好感度アップ
魔王さんからの依頼は一も二もなく受ける、というより戦争を回避したいのは同じなので、同じ目的に向かって協力する形となった。とはいえ、事が重大なので
「
サウラさんが呟いたように、北の山とは例のハイエルフの郷に近い。ハイエルフがいつ仕掛けてくるのかわからない現状で、敵の本拠地近くにいるのは危ない、というところである。私たちに今出来るのは、どうか無事に帰ってきてと願う事ばかり。ギルさんの影鷲や精霊に伝言を頼むというのも出来なくはないけど……相手がハイエルフとなると気付かれる可能性の方が高いらしい。
今は少しでも刺激を与えたくないから、やはりただ待つ事しか出来ないのだ。うう、心配だ。
「ジュマさえ見つかれば大丈夫だ。ニカ、ケイ、メアリーラがいるんだ。理想的なパーティーだからな」
「合流さえ出来ればケイがいるから大人しく帰還出来ると思うけどね。……まだ何も知らないジュマが1人で、しかも相当ストレス溜まった状態なのに大人しく帰還すると思う?」
「……早く見つかる事を祈る」
「でしょおっ!?」
あー、つまり。ストレス発散とばかりにジュマくんが大暴れしてる可能性が大ってわけね。んで、そのおかげでハイエルフに存在がバレてしまう、と。
いつもならそれでも問題ないけど、メグの予知もある事だし何がきっかけで相手に刺激を与えてしまうかわからないもんね。ハイエルフがどの程度情報を掴んでいるかわからないから何とも言えないけど、オルトゥスが私を保護してるって伝わってたら、大暴れしてるオルトゥスメンバーなんて格好の餌食だ。
「はぁ……ネーモもメグちゃんを狙っていたけど、それどころじゃない事態になったわね。とはいえ、その隙を狙われる可能性もあるわけだから、ギル、警戒は怠らないでね」
「どんな状況でも気を抜くつもりはない」
「ギルならそうよね。任せたわよ!」
なんか、本当に、なんで私が狙われてるのかわかんないよね。いや、理由とかはわかるよ? 私が貴重なハイエルフの子どもで、未来予知の特殊体質があって、しかも魔王の子ども。
改めて奇跡的な境遇ですね、私。
でもさ、私ってただの元社畜だよ? 魔術だって全然ダメだし、運動神経も……ボテボテ走りから察するに普通の幼児よりダメだし。頭が良さげなのは中身が成人済なだけで、すごく良いわけでもない。ただの普通の、下手したら普通よりもあらゆる事が下回る幼女なんだよ。だから、いくら貴重な境遇とはいえ、それだけで狙われるっていうのがなんか釈然としないんだよね。いや、それに見合う人物だったとしても狙われるのは嫌だけど。
「では魔王様。
私たちの話の区切りがついたところで、話をまとめるためにサウラさんがそう魔王さんに尋ねた。まぁ1週間ほどかかるなら戻った方がいいよね。お仕事とか溜まっちゃいそうだし。送り先ってくらいだから手紙を出す感じになるのかな?
そんな風に思ってたんだけど、頭上から降ってきた魔王さんの返答は予想外なものだった。
「いや? 暫くここに厄介になるつもりだが?」
「ザハリアーシュ様っ!?」
え、ここに!? つまり
「何を言うのですか! 仕事が溜まって……」
「ここにくる前に一気に片付けておいた。帰ってからまた一気にやってしまえば1週間くらいどうとでもなる」
「……そのやる気をいつも出してくださいよ……!!」
ガックリと項垂れるクロンさん。なんか、普段の苦労が垣間見えた。いつもお疲れ様です……
「でも、突然の申し出はやめてください、ザハリアーシュ様。ギルドの方々にも準備というものがあるのですから。……申し訳ありません、皆様。部屋を貸していただけませんか? この方、このように決めたらもう、その……」
クロンさんが、それはそれは申し訳なさそうに頭を下げた。あー、頑固なのね? 意思を曲げないのね? ギルドに滞在するのは決定事項なのね? それらを瞬時に理解した私たち。暫し引きつった表情で固まっていたサウラさんも思考を切り替えたのか、咳払いを1つして答えた。相変わらずの切り替えの早さに脱帽である。
「大丈夫ですよ。部屋はいつでも空いてますし、来客用の部屋もありますしね! ただ、魔王様がお泊りになるには狭いかもしれませんけど」
「良いです、良いです! なんなら獣舎でも良いですから!」
「……クロン。流石に獣舎は嫌だぞ」
単語と話の流れから察するに獣舎って馬小屋みたいな感じかな? なんだか魔王さんの威厳が薄れていく……
「何言ってんですか! 皆様に迷惑をかけるんですから、たとえ野宿でも文句1つ言ってはなりませんからね!」
「……文句を言う気は全くないが、そこまで言わなくても良かろう?」
見目麗し過ぎる魔王さんが叱られて拗ねている姿というのはなかなかにシュールだ。でも何となく、いつもの光景なんだろうなぁ。最初の登場での威厳が見る影もないぞ? きっとこちらが素なのだろう。ちょっと親しみやすいかも。
「せっかく娘と会えたのだ。少しくらい娘との時間を堪能したいと思ったのだ」
続けて発せられた言葉に思わずキュンときた。やだ、純粋に父親心だったのね! ……ってあれ? その言い方をするって事は。
「……あの、魔王様。メグちゃんを連れて行こうと思っているわけでは……?」
そう、ここだ。私的にもすごく気になってたし、そうだと思ってた部分。だけど、虚を突かれたような顔をした魔王さんは、当たり前だとでも言うようにサウラさんの言葉を否定した。
「つい先ほど出会ったばかりの人物に突然父と言われては戸惑うのが当たり前。むしろ今も我に大人しく抱かれている事にすら我は驚いているのだぞ。そんな子どもの気持ちを無視した行動をするわけなかろう」
魔王さん、意外と常識人だった! いや、突然自らの身分を省みずアポなしで訪問するあたりは常識人とは言えないけど!
「確かに我は娘を連れて帰りたいという気持ちがある。いつか1度くらいは我が城に迎えたいとも。だが、それは今ではない。そして、自分の居場所を決めるのはメグ本人だ。我は無理強いをしたいとは思わぬ」
魔王さん……! 一気に好感度が上昇したよ! うわぁ、良かった。安心した! ここへきて一気に力が抜けたよ、はふぅ。
「だが、出来れば頻繁に会いたいのと……その、我を……父と呼んで欲しいとは、思っておる」
やだ、この魔王さん私のキュンポイントを的確に突いてくる! えー、そうだなぁ。お父さん、は私にとって1人だけだし、パパはギルさんだし……となるとやっぱこれかなぁ?
「父しゃま?」
「ぐはっ……!!」
「ザハリアーシュ様っ! お気を確かにーっ!!」
あ、美幼女の首傾げ「父しゃま」は刺激が強かったようだ。ごめん、私未だにこの容姿の自覚ないんだよ……!
魔王さん改め父様が発作を起こした事で場が何とも言えない雰囲気になってしまった。それでも私を落とさないところは流石魔王だと思いました。……え? そこじゃない?
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