メグの戦い


 淡いピンクの眩い光が結界内を埋め尽くす。この色は私の魔力の色。ショーちゃんと似てるのがなんだか嬉しい。

 なかなか打ち破る事の出来ない風の結界。けど諦めるもんか! ギリギリまで魔力使っちゃうもんね! こうして放出を続けていたら、ようやくキシキシと結界が軋む音が聞こえてきた。あと、少し……!


「えぇぇぇいっ!!」


 とどめとばかり一際力を込めた瞬間、バリィンとガラスの割れるような音と共に、風がものすごい勢いで上空へと昇っていった。私はその場に取り残され、そして落下していく。うひょお!


「フウちゃぁぁん!」

『任せてっ、主様っ!』


 フウちゃんを呼ぶとフワリと私の周りを風が包む。貯魔力は保存したかったのと、残された魔力の関係もあって、飛ぶ事までは出来ないけど落下速度が緩やかになった。はふぅ。


「なっ……!?」


 シェルメルホルンの焦った声が聞こえた。彼だけでなく、みんなが私に気付いたのかこちらを見上げている。えーと、着地予想場所は……うわはーい! 魔物の群れの中だね!


「メグ! くっ……!」


 ギルさんやニカさん、クロンさんも私を受け止めようとこちらへ向かおうとするけど、シェルメルホルンや魔物、それからドラゴンの魔王さんに阻まれてこちらに来られないご様子。シェルメルホルンも来ようとしてるのを、ギルさんが止めてるって感じかな。おや? 私、魔力だけじゃなくて動体視力も良くなってない?


「ホムラくん! フウちゃん!」

『任せろなんだぞ、ご主人!』

『いっくよーっ』


 おっと、そんな事考えてる場合じゃなかった。大丈夫。こっちは私が自分でなんとかするからね!

 打ち合わせ通りにホムラくんが着地点にいる魔物に向けて炎の塊を落下させる。地面に着いた炎は激しい爆風とともに燃え広がり、半径5メートル程の炎の輪を作り上げた。魔物たちが可哀想なので、殺傷能力は低めである! よし、中心には誰もいないね。


「よっ、着地! ホムラくん、フウちゃん、ありがと! バッチリだったよー!」


 こうしてフウちゃんの風のクッションにより安全に炎の輪の中心に私は降り立った。すぐさま2人の精霊に労いの言葉をかける。


「よち。じゃあ次は、シズクちゃん。よろしくね?」

『本当に良いのだな?』

「うん。きっと大丈夫」


 保証はないけどね! 未来を視た私は少し気が大きくなっているんだ!


『ではやるのだ!』


 シズクちゃんが体勢を少し低くし、足を踏ん張って口から水を吹き出した。そのままグルリと一周回ると、あっという間に火が消えていった。となると、当然周囲には魔物の群れ。目の光をなくし、獲物を見つけたというように、今まさに私に飛びかかろうとしている。

 うっ、流石に怖い。けど、負けるもんか。


「ショーちゃん、よろちくね」

『いつでもいいのよ!』


 ここからは、上手くいくかどうか、賭けである。でも、きっと勝てる! 私は大きく息を吸い込んだ。


「魔物たちぃっ! しょこを! どきなちゃぁぁぁい!!」


 ザ・説得である! もはや説得ですらないただの命令だけどね! でも、私にはショーちゃんがついてる。ショーちゃんが、私が叫んだ事以上の内容を魔物たちに一斉に伝えてくれている。私の、心の声を。


 必ず苦しみから救ってあげるから。お願いだから今は邪魔をしないで欲しい。私に時間を頂戴。そのような内容を。


 キリリとした目つきで魔物たちを見つめる。キリリとして見えるかどうかは別として、目に意思と力は込めた。ど、どうかな……? 少なくとも、今にも襲いかかろうとしていたあの体勢は崩しているみたいだけど……


「んにゅ?」


 変な声出た。いや、だって。

 魔物たちが一斉に道を開けて、頭を下げているんだもん。あまりの素直さに驚くよね。うぉぉ、すごい光景だ。ありがたく通させてもらおう。


「ありがと。もうしゅこし、待っててね」


 そんな風に魔物たちに声をかけながら、私は歩いていく。道の先にはギルさんたち。みなさん、呆気にとられた顔をしてらっしゃる。シェルメルホルンでさえ、だよ? うん、気持ちはわからないでもない。


「魔王の、威圧……? まさか、まだ世代交代をしていないというのに……」

「血の繋がりってヤツかもなぁ……」


 威圧? そんなものはした覚えないんだけど……いや、命令したし、あれが威圧になったのかも。なるほど、これまでは魔王同士で血の繋がりがなかったからこうはいかなかったけど、私には魔王の血が流れてるから、世代交代前でも威圧が使えたって事だろうか。でもたぶん、偶然だよ。同じ事やれって言われてもきっと無理!


 さて。近くに来てみたらみんなの傷だらけ具合が良くわかる。うぅ、痛々しい……よし!


「シズクちゃん。さっきのおくしゅりの霧、みんなにかけてあげてほちーの」

『魔物や、アイツにも……?』

「うん。ダメかなぁ?」


 アイツとは、シェルメルホルンの事である。嫌な人だけど、やっぱり傷ついてるの見るのは嫌なんだもん。一応私のお祖父ちゃんなわけだしさっ。


『ダメじゃないのだ。御意なのだ!』


 少し納得がいかない感じが伝わってきたけど、私の言った通りにこの周辺に霧の薬を撒き散らしてくれた。範囲が広くて渡す魔力が多いのと、さっき魔力をたくさん使ったのとで、いくら魔力総量が増えたといえどややフラフラである!

 あ、魔力回復のお薬持ってきたんだった。バナナ、じゃなくてナババ味のお薬水筒に入れてもらったんだよねー。1人亜空間から水筒を取り出し、コップにお薬を注ぐ。


「んちょ、んちょ……よち。いただきましゅ。……んー、ちょっと苦いけどおいちー!」


 ふぅ、魔力も少し回復したよ! コップのお薬をグビッと飲みきって亜空間に水筒をしまったところでみんなの視線にはたと気がつく。な、なによぅ、その微妙な顔。呆気にとられたような、微笑ましげなような、驚いたような、なんか色んな感情ごちゃまぜになったような顔!


「メグ……」


 そして脱力したような呆れたような安心したような声をもらすギルさん。えぇい! 細かい事はいいんだよ! って事でギルさんの腕の中にダーイブ!!


「ただいまでしゅ! ギルしゃん、ケガだいじょぶ?」

「……ああ」


 ギルさんは優しく抱きとめてくれる。たくさん血が出てたから心配で、上を向いて話しかけた。でもすぐにギュッと抱きしめられてしまったので、一瞬しか顔が見えなかった。


 だから、気のせいだったかもしれないけれど。


 ギルさんは眉間にシワを寄せて、今にも泣きそうな顔をしていたような気がしたんだ。


「怖い思いをさせて、すまなかった……」

「ギルしゃん……?」

「二度と、離さない。護ると誓う。……あまり説得力がないだろうが」


 背中に回された手が震えているのを感じた。そっか、怖かったんだ。言ってたもんね、怖いって。私の方こそ、ごめんなさいだよギルさん。


「信じるでしゅ。私も、ギルしゃん怖がらせて、ごめんなしゃい」


 小さな手で、ギルさんの背中をポンポンと叩く。


「もう大丈夫でしゅよー。頼りないかもしれないでしゅけど」


 そうあやすように言うと、フッと小さく笑う気配がした。


「何よりも頼もしいさ」


 そう言いながら見せてくれたギルさんの顔は、今まで見た中で最高のイケメンスマイルでした。眩しい!

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