村に到着
こうして2つ先の村に辿り着いたのは空が赤く染まる頃だった。あれ? 隣の村は通ったっけ? と疑問を口にしたら、目的地が2つ先の村なのに、用もない隣村をわざわざ経由しないだろとリヒトに言われてしまう。ご、こもっともです……!
「大体予定通りに着いたな! 俺ぁ知り合いの家に泊めてもらうが、お前たちはどうする?」
村の入り口で荷台から降りた私たちは、ここまで乗せてくれたお礼を各々ジェットさんに伝えた。気にしなくていい、と陽気に笑ったジェットさんはやはりイケオジだ!
「ああ、あたしたちは宿を取るつもりだよ。どこか教えてもらえるかい?」
「それならこの道を真っ直ぐ行って、2つ目の角を右に曲がったらすぐ見えてくるぞ。この村には宿はそこしかないが、大体は食事利用の客だから宿泊は問題ないと思うぜ」
「ん、わかったよ。本当にありがとうね、助かったよ!」
「いいってことよ。俺は明日いっぱいはこの村にいるからよ、何かあったら頼ってくれ。どっかの店のやつに俺の名前出せば大体居場所教えてくれっから!」
仕入れと挨拶であちこち回るから、居場所はすぐにわかるだろう、との事。アフターケアまでバッチリだ。
「ああ、ありがとう。何かあれば頼らせてもらうよ」
「じゃあ気を付けてな。今日はゆっくり休めよー」
「ありがとうございました!」
リヒトのお礼の言葉に続いて私とロニーもお礼を言うと、ジェットさんが順番に頭を撫でていってくれた。私は嬉しかったけど、男子2人は何とも照れ臭そうな顔をしている。お年頃な男の子って複雑なのね!
「よし、じゃあ早速宿に行こうか。明日必要な物を少し買い足して、昼頃には出発しよう」
「やっぱ、急いだ方がいいからか?」
「そうだね……まだ東の王城からそんなに離れてないから」
前の村でもこの村でも、これといって王城から知らせが届いた様子はない。でも逆を言えば、知らせが届いていたら遅いとも言えるよね。あっという間に見つかっちゃう。
「それに、ロニーやメグも、家に帰るのは早いに越した事ないでしょ?」
少しだけ不安に包まれそうになった時、ラビィさんが笑顔でそう言ってくれた。んもう、欲しい時に1番欲しい言葉をくれるなんて、出来過ぎた人だなぁラビィさん! 好き!
話がまとまったところで、私たちは真っ直ぐ宿へと向かった。夕暮れの道をラビィさんと手を繋いで。……お母さんがいたら、こんな感じかな? ってちょっぴり考えながら。
宿は問題なく確保出来た。安全面も考慮して取った部屋は2つ。ラビィさんと私、リヒトとロニーで別れて1泊する。料金は先払いなので、ラビィさんがまとめて支払ってくれたんだけど……うっ、申し訳なさが!
一度荷物を置きに部屋に行く事になったので、私は自分もお金を払うと申し出た。当然ながらラビィさんには微妙な顔をされました。そりゃあそうだよね! いくら金持ちだとわかってても、幼女にお金払います、と言われたらそうなるよ。けど、どうしても言わずにはいられなかったんだよぉ!
「なんというか、メグは本当に大人みたいな考え方をするよねぇ……リヒトやロニーは少しも気にしちゃいないのに。あ、ロニーは少し申し訳なさそうな顔してたか」
すみません、中身が大人なもんで……ほんと、考え方だけが大人で困っちゃう事多いんだよね。助かる事もあるけどさ! でもこういう時は無邪気な子どもの思考でいられたらなぁなんて思っちゃうよ。余計なお世話って思われがちなませた幼女だよ、これじゃ!
「答えはメグもわかってるとは思うけどね、あたしはあんたたちからお金を受け取る気はないよ。ただ……」
ラビィさんはそこで一旦言葉を切って、部屋の隅に荷物を置くと、両手を腰に当ててこちらを向いた。
「このままじゃあたしのお金はすぐ底をついちゃうのは事実だ。冒険者稼業は基本的にその日暮らしなとこあるからね。だから、次に少し大きめのギルドのある町に着いたら、何か依頼を受けようと思うんだ」
ラビィさんはポン、と私の頭に手を置くと、そのまま屈んで私の顔を下から覗き見た。琥珀の瞳に私の戸惑う顔が映って見える。
「薬草の採取か町の誰かのお手伝いか。その時、一緒に手伝ってくれない? そうして貰った報酬は、あたしだけじゃなくメグのものにもなるだろう?」
それじゃあダメかな、と歯を見せて笑ったラビィさんに、私はつられて笑ってしまう。子どもの扱いに慣れた大人だなぁなんて思うよ。ギルドのみんなだったら、絶対払わせてくれないか、出世払いねとはぐらかされるかのどっちかだもんね。
「はいっ! 私、お手伝いがんばる!」
「よし、決まりだ」
そう言い合うと、ラビィさんが顔の横に手を上げたので、ペチンと私の手を合わせた。もっとこう、パァンって鳴らしたかったのになんか違う。けど、対等に扱ってもらえたのが嬉しかったから、それでいいのだ。ホクホクとした気持ちで私たちは部屋を出て、リヒトとロニーを迎えに行った。
宿泊する部屋は2階にあったので、私たちは揃って1階へと下りていく。下りて右手側に行くと、入り口と受付、左側に行くと食堂になっているのだ。もちろん目的は夕飯。まだ少し早い時間というのもあって、お客さんはそこまでいないみたい。それでも何組かいるけどね!
適当な席にみんなで座ると、6、7歳くらいの女の子がお水を持ってきてくれた。黒い髪を2つに結った、笑顔の可愛い女の子。私と身体の年齢が近いだろうなって思って思わずジッと見つめてしまった。
「? なぁに?」
「あうっ、えっと、そのぉ……」
見つめられてる事に気付いたのか、女の子がニコリと笑って声をかけてくれる。このくらいの年齢の子と関わる機会がないので慌ててしまう!
「この村の人じゃないよね? 旅をしてるの?」
口ごもっていたら女の子の方から話題を振ってくれた。なんてコミュニケーション能力の高い子なんだ! それに比べて私ときたら……中身大人の癖に情けない……ぐすっ。
「うん、えと、中央の都にいくの」
内心での落ち込みを見せないように、私も笑顔を心がけてそう答えると、女の子は目を丸くした。
「中央の? すっごく遠いって聞いたことあるよ! まだ小さいのに、すごいんだねぇ」
なんと、褒めてくれた! ほわぁぁぁ!
「ううん、私はみんなに連れて行ってもらってるだけだから……!」
「それでも旅なんてすごいよ! 私、ここから出たことないもの」
「お、お店のお仕事をちゃんとしてる方が、しゅごいと思うっ!」
たくさん褒めてくれるので、私も思ったことを伝えると、女の子はキョトンとした顔をした。え? 変なこと言ったかな?
「お仕事って、初めて言われた……みんな、お手伝いえらいねって言うのに……」
そう呟いた後、女の子はみるみる笑顔になっていく。心の底から嬉しいと言った顔だ。こっちまでニコニコしちゃう。
「だって、お仕事でしょ?」
「うん、お仕事。ちゃんと、お仕事だもんね!」
ありがとう、と笑顔で言われて私たちはニコニコと笑い合う。そんな私たちを見た周囲の人たちが、優しい目で見守っていた、と言うことを後になってラビィさんから聞かされて恥ずかしくなったけど……私にとってもなんだか新鮮なひと時だったので、良しとします!
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