地上へ
「とは言っても、全く自然魔術がつかえないわけじゃない。たくさんは使えないけど、ここぞという時のために節約する」
ロニーのそんな言葉に励まされる私。そうだよ、そうだよね! 使うときは精霊たちに負担をかけちゃうかもしれないけど……私の体内にある魔力に影響があるわけじゃないんだから、いつもより多めに魔力を渡してあげればいいのだ! ただ、魔力の回復には少し時間かかるけど。魔力回復のお薬も少しはあるし、きっとなんとかなる! 元気だそう!
「メグも、出来るだけ魔術は使わないようにした方がいい」
「あい! わかりました!」
自然魔術の使い手の先輩からの助言だ。私は元気よく返事をした。
「ちなみに、魔術以外で自衛手段はあるか? あー、まぁないよな。悪い」
リヒトの質問にすぐさま首を横に振ると、申し訳なさそうにリヒトは鼻の頭を掻いた。やめて……余計に不甲斐なさを感じるから……! その辺りについてはまだ勉強中なのだ。どう頑張っても体術は使えるようにならなそうなので、魔道具に頼ったりサウラさんから簡単なトラップ技術を学んだりしているんだよ、これでも!
でも、実戦で使えるかは微妙なところである。というかすぐに保護者のみなさんが助けてくれるので使う機会がなかったというか……今はかなり大変な状況ではあるけど、私自身が力を身に付けるチャンスともいえるかもしれない。この2人にはものすごい迷惑かけちゃうかもだけどね。ぐすっ。
「無理する必要も落ち込む必要もねぇよ! お前はまだちっこいんだから、俺たちに任せとけ! ロニーも頼りにしていいだろ?」
「あ、ああ。あまり頼りにはならないかもしれないけど……」
あぁ、申し訳ない……! で、でも私でも役に立つ事はあるよ! そう思って私は声をあげる。
「私、色んな道具を持ってるよ! 食べ物も、簡易テントも、簡易結界とか護身用魔道具とかたくさん!」
そう言いながら収納ブレスレットの透明ウインドウを出して読み上げていった。使う機会が全くなかったからどんどん溜まっていってもはや数え切れないんだよね。読み上げていたらリヒトからストップがかかる。ん? なぁに?
「ちょ、待て。まだあんのか……?」
「まだ半分も読んでないよ……?」
「……わかった。もうわかったからそのリストしまってくれ」
額に手を当てて疲れたようにため息を吐くリヒト。どうしたというのだ。首を傾げつつもウインドウを閉じる。
「お前の非常識さがよぉくわかった」
「失礼なー! 私、非常識じゃないもんっ」
「なら聞くけど、それの価値と今読み上げた物1つ1つの価値はわかってんのか?」
それっていうのは収納ブレスレットの事だよね。それから魔道具1つ1つの……あ、うん。どれもこれも高価な品ですね。
「……私が非常識デシタ」
「わかればよろしい……」
オルトゥスにずっといると、一般常識がなくなるという事を私は覚えました……! 危ない!
「あまりそれを人に見せない方が、いい。装飾品は、着けてるだけで目立つ」
ロニーの言葉が重みを持っている気がする。ネックレスとかブレスレットとか、そういうものを身につけてる時点で良いとこの出だと思われるらしい。むむ、ならば対策をせねば! そう思った私は再びウインドウを開いて画面とにらめっこ。怪訝な顔をする2人を少しだけ無視して目的の物を探す。
「これだー!」
目的の物、首元も隠れるタイプの長袖の服を見つけた私はすぐさまその服を指でタップ! 収納ブレスレットの瞬間お着替え機能により一瞬でお着替え完了ー! ちゃららーん!
街で畑仕事のお手伝いをする時に作ってもらった服で、色合いもベージュにグレーのツナギで目立たない。それに長袖だからブレスレットを隠せるし、服の下にネックレスも隠してしまえば完璧! 耳飾りはそもそも耳を隠すためにも髪で隠しちゃえばオッケーでしょ!
これでどう? という意思を示しながら2人の方をみると、リヒトは再び頭を抱えていた。解せぬ。
「自重しろよ……」
「リヒト、メグはまだ幼いから……」
ロニーもその慰め方おかしくない? だって着替えるなら今でしょ? 2人にはもはや隠しても意味ないんだからっ! 私だってもう理解したし、他の人の前では出さないよー! ほんとだよ!? そんな私の反論は2人に頭を撫でられる事で終了した。解せぬぅっ!
「よし、そろそろ地上に出るぞ。俺が先に出て確認するから少し待ってろ」
それからどれだけ歩いたのか。道はまだ続いていたけれど、壁に縄梯子がかかっている場所でリヒトが立ち止まり、そう言った。
ギシギシと音を立てつつもサッサと軽い身のこなしで登っていく。天井まで辿り着くと、出口を塞ぐ岩をどかし始める。こっちの出入り口は入ってきた時と違って魔術を使わないみたい。
きっと重たいんだろうけど、よっという掛け声だけでズズズ、と岩を動かしてしまった。やるな! リヒト少年!
「……よし。大丈夫そうだ! メグ、登れるか? ロニー、下から支えてやってくれ!」
「わかった」
「よ、よろしくお願いしましゅ、ロニー」
少し高さもあるから正直怖いけど、上からはリヒトが見守ってくれているし、下からはロニーが支えつつ持ち上げつつで付いてきてくれてるからそんな事も言ってられない。うぅ、フウちゃんの力を借りてフワッと出来たらなぁ。いかにこれまで自分が怠けていたかがわかる。ちょっとは自分の身体を鍛えなきゃな、と心の中にメモしておいた。
「よしっ、引っ張り上げるぞ」
グイッと腕を引かれ、それから抱き直して引き上げてくれたリヒト少年。やはり力持ちだ。14歳男子って逞しいのねぇ。まだ子どもの印象があったから意外だ。
こうしてロニーも地上へ出て来たところで周囲を見回す。さっきと同じ森の中かな? でも木がさっきより生い茂ってるようにも見えるけど……あ、あそこに小さな小屋がある? え、あれ? 人が近付いて来てる?
「ん? ああ、あの人は大丈夫だ! 例の信用できる大人だから!」
私とロニーが近付いてくる人物に警戒しているのを見て、リヒトが明るくそう告げた。……んだけど、あの人なんか怒った顔してない? ズンズン歩いてこっちに向かってるよ? あ、走り出した!
「リヒトぉぉぉぉぉ!!」
「お、ラビィ! ただい……」
「おらぁぁぁっ!」
「ごふうぅぅぅっ!!」
物凄い形相で駆け寄って来た長身の女性は、軽い調子で挨拶をしようとしたリヒトの言葉を完全無視して飛び蹴りをかました。背後から繰り出されたその蹴りをモロにくらったリヒトはそのまま軽く吹っ飛び、地面に撃沈。女性は明るい茶髪のポニーテールを揺らし、パンパンと手を打っている。……暫し流れる沈黙。こ、こあいっ!
「な……何すんだよぉっ!」
数秒後、ガバッと顔を上げたリヒトが涙目で訴えた。流石にすぐには立ち上がれないようで地面に座ったままだ。あちこち擦り傷と土汚れがついている。おぅ……
「何すんだじゃないよっ! 突然消えて、今まで何してたんだっ!」
「事情があったんだよっ! それに俺のせいじゃねぇっ! ほら、そこに2人いるだろ? そいつらも巻き込まれたやつらなんだっ」
そこで初めて女性は私たちに気付いたようだ。くるりとこちらを見たので思わずビクッと震えてしまったのは仕方ないと思うの。
「……なら、先にそう言いなさい!」
「痛っ! 有無を言わさず蹴り食らわしたのはラビィだろーが! 暴力反対!」
軽くゲンコツしながらラビィと呼ばれた女性がリヒトに当たる。か、かわいそう! けど私は見逃さなかったよ。ラビィさんが軽く息を吐きながら小さな声で、心配したんだから、と呟いていたのを。
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