現状把握
「ごめんなしゃい、も、だいじょぶでしゅ」
相変わらずぐすぐすと鼻をすすってはいるけど、いい加減少年ズがかわいそうなので私はそう声をかけた。2人は無理しなくていいぞ、と相変わらず私を気遣ってくれる。うっ、いい子達……!
泣きながら少し考えたけど、やっぱり自分の正体は話しておいた方がいいかなという結論に至った。2人は話してくれたし、これからどこかへ行くにしろ、私の実力なんかも知っておいた方がいいかもしれないからだ。
「私は、メグ。魔大陸に住んでまちた。……エルフでしゅ」
そう言って少し伸びてきた横の髪を耳にかけ、特徴である長い耳を2人に見せた。2人が息を飲むのがわかった。
「年は、50歳くらいでしゅ。細かい年齢は、わからなくて……」
50で幼女かよ、というリヒト少年の言葉は理解出来る。わかるよ、わかる。私も慣れるまで時間かかったからね。人間で言ったらそろそろおばあちゃんに近付く頃だもん。言ってて悲しくなってきた。やめよう。
「で、でも、エルフだったら髪と目が……」
ロナウド少年が躊躇いがちにそう言った事でようやく私は気付いた。そうだ、今の私って黒髪黒目なんだっけ。なので、私は首からオシャレ魔道具を外してみせる。すぐさま色が変わったのだろう、2人は目を丸くしていた。
「ほんとはこの色でしゅ。今日はたまたま、もらった魔道具を試してたところで……」
「輝く髪に、青い瞳……少し特殊な色合いだけど、確かに、エルフの特徴」
ロナウド少年は納得したように何度も頷いている。やっぱエルフの特徴くらいは一般常識なんだなぁ。
「たまたま、か。すごい幸運だな……そのままじゃ目立って仕方ないし、こんなに簡単には逃げ出せなかったとこだ」
簡単には? それはどういう事だろう。思わず首をこてんと傾げると、2人はうっと顔を赤らめた。な、なんだよう。
「こほん。えっとな、エルフっていうのは特に貴重で、それも子どもとなるとさらに貴重。俺だって目の前で見てるってのにまだ信じられないくらいだ」
いや、そこは信じてもらうしか。目の前にいるんだから! ……でも実はハイエルフで魔王の娘っていうのは黙っておこう。
まぁつまり、それほど珍しいって事だよね。話としては知ってたけど実感がなかったからな……どれだけ私は平和ボケしてたんだろう。元日本人の性かしら……
「で。そんな存在があの場で現れていたら。王城の奴らはそれこそすぐにお前を確保していたと思う。どうも魔力を多く持つ者や亜人なんかを集めてるみたいだし……取り囲んで隔離されていたかもしれない。興奮で揉みくちゃにされてたって事も考えられるぞ? この国は裏で人身売買に手を出してるんじゃないかって噂だからな」
「ふ、ふぇ……!?」
「あっ、待て泣くな。ただの例えだから、な? な?」
それは怖い、と思ったらまた涙腺が……! でもここは話が進まなくなるので耐えた。頑張った。
「つまり、だ。メグ、お前がエルフだってことは黙ってなきゃいけない。だから、たまたまだったにせよその魔道具を使ってた事は、お前にとってこれ以上ないほど幸運だったんだよ」
そ、そっか。今こうして無事に逃げ出せず、拘束されていずれ売られてたかもしれないんだ……ようやく実感がわいて、ゾッとする。マイユさんに心から感謝だよ!
だからさっきの色に戻して耳は隠せとリヒト少年に言われた。今は周りに誰もいないけど落ち着かないらしい。その気持ちは私もわかるのですぐに黒髪黒眼に戻す。
「で、でも、国がそんな事、する?」
ロナウド少年が不思議そうにそう尋ねてきた。確かにそうだ。拘束はされたかもしれないけど、国が人身売買に関わってたとしたらとんでもない事だよね?
「俺も詳しい事はわかんねぇんだけど……裏ではそういった事が行われてるって噂は有名なんだ」
「そんな……ここはトルティーガ、でしょ? 善政を布いている事で、有名なのに……」
トルティーガとはこの国か、地域の名前だろうか。2人の会話からの推測だけど。
「だからこそだよ。裏で人身売買する事で財政が保たれてるんじゃないか? むしろ儲けてる。だから表向きは善政を布いているように見えるんだって話だ」
どこにでも腐ったやつはいるってことか。特にここは人間の大陸。レオ爺が言ってたもん。人間は油断ならないって。良い人に見えてた人が悪人であったりするって。うう、人間怖い。元人間だけどっ!
「まぁ、ここでそんな話してても意味ないな。今は目の前の問題について考えようぜ」
そ、そうだね。国規模の話が出てきても私たちに出来ることはない。思うところはあるけどそれは置いておかなくちゃ。
「まず、俺は住んでるところが近くだから問題ない。ロナウド、お前もたぶん帰れる距離ではあるよな?」
「あ、うん……道はわからないし、たぶん少し、遠いけど」
「問題はメグ、お前だな……」
そうですよねー。2人はこの大陸だけど、私は大陸を超えなきゃいけないんだもんねー。なんだよ、その無理ゲー! 戦う力のない幼女が1人でどうやって帰れと! 軽く絶望しかけていると、ロナウドくんが控えめに声を上げた。
「あ、あの……もしかしたら、なんとかなる、かもしれない」
「は? どーいう事だ?」
「僕、出身が鉱山だから……」
鉱山……最近聞いたぞ? あ、もしかして。
「転移陣か!」
「うん。事情を話せば、もしかしたらだけど……」
そうだよ! この大陸の鉱山と魔大陸の鉱山は転移陣で簡単に行き来出来るんだ!
「でも、僕も見た事はないし、厳重に管理されてるから、簡単にはいかない、かもしれない……」
あ、そうだ。それなりの対価が必要なんだよね、確か。魔王さんは城下町への進出を許可して、お父さんは厄介な魔物の駆除だった気がする。そして私には何も払えない! と悩んだじゃないか……! むむむ……もっとしっかり考えておけば良かった!!
「まぁいいじゃねーか。取り敢えず向かってみないとわかんねぇだろ? そん時になったらまた考えてみようぜ!」
ここから離れるのがまず第一だしな、とリヒト少年は笑う。問題の先送りにしてるだけだけど、一理ある。行動しなきゃ、始まらないもんね!
「うん、少なくとも僕がいるから、鉱山には、入れる。ちゃんと、そこまで一緒に行く、から」
「ほ、ほんとでしゅか! ロにゃうドしゃん……!」
噛んだ。猫みたいになった。
「ご、ご、ごめんなさい……!」
「別に、いい。ロニーでいいし、さんもいらない」
「くくっ、面白ぇなメグ。じゃ俺もロニーって呼ぶ。俺のことはリヒトでいーぞ。それに、もっと気楽に喋っていいぜ?」
緊迫感漂う雰囲気が少し緩和した。私のおかげで! そう思ってないとやってらんないよー! 恥ずかしい! ギルさんに続く猫化2人めだよ!
ギルさん……心配してるよね。お父さんやサウラさん、ケイさん、他にもたくさん。みんなの顔が一瞬浮かんだところでブンブン頭を横に振る。ダメだ。まだ考えちゃダメ。
私はグッと奥歯を噛み締めて思考を切り替える。私はオルトゥスの看板娘、メグなんだ。まだ絶望するには早い。出来ることを1つずつこなして、必ずみんなの元へ帰るんだから!
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