メグの任務


『以上なのよー! 赤鬼の行方、もっと追いたかったけど、時間がないと思ったのよ! だからもう戻ってきたのよー』


 こうしてショーちゃんの報告を終えたわけだけど、空気は重いものへと変わっていた。でもひとまず、お仕事をしっかりこなしてくれたショーちゃんにお礼を言わなきゃね!


「ショーちゃんありがとー。十分だよ! でも、しょんな遠くまで行って、よくこの時間に帰って来れたね?」


 そう。セインスレイって確かセントレイという大きな国より先にある国だったと思う。前に盗聴した内容からの推測だけど。そんな遠くまで行って帰って来られるんだもん。しかも情報を収集しながら!


『私、声の精霊なのよ? 音の精霊よりは少し遅いけど、大体音速で移動出来るのよー?』


 超ハイスペック!! ショーちゃん、やはり君は有能な精霊だよっ!!


「北の山か……ジュマの事だから楽しく修行してたりしてね?」


 ケイさんが少し笑ってそういう。誰もジュマくんの安否は心配してないようだ。ま、そうだよね。飛んでいったくらいじゃジュマくんはかすり傷程度な気がするもん。しかも山で修行とか、簡単に想像出来ちゃうよ!


「俺らの目的がジュマの捜索なら、北の山に向かうべき、かぁ?」

「そうねー。けど、ジュマがなぜ飛ばされるに至ったかが少し気になるわ。ただ単に邪魔だったからなら問題ないと思うけど……メグちゃんの件もあるし、ネーモの動向が気になるわね」


 サウラさんが腕を組んで考えている。私たちは黙って待っていた。それから熟考すること暫し。サウラさんはよし、と小さく呟いてからこちらを見て口を開いた。


「……メグちゃん。また声の精霊に力を借りたいの。もちろん今すぐじゃなくていいわ。でも、出来れば明日の内に」

「それはいいでしゅけど……何をするでしゅか?」


 まさかの私への、というかショーちゃんへの協力要請に思わず目をパチクリとさせてしまう。


「ギルの影鳥はここからだとネーモの本拠地まで調査出来ないの。かといってメグちゃんから離れるわけにはいかないし……だからほんの少し、精霊にネーモの事を調べて欲しいの」

「サウラ、それは……!」

「わかってる! わかってるわ……危険なことくらい」


 まさかの重大任務に私は声を発せずにいた。ショーちゃんはあまりわかってないのか、くるくると私の頭上を飛び回っている。


「でも、ネーモのトップはうちの頭領ドンみたいに、ギルド員と直接話すなんて事しない、変にプライド高い人で有名よ? そんな人があんなカンガロ野郎と2人で話すなんて、絶対おかしいもの。間違いなくメグちゃんの事を聞くためよ」


 確かに、わざわざギルドのトップが迎えに来るようにエピンクに話を聞きに来るなんて変だよね。たまたま会っただけっていう可能性もなくはないけど……

 報告を待つならギルド内にいればいいのにわざわざ街の外で話をする怪しさ。それに、ジュマくんを飛ばしたのも、聞かれちゃまずいような内容だったからかもしれないし。


「ショーちゃん、どうかな? 出来そう?」


 ひとまず実行するのはショーちゃんなので、本人の意思を確認してみる。すると元気一杯のお返事。


『まかせてなのよー! ご主人様のお役にたてるの、嬉しいのよーっ!』

「ショーちゃんたら、頼もしいの。でも、少しでも危ないって思ったら、しゅぐに逃げてね?」


 行ってくれるしょーでしゅ! と締まらない報告をすると、サウラさんは眉を下げて微笑み、助かるわと申し訳なさそうに言った。んー、あんまり気にしないで欲しいなぁ……


「ショーちゃんは、音と同じ速さで飛べましゅから! 逃げようと思ったら、ちゃんと逃げられましゅ!」

「お、音速……!?」


 大丈夫だ、と伝えるためにそう言うと、サウラさんは軽く頰を引き攣らせた。わかるよ、反則だよね、音速……


「しょれに、みなしゃん、私のためにたくさん、色んな事してくれてるでしゅ。私も、ほんのしゅこしだけど……力になれるの、嬉しいでしゅ!」

「メグ……」


 ギルさんが驚いたようにこちらを見てきた。両拳を握りしめて言った言葉は本心だよ? あんな歯痒い思いは、もう出来るだけしたくない。出来ることがあるなら、やる。それだけなのだ。


「使えるものは、何でも使うべきでしゅよっ! サウラしゃん?」

「っ……! も、もうっ……敵わないわねぇ、メグちゃんには!」


 こうして、危ないと少しでも感じたらすぐ戻る、というのを約束して、私も作戦に参加する事となった。がんばるぞー! ……私は魔力渡すだけだけど。とほー。




「さてと。ニカとケイは予定通りジュマの捜索をお願い。北の山の方だから……少し危険ね」


 見つけ次第、ジュマくんと一緒にギルドへ戻ってくる、というのがニカさんとケイさんの任務だ。北の山って危ない所なのかな?


「思っていたより遠いわね。国外になるし、メアリーラちゃんにも一緒に行ってもらいましょう。医療担当にとっては痛いかもしれないけど……他の人に頑張ってもらうしかないわね」

「メアリーラしゃん?」


 少し危険だっていうようなところに、メアリーラさんが行っても大丈夫なのかな? いつでも明るくてやる気満々だけど、少しだけ残念なところがあるから心配……!


「ふふっ、確かにメアリーラちゃんは少しおっちょこちょいなところがあるし、見てて心配になる気持ちもわかるわ。でも、メアリーラちゃんなら絶対大丈夫なの」


 サウラさんに絶対と言わしめるメアリーラさん……一体何者なのかな!? 特級ギルドに所属しているから、実力者であるのは間違いないと思うけど、あのメアリーラさんでしょ? そ、想像がつかない……ごめんね、メアリーラさん!


「んー、メアリーラちゃんはね、不死鳥の亜人なんだよ」

「不死鳥!?」

「そうよ。だから最悪、攻撃されてしまったとしても、蘇ることが出来る。メアリーラちゃんに攻撃の手段はないんだけどね。何かあった時にはメアリーラちゃんだけが先に情報を持って帰れるってわけ。医療の心得もあるし、2人にとっては安全性が増すのよ」


 す、すごい亜人だったんだね、メアリーラさん! 思い起こしてみればあの綺麗な赤毛は不死鳥の羽根の色なのかも。うわぁ、不死鳥姿、見て見たいなぁ。


「それでも、痛い思いはして欲しくないから細心の注意を払ってもらいたいけどね。3人には危険な任務になるかもしれないけれど……」

「わかっているよ、サウラディーテ」


 山ってだけで危険な香りがするもんね。しかもこの世界の山なんだから、私の知らない凶暴な魔物がいたりするんだよね、きっと。サウラさんの心配する様子が本気だから、私も心配だよ……


「いい? 自分の事を1番に考えてね。絶対に無理は……」


 心配そうに両拳を握ってケイさんとニカさんに言い聞かせていたサウラさんだけど、突如その言葉を止めてしまった。その原因はわかっている。


「んー、心配してくれているのかい? 嬉しいな。サウラディーテの頼みだ。必ず守るよ」


 サウラさんの前に片膝をつき、顎に手を添えて蕩けるような微笑みでそう告げるケイさんである。お、王子様!


「な、な、な……っ!」

「んーっ、そんなに真っ赤になって……可愛い。抱きしめたくなるな」

「ばっ……馬鹿な事言ってないで離れなさ————いっ!!!!」

「ガハハハ! こんな時でも変わらねぇなぁ、ケイよ!」


 真っ赤になってプンスカ怒るサウラさんの拳をひょいひょい避けながらクスクス笑うケイさん。

 ケイさんのイケメン王子ぶりは基本的に天然だと思うけど……この光景を見ていると今回のこれは、きっとケイさんなりの気遣いだったのかもしれないな、なんてこの賑やかな光景を見てそんな事を思った。

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