ハイエルフの性質


 マーラさんと共にハイエルフさんたちに話をしに行くと、直ぐにみんな我に返ってくれたようだった。流石はハイエルフ。ハイスペックである。

 気付いた人も他の仲間に説明しにいったりとしていたために、元々人数も少なかったからあっという間にみんなが我に返ってくれたようだ。良かった。


「あぁ、可愛いなぁ……我らの新しい命だ」

「ハイエルフが滅びるのも少しだけ伸びたのかしらねぇ?」


 ちなみに、私のことはみんなこんな感じであっさり受け入れてくれた。それどころかむしろ歓迎されている節もある。そして、この人たちの言う少しだけがどの程度なのか聞くのが怖い。超長生きだもん、数千年単位だよね……?


「……こんな反応なら、イェンナリエアルと必死で隠す必要もなかったわね。……ううん、精神干渉されていたから、シェルメルホルンにもっと早く知れていたかもしれないし、結果としては最善だったわね」


 マーラさんは顎に手を当てて1人思案しながら独り言を呟いている。


「で、でも私は、父しゃまは魔王しゃんでしゅ。ちゃんとハイエルフじゃないでしゅよ……?」


 あまりに歓迎されるので、自分から素直に素性を話す事にした。父親が魔王と聞いたみんなはそれぞれ驚いた表情である。そ、そうだよねぇ……


「混血でもハイエルフは産まれるじゃないか!」

「……え?」


 けど、驚きの理由は私の思っていたのとは違った。なんでも、混血となるとハイエルフはエルフになってしまうと信じられていたのだそう。だから自分たちの種族を守るためにも大昔のハイエルフは、他種族との交わりを禁じ、呪いをかけるに至ったという。

 だけど私は紛れもなくハイエルフ。それは見ただけで同族には感じ取れるものだから間違いないんだって。そこは私にも何となくわかるけど。

 とまぁ、そんなわけでみなさん、私がハイエルフであるという事実に1番驚いた模様。今まで信じていた事はなんだっての!? ってことだよね、きっと。サンタさんはいないの!? に似てる。似てないか。


「そうは言っても、出生率は限りなく少ないのは変わらないけれどねぇ……」

「でも、我らハイエルフは途絶える事がなくなる。その希望が生まれたじゃないか!」

「そうよね。私たちはもっと、他の種族と関わるべきだったんだわ!」


 そんな声があちらこちらから聞こえてくる。なんだ、みんな事実がわかれば基本的には人と関わる事については前向きな人が多いじゃないか。もちろん、尻込みして自分はずっとこの郷でいいという人もいるけどね。


「確か、この郷の環境が特殊なんですよね。ここの空気が清浄で、満ち溢れた魔力が美しいためにハイエルフはより長命なんだそうです。ザハリアーシュ様がイェンナ様に聞いたとお聞きした事があります」

「あら、そうなの? 初耳よ?」

「それはそうでしょう。郷の外に出て生活して初めて身を以てイェンナ様も実感した事のようですから。郷にずっとおられる方には気付けない事です」


 元々長命で強い力を持つハイエルフ。加えてここの環境がより長命にさせてたんだね。私からしてみたら、亜人ってだけでもう充分長命だし、大事な人を見送るばかりになりそうだからあんまり長生きは嫌なんだけど。


「……余計に外の世界に行きたくなってきたわ。余生は外で過ごそうかしら」

「お、俺も……」

「私も!!」


 要するに寿命が短くなるという事なのに、それを望むハイエルフが一定数いるという驚き。でも気持ちはよくわかるよ。今後はハイエルフも物語上の存在ではなくなる日も近いのかな? 数が少ないから無理かな?

 それにしても、思った以上にみなさんノリが軽い。閉鎖的な空間で偏った考えで長年生活していたはずだから、もっと宗教的で凝り固まった危険思想の集団かと思ってたよ。まぁ偏見だけどさ? でもそういえば入り口の看板からしておかしかったもんね。あれ読める人はハイエルフのみだし、族長以外は見る人もいないだろうに。あれか、ハイエルフジョークってやつか。やはりノリが軽い……


「これだけ永く生きているとね、色々と見えてくるものがあるのよ。私たちの生活がきっと不自然なのだろうって。知ってはいても、変えようとは思わなかったわ。精神干渉がなくても、ね」


 元来ハイエルフとは平和主義なのだそうだ。そして陽気な者が多いという。族長の様子や、他種族を容赦なく処分するという過去からいって全く想像がつかないんだけども。


「細かいことを気にしないのよ。誰が誰と結婚したとか、誰かが外の世界に行ったとか。族長が人を虐殺したとか、族長の娘が家出したとか。あなた方にとっては許されざる事も、私たちには細かい事でしかないの。悪気はないのよ? ごめんなさいね、みんなそういう性分なの」


 それによって人々がハイエルフに対して偏見を抱き始めた事や、すでに存在すら怪しまれている種族である事など。彼らにとっては些細な事なんだって。なんだか……人類を超越しているよね。族長さん、頑張らなくてもすでに神に近い存在なんじゃないの? 最初から。仙人みたいな?


「自然と共にただ生き、そして終える。それだけが私たちの存在意義」


 外の世界に未だに興味を示さないハイエルフたちはその考えを今も持ち続けているそうだ。誰が何をしようと、興味すら持たない。自然と同化するように存在するその姿は、確かに人としての気配をほとんど感じなかった。

 一方で、余生は外の世界でという意見に賛同した者は、自らの意思を持つハイエルフたち。同族同士で交配を繰り返し、濃すぎる血を持った者が前者で、それ以外が後者なのかもしれないとマーラさんは語った。あるいは、逆なのかもと。それを知る術はないからわからないよね。


「私は、欲を抱いてしまったのよ。ある意味では罪深いハイエルフ。もう、永遠とも思える生の時間に疲れてしまったの」


 少しだけ、イェンナリエアルが羨ましいと思ってしまったと言ったら不謹慎かしら。そう呟いてマーラさんをはじめとする同意見のハイエルフたちは、揃って目を伏せた。


「……今後の事は、それぞれの好きにしてみるといい。だが今は、あちらを何とかしなければならない。考えるのは、その後にしてもらえないか」


 暫くの間を置いて、ギルさんがそう切り出した。そうなのだ。今も絶賛、族長対魔王の戦いの最中なのである!


「ハイエルフたちとの全面戦争かぁ、と思ってた分、最悪の事態は避けられたとは思うけどなぁ」

「私たちとの全面戦争?」


 ここで、私たちがここへ来た経緯と、どのような覚悟で来たのかを初めて伝えることとなった。本当はもっと早く言うべきだったね!


「……なるほどね。でももしそうだったとしても、私たちには戦う力はそんなにないわよ?」


 自衛の力はあるから自分たちを滅ぼす事が出来ないのは間違いないけど、とマーラさんは言う。なんでも、攻撃に向くハイエルフは2人しかいないんだって。族長と、イェンナさん。親子だな、なんて場違いにも思ってしまったよ。


「ふむ。それはつまり、あれを止められる者がこの場には……」


 言葉を濁すように口を開いたギルさん。そしてその言葉を拾ったマーラさんはあっさりと告げる。


「いないわ。あの2人が戦いを止めるか、勝敗がつくかしないと、ね」


 どうやら、事態は思ってた以上に深刻だったようです……! お、お、お父さぁぁぁん!!

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