八つ当たり
ロニーによるとこうだ。ここ、人間の大陸におけるギルドというのは、本を正せば1つの大きな組織なのだとか。各国、各町ごとに支部が設置されてていて、全国にあるギルド同士に置いてある魔道具で瞬時に連絡が取れたりするんだって。人間は自分で魔術を使える人はほんのわずかだけど、簡単な魔道具は日常的に使われているみたい。
ギルドの役割は主に仕事の斡旋。各町で集まった依頼を、ギルドで登録した冒険者と呼ばれる人たちがこなして、依頼料を貰うシステム。依頼の達成率によって冒険者のランクも上がり、こなせる仕事の幅も広がっていくそうだ。環の頃、ゲームや物語で見聞きしたギルドの在り方みたいだなぁ、と思ったよ。なるほど、だから全然話が噛み合わなかったんだね。
「おっもしろいんだなぁ、魔大陸のギルドって。アットホームな感じなんだな! 楽しそうだ!」
「個人じゃなくてギルド全体の功績なんだねぇ。こっちは冒険者同士パーティーを組むことはあるけどね」
リヒトもラビィさんも、魔大陸のギルドの在り方に興味を持ったみたい。うんうん、楽しいよー! 私みたいな力のない幼女も仲間入り出来るくらいだからね……! まぁ、特例だったけどさ!
ちなみに、ラビィさんはずっとソロの冒険者なんだって。前は組んでたけど面倒臭くなって離れたらしい。い、色々あったのね! ちなみにリヒトはまだ登録してない。なんでも、登録出来るのは15才以上なんだとか。リヒトは来年登録出来る年齢になるってことだね。
「私にとって、ギルドのみんなは家族で、ギルドが、帰る場所なんでしゅ。……みんなに会いたいなぁ」
あ。思わず本音をポツリとこぼしてしまった。どうしようもなく寂しくなるから、言わないようにしてたんだけどな。
「……必ず帰れる。俺も手伝うからさ」
「僕も、転移陣使わせてもらえるように、協力する」
リヒトとロニーが私の頭を一度ずつ優しく撫で、そんな温かな言葉をかけてくれた。もう、優しいなぁ。2人とも将来有望なイケメンだよ!
「うん、ありがと! 私も頑張る!」
だから私も、2人の優しさに笑顔で答えた。……んだけど。
「……素直じゃないね。メグ、辛い時は泣いたっていいんだ。それは甘ったれでも何でもない。迷惑にだって思わない。一度思い切り吐き出してしまった方が、スッキリするもんだよ?」
ラビィさんが席を立って私の元へとやってくる。それから膝をついて私に目線を合わせてそう言ったんだ。琥珀の瞳から、目を離せなくなる。
「突然の事で驚いたでしょ? 訳も分からないうちにあれこれ状況が変わって混乱したよね? でも、今は状況もわかって、やる事も決まった。頭の中が整理出来た頃じゃないかい? ……家に帰りたいね? 家族に、会いたいよね?」
「……っ、会いたいっ……!!」
泣くつもりなんてなかったのに。考えないようにしようって。でも、でも!
「なんで、こんな目に……? 私、何か悪いことしたのかな……? 嫌だよ……怖いよ、みんなに会いたい! おうちに、帰りたいよぉ……っ!!」
思った事を1つ口に出すたびに、言葉が止まらなくなって、気持ちが止まらなくなって。そんな事言われたって困るのに。それでも、言ってしまう。
「ギルさん、お父さん、みんな……っ! ずっと一緒って約束したのに! もう離れないって決めたのに……っ! 」
「うん。そうだね……さみしいよね、ごめんね……」
「会いたいよぅ……酷いよぉ……っ!」
わぁわぁ泣きじゃくる私を抱き締めて、頭を撫でながら相槌を打ってくれる。ラビィさんは何にも悪くないのに、ごめんねって言って私の言葉を受け止めて。悪役を引き受けてくれて。
たくさん泣いていいよって。責めてくれたっていいよって。
どうしようもない時は、何に当たればいいのかわからないから、自分に当たればいいよって。
だから甘ったれな私はそれに甘えきって、しばらくラビィさんの胸に抱かれ、言いたい放題言いながら泣き続けたのだ。
我に返った時というのは、どうしてこうも恥ずかしいのだろう。
恥ずかしい上に申し訳なさすぎて、顔を上げられない! 八つ当たりもいいとこだったよね……! 未だにスンスン言いながらラビィさんに抱っこされている私です!
「ふふっ、だいぶスッキリしたみたいだね?」
しかし、そんな私の心境などお見通しとばかりラビィさんがクスリと笑う。これが大人の余裕かっ!? 人間換算して同じくらいの年齢なジュマくんとの違い、なにこれ。いや、比べる人が間違ってたかな。
「うぅ、はい。……ご、ごめんなさいぃ……」
「謝らなくていいんだよ」
ポンポンと頭に軽く手を乗せて、ラビィさんは私の顔を覗き込んだ。すっごい不細工になってる自信があるのであんまり見ないでほしい。
「……泣き腫らした顔も可愛いって、反則だねぇ」
美幼女が勝ったらしい。すごいな、メグ! いや、私だけどさ!
「じゃ、じゃあ、その……ありがとう」
「……そっか。うん、お礼なら受け取らせてもらうよ」
一瞬驚いた顔を見せたラビィさんだったけど、すぐに柔らかく微笑んでそう言ってくれた。気恥ずかしさが残ったけど、心は晴れやかでかなりスッキリした気がする。流れる優しい時間が私をさらに癒してくれた。
こうして真っ赤になった目元以外は元気になった私は、意気揚々と食事の片付けのお手伝いしてちょこまか動き回った。暫くの間はリヒトにもロニーにも、心配そうな顔を向けられてしまったので、本当に今は元気いっぱいだから大丈夫だよ、と笑顔を向けたら顔を背けられてしまった。なぜ!? そっちのショックで泣くよ!?
「さ、そろそろ村の人たちも活動してる頃だよ。いいかい? 打ち合わせ通り、あたしは依頼でアンタたち3人兄弟を、中央の都へ連れて行く途中。母親が病気で亡くなったから、離れて暮らす父親の元へ向かってる。いいね?」
ラビィさんの確認に3人揃って首を縦に振る。正直兄弟と言われても全く似てないんだけどね? その辺りを質問すると、全く問題ないというお答え。
人間は私たちと違って子どもが多く生まれる。その分孤児も多いから、孤児を引き取る家庭も多いんだって。裕福だったり、働き手として貰ったり、理由も様々らしい。なるほど、それなら似てなくても大丈夫だね。というか設定でも私ったらお母さんがいないのね……!
ちなみに中央の都っていうのは、王様達のトップ、皇帝が住んでいる王城のある街。その都に立ち寄るわけではないけど、誰もが向かう先として1番無難だから言っているだけである。方向的にも大体合っているんだとか。
「じゃあ行こうか。この村は通過するだけだけど、色んな噂は拾えるからね。追っ手がいないかどうかも気になるし、情報は武器だ。次に向かう村も決めてないし、評判なんかもそれとなく聞こう。あたしが知ってる情報とは変わってるかもしれないしねぇ」
ギュッと明るい茶髪のポニーテールを結び直しながらラビィさんが説明してくれる。情報は武器。それはよく知ってる。うーん、ショーちゃんさえ元気ならいくらでも拾って来られるのに! もちろん、無理はさせられないので、自分でも出来る事は自分でやるようにしなくっちゃ! 私もそれとなく聞き耳を立てておこうと決意を胸に、見えてきた村に向かって足を進めるのでした!
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