sideジュマ
最近、というか前からだけどさ、オレって結構損な役回りだと思うんだよな。
人よりちょっとバカで、力の加減が出来なくて、ちょっと余計なこと口走っちまうだけなんだけどなー。みんなが怒りっぽいんだよ。特にサウラ! あいつカルシウム足りてねぇんだよたぶん。今度ミルクを買っていってやろう。背も少しは伸びるかもしんねぇし。いや、もうとうの昔に成長期終わってるか! もうおばちゃんだしな! ん? こういうのが一言余計ってやつなんかな? まあいっか。
で、オレが今何してるかってーと、エピンクの尾行をしてる! かなり離れてても匂いとか勘で追えるからそれはいいんだけど、気配を極力消すってのがなー。苦手なんだよなー。
なんたってオレ鬼だぜ? 強さが売りな訳。あと頑丈さ。その強さを人型に収めるのだってかなり苦労したのに、さらに消せって。ほんと、無茶振りばっかしやがるんだよなー、あいつら。まぁ、オレ様天才だし? オレが選んでこのギルドにいるわけだし? やるけどよー! 人使い荒いのだけもうちっとどうにかなんねぇかなぁ。
ちなみに、オレが魔物型になると、今の2倍の大きさになる。人型のオレは小柄だけどな! 今も少し肌の色が濃いけど、もっと濃い褐色になって、真っ赤な髪を振り乱した赤鬼。カッコいいんだぜー! サウラあたりには野蛮だって言われたけど、あいつはわかってないんだ!
おっと、エピンクのやつ、動きを止めやがった。んん? あ、魔物型になりやがった。あいつも魔物型になるとデカくなるんだよなー。お腹に袋がついてる不思議な生き物。聞いたところによると、子育てをあの袋でするらしいんだよな。子育てする機会なんか少ないだろうに。
だからこそ発達して、袋の中は異空間になってて色んなものを入れられるようになったんだっけか? あんまり詳しく覚えてねぇけど。
「ん?」
そろそろセインスレイ国内だってのに、森の茂みに人影が見えた。誰だ? ってかエピンクのヤツも警戒してねぇ? 何で? ……と思えば逆立てた毛が収まって通常モードに戻ったエピンク。相手が誰かわかったってとこだな。あ、吹き飛んだ。敵か?
敵の敵がオレの味方って都合の良い事なんか考えちゃダメだな。それにエピンクの敵って決まったわけでもねぇし。ここらでオレも警戒……って、あいつ、オレに気付いてやがったな?
「うおっ」
突然そいつが風の魔術を叩き込んできやがった。てんめぇ、危ねぇじゃんか! よし、敵! あいつは敵!
「なっ、お前っ、鬼ぃ! 尾けてきてたのかよ!」
ここでエピンクのヤツはようやくオレに気付いたみてぇだ。ふふん、どうだ、オレだってやれば出来るんだぜ? まぁ、あいつのせいでバレたけどよ。というかあいつは何者なんだ?
「……尾行に気付けぬとは、愚かな獣よ。まぁいい。付いてきた獣も所詮は小物よ」
「おいおいおい……随分な言い草じゃねぇか。……お前何者だ?」
「ふっ、そんな事を素直に言うわけなかろう。やはり獣の知能は人以下であるな」
こいつ……言わせておけばいちいち苛つく言い方すんなぁ! いや、でもここで挑発に乗ったらオレはそれこそただの鬼だ。獣じゃねぇっつーの!
「ふむ、挑発には乗らぬか。そこは褒めてやろう。まぁ、全て本心であったがな」
あーーーーー! 苛つく! 今までのストレスもあってオレそろそろ暴れたいんだけどっ!! くっそ……ドラゴン、ドラゴン……待ってろよドラゴン……!! よし、大丈夫。
「おいそこの獣」
「お、オイラの事だし……?」
「ふん。何度も言わせるな獣風情が。して、情報は持ち帰ったのか」
「あ、いや……あの、鬼がいる場所で話すのはちょっと」
なんだ、エピンクのやつ。あんなくっそ嫌味な奴にへりくだ……へりくだす? へりくだり? えーっと、ヘコヘコしやがって気味悪ぃな!
「邪魔なのだな」
そいつがそう言ってオレに目を向けた途端。
今まで感じた事すらない膨大な魔力を感じて慌ててその場から飛び退いた。
やべぇ。これはやべぇ。全身がビリビリと電流が走ったように警鐘を鳴らして、今すぐここから逃げろと言ってるみてぇだ。
「……おもしれぇ」
そしてオレはその感覚を知っている。忘れもしないあの戦争の時に、自分の縄張りに少し立ち入ったというだけで一軍団全てを塵のように吹き飛ばしたんだ。あの時使ったのが風じゃなきゃ、灰になってた可能性もあるくらいだ。まだオレが幼いガキの時だった。
「お前はあの時の……っ!」
オレがそいつの名を口にするより早く、魔術が行使されたらしく、オレは気付けば空にいた。
ってか、あいつもしかしてネーモに関係あるのかよ……だとしたら一大事だ。絶対ネーモには手を出しちゃならねぇ。
でもまぁ、オレたちに害があるなら、手を出さなきゃいけないよなぁ?
きっとそうなるだろう未来を想像してついニヤける。絶対手を出しちゃいけない相手だってのにな? まぁ仕方ないって事で。オレ鬼だし。
……っていうか。
「どこまで飛んだくんだよオレぇぇぇぇ!?」
きっとあの時みたいな風だ。だとしたらオレはこのまま国を1つ2つ超えちまう。
「あーーーー! なんなんだよっ! オレこんなんばっか!! ちきしょー!!」
晴れ渡る青空にオレの叫び声と、それを怖がってピーピー鳴きながら飛び立つ鳥の羽音が響き渡った。
気付いた時には山ん中だった。随分寝ちまってたなぁ。腹の空き具合からいって、2日くらいか? まぁいい。
「ここは……魔力の匂い的に北の山だな!」
たぶん! 飛んでいった方向もそんな感じだったから間違いないと思う。あ、ほら、北の山にしかいねぇ魔物発見。速攻でボコす。
にしてもあの野郎の魔術は半端ねぇな。風の魔術の範疇超えてる。竜巻だありゃ。じゃなきゃこんな遠くまで飛ばされねぇし。
にしても、ここまできてそのままギルドに戻るってのも癪だ。連絡手段もオレにはねぇし。約束通りドラゴン狩って、それからギルドに戻るとするか。ドラゴン狩りはそう遠くねぇし、ちょっとの寄り道くらい許してくれんだろ! ってか、いい加減鬱憤溜まってどうしようもない! オレ鬼なんだぞ!?
「ここらの魔物らは運がなかったと思え? 悪いな、とばっちりってやつだ。世の中の理不尽を恨め」
自分の得物を手に取ると、自然と笑みがこぼれた。くぅ、暴れんのは久しぶりだぜ。
オレの愛剣はとにかくデカいもので、と発注した特注品。長さはオレの人型身長よりちょい短いくらいだからいつも背中に背負ってる。でも重さはオレの人型体重の3倍ある。このくらいはないと武器を持ってる気がしねぇもん。
大剣と呼ばれてはいるけど実際は……切らない。というか切れ味は悪いからなー。切るための剣じゃねぇのよ。
「っらぁ!!!!」
ブンと風を切る音を感じるのが良い。
ボグッと敵に剣がめり込む感触が良い。
金属の重みと敵の体重を思い切り感じられるのが良い。
つまり、オレの大剣は剣じゃなくてどちらかというと鈍器なんだよな。じゃあなんで剣の形にしたのかって? それ作る時散々言われたわー。鬼だし金棒じゃねぇのかよって!
っかー! わかってねぇなぁ!!
なんでかって決まってんじゃん。
そんなの、カッコいいからだよ!!
「おらぁっ、魔物共ぉ! あーっはっはっは! 逃げろ逃げろ! 鬼さんはここだぞーっ!!」
こうしてオレは暫し狩りの時間を思う存分楽しんだ。ひゃっほー!!
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