今後の方針


 ひとまずの方針として私とロニーはドワーフの鉱山へと向かう事が決定した。それだけでやる事が見えるので少しホッとする。でも1つ気になる事があるんだよね……


「あの、私たちはお城に、転移陣で呼ばれたって事なのかな……?」

「んー、たぶんな。でも俺ら3人だけだったし、制限あったんじゃねーかなって思う。一定以上の魔力を持つ者限定とか、成人前とか」

「なんで、成人前……?」


 リヒトが顎に手を当てて考えながら言うと、ロニーが疑問を口にした。確かに、集めたいならもっと大々的に範囲も広めてってやった方がいいよね。


「あくまで推測だからそうと決まったわけじゃねーよ? でも、成人済みも入れたら、魔力持ちがたくさん集まりそうだし……流石に抑えられないんじゃね?」


 確かに。しかも裏取引のような人身売買目的ならそんなに大所帯だと対処しきれない気がする。魔力持ちってだけで攻撃手段、自衛手段がありそうだもんね。その点子どもならまだ未熟。言いくるめる事もできるかもしれないし、どうにでもなりそうってところかな。


「それに、必要魔力の問題もあると思うんだよなー」

「あ、そうか。転移陣には、ものすごくたくさん魔力を使うから……」


 リヒトの言葉にロニーが得心がいったというような顔で引き継いだ。


「そうなんだよ。俺だってさっきの転移で魔力はもうほとんど残ってない。そこそこ魔力持ってるのに、だぜ? それを世界中、大陸を超えて呼び寄せたんだ。消費魔力は計り知れないと思う。正直3人でも呼び寄せたのすげぇよ」

「鉱山の転移陣も、ドワーフが数10人で魔力を注ぐ。行き先が決まってる簡単な陣でも、それだけ使うんだから……」

「それに人間で魔力持ちはそういない。金に物言わせて魔石を注ぎ込んだとしても相当だぜ。ま、だから当分の間は強制転移される事はないからそこは安心していいと思うぞ」


 そうなんだ……でも言われてみればオルトゥスメンバーも転移は滅多に使ってなかったな、と気付く。飛んで移動したり、特殊能力での移動がほとんど。お父さんだって車だったし、ギルさんは飛んだり、影の中を移動してたりだった。

 でも、そこまでして呼び出した私たちを簡単に逃がしたりするだろうか、という考えが過ぎる。多大なる魔力や財力を使って呼び出したのに、すぐさま逃げ出してしまったんだから。


「けど、きっと血眼になって探すだろうな。鉱山に行くにしても、俺たちだけじゃすぐ見つかって捕まっちまう」


 そう。私たちはいくら魔力を持っているといってもまだほんの子どもなのだ。大人の、しかも国からの追っ手から逃げ切れるとは思えない。


「俺ももう……この辺には住めないな。すぐ捕まるのがオチだ。だから俺も取り敢えずお前たちと鉱山に向かいたいんだけど……いいか? 後のことはまた考えるからさ」

「それは、もちろん」

「心強いでしゅ!」


 それでも、バラバラで行動するよりまとまって力を合わせた方が良いに決まってる。心細いし。リヒトの提案に私もロニーもすぐに頷いたのだった。


「そこで、だ」


 私たちが頷いたのを見て、リヒトがニッと口角を上げた。


「頼りになる大人を1人知ってるんだ。路頭に迷ってた俺を育ててくれた恩人だから、信頼出来る。その人の元へ行って相談してみようと思うんだけど、どうだ?」


 提案したわりに、もう決定事項のように感じたのは気のせいではないと思うんだ……!

 とはいえ、その頼りになる大人について私やロニーは知らない。つまり判断基準がないのだ。だからこそ、リヒトに頼るしかない。選択肢がないのである! 実際、リヒトの親代わりとも言える人物なのだから、たぶん大丈夫なんだろうな、とは思うし、やはり大人の存在は大きいだろう。


 と、私の中ではそんな風に考えていたわけですが、特に多くは述べずにリヒトの意見に乗ることになりました。私の収納ブレスレットに入ってた軽食をみんなで軽く食べ、休憩してから再出発する事に。おやつに食べてねってもらった焼き菓子がたくさんあるんだよね。


「なぁ……メグって、金持ちのお嬢様かなんかなのあ?」

「え?」

「だって、こんな甘いお菓子を簡単にくれるし、着てる服も良いものだし、収納魔道具に髪と目の色を変える特殊な魔道具まで持ってる。それがどれほど高価な物か、まさか知らないとでもいうのか……?」

「リヒト、知らない可能性もある。メグは、まだ幼いから」


 あ、そっか。たしかに何も知らない人から見たらそんな風に思われるかもしれない。ひとまず私はお嬢様ではないと首を横に振った。


「えと、高価な物だっていうのはわかるけど、あんまりそんな感じはないっていうか……」

「実感がないって事か……」


 おずおずと答えるとリヒトもロニーも難しそうな顔で腕を組んで唸る。


「危なっかしい」

「だよなぁ……見るからに金持ちの子で、本人にその自覚がない。攫ってくれと言ってるようなもんだぞ」


 えぇー? そんなに、かなぁ? まあ確かにちょっと金銭感覚がおかしい気もするし、世間知らずだとは思うけど……あ、危なっかしいわ、これ。


「それに、見た目」

「可愛すぎで目立つってのもすげぇよな。これで髪と目の色変えてなかったらシャレにならないとこだった……」


 サラッと可愛すぎと言うリヒトに反射的に照れる。えへへ、と笑うと2人とも思わず動きを止めてしまった。うっ……はい、すみません。照れてる場合じゃなかったよね!


「……全力で守ろう」

「僕も、がんばる」


 何やら男2人で分かり合うものがあったらしい。リヒトとロニーはガシッと手を組んで頷きあった。男の子って、わからない。


 その後、歩きながらもあれこれ話をした私たち。使える魔術や、己の実力についてがメインだったかな。そこでようやく私は精霊たちにオルトゥスへの連絡を頼む、という事を思い付いた。そうだよ、私には精霊たちがいるじゃない! どれほど自分がパニックになっていたかがわかる。

 光明が差したと思ったのも束の間、ロニーのため息交じりの発言が私を落ち込ませる事になった。


「ここは人間の、大陸……鉱山なら、転移陣を通して、魔大陸から、魔力が流れてくるから、いいけど……圧倒的に、魔素が、少ない」

「ん、まぁそうだな」

「自然魔術の使い手としては、致命的。まず、精霊が、思うように、動けないから」

「え……」


 慌てて脳内でショーちゃんに呼びかける。いるなら出てきて、と。でも。


『ご主人、様……ごめんなのよ、外にはあんまり出られないのよー……』


 返ってきたのはそんな弱々しい声。今はネックレスや耳飾り、ブレスレットについてる魔石の中にみんな避難しているらしい。そこなら魔力が満ちているからね。


『魔術も、使うなら一度に1回だけなのよ。それが限界なのよー……』


 いわく、魔素の少ないこの地で魔術を行使すると、それだけでかなりの魔力を消費し、精霊たちも疲れ切ってしまうんだって。そんな……ううん、仕方ないよね。私はみんなに魔石の中でゆっくりしてて、と声をかけた。魔石がそれぞれの色に淡く光ったから、わかったって事だと思う。


 つまり私は、見目がいいだけで何も出来ない、ただのお荷物幼女。しかも人間の大陸だから子どもだというだけでチヤホヤされる事もない。


 早くも詰んだ……そう考えついて私は再び絶望しかけるのだった。

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