決意の炎
あう、お尻が痛いです……現在馬車に揺られて移動中! 思ったんだけど、私馬車に乗るのって前世含めて初めて。ほら、いつもは籠に入れられたりしてたからね……
でも魔術の補佐のおかげで酔ったりお尻が痛くなったりとかはしなかったんだ。本当に魔術(他人の)に頼り切ってたんだなぁ。トレーニングしてたつもりになってただけだ私っ! オルトゥスの一員としてここは踏ん張りどころ!
「うぅー、でも、気持ち悪いぃー……」
「メグ、大丈夫か? 横になっとけ」
しかし、乗り物酔いは強かった。ヘロヘロになった私を気遣って、馬車の荷台でリヒトが膝枕をしてくれた。優しい。
「せめて身体の下にマントでも敷くかい? 今は着てないから……」
「はっ! しょーだっ!」
身体の下に、で思い出した。私には過保護な大人たちから貢がれた色んなグッズがあるんでした! 荷台は幌がかかってるし、ここにはラビィさんたちしかいない。チャンスである。そして徐ろに収納ブレスレットからフワフワブランケットを取り出した。
「じゃーん! シーパーのモコモコブランケットー!」
「…………」
シーパーとは羊みたいな生き物である。この羊毛がふわっふわでモコモコなの! 丸めると羊さんの形になってそのまま枕としても使えるし、少し広げてクッションとしても使えるし、全部広げればブランケットにもなる優れものだ。しかもフードが付いているので被れば羊さんにへんしーん! 円らな瞳とちょこんとついた耳と角の飾りがポイントです! 白、ピンク、黄色、水色と4色揃っておりまーす。あ、ちょうど人数分だね。色を選べなかった私に全部買い与えたケイさんのおかげです。あ、あはは……
「みんなも、良かったらどーじょ!」
「……あぁ、なんかもう突っ込んだら負けだねぇ。ありがたく借りるよ」
軽く呆れを滲ませながらラビィさんが黄色羊ちゃんを受け取った。
「……ありがとう。使わせて、もらう」
少し恥ずかしそうにロニーが水色羊ちゃんをチョイス! 少し広げてその上に座った。フカフカ具合に驚いている。
「なんか、お前の家族って……過保護過ぎじゃねぇ?」
それは私が最も身に染みていますとも。微妙な顔をしつつもリヒトが白い羊ちゃんを手に取ってお礼を言った。
うんうん、可愛い羊ちゃんが勢揃いで見た目にも癒されますねー! 私は相変わらず馬車酔いしてるので、ピンクのブランケットを羽織り、フードもかぶって丸まってから、再びリヒトのお膝にころん、と転がった。私はまだ身体が小さいからね。ブランケットを羽織ると全身包まれて非常に居心地が良いのである。フードをかぶるとより包まれてる感があって、あっという間に、あっと、いう間に……睡魔に、襲われてぇ……
「……可愛い……」
「……可愛いな」
「うん、可愛い」
みんなにも羊の可愛いさをわかってもらえて嬉しいよ! 安心して眠りについたのでした。寝過ぎ? 気にしない!
ブランケットとリヒトの膝枕のお陰で馬車酔いを気にする事なく移動を続けること約半日。ずっと寝てたわけじゃないよ? ゴロゴロしながらお話したりウトウトしたりしてたので。……なんというか、怠惰だ。ま、まぁ具合が悪くなるより良いってことで!
ともかく、ようやくお昼休憩をする場所へと到着。代わり映えのない舗装された道が続く中、少し開けた場所へとやってきた。村と村を行き来する人たちはみんなこの場所で休憩するんだって。大きな木が数本あって木陰もあり、ちょうど良いそうだ。
「少し遅くなったけど昼飯にしよう。腹減っただろ?」
ジェットさんの声に私の腹の虫が思い出したかのようにクゥと鳴く。恥ずかしいからやめてぇっ! と思うも、みんなに聞かれてクスクス笑われてしまった。あう……
「よし、準備するから待ってろよー」
「あたしも手伝うよ」
そう言ってジェットさんとラビィさんが昼食の準備を始めた。みんなで食べられるご飯くらいなら、まだまだ私の収納に入ってはいるんだけど、ジェットさんの前では流石に出せないからね。
かといって何もしないでぼやっと待つわけにもいかないので、みんなの荷物の中から敷物を出して広げたり、荷物の中から出したように見せかけてコップに人数分の飲み水を、リヒトが魔術で出したりしました! リヒトの魔術もやっぱり内緒なんだろうな。目で言うなよ? と言われた気がしたのでコクリと頷いた。合点承知!
そうこうしている間に昼食の準備も出来たようだ。干肉を使ったサンドイッチをそれぞれ手にして、挨拶してからいただきます。味はまぁ、食べられなくはない、といった感想。そっか。普通は出来立ての料理なんて持ち運べないし、作るにも道具が多く必要になるからこういったものが多いんだ、とその時初めて気付いた。しかもジェットさんは2日分の昼食と予備さえあればいいんだもん。わざわざ調理したりもしないよね。
長旅は長旅で調理器具は多少持つだろうけど、材料は途中で確実に手に入れられるのでなければ傷むし、とても持っていけない。野菜の類なんか特に無理だよね。美味しさを求めるのは二の次で、栄養を摂ることを重視するんだろう。考えればわかることで、きっとこれは常識だ。
でも、そんな常識を私は今、こうして経験することで初めて知った。知識としては知ってたよ? でもこれは経験した今だからこそ、初めて知ったと言えるのだと思うんだ。
「どうした? ……口に合わないか?」
私がぼんやり考え事をしていたのを心配したのか、リヒトが小声でそう聞いてきた。私が美味しい料理ばかり食べていることを知ってるから聞いたのだろう。
「ううん。でも、少し硬いから顎が疲れちゃった」
にへっと笑いながらそう答え、再びサンドイッチにかぶりつく。実際パンも肉も硬くてかなり顎の力を使うからね。しっかり咀嚼しなければ。もぐもぐ。
「……へぇ。こんなの食えないって泣き言言うかと思ったけど……意外と根性あるんだな」
リヒトはそう言って自分のサンドイッチを頬張った。大きな一口である。思わず目を見開いてしまった。
泣き言かぁ。別にこのくらい、言うほどの事じゃないもんなぁ。あ、でも、普通の5歳児だったら言うのかもしれない。人間は子どもが多いから、リヒトも子どもと関わる事があったのだろう。だからこそ、意外だと思われたのかもね。
でも残念なことに私の中身は人間でいえばおばちゃん……嬉しいとか怖いとか寂しいとか、そう言った感情が溢れた時は身体の年齢に引っ張られてしまうけど、そもそもこの程度、悲しいとか怒りとかを感じもしないのでね! なので感謝するほどで、文句なんて言いませんとも。……でも食べきれなくて残った分はリヒトに食べてもらったけど。顎がーっ!
私はこの旅で、多くのことを学べるかもしれない。ギルドにいた時には過保護な保護者ばかりだったから、自分でやる前に周りがやってしまったりしてたし。そしてその状況を、周りが過保護だからと私も受け入れてた。要するに甘えてたんだ。
みんなと離れている今、色んな経験を積むチャンスと言えるだろう。もちろん、この状況は喜ばしいものではないけど、ただされるがまま、とするには勿体ない。出来ることを増やして、成長して。胸を張って帰るんだ。
私でもちゃんと出来たよって、笑顔で報告するために。思い出せ! 馬車馬のように働いていたあの頃を! 私は胸に決意の炎を燃やすのだった。やるぞー!
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