sideサウラディーテ2
「来たわよ! 転移陣の解析結果!」
見たこともない転移陣の解析なんて、それこそ30日程はかかるような仕事なのに、それをたった3日でやってみせるなんて……ミコラーシュの本気を見たわね。今は夜になってしまったから、持って来たのはミコだけれど。
私が声を上げると一斉に注目を集めた。もちろん、近くに寄ってくるのは実力者のみ。つまりいつものメンバーね。その辺り、ギルドメンバーは心得ている。聞きたい気持ちはあるものの、邪魔をしてはならない、と。
「すぐに本題に入るわよぉ。これはねぇ、簡単に言うとぉ、一定以上の魔力を持つ子どもを呼び寄せる転移陣なのぉ。一定以上っていうのはぁ、一般的な大人と同程度くらいって思ってもらっていいわぁ」
「……それならメグちゃんも対象になるね」
軽く殺気を纏わせながらケイが言う。殺気を纏っているのはケイだけじゃないけどね。
「それで? 発動場所は? 呼び寄せの転移陣ということは、そこにメグがいるということだろう?」
ルドが冷静に先を促す。それでも静かな怒りを感じるわ。無理もないけれど。
「その通りよぉ。そしてぇそれが大問題なの。場所は……人間の大陸なのよぉ」
ミコのその言葉にギルド内の全員が息を飲んだわ。私も、いい加減怒りで我を忘れそうよ。……いいえ、落ち着いて。ギルに叱り飛ばしたくせに、私が怒りで焦ってはダメ。
「どうりで……精霊たちでさえ連絡がつかないと思いましたよ」
シュリエが冷たい響きを持った声でそう言ったわ。メグちゃんが消えてから、当然シュリエやカーターには精霊たちを通じてメグちゃんを探してもらっていたのよね。それでも連絡が取れないし、精霊たちもわからないと言ったらしいから……
魔王様にも知らせて魔王城のメンバーも総出で捜索しているけど、収穫はなし。というか魔王様、メグちゃんの失踪を知った時、魔大陸全土に伝わったのでは? と思う勢いで殺気を漏らしたのよね……すぐに治りはしたけど、メグちゃんの父トリオの中で最も堪え性がないと思うわ。
まあそんなわけで、メグちゃんの消息すら掴めない現状に、何らかの魔術で妨害されていたり、囚われている可能性もあったわけだけど。
まさか、人間の大陸にいるだなんて……!
「……こうしちゃいられないわ。まずは
魔王様に伝えるのはこの3人がいいでしょう。伝えに行くだけだから道中の護衛に双子がいればメアリーラちゃんが適任。なんてったって速いもの。あの双子には、外での任務を増やしてもらいたかったしね。
「さ、サウラさんっ! どうしてあの2人が一緒なのですかぁっ!?」
すぐに3人は私の元へとやってきたわ。来る途中で事情を聞いたのでしょう。メアリーラちゃんは不服そうね。
「ええ、メアリーラちゃん1人で行けるの?」
「そっ、それは……っ」
「魔王城周辺は魔物が統率されているけど、それまでの道のりは少し危ないものねぇ?」
「あうっ、えっと、それならワイアットだけでもいいのでは……!?」
メアリーラちゃんは、本当にわかりやすいわね。オーウェンを意識していると丸わかりよ?
「やっ、やだよ! オーウェンに殺される!」
一方、事情を知っているワイアットは当然の拒否。隣でニコニコと笑いながらもワイアットにのみ殺気を送っているものねぇ。器用だこと!
「お、男の人2人も乗せて飛ぶのは……」
「あら。この前はケイと、大柄なニカ、それに吊るしてたとはいえジュマの3人を同時に運んできたじゃない」
そう、メアリーラちゃんはこう見えてかなりの力持ち。人型の時でさえ、重症な大柄男性でも軽々抱えていくもの。魔物型になった時の大きさはそこまでではないけれど、さらに力を発揮するしね。
「お、女の子は私だけなのですかぁ!?」
「ワイアットがいるからおかしな事にはならないわよ」
「俺、1番苦労するやつじゃねぇ!?」
あら、理解の早いこと。そうね、ワイアットは時々微妙に甘酸っぱい空気を醸し出すこの2人に挟まれて、メアリーラちゃんに文句言われたり、オーウェンに気を利かせろと言われたりの板挟みでしょうね。ま、その辺りは知らないわ。頑張ってもらいましょ。
「なんなら、オーウェンと2人でも……」
「喜んで! 俺が必ずやメアリーラを守ってみせます!!」
「わーっ! ワイアットと3人で行きますぅっ!! 3人がいいのですよう!」
よし、と。これで魔王様への伝達はオッケーね。涙目のメアリーラちゃんを、オーウェンが甘い顔で見つめているわ。元々ワイルド系の顔立ちなオーウェンがその顔をするとやけに色気が駄々漏れね。メアリーラちゃんが真っ赤になってるわ。ここの2人もいい加減進展したらいいのに。
ま、そんな事はどうでもいいわね。次は
「次は、アドル! 貴方も出張してみない?」
私は受付で事務業務をこなしているアドルに声をかけたわ。彼はまさか自分が呼ばれるとは思っていなかったようで、眼鏡の奥の目を丸くしてから立ち上がった。
「わ、私ですか?」
「ええ、貴方が適任なの」
アドルフォーリェン。彼はヴァンという鳥型亜人で、私と同じ受付事務を仕事としているのだけれど、間違いなくそこでは私の次に有能よ。いつでも冷静で仕事に私情は挟まない。
だからといって、人間の大陸に乗り込むのはきっと止められない。だからこそ、人型形態が人間族とそこまで変わらないアドルは適任。赤みを帯びた黒髪と瞳だから、色合いもさほど問題ないもの。
そういった理由をアドルに説明すれば、ほらね。彼はクイと眼鏡を押し上げてから顔付きを変えて返事をしてくれたわ。
「サウラさんがそう言うのなら、私が適任なのでしょう。その任務、引き受けました」
小柄でやや童顔なアドルがニコリと微笑んで任務を引き受けてくれる。見た目が人好きするから、交渉事も得意なのよね。それでいて中身は冷静なんだもの。さすがはオーウェン、ワイアットに並ぶ魔法特化の中堅トリオ。次代のオルトゥスも安泰だわ。ここらでステップアップしてもらう良い機会よね。
「けれど、もちろん私だけではないのでしょう?
少しだけ口角を上げてそう聞いてくるアドル。やめてちょうだい。そんな可愛らしい顔で悪どい顔をするのは! いつも言ってるのに、まったく。
まぁ、その通りなんだけどね。頭の良い子は嫌いじゃないわ。私も少し微笑んで答えると、すぐに口を開く。
「ギル、いるんでしょう? 出てきて」
任務から外すと言われても、必ずこの会話をどこかで聞いているはず。案の定、少しの間をおいてギルはどこからともなく現れた。僅かに気まずそうな空気を纏っているわね。まったく……
「……頭は冷えたかしら」
少し意地悪っぽく聞いてみたわ。すると、バツの悪そうな顔をして。
「……ああ。悪かった」
ポツリと、そう返事をしたギル。ああ、良かったわ。やっぱりメグちゃん救出にはギルの力が必要だもの。
「話は聞いていたわね?」
「ああ」
ギルの返事を聞いて、私はアドルに目配せをした。
「ギル、アドル。
コクリと頷いてすぐに動き始めた2人。チラとすぐ振り返って私と目を合わせたアドルに1つ頷いて答えたわ。
正確に理解してくれたようね。ギルの暴走も、見守って頂戴ね、アドル。
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