認識の違い


 ひたすら無言で歩き続けること……どれくらい経ったかな? 現在私は強敵を前にぐぬぬと戦っております。強敵、これすなわち睡魔!

 ばかー! 出発前にしっかり寝かせてもらったのになんでこう寝そうになるかなぁ!? だってだって、ロニーの背中は思いの外居心地がいいんだもん! 安定感抜群! 息切れするでもなく、むしろ何も抱えてないかのようにサクサク歩くこの安心感! 私なんか手ぶらで歩いてたとしても今頃へばってる自信あるよ……


「……寝てて、いい」

「ふぁっ!? 何でわかるの!?」


 するとロニーが突如そんな事を言うものだから思わず声を上げてしまう。語るに落ちるとはまさにこのこと……にしても本当になんで? エスパー?


「そんだけこっくりこっくりしてたらわかるって。メグ、お前気付いてないのか? 何度もロニーに頭突きかましてんぞ」

「ひぇっ、ごめんなさいーっ!」


 気付かなかった! 大失敗だ! 不甲斐なさすぎて泣けてくるよ。くすん。


「休めるときに休むのは大事さ。メグはいつもニコニコしててくれた方がこっちも心が救われるんだ。ぐっすりおやすみ。その方がロニーもダメージ受けなくてすむ」

「痛くはないんだけど……」


 前を歩くラビィさんがチラと後ろを向いてからかうようにそう告げる。そりゃ幼児に多くは望まないって事くらいわかるけどっ。オルトゥスの一員としては悔しさが勝つのだ! でも旅は始まったばかり。ここで無理しても意味はない。わかってる、わかってるけどぉ……っ!


「そんな顔するなって。少しずつ出来ること増やしてこうな?」

「少しずつ……あい! わかりました!」


 頭を優しく撫でてくれるリヒトの言葉を反芻する。うん、今までも少しずつ進んで来たじゃないか。自分に出来ることからコツコツと! よし、がんばる!


 というわけで、今は素直に言うこと聞いて寝ます! ロニーくんごめんね……おやすみなさい。ぐぅ。




 ふと目を覚ますと、ロニーに背負われていた私は知らない間にラビィさんの膝の上にいることに気付いた。あるぇ?


「おや、起きたかい?」


 頭上からラビィさんの声が聞こえて来たので見上げると、優しげに微笑むラビィさんと目があった。


「もうそろそろ起こそうかと思ってたんだ。じきに朝になるからね。そしたら村に入るよ」


 言われて空を見れば明るくなってきている。ラビィさんは大きめな木に寄りかかって座っていたようだ。太い根が土から出ていてそこに肘をかけている。すぐ両隣ではリヒトとロニーも丸くなって寝ていた。


「あ、あれ? ラビィさん、寝てないの……?」


 もしかしてずっと起きて見張ってくれていたのだろうか。だとしたら、小屋にいる時から寝てないんじゃない? きっとすごく疲れてるはず……!


「そんな事ないさ。この場所に着いてから先に仮眠を取ったよ。それまではこの2人が起きてるって聞かなくてね」


 そう言ってラビィさんは困ったように微笑んだ。そっか、この2人が……はっ! そ、そうなるともしかして……


「うう、私だけたくさん寝ちゃった……」

「そう言うと思ったよ。だからね、交換条件なんてどう?」


 交換条件? そう思って首をかしげる。すると、申し訳なさそうにラビィさんは口を開いた。




「朝ごはんですよーっ! リヒト、ロニー、起きてー!」


 ラビィさんが持ちかけた交換条件はズバリ、朝ごはんの用意でした! 2人から私の収納ブレスレットの事を聞いたらしく、起きた時の私はきっと気にするだろうから、もししょぼくれてたら食事の提供を頼もう、と3人で話していたらしい。短い時間しか付き合ってないというのに、私の事をよくわかってらっしゃる……!


「んんっ、美味そうな匂い……」

「お腹、すいた……」


 私の声と朝ごはんの匂いで2人はすぐにむくりと起き上がった。私がしたことといえばお湯を沸かしてスープの素を溶いたくらいだけどね。でも嬉しい。

 火を起こしてくれたのはラビィさん。あ、でもパンは前にチオ姉と一緒にこねこねしたやつだから少しは作ったと言えるかもしれない!


「にしても凄いね、このスープの素。お湯に溶くだけでこんなに具沢山になるのなんて初めて見たよ」


 お鍋のスープを混ぜながらラビィさんが感心したように声を上げた。うん、私も最初に見た時はとっても驚いた! いわゆるインスタントスープなんだけど、お湯に溶かすとあらビックリ。作りたてのスープのように具も大きくなっちゃうのだ。まるで魔法! いや、まんま魔術が仕込まれてるんだけどね。

 これはラーシュさんじゃなくてミコさんが考えたらしい。何でも、夜中活動するミコさんは食べたいと思った時間帯にお店が開いてないことが多くて、いつでも美味しい料理が簡単に食べたい! という熱意を燃やしていたんだって。食べ物は人を動かすね!


「このスープは、前の料理長から引き継いだ今の料理長のスープなの。だからとってもおいしーんでしゅよっ」


 そう。レオ爺と同じ味が出せないって悩みに悩んで、そうして出来上がったチオ姉だけのスープなのだ。同じ味にはならなかったけど、納得のいく出来栄えだってチオ姉、笑ってたな。相変わらず味の違いが私にはわからないんだけどね! 美味しければいいのだ!


「料理長? やっぱりお嬢様なのかい? メグは」


 私の言葉を拾ってラビィさんがスープを器に注ぎながら聞いてきた。ホカホカと湯気が立ち昇る器がコト、とテーブルに置かれる。あ、そうか。それだけ聞くと確かにお嬢様っぽい。


「違いましゅよ! 私は、ギルドに住んでるんでしゅ。だからギルドの料理長なんでしゅよ!」

「え? ギルド? ギルドに料理長なんていんのか? ってか住めんのかよ、ギルドって」


 私の説明を拾ったリヒトが、布で顔を拭きながら疑問を口にする。どうやら魔術で出した水で顔を洗ったらしい。背後でロニーも洗っている。


「他のギルドはわからないけど、うちのギルド、オルトゥしゅはいましゅよ?」

「うちのギルド? オルトゥシュ?」

「違う! オ・ル・トゥ・しゅ!」

「…………何が違うんだ?」


 っあー!! 言えない! どうしても言えないっ! けど何度も説明してどうにかこうにかわかってもらえたよ。くっ、自分ではオルトゥスって言ってるつもりなんだけどなぁ……!?


「で、なんだよそのオルトゥスって。ギルドに名前なんかあるのか?」

「え? 名前はどのギルドにもついてる、よね……?」


 なんだか話が噛み合わない。えっと、私、何か間違ってるのかな? 簡易テーブルに並べられたスープの湯気越しに私とリヒトは首を傾げ合った。


「ギルドの在り方が、人間大陸と魔大陸で、全然違う」

「えっ」

「そうなのか?」


 暫し流れた沈黙に救いの一声を上げてくれたのはロニーだった。私の隣に立ったロニーはコクリと頷く。私とリヒトは同時に声を上げてしまったけれど。


「へぇ、それはあたしも知らないね。どう違うのか興味あるよ。せっかくだから食べながら聞かせてもらおうかねぇ」


 さぁ座って、というラビィさんの声に慌てて席に着く私たち。3人から食事の提供にお礼を言われて思わず照れてしまったよ! えへ。

 みんなでいただきます、と挨拶をしてから食べ始めました! んーっ、モチモチ食感のパンはなかなかいい出来であるっ!

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