不穏な足音
大都市に到着
大都市ウーラ。巨大な国トルディーガの代表的な街の1つなんだそうな。東西南北、それと中央の王城がある都に次ぐ有名な街で、全国から寄せられる色んな食材や調味料、調度品や服飾などなど、とにかく色んな物が集まる街なんだって。5つの都より発展していて賑わっている印象があるってラビィさんが言ってた。でも……
「そ、そんなに大きな街なら、その、検問をくぐり抜けるのって大変なんじゃ……」
私のイメージ的にはもっとこう、少し大きな街程度だったんだけど!? めちゃくちゃ大きな街じゃないかー! というか大都市って呼んでる癖にあくまでここは街とか詐欺じゃない? そんな感じのことを立て続けに訴えると。
「んー、5つの都はもっと大きいからね。賑わっているのは確かだけど……広さ的には街なんだよ」
「んで、街だから検問もその程度って事なんだよな?」
それでいいのか大都市ウーラ! そう思って愕然としていたら、ラビィさんから補足情報が。
「でもここは、街の出入りは簡単だけど、あちらこちらで衛兵が見回っているから悪さは出来ないんだよ。問題が起きたらすぐしょっぴかれるのさ」
なるほど。しかも衛兵たちはかなりの手練れ揃いなんだとか。それで治安が良く保たれているんだねぇ。え、でもそしたら私たちもすぐにバレちゃうんじゃ……
「東の王城の噂がどこまで広まってるかっていうのと、ここまで御触れが回ってるかどうかっていうのもあるから、なんとも言えないね。でも、大騒ぎしたり暴れたりしなきゃ大丈夫だと思うけどねぇ」
だからこそ、旅の疲れが出たという事にして、宿泊先で大人しくする作戦じゃないか、とラビィさんは言う。そういえばそうでしたね……!
それにこの都市は、鉱山へ向かうなら必ず立ち寄らなきゃならない場所になる。街が行き先を塞いでるような感じで存在しているからだ。だから街への出入り口は複数ある。私たちは東側から入って南側から出なきゃいけないんだって。ほへー。
「さあ行くよ。リヒト、準備はいいかい?」
「おう。いつでもいいぜ!」
うぉぉぉ、犯罪者への道に、今!
みんなでリヒトに捕まり、それを確認したリヒトは転移! と唱える。声に出した方がイメージしやすいんだって。
ギュッと目を瞑ると、膨大な魔力を肌で感じる。そして次の瞬間感じる浮遊感。……浮遊感!? またこれぇっ!?
「う、あ、あれ?」
尻餅コース不可避だと思って覚悟を決め、身体を固くしていたんだけど、予想していた衝撃を感じない。不思議に思って恐る恐る目を開けると、なんと私はお姫様抱っこされていました!
「あたしは、リヒトの転移にそこそこ慣れてるからね」
ああ、もう、ラビィさん素敵っ! その横ではぐったりしたリヒトが膝をつき、見事に着地を決めていたロニーがリヒトを介抱していた。ああ、私ってば1番情けない!
「さ、何事もなかったように歩くよ。リヒト、すぐ宿を探すから少し我慢してな」
「お、おう……」
前回の時に比べてラビィさん1人分増えたからか、あの時よりリヒトはぐったりして見えた。うぅ、心配だなぁ。具合が悪いという事にして宿に籠る予定でいたけど、実際具合が悪いっていうのもなんだかな……
リヒトの左側からロニーが支えて歩いているので、私も微力ながら、右側から支える事にした。
「こ、こんなちっこい子に支えられるなんて……」
私の親切心と年頃の男の子のプライドがせめぎ合っているようだ。けど、振り払いもせずにされるがままになっているので、私の親切心を受け取ってくれた模様。リヒトって、やっぱり優しいよね! すぐからかおうとしてくるけど。よぉし、頑張ってリヒトを宿まで連れて行くぞ! 私はやる気に満ち溢れていた。
街の中はやはり、それなりに人が多い。人がいないところを探す方が難しいくらいだ。
ちなみに転移した先は、リヒトが着地点に人のいない場所をイメージしたから誰もいない路地裏だったけどね! その指定が余計に魔力を消耗させたのかもしれない。うぅっ、でも助かったよ!
そしてチキンな私は、現在ビクビクしながら歩いております……! これ、挙動不審になっちゃってないかな? そうは思ってもビクビクはしてしまう。だって、今更ながら検問をせずに街に入った事が怖くなっちゃったんだよ。私に悪事は向かないな……すぐバレちゃう。
「まぁ……初めての人混みに狼狽える田舎の娘には見えるかもしれないね」
田舎娘! いわゆるおのぼりさん。う、うん。それでお願いします……
「田舎娘にしては、身なりが整いすぎてねぇ?」
「大事に育てられた、お嬢様?」
「それにしちゃ、お供がお粗末でしょ。あたしも含めて、ねぇ?」
あ、あれ? 3人ともなんだか落ち込み始めたぞ。なぜ!?
ひとまず私は田舎の少しお育ちの良い幼女で、おのぼりさんという設定に落ち着いた。ってか、この設定が必要な時ってくるの……?
「よし、問題なく2部屋取れたから、荷物を置いてひと休みしようか」
適当な宿を早々に見つけて立ち寄ると、ラビィさんが慣れたように手続きを済ませてくれた。この前宿泊した時と同じように2人ずつに別れて部屋に移動する。今回は小さな廊下を挟んだ向かい側にリヒトとロニーの部屋があるみたい。リヒトはまだ調子が悪そうだから、ゆっくり休んでほしいところだ。ロニーが付いていてくれるっていうから安心だね!
「さて、あたしは少し聞き込みをしてくるよ。夕飯の前には戻るから、メグはこの部屋か、リヒトたちの部屋から出ちゃダメだよ?」
「わかりました! でも、ラビィさん休まなくて大丈夫でしゅか……?」
ただでさえ旅で疲れてるのに、合間に私たちの特訓に付き合ってくれたりして……気苦労だけで結構な疲労が溜まってるはず。だから心配になってしまうのだ。
「ふふ、早めに戻って夕飯食べて、今日はゆっくり寝るつもりだから大丈夫さ。それに、少し動いてないと落ち着かない性分なんだよ」
ありがとうね、とラビィさんは私の頭を撫でた。うーん。でも確かに動いてないと落ち着かない人種っていうのはいるんだよね。サウラさんなんか、そうなんじゃないかなぁ。
まだやっぱり心配だけど、早めに帰ってくるって言うんなら引き止めても良くないよね。情報を集めるのも大事な事だし、私が手伝おうと思っても、自然魔術が使えない今は足引っ張るだけになっちゃうし。くすん。
渋々ながらも私は頷くと、ラビィさんは笑顔で行ってきます、と部屋を出ていった。何事もなく帰ってきますように!
気分転換に楽な服に着替えた私は、1人で待っていてもなんなので、リヒトたちの部屋へ向かおうと足を向けた。けど、そんな時だ。
「ぐぅっ……!」
「カイザーさん!」
「大したことない! 先に行け! すぐに後を追う……!」
「くっ、はい! わかりました!」
窓の外からそんな慌ただしい声が聞こえてきた。……当然気になるよね。外に出なければいいんだから、窓から様子を見るくらいは許されるだろう。それでも念のため、誰にも見られないようにそぉっと窓の外を覗いた。そしてその光景に息を飲む。
「ケガ、してる……!」
宿のすぐ前の路地で、騎士のような格好をした男の人が膝をつき、腹部から血を流しているのが見えたのだった。
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