絆
覚悟
真っ白な世界で私とメグが手を取り合う。メグの手は少し冷たい。
私が手をぎゅっと握ると、微かに握り返してくれた感触があった。確かな意思を感じる。
「さっきの声は、メグ……?」
私がそう問いかけてもメグからの返事はない。表情にも変わりはない。だけど肯定の意思が、心を伝って感じ取ることが出来た。何だか不思議な感覚だ。
「私に、出来ることがあるの……?」
再び肯定の意思。それは何だろう。こんな無力な私に出来ること……?
考えていると、繋いだ手から映像が脳内に流れてくる感覚があった。私はその映像に集中するべく、目を閉じる。見えてきたのは……輝く薄桃色の長い髪を靡かせた美しい女性。イェンナ、さん?
『メグ。貴女を1人で旅立たせることをどうか許して』
私、というかメグの両肩に手を置いて、真剣な眼差しでそう告げるイェンナさん。その瞳は少し濡れているように見える。
『私は、貴女を産むことが出来てとても幸せですわ。愛する人との間に出来た大切な宝物。……本当ならずっと側にいたかったけれど……』
グッと、言葉に詰まるイェンナさん。決して涙を流すまいという決意が見える。
『私の代わりに貴女を見守ってくれる人物と、きっと出会えます。困難が待ち受けていたとしても、信じて。必ず光が射しますわ』
光が射す。この言葉はとても大切な意味を持っている。そんな気がした。
『貴女にも、その光が見えるでしょう』
私にも? でも、私はただの人間。ただの環。私に出来るのかな。偽物のハイエルフなんだよ。魂はただの人間なの。
『最期に……これだけでも貴女に伝わったらいいですわね』
最期に? ああ、そうか。これはメグの記憶。イェンナさんがメグと離れる直前の記憶なんだ。
『メグ。愛していますわ。これからも、ずっと』
ギュッと抱きしめられた暖かさと切なさを私も感じることが出来た。伝わってくる母親の愛情。ああ、これがあったから。これがあったからメグは望んだのね?
ゆっくりと目を開けると、そこには変わらず無表情で佇むメグがいた。ただ、1つだけ変化がある。
「メグ、悲しいの?」
静かに涙だけを流すメグ。私の言葉に否定の意思を示してきた。
「……そっか。嬉しいんだね。そして、悔しい」
返ってきたのは肯定の意思。そして、覚悟。
わかったよ、メグ。私も覚悟を決める時がきたんだね。ふふ、貴女の方が先に覚悟を決めたね? 度胸のある子なんだ。でも私だって負けないからね。
「じゃあ、そうしようか」
そう伝えるとすぐに肯定が返ってきた。僅かに微笑んだように見えたのは、気のせいかな?
座り込んでいた私はメグの手を握ったまま立ち上がる。気付けば私は環の姿になっていたから、すぐにメグの目線に合わせて屈むことになったけれど。
「私を呼んでくれてありがとう。また生きられて、嬉しかった」
メグの目をまっすぐ見ながら、出来るだけ笑顔を心がけて私は言う。
「生まれ変わろう。一緒に」
すっと目を閉じたメグに合わせて、私も目を閉じ、両手でメグの手を握る。額と額を合わせて、互いの存在を深く認識し合い、溶けて、混ざり合う。
私たちの意思は一緒だったから。
大切な人たちの元で、笑って日々を過ごしたい。
でも私たちは不完全で、あやふやな存在。
だから、私たちは1人になる。2人で1人だった私たちが、器と魂をきちんと融合させて、新たな『メグ』に。
眩い光が閉じた瞼からも感じ取れた。ポカポカと、心と身体に温もりを感じる。心地いい感覚だ。光が収まった頃、ようやくゆっくりと目を開けた。
「……これからも、
メグとしての記憶、感情、そして環としての記憶と感情も残して、私たちはようやく1つになったのだった。未だかつてないほど心身ともに軽やかで、これまでどれだけ心にも身体にも負担をかけていたのかがよくわかった。そりゃすぐ倒れるわけだ。
「! これは……」
そして、生まれ変わってすぐの私は、未来を視た————
ふと気が付けば私は風の結界内で上空から戦闘を眺めていた。どのくらい時間が経ったのかな……? わからないけど、みんなの顔に疲れが見て取れたから、それなりに時間が過ぎているのかもしれない。相変わらず誰もが血を流して必死に戦っている。
その光景にはやっぱり胸が痛むけど、不思議と恐怖は感じなくなっていた。それはきっと、さっき視た未来のおかげだ。
未来予知は未来を視る事が出来る。それはほぼ変わる事のない確定の未来だけど、努力次第で変えることが出来なくもないものだ。
でも、今回は特に変える必要はない。だからといって何もしないわけにはいかない。光射す未来へ導くために。
だから、自信を持って動こうと思う。私はただ、私の思うままに行動すればいいだけなんだからね! 私の視た未来が、私に勇気を与えてくれる。
「ショーちゃん」
『はいなのよ、ご主人様! 顔色、良くなったのよ?』
「うん。もうだいじょぶ。ね、他の子たちとも話したいんだけど……」
風の結界が強固すぎるから、最初の契約精霊以外の子たちは入れないみたいなんだよね。でも、ショーちゃんを通じて話をする事は出来る。本当に助かるよ、ショーちゃん!
「結界は、中から外には簡単に通れたでちょ? この風の結界も、中から力を加えたら外から入るよりも少ない力で外に出られたりするかなぁ? と思って」
『わかったのよ! フウに聞いてみるのよ!』
風の結界だし、特に詳しいのはきっとフウちゃんだ。だからショーちゃんもフウちゃんに聞きに行ってくれた。
『ちょっと厳しいかもしれないけど、魔力を放出すればいけると思うって!』
「うっ、私の少ない魔力でだいじょぶかなぁ……」
いくら内側からだって言ってもシェルメルホルンの結界だし、ちんちくりんな私の魔力で足りる気がしない! そう思っていたらショーちゃんから意外な言葉が。
『ご主人様、さっき魔力量が突然増えたのよ? ビックリなのよ! 何かあったのかなって心配だったのよー!』
「え? しょーなの?」
なんでも、これまでの私の魔力量の5倍は増えてるのだそう。ひぇー! そんなに!? まぁ、心当たりはありまくるけどね。いやはや、メグったら潜在能力半端ないわ……!
「言われてみれば……感じるよ、魔力。あ、何かがあったのはたしかだけど、悪い事じゃないよ」
その原因についても、詳しくはまた今度話すねとショーちゃんに告げると、何となくはわかるけど、待ってるのよ、とのお返事。精霊だもんね。うっすらとわかるのかもしれない。でも、ちゃんと話したいし、その時は他の精霊たちも一緒にね!
とにかく今は、やらなきゃいけない事があるから。
「よぉし。いっちょ、やりましゅかー!」
『行け行けご主人様ーっ!』
結界から出た後の事を精霊たちに伝えてもらって準備は万端。
どうなるかはわからないけど、どうにかしてみせる!
ここからは、私の反撃タイムだー!
そうして私はお腹にグッと力を入れると、足元に両手をかざした。全身を巡る魔力をしっかり感じ取り、溜めて、溜めて……
「いっけぇぇぇっ!!」
一気に魔力を放出したのだった。おりゃー!!
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