順調な旅路


 テントのお陰で快適に野宿出来る事がわかった私たちは、もはや村に寄らなくても大丈夫なのでは? と気付き、極力立ち寄らずに進むようになった。物資の調達は正直……いらないからね! なぜならテント内に設置してあるキッチンに、冷蔵庫はもちろん食材倉庫にも食料がたくさん用意されていたのだから。さすがに、軽くひいた。

 しかも倉庫は時間の経過がない魔術が施されていたので腐る心配もない。至れり尽くせりだよ! 以前、あまりにも色々くれるからこんなにあっても使えないって断ろうとした時、サウラさんに言われたっけ。


『備えあれば憂いなしよ! どうせ悪くなったりもしないんだし、何かあった時の保険だと思っておきなさいな』


 まさか実感するとは。この世界でもそんな概念がやっぱりあるのねぇ、なんて今更ながらに実感中である。


 とまぁ、そんな感じであまり人とは会わずに移動はしてるんだけど、村や町にも全く立ち寄らないというわけではない。だって、情報収集しなきゃいけないしね! 長居はせずに、通過するだけ。その間に噂話を拾ったりして旅を続けていたのである。

 毎日少しずつ自分で歩ける距離も増えて、護身術の心得やちょっとした反撃技なんかも習って、旅は順調そのもの! と言いたいところなんだけど……


 昨日、とうとう不穏な噂を耳にしてしまったのだ。


「東の王城から兵士が派遣されてるんだってよ」

「人探しをしてるみてぇだな」

「おいおい、犯罪者かなんかじゃねぇだろうなぁ?」


 所詮は噂だ。けど、無視は出来ない内容だった。ラビィさんがそれとなく会話に混ざり、あれこれ聞いてはみたけど……そもそも噂に過ぎないので、村の人たちもそれ以上はよくわからないみたいだった。本当かどうかも疑わしい、とか。そういう噂だけで終わる報せはよくあるんだって。


「けど、今回は噂だけじゃないだろうねぇ……」


 夜、テントで夕飯のクリームパスタを食べながらラビィさんが言う。和やかな雰囲気すぎで危機感がないけど、実際は危機的状況だからね!


「東の王城から、だもんな。俺達のこと探してるよなぁ……」

「顔、知られてる……」

「そうだね。しかもアンタたち、それぞれ特徴のある顔立ちしてるから……」


 特徴のある顔立ちって、とリヒトが軽くショックを受けた顔をしている。ロニーはドワーフ特有の雰囲気があるくらいで普通だと思うんだけど……それは亜人を見慣れている私だからそう思うのかもしれない。人間と同じかって言われると違う気もするからなぁ。これまですれ違った人間に比べると、彫りが深いとか?

 逆にリヒトはロニーとは真反対だ。日本人顔だからね……そっか、それはそれで特徴的なのか。


「……俺はここの人間じゃねぇしな」

「え……?」


 そこでポツリ、と呟かれたリヒトの言葉に思考が止まる。え、えと、それってもしかして……?


「1番目立つのは、なんたってメグだけどね」

「うん、目立つ」

「反則級の美幼女だもんなぁ、メグは」


 けど、その呟きを拾ったのは私だけだったみたいだ。そして私の話になってしまう。あ、あれ? やっぱりそうなの? こればかりは生まれ持ったものだから仕方ない……強いて言うなら、美形すぎる両親のせいだ。


「出来るだけ顔を隠せる服にするかねぇ」

「マント、とか?」

「みんなでマント被ってたら、それはそれで目立つだろ」


 みんなが対策をあれこれ話し始めたので、リヒトに聞くタイミングを完全に失ってしまった。でも、あれってどういう意味だったのかな。この国の生まれじゃないからって意味にもとれるけど……

 そんなモヤモヤを抱えながらも、またいつか聞けたらな、とひとまず心にしまっておく。うん、焦って聞いて、「何だよ日本って」みたいな事になっても困るもんね。これは慎重にいかねば! それとなく確認出来る術があればいいんだけど。




 次の日から、私たちは対策として印象を変えながら移動する事にした。どういうことかって? 私は簡単。せっかくオシャレ魔道具があるんだからってことで、茶髪や赤毛など、他の村や町に入る度に髪と目の色を微妙に変える事にしたのだ!

 この美幼女っぷりはどう足掻いても目立ってしまうので、せめて色を変えて印象を変える作戦である。例え美幼女を見たと報告されたとしても、髪色が違うだけで別人かも? と思わせる事が出来るからね! 子どもが珍しくなく、髪色が変わる事がまずない人間の大陸だからこそ出来る技である!


 次にリヒトだけど、こちらも簡単。村や町など、人の多い場所にいる時のみ魔術を使うのだ。存在を認識し辛くなる魔術って言ってたから、ギルさんが使ってた隠蔽の魔術かもしれない。性能は劣るだろうけど、使えるだけですごいぞ、リヒト!

 そしてロニーは、もう仕方ないのでフード付きマントを被る事に。ロニー1人ならそこまで目立たないからね。十分である!


 ただそうまでしても、これらは気休めにしかならないって事はわかってる。だってまず、大人1人に子ども3人の旅人ってだけで目立つもん。リヒトはラビィさんより少し背が低いくらいでわかりにくいかもだけど、日本人顔……つまり童顔だし、ロニーは種族柄背が低いし、私は元々チビだし、でどう見ても子どもに見えてしまう。

 3人の子連れの旅人、というのはこの大陸であっても珍しいと思われるんだって。成人するまでは生まれた場所で過ごすのが普通だからだ。余程の事情で引っ越しとかでもない限り、ね。つまり、私たちは行く先々で余程の理由がある旅人として見られてるってわけ。うーん、村や町に立ち寄る回数減らせて良かったってあらためて思うよ。


「さて、明日には大きな街に入るよ。検問がある街だ」


 朝、出発前にラビィさんがそう切り出した。どうしても避けては通れない街なのだそう。そういう場所があるのも、仕方ないよね。


「わかってる。転移だろ?」


 ラビィさんの視線を受けて、リヒトが言う。そう、検問を避けて街へと入るのだ。うぅ、緊張する……!


「街がとにかく大きいからね。検問を受けてなくても入ってしまいさえすればそうバレることはないさ。……街中で問題を起こしたりしなければね」


 き、緊張してきた。これまでの旅が、反則テントのお陰で楽し続けていたのもあって、ようやく逃走中という実感が湧いてきたというか。……危機感がなかったのは私だけかもしれないけどっ!


「それに、転移をしたら俺は魔力をたくさん使っちまうから……隠蔽もかけられない」

「そうだね。人が多い街だから、人に紛れるしかない。あまり動き回らずに宿を取ったらリヒトの魔力が回復するまで大人しく宿にいるのがいいかもしれないね」


 そう。リヒトの魔力回復を待たないと、出る時の転移が出来なくなってしまう。魔力回復薬は持っているけど……回復した側からまた魔力を使い切るのは、身体に大きな負担がかかる。そんな事はさせられないもん。

 だから、薬は再び転移を使って街の外に出た後に飲んでもらう事になってる。丸1日休めば大丈夫だって事だから……それまでの我慢だ!


「宿で、大人しくする」

「私も、良い子にしてるでしゅよ!」


 ロニーとともに頷きあっていたら、リヒトとラビィさんに頭を撫でられた。えへへ。


 今後の予定を確認し、すぐに出発した私たちは順調に歩を進め、その大きな街、ウーラの目の前まで辿り着いたのだった。ふわぁ、大っきな門!

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