初めての魔術行使


 部屋の確認を終えると、メアリーラさんは仕事へ、ケイさんは出発の準備があるからと部屋を出ていった。今度一緒にぬいぐるみの注文をするという約束はしっかりしておきました!


「俺も少し用事を済ませてくる。部屋でゆっくりしてもいいし、何か用があればホールに行ってくれ。勝手にギルドの外に出たりさえしなければ、自由にしていい」


 流石にギルさんだってずっと私に付きっきりは無理だよね。お仕事の邪魔にならないように、ちゃんとお留守番しますとも。


「わかりまちた! えと、ありがとー……パパ」

「……夕飯の時に迎えに来る」


 勇気を出してパパ呼びしてみたけど、これ、私の方がなんだか恥ずかしい! 環の時もパパとか呼んだことないから余計に、だ。ギルさんも少し照れ臭さを感じたのか、くしゃっと私の頭を撫でて優しく言い残してから部屋を去って行った。ほんのり耳が赤くなっていた気がしなくもない。


「さて、と。じゃあ私はひとまじゅ……フウちゃん、ホムラくん!」

『はぁいっ』

『おう、いるんだぞ!』


 パタンとドアが閉まったのを見届けて、私は2人の精霊を呼び出した。するとふわんとどこからともなく2人が目の前に現れる。黄緑のふわふわ小鳥と赤い子猿がキラキラしたお目目でこちらを見る様子は、何物にも変えがたい可愛さである。あー上目遣い最強っ!


「ちょっとだけ時間が出来たから、早速魔術まじゅちゅの使い方を教えてほしーの!」

『うんっ! おしえるよーっ』

『それなら、フウの方が良さそうなんだぞ。オレっちの魔術は火を使うから、危ないんだぞ!』

「うん、そうだね! フウちゃん、よろしく」

『任せてっ』


 確かに室内で火の魔術は危険だ。特に私は初心者なわけだし、どんな失敗するかわかんないからね! でも、自然魔術って、精霊が魔術を行使するんだから、失敗ってのがなさそうではあるけど。


『じゃっ、どんな魔術使うっ?』

「えっ、どんな……?」


 ワクワクしたような眼差しでフウちゃんが聞いてきたんだけど、その質問の意図を正しく理解できていない私。ど、どんなとは……?


『えっとなー、オレっちたちにどんな魔術を使ってもらいたいか、イメージをうまく伝えられないとオレっちたちもわからないんだぞ! 慣れてくればいつものアレだなってわかるけど、最初はどんな魔術かを細かく教えてもらいたいんだぞ!』


 なるほど。確かにシュリエさんとのお勉強の時にそんな話を聞いた気がする。一般魔術はイメージ通りに自分で魔術を繰り出せばいいけど、それには技術が必要で、自然魔術はそのイメージを正確に精霊に伝える必要があるんだっけ。


「えと、もちろんフウちゃんは風を使った魔術まじゅちゅで、ホムラくんは火を使った魔術まじゅちゅってことだよね?」

『もちろんなんだぞ! オレっちに水の魔術とか言われても無理なんだぞっ』


 そりゃそうだ。よし、そうと決まれば風を使う魔術を考えよう。そうだなぁ……風を刃の形状にして攻撃、とかカッコいいなって思うけど、室内じゃ試すのも危ないよね。ひとまず、最初にやるんなら……これかな。


「じゃあ簡単な事から頼もーかな。このハンカチを風で浮かしぇる事は出来る? 飛ばしゅんじゃなくて、その場に浮かせたいの」

『うんっいいよっ! じゃあ少し魔力をもらうねっ』


 そう言ったフウちゃんは、私の肩にとまって頰にキスをした。嘴で軽く突いた感じだけど可愛すぎて悶絶しそうになったよ……!

 それから魔力を持って行ったのかフウちゃんはフワリと飛び立ち、私の手に乗っていたハンカチに向かって魔術を発動。ほんのわずかな風を手に感じたかと思うと、私の顔の前あたりでヒラヒラと舞うようにハンカチが浮かんだ。


「わぁ……しゅごいの! それに、魔力あんまり取られた感じしなかったけど……」

『この程度なら貰うのもちょっぴりだからっ! わからなかったのかもっ?』


 なるほど、このくらいの魔術なら少しで足りるんだね。ということは、大きな魔術や複雑なのを使おうと思ったらたくさん魔力が必要ってことかな? 試しに聞いてみる。


「私を浮かべようと思ったら、たくさん魔力いるのかなぁ?」

『うんっ! 今の主様が持ってる半分の量で2時間くらいかなっ』


 あ、結構使うのね。私の魔力が少ないのかな? どのみち自力でフライアウェイする事は無理だってことがわかったよ。魔法使いみたいで憧れたけど、世の中そう上手くはいかないよね……残念。


『その都度魔力を渡すでもいいけど、他の人は毎日少しずつ魔力を渡してるんだぞ。何か合った時にすぐに使えるように』


 確か先払いも後払いも出来るんだもんね! すでに私はショーちゃんに借魔力してるわけだし。つまり貯金ならぬ貯魔力も出来るってわけだ。ちなみに、どれだけの魔力を蓄えているかは精霊たちにはちゃんとわかるらしい。なんて便利。

 そして嘘をついて多めにもらう、なんて事も契約してるから出来ないようになってるんだって。そんな事がなくてもこの子たちは特別いい子だから心配してないけどね!


「私は元々魔力が少ないみたいだから、毎日少しずつ魔力を渡しゅね。ちゃんと溜まるかなぁ……」


 溜めたそばから練習でその分を使い切ってしまいそうだ。そんな心配をしていると、2人に大丈夫だと励まされる。


『主様はこれからどんどん増えるから大丈夫っ』

『そうなんだぞ! オレっちたちはその人がどの程度まで最大魔力量が増えるかわかるんだぞ。ご主人は物凄く増えるから心配いらないんだぞ!』


 それは良いこと聞いたなぁ。自信にも繋がるよ! いずれフウちゃんの魔術で空を自由に飛びたいな。かなり道のりは遠いけど、1つの目標だ。

 それから2人とも、魔力が増えたら多めに貰うから、今は少しずつでいいとも言ってくれた。なんという先行投資精神。でも今の私にはありがたい提案なのでそれでお願いする事にした。


「でも、返せなくなるほどになりしょーなのはやめてね? 出来れば前借りじゃなくてちゃんと魔力を渡したいから……」

『だいじょーぶっ!』

『心配いらないんだぞっ!』


 キャッキャと、笑い合いながら返事をする2人に些か不安を覚えたので、自分でも確認しながら覚えていようと心に決めた。

 やだよー雪だるま式に借魔力が増えるの! いつか精霊たちに取り立てられて……ってこの子たちに凄まれるのはちょっぴり可愛いかも。いやいや、親バカはほどほどにしよう、うん。精霊たちは優しくて無邪気だからこそ私がしっかりしないとね!


 それから2人には今日の分の魔力を渡して、フウちゃんに軽い攻撃を撥ねとばす風結界のような魔術を使ってみてもらい、魔術の練習を終えた。結構うまくイメージを伝えられたみたいだけど、実戦で使うとなると改良は必要になるだろうな。その辺はその時にならないとわからないし、使うほどに熟練度も増してくるだろうから今はここまで。私の乏しい今の魔力量からいって、これ以上は無理ってのもあるしね! くすん。


 その後はフウちゃんにもホムラくんにも、何となく私がこんな魔術を使えたら便利、というのを言葉や絵にして伝えていった。その度に面白そう! とかカッコいい! などの新鮮な反応をいただけたので、私はそれだけで満足である!


『早く使ってみたいなっ』

『おう! オレっちとフウが一緒に魔術を練り上げるなんて発想、誰もした事なかったんだぞ!』

「え、そうなの?」


 何でも、属性ごとに魔術を極めることはあっても、別属性を組み合わせる使い方は主流ではないんだそうだ。重ねがけをする事で相乗効果により威力を高めることはあっても、2つの属性を混ぜ合わせるような使い方は初めて聞いたんだそう。精霊同士の相性の問題や、一般魔術だと膨大な魔力が必要だから、というのが主な理由なんだって。

 うちの子たちは3人ともとても仲がいいのでいけるかも……? 少なくともフウちゃん、ホムラくんの2人はいけると本人たちで盛り上がっているし。


 少ない魔力で高威力の魔術。組み合わせ次第では私でも戦力になるかもしれない。

 ほんの少し希望が見えてきた事が、私の自信となったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る