マイユのオシャレ魔道具


 うーん、今日も美しい私がいるね! 姿見の前で随分長いことこうしているけど、飽きないなんて自分の美しさが恐ろしいよ。しかも今日はオフの日。自慢のプラチナブロンドを結わずに下ろして靡かせて歩く私……道行く人々の目を奪ってしまうだろう私は罪な人だ。まぁ仕方ないね!


「あ、そうだ!」


 次の休みにはやってみたい、と思っていた事があるんだった。うっかり美しい私に見惚れて忘れてしまうところだったよ。危ない、危ない。化粧台の引き出しを開けて例のネックレスを取りだして、と。


「ふむ、このお花モチーフは私にももちろん似合うけど、もっと似合う子がいるねぇ……」


 私が似合うのは当然だけどね? いささか子どもっぽいようにも見えてしまうんだよね。似合うけどね? でも物にはピッタリの持ち主という存在があるものなのさ。私用のは別にデザインしようと思っているしね。

 よし、せっかくなら驚かせてあげようかな。思い立ったら吉日。さっそくレディの元へと向かおう!




「ふぇっ!? ま、マイユしゃん!?」

「どうだい、レディ・メグ? いつもの私も美しいけど、君と同じ色合いも似合うだろう? ま、私は何色でも似合ってしまうけどね!」


 レディの元へやってきた私はこのオシャレ小道具で髪と目の色をレディと全く同じ配色に変えておいた。髪は淡いピンク、瞳は藍色に。思っていたような反応を貰えて嬉しい限りさ! うんうん。


「これはこのオシャレ魔道具で髪と目の色を変えているのさ。面白いだろう? 私は美しいものが好きなんだ。だから美しい私を磨くのも、美しい誰かを磨くのも大好きなんだよ! レディは今はまだ可愛らしい、の方が似合うけど、成長とともに必ず美しくなる。私はそんなレディをもっと磨きあげたいんだよ!」


 オシャレ魔道具とは言ったし事実ではあるけど、本当は変装道具なんだってのは黙っておく。レディ・メグは可愛すぎるから色んな人に狙われがちだけど、絶対に危害は加えられないからね。もちろん、強力なボディーガードが常に何人もいるってのもあるけれど……

 魔王の血を引いているレディ・メグは、亜人たちからは本能的に好かれてしまうからね。どうにかして危害を加えてやる、と思う者だって、いざとなったら出来ないと思うんだ。そしてあの可愛らしさだろう? 皆がメロメロになってしまうのは当たり前とも言えるね。


 だからレディ・メグは身体の安全は保障されている。軟禁して側に置きたがる変態はいるかもしれないから注意は怠ってはいけないけどね! とまぁそんなわけで、変装の必要はないけどオシャレには使える。だからこそ彼女に贈りたいと思ったのさ!


「どんな色にも変えられるんでしゅか?」

「そうだよ! イメージさえキチンと出来ればおかしな色合いになる事はないのさ。やってみるかい?」


 興味津々といった様子でこちらを見てくるレディ。うーん、可愛らしい。優しい私は自身の首からネックレスを外しながら説明をしてあげた。


「ほら、ネックレスを外せば元通りになるんだよ。本当に色を変えているのではなく、幻魔術がかけられているから、髪も目も痛めることがないのさ」

「へぇーっ!」


 ふふふ、大人びているとはいえレディ・メグもまだ幼い子ども。新しいオモチャに釘付けのようだね! 良いことだ!

 私はそっとレディ・メグにネックレスをかけて少し離れて全身を眺めた。うん、やはりこの花モチーフは彼女にピッタリだ!


「貴女には花のモチーフが本当に良く似合うね! これは私からプレゼントしよう」

「ふぇっ!? で、でも良いんですか……?」


 うーん、レディ・メグはすぐ顔に出るね! こんな高そうなもの貰ってもいいのだろうか、と表情で語っているよ。まったく、かれこれ20年も色んな人から貢がれているというのに未だに慣れないらしい。ま、そこがこの子の良い所でもあるんだけどね! 貰えるのが当たり前だと思われるよりずっと良い。強欲な人っていうのは醜いからね。私とは大違い。

 その点レディ・メグはいつでも謙虚で、感謝の気持ちを忘れないからね。だからこそ、皆もこの子に何かしてあげたくなるんだろうさ。


「もちろん。貴女なら悪用もしないし、大事にしてくれると信じているからね」

「! ……ありがとーございましゅ。大切にしましゅ!」


 うんうん、素直でよろしい。私は笑顔でレディの頭をよしよしと撫でてやりました。


「あ、でももし良かったら少しお願いを聞いてもらえないかい?」

「う? 私に出来る事なら何でもどーぞ!」


 ふ、ふ、ふ。言質は取ったよ? 私が微笑んだのを見たレディ・メグは、わかりやすく少し後悔の色を瞳に滲ませた。大丈夫、大丈夫! 悪いようにはしないからね!




「ご機嫌麗しゅう、皆さん! どうだい! 素晴らしいだろう? レディ・メグがこの美しい私と! 全く同じ色合いでまさに美しすぎる2人が揃うとこうも」

「メグちゃん!? 確かに可愛いわ!」

「へぇ、プラチナブランドにアイスブルーの瞳かぁ。可愛い子は何やっても可愛いんだね」


 そう、レディ・メグへのお願いとして、私と同じ配色でギルド内を歩いてもらったんだ。美しい者が並んだ様子はさぞ絵になるだろうと思ってね! 私の言葉を皆が遮ってしまうのも仕方がないというものだよ! 寛大な心を持った私はなんて素敵な紳士なんだろうね?

 案の定ホール内の皆は私たちに釘付け! うーん! 注目されるっていうのは気持ち良いよ。ゾクゾクするね!


「だが、違和感はあるな……見慣れない姿だからだろうが」


 そんなギルさんの言葉に引っかかりを覚えた私は、勢いよくギルさんの方を向いた。


「チッチッチッ。ギルさん、違和感があるからこそ、良いんだよ」

「……?」


 人差し指を立てて私がそう言ったものの、ギルさんはイマイチ理解してない様子で首を傾げている。よろしい! この美しいマイユさんが教えて差し上げましょう!


「いつもと何か違う……それが心をときめかせるんですよ! 同じ毎日の繰り返しでマンネリ化しがちな2人の関係も、いつもと違う何かがあるだけで何だか胸がざわつくんです! そう、それが恋!!」

「……恋はわからないが、なるほど。新鮮ではあるな」


 うーん、思ってた反応は貰えなかったけど、そもそも人に関心の薄いギルさんの反応としては及第点かな! というか、ギルさん以外から物欲しそうな視線を感じるね。ふふ、私の言いたいことが伝わった面々だろうね!


「興味がある方々はミコラーシュの元へ注文しにいくといいよ。あとはラグランジェも作り方を知っているよ! ランならデザインも凝ったものが作れるだろうし、プレゼントには最適だと思うよ? ……今宵はあの時の新鮮なドキドキを感じて熱い夜を過ごせるかも、ね?」


 ふふん、と流し目を送ると、さっと何人かが走り去っていった。ラグランジェの店がしばらく繁盛するね! オルトゥス裏メンバーであるラグランジェは私たちと密に繋がりを持っているのさ!

 でも1人の負担が増えるから私もデザインで少し稼ごうかなっと。


「……熱い夜」


 こてん、と首を傾げてそう呟くレディ・メグには、慌てて楽しくて賑やかなパーティになるから熱くなるのだと説明したよ。さすがに少し早い話題だからね! 決してギルさんの目が怖かったらじゃないんだ!


 そんなことがあって、しばらくこの街では髪と目の色合いを変えるのがブームとなった。ふふ、また私がオシャレ最先端としてブームを広げられた事を誇りに思うね! 流石は私! 美しいうえに仕事も出来て有能だなんて。天は二物も三物も与え────

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