかったんだよね、と嬉しそうだ。ギルさんは微妙な顔してるけど。
私ももう、影鷲なギルさんには騎乗できると思うんだけど、なんせリハビリ途中のヘナチョコだからね。リヒトも無理は出来ないし、ここは大人しく籠に揺られることにします。ああ、羽毛なギルさんに直接乗って飛ぶ夢が。
……ううん、こんな浮かれた気分じゃダメだ。私たちはこれから、
どんな様子でも、しっかりと見て判断しなきゃいけない。大丈夫、心はきっと耐えられる。みんな一緒なら。
顔をペチペチと叩いて気合いを入れ直したところで、私たちは籠に乗り、ギルさんが飛び立つ。まずは、ロニーのお父さん説得大作戦だ!
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