ショーちゃんの報告


「よく気付いたわねぇ。正解よぉ」


 和食のルーツ、ここへ来て判明致しました! 予想通り、ミコラーシュさんの依頼人である異世界人が教えてくれた、異世界のレシピが和食なのだそう。そう、つまりお父さんが異世界に和食を持ち込んだ張本人だったのだ!


 思い起こせば味噌のお出汁は我が家でお馴染みの昆布出汁っぽかったし、煮物の味付けも甘め。私にも馴染みのある、ありすぎる味付けだった。今になってそれがお父さんの味だった事に思い当たって、ものすごく納得したのだ。道理で美味しいわけだよ!


「他にもワ服といって、特殊な作りの服があったり、コンロや水洗トイレなんかも異世界の知識なのよぉ? 異世界って本当に素晴らしいアイデアに溢れているのよぉ。行ってみたいわぁ」

「和服……マイユしゃんが着てたみたいな服でしゅか?」

「その通りぃ! でもマイユの服は、自分でアレンジを加えているみたいだけどぉ……私もたまにああいう服を着るのよぉ? オビっていう、腰に巻きつける太いベルトみたいなやつ。アレを引っ張ってくるくる回りながら脱がしてもらうっていう話を聞いたから、いつかやってみた……」

「ミコ」

「ああ、悪かったわよぉ。ついよぉ、つい」


 そ、それって「あーれー」ってヤツでしょうか……? な、何を教えてるのお父さん!? たぶん私も教えちゃうけどね! 外国人に変な日本の習慣教えるみたいな気持ち、わからなくもないけどね!

 でも実はあれってうまくクルクルは回らないって聞いたことあるけど。ミコさんがやってみた暁にはぜひ、その辺詳しくお聞かせ願いたいものである。


「さ、素敵なお嬢さんともお近付きになれたしぃ、私、そろそろ行くわぁ」

「……羽目を外しすぎるなよ」

「……ならギルが相手してくれるのぉ?」


 去り際まで色っぽいシナを作っての流し目は破壊力抜群です。でもギルさんは慣れているのか、重く短いため息を1つ吐いただけだった。会うたびに誘われてそうだな、これ。


「じゃあねぇ。またお話ししましょぉ」

「さよーなら、ミコしゃん!」


 こうして、ギルさんに精神的傷跡を残し、ミコさんは夜の街へと消えて行った。……今日のお相手は男かな、女かな、なんて野暮なことを考える私は純粋な幼女ではないね。仕方ないじゃん、いい大人なんだからっ!


「そろそろ部屋に戻るか?」


 私たちも食事を終えたから、という事でギルさんにそう言われたんだけど私は首を横に振った。


「ケイしゃんと、ニカしゃんに伝えたい事があるんでしゅ!」

「伝えたい事……?」


 そんな話をしていたからか、ベストタイミングでその2人がギルド奥から姿を現した。って! ベストタイミングじゃないよ! だって私にはまだ伝えたい情報が……


『ごっ主人様ー、ただいまなのよー!』


 来たー! 今来たー!! 待ってたよ、ショーちゃん! そう言いながらおかえりとショーちゃんに声をかける。


「おちゅかれしゃま。大変じゃなかった?」

『なーんて事ないのよ? お役にたてるんだもん、このくらいへっちゃらなのよっ!』


 さっすが、ショーちゃん! 頼りになるぅ! そうして私たちがキャッキャと再会を喜んでいると。


「メグちゃん、ボクたちに伝えたい事があるんだって?」


 いつの間にか近くに来ていたケイさんたちに声をかけられた。いやぁ、ぎりぎりセーフだね。ふぅ。

 私は1つコクリと頷いてから、口を開いた。


「ショーちゃんが、情報を持ってきてくれたでしゅ。ジュマにーちゃが、あの後どうなったのか、の……」


 私がそう告げると、ケイさん、ニカさん、ギルさんは揃って目を見開いた。


「えっと、ショーちゃんは声を拾えるから……あの時近くにいた木々や動物に聞いて回ってくれたんでしゅ。これから向かうのに、少しでも力になれたらなって……あの……?」


 恐る恐るその事を伝えるも、3人は暫し動きを停止したまま。そんな様子に不安になっていると、ついにニカさんが口を開いた。


「……お前ぇさんは、すげぇ事をいつの間にかしてたんだなぁ、メグよ」

「本当に、驚いたよ……」

「……ひとまず、ここではマズイな。サウラも呼んで出立前に話を聞かせてもらおう。いいか? メグ」


 ギルさんの言葉にコクコクと何度も頷く。それからショーちゃんに脳内で大丈夫か確認。


『赤い髪の鬼のおにーさんのお話したらいいんでしょ? 大丈夫なのよ!』


 その返事を聞いてホッと安堵のため息。すると頭を撫でる優しい手の感触を感じた。


「すごいな、メグ。それでこそオルトゥスの一員だ」


 優しい眼差しでそう言われた私は、その言葉が何より嬉しくて、緩む頬を抑える事が出来なかった。えへへ、オルトゥスの一員だって!




「じゃあショーちゃん、みんなに聞こえるようにお願い!」

『わかったのよー!』


 来客室へと移動し、サウラさんも呼んで早速情報をショーちゃんに公開してもらう事に。事前に借りてた分の魔力と、今みんなに聞かせる分の魔力を渡してややお疲れ気味な私だけど、ここはぐっと我慢。大丈夫、無理はしてないから倒れたりはしない。


 こうしてショーちゃんはフワリと部屋の中央に浮かぶと、聞いてきた声を流し始めた。


『赤い髪の鬼? 見たよー! カンガロと追いかけっこー! 風みたい!』

『西にいったよー』

『セントレイ国には来てないよー? 赤鬼いたらすぐわかるもん!』

『セインスレイ国手前の森で見た! おっかねぇからここまで逃げてきたんだぁ』


「セインスレイ国……やっぱりネーモ本拠地に向かったようね」

「にしてもすげぇなぁ。これ全部木や動物、魔物の声まであるんだろぉ? まさかこれらの生き物がこんな風に話せるとは思わなかったぜ。今後の討伐で同情しそうだなぁ! ガハハハ!」


 確かにニカさんの言う事もわかるなぁ。私だって木や魔物の声が聞けるなんて思わなかった。もちろん、生きてる事はわかるけど、ここまでちゃんと声として伝わると、討伐しようと思ったら躊躇ってしまうかもしれない。ちなみにこの声は、ショーちゃんによって私たちにわかる言語へと変換しているそう。まぁ、鳴き声で聞かされてもわかんないよね。万能だよ、ショーちゃん!


『話をしてたよー? 赤鬼と、カンガロと……あと、すっごぉぉぉく怖い人と!!』


「怖い人?」


 新たな人物の登場に思わず首を傾げてそう呟いてしまう。他のみんなもそう思ったようで、その目に真剣な光を宿していた。


「ジュマの尾行は案の定見つかったみたいね。まあ、それは仕方ないわ。むしろ、本拠地近くまでバレなかったのが偉いと思わなきゃね」

「あえて尾行させてたって線もあるよ? サウラディーテ」


 あえて尾行、か。おびき寄せられた可能性もあるとか、怖いよー特級ギルド! 私もその一員だけどね! えへへ。


「それは置いておいて、その怖い人ってのがぁ気になるなぁ。十中八九ネーモの奴だろうけどよぉ」


 ニカさんがそうボヤいた次の瞬間、ショーちゃんがもたらした情報に、誰もが言葉を失った。


『あれはネーモのボスだよ! 私知ってるもん』

『その人の攻撃でー、赤鬼、吹っ飛んだよー!』

『すっごい飛んだ! 遠くまで!』

『北のお山の方に飛んでった!』


 ネーモのボス。

 その言葉だけで、ギルドでも1、2を争う強さを誇るジュマくんが吹っ飛ばされた、という話が事実であると、誰もが納得したのだった。

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