魔王城へ行こう! 後編


 その後はみんなで楽しく談笑をしながらお茶の時間を過ごした。クロンさんの自家製スコーンは、甘すぎないクリームとジャムも相まってとっても美味でした……! 美味しいものを食べると悩みも吹き飛んじゃう単純な私です!


「さて、メグ。申し訳ないのだが我はそろそろ仕事に戻らねばならぬ」


 うまうまとミルクティーを飲んでほっこりしていると、魔王さんがそれはもう嫌そうにそんな事を言い出した。相変わらず仕事嫌いな魔王さんだ。クロンさんの目が心なしかいつもより冷たく魔王さんを射抜いている……


「俺も少しこいつの仕事を見てこようと思うんだが……クロン、メグを頼めないか?」

「申し訳ありません。私はザハリアーシュ様の監視をいたしませんと」


 おっと、私ったら邪魔者になっちゃう! 1人で待っていられるよ、と主張したんだけどそれは即座に却下されてしまった。


「迷子になんだろーが」

「可愛すぎるからダメであるぞ! いつ誰が攫っていくかわからぬ!」

「メグ様にせっかく来ていただいたのですから、無駄に時間を過ごさせるわけにはまいりません」


 三者三様の理由だったけど、とりあえずみんなダメっていう意見で揃ったのはわかった。じゃあどうしたら? と思っていたら、クロンさんが代役を頼むと言ってくれた。


「年寄りではありますが、親切で丁寧でメグ様を安心して任せられる適任者がいます。宰相なんですけどね」


 待って待って! 宰相さん!? そ、それってものすごく忙しそうなイメージしかないんだけど!? 仕事を放り投げがちな魔王さんに変わって実質宰相さんがこの国を取り仕切ってるって前にお父さんから聞いたし……うわぁ、宰相に子守を任せるとかあっていいわけ? いや、良くないでしょ!


「メグ、まぁ言いたい事は何となくわかるが、一応次期魔王って立場でもあるわけだし、この国の宰相と面識があってもいいと思うぞ。人柄は問題ないし、安心しろ」

「そ、そう? でも……良いのかなぁ? なんだか申し訳ないよぅ……」


 そんな偉い人の手を煩わせていいのかなぁって恐縮しちゃう。そんな事言ったらいつも一番偉い魔王さんに子守してもらってるけどそれはそれなのだ。縮こまっていたら後ろから涼やかな声がかけられた。


「問題ありませんよ。むしろ、案内させてくださいませ、メグ様」


 声のした方に目を向けると、そこにはオレンジの髪をオールバックにした紳士がいらっしゃった。キャメル色のスーツを着こなし、いかにもな有能オーラを放っている。この人が宰相さんだろうか。クロンさんの言ったようなお年を召された感は全くなく、姿勢も良くて隙のない立ち姿はまさにジェントルマン! 紛れも無いイケオジ様に思わず見惚れてしまう。


「ご挨拶、遅れまして申し訳ありません。この国の宰相を務めております、ヒュードリヒと申します。お気軽にヒューとお呼びくださいメグ様。こんな老いぼれではご不満ですかな?」

「と、とんでもないでしゅ! メグです! よろしくお願いしましゅーっ!」


 茶目っ気たっぷりにウインクしてそう挨拶してくれたヒューさんにドギマギしながら、私も慌てて挨拶を返したのだった。くっ、老いぼれとか嘘でしょお!?




 そして現在、ヒューさんに手を引かれて魔王城巡り中であります。緊張します! でもこの方本当に親切で、私が疲れてしまわないように気を使ってくれながらも丁寧に城を案内してくれるのだ! 昔レキにギルドを案内された時とは大違いだなぁ、なんて懐かしい事を思い出しちゃう。


「メグ様、大丈夫ですか? 少し階段がキツイかもしれませんが、ぜひ見ていただきたい場所なのです」

「は、はい! がんばりますっ」


 でも確かに階段がキツイ! 螺旋階段はどこまで続いているのかわからない上に結構急だからつい息切れしてしまう。べ、別に運動不足ってわけじゃないからね! くすん。


「さあ、着きました。扉を開けてみてください」


 ようやく頂上へ辿り着くと、目の前には大きな扉のみ。ここに何があるんだろうと思いながらもゆっくり開けて、私は思わず声をあげてしまった。


「わぁ……っ、綺麗……」


 扉の先は外へと繋がっていた。あまり広くはないけれど、円形になっているからぐるりと一周景色を見渡せる。眼下には綺麗な街並み、少し離れた場所は街を守るように森が広がっている。その先の平野も見え、地平線も確認出来た。

 ここは魔王城の一番高い場所なんだって。ここから城下町を見渡せるように、と作られたのだと説明をしてくれた。そこで暫くその景色を堪能していると、ヒューさんが静かに語り始めた。


「メグ様、私事ではありますが……実は数年前に娘が生まれたばかりなのです。この歳でですよ? とても驚きましたがそれは嬉しゅうございました」

「本当!? おめでとうございましゅっ!」


 この歳でって言うけどそんなに高齢なのかな? 亜人はあまり見た目で年齢がわからなかったりするからなぁ。それでも老いはくるはずだけど、この人はお父さんより若く見えるくらいだしイマイチピンと来ない……でも自分でいうくらいだからきっとそれなりの年齢なのだろう、とあまり突っ込まないでおく。めでたい話の前には些細な事だよね!


「私だけではありません。この魔王城で働く者の中で、ここ50年の間に10名ほど新しい命が誕生しています。城下町を入れればさらに多いでしょう。今後もまだまだ増えますよ」


 亜人って人間に比べると物凄く出生率が低いし、オルトゥスがある街は希少亜人が多くて余計に子どもがいないから忘れがちだけど……生まれないわけじゃないんだもんね。なんだか感動しちゃう。


「もちろん、メグ様や希少亜人ほど長生きな者はあまりおりません。ですが、メグ様がひとりぼっちになってしまう事はまずないでしょう」


 あ……そっか。ここでようやくヒューさんが言いたいことがわかった。


「今後何代先でも、私たちはメグ様を慕うはずです。私たちの子孫をメグ様に家族と思ってもらえる日が来ることを、心よりお待ちしています」


 私が不安に思っていることなんて、お見通しなんだね。きっと、魔王さんの時からわかっているんだ。そしてその時から魔王さんのこともこうして安心出来るように支えてくれたのかもしれない。なんだか心がほんのり温かくなった。


「差し出がましい事を申しましたでしょうか?」


 ヒューさんがそんな事を心配そうな顔で言うので、私はすぐさま首を横に振る。


「ううん! とっても嬉しいし、心が軽くなりました! ありがとうございましゅ!」


 きっとまだまだ心の準備は出来ないけれど、この話は未来の私の心を支えてくれる。ほんの少しだけ、未来が楽しみとも思えるようになった気がしたよ!


 こうして微笑み合った私たちは、もう少しだけこの場所でのんびりしてから、再び魔王城巡りへと戻っていった。

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